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その刀を下ろして、帯刀男子さま!  作者: 月見七春
第九十九章 おはように撃たれて眠れ!
2014/2983

第二千十四話

 



 学校のみんなが集まってくる。

 ハリボテの渋谷はディテールが甘い。

 おまけにスクランブル交差点に人がいない。

 電車も、車も走っていない。

 烏天狗の館の再現には限界がある?

 それとも、館にお願いした私の限界?

 んーっ。たぶん後者!

 でね?

 あくまでも探査術の実験をするのであって、データが取れなきゃ意味がない。

 でも、私が歩き回って見つけるっていうんじゃあ意味がない。

 なにせ、ほら。

 歩いて地域をカバーするなんて、ねえ? 限界あるでしょ?

 ビルまみれの都市部で「鬼は中に入れませーん!」な領域だらけ。

 こっそり入りでもしないとわからないし? いちいち訪問していたら、渋谷を漏れなく調べるだけで日が暮れちゃうよ。一日じゃ足りないかも。朝に調べた場所なんか、夜にどうなっているかわかったものじゃない。

 なーのーで?

 レオくんたちがかくれんぼとモブ、モブの中に混じって探査術の解析をする刀鍛冶を配置するべく準備に勤しんでいる。みんなと相談しながらだ。集まった人数はそこそこ。まだ増える見込み。余暇を割いてくれる人が多め。三年生にも、一年生にも、協力を依頼中。

 でもってー?

 今回の敵がどれほどの手を使って攻撃するのか、だれもわからずにいる。

 それに謝肉祭遊園地を所持していた。侍隊の刀鍛冶の有志のみなさん、そしてうちの先生たちが秘宝そのものである少年を保護して、経過観察の真っ最中。内部にある大量の黒の御珠。周囲の邪を吸いこんで貯蓄するのでは、と見られる機能。

 似たようなものを所持して、侍隊から身を隠している可能性を考えると?

 なんらかの隠れ方を心得ている可能性、あり!

 単純に調べるだけじゃ足りないし、反撃の恐れもある。

 となれば、求める探査術のレベルはかなり高いものになる。

 今回の犯人を探し出すにあたって、必要な要件がたくさんあることに。

 でもね?

 一度に全部は満たせない。

 たったひとつの術で解決しようとすると、その術に求められることが増えてしまう。多すぎるとだめだ。シオリ先輩のプログラムの教えと一緒。小さく切りわけて、ひとつの機能を達成することから目指すんだ。

 ひとつの機能ができたら? 別の機能をつくる。

 それらを組み合わせれば、ふたつの機能を有するって?

 いやいや。組み合わせるときだって、作るときと同様に問題が起きる可能性がある。

 作るときと同じく、ひとつに合体させるうえでも?

 必要な問題をよくよくチェックして、洗い出して、対応策を取らなきゃならない。

 だからね?

 案外、地味な作業になるぞ?

 攻殻機動隊みたいな光学迷彩じゃーとか、カメラを積むんじゃーとか、そういうのも? 後回し。まずは金色を放出してドローンを作る。ただし形状はぷちたちが乗る金魚マシンとまったく同じものだ。

 ぷかぷかと宙に浮かぶ。ふしぎなぱわーで。


「これを空にめいっぱい浮かべようってこと?」

「結ちゃんの案なの。既に作れて、動作が安定している乗り物があるのなら、それを使わない手はないって」

「この子をベースに改造する?」


 ノノカの提案はごもっともなんだけど、なんでだろう。

 金魚マシンが改造されちゃうの、グロいと感じちゃうのは。

 ぐっと近づいてしげしげと眺めながら、ノンちゃんが提案する。


「もうちょっと、その。擬態しそうな生き物をモチーフにしません?」


 すかさず、集まっていた刀鍛冶のみんなが口々に意見をだしていくんだ。


「いっそ超小型の蚊とか、どう?」

「ビル風きついんじゃない? てか擬態じゃないだろ、それは」

「タコじゃね?」

「「「 あああ 」」」


 ついていきたいのに入れない。

 擬態ね? 擬態かあ。

 サイズを小さくして視認されないようにする、というアプローチもあるし?

 擬態も種類がある。

 たとえば昆虫には環境、あるいは特定の対象に擬態する種がいる。葉っぱに見せたり、枝に見せたりするんだ。捕食のため、あるいは自衛のため。目的も様々。

 タコは形状まで、それっぽく変わることができるという。

 ただ都市部は擬態に向いていない。海底には岩や海藻など、いろんなものがある。地域差はあるだろうけどね。そういう場所で擬態するならまだしも、渋谷だとどうだろう。

 人のサイズで擬態として想像すると?

 道路標識とか? 自動販売機とか! ゴミ箱とか? そういえば水曜日の番組のドッキリコーナーでやっていた気がする。商店街ロケをしている人たちをゴミ箱でどこまで追いかけられるか、みたいなの。ああいうのなら、案外いけるかも?

 じゃあ、そうだなあ。

 金魚マシンのサイズ感は40型か42型、よりは小さめなテレビくらい。幼稚園に通うよりもうちょっと幼いぷちたちが乗って、たまに足を伸ばせるくらいにはくつろげるサイズだ。

 人が乗らないのなら、もうちょっとサイズは落とせるけれど。

 化けるとなると、なんだろう。

 し、信号機? 道路標識? いや。


「むしろシンプルにカラスとか鳩でいいのでは?」

「「「 そうだけど、そうじゃなくてえ! 」」」


 刀鍛冶のみんなが一斉に拒否!

 いやですか。だめですか。遊びがなくて足りませんか。


「まあ、カラスじゃ建物の中に入ると、すぐに見つかっちゃうもんね」


 みんなして、そうだそうだとうなずく。

 だめかなあ。カラスマシン。なんかカラスっていうだけで賢そうでよくない?

 街に溶け込むという点では、ありだと思うんだけどなあ。


「タコとカラスの組み合わせみたいなのは?」

「いやあ。ぐろいのができそうじゃない? かわいくないって」

「でも考え方はありじゃね? ジュラシックワールドかなんかで見たし」

「それだと、みんな食べられない?」

「そうはならんやろ。マシンだし」

「でもなあ。いまさらあ?」

「そういうのもう、うんざりなんですよ!」


 みんなのテンションがあがっていく。

 でも、受けたからじゃない。

 むしろ外してる。おかげでよくわかる。

 それぞれになにかやってみたいことがあるみたいだ。

 それならそれでいいんだけどね?

 話が進まないのは困っちゃうのだ。

 すごくもやもやするの。

 たまらずマドカの手を取ってみんなの輪から離れる。


「どしたの。いつもなら、そばで考えごとしながら聞いてるとこじゃない?」

「時間かかっちゃうでしょ? 私はいま試したいことがあるの」

「めずらしっ」


 やる気じゃんと弄られるけど、違うんだ。

 なんていうのかな。

 いっつもうまく進まない。

 わたし下手くそとか、みんながわるいとか、そういう次元じゃない。


「いらいらしてる?」

「ううん」


 マドカの指摘さえ、いまはもどかしい。


「盛りあがるけど、でも、みんなの土台になりきらない気がしてるの」

「その場かぎりの盛りあがりになっている、という話はあるね」


 それだ。

 着実に盤石さに近づいている、という感覚がない。

 先に手を引いた私よりも前に出て、マドカがふわふわ渋谷の忠犬像へと向かう。


「シオリ先輩のプログラミングの話でいえばね? 段取りさえ、組み立てられるわけ。私たちにはいろんな段階について、構築していける。けど、いまはそれがない」

「――……プロセスが欠けてる」


 MCUで見た。

 アベンジャーズのシビルウォーでトニーがみんなに訴えていた。

 国連の管理下に入り、自由行動を禁ずる条例案ができることに。なにせアベンジャーズはひとりひとりが武力だ。国に属さないともなれば、世界は放ってはおけない。

 トニーは賛成するけど、キャップは反対する。

 大戦に従軍した経験者は国家がいかに危ういものかを体感している。ヒドラという秘密結社が入り込んで、国家の中枢に食い込んだら? 中枢はいうに及ばず、大勢にまで影響力をもつほどになると? もはや手のうちようがない。待ち受けるのは悲惨な戦争と、可視化されない、あらゆる場所で起きる犯罪と暴力の坩堝。戦地だけが悲惨になるわけじゃない。

 けれどトニーは軍需産業で兵器を開発しては売りさばいていた。それがどういう現実を招くことになるのか、体感したし? 悔いている。力はどれほど管理しようとしても、手のひらをこぼれ落ちる。自分たちがだいじょうぶだと思っても、すべての武器を管理しきることなどできやしない。まして自分なら自分を制御できるだなんて。それはとても危険な驕りだ。

 ふたりのみならず、それぞれに意見がある。

 生い立ちや、つらい体験を含めた、自分史という土台のうえにある意見が。

 みんな、ともだちじゃない。家族でもない。

 劇中最後で「家族だ」というアンサーに至るけれど、なんだろね。

 うちの事務所、かなりの大所帯。

 契約して所属している人も多い。

 みんながみんな「かぞく」と言われても「え、と」と返事に困る。

 会社に入ったら、みんな仲間かって? それも、正直かなり苦しいんじゃないかな。

 クラスのみんな、だいたい身内かって? そんなこと、あり得ないもんね。

 距離感があるから、深い話は縁があって、深まって、深めたいと思ったお互いが歩みよって、やっとじゃない? それに高城さんとかトシさんたちの話を聞いてると、歳を重ねるほど臆病になるっぽい。そうなれば、尚更? できない話というのがある。

 だけど、そのできない話こそが、シビルウォーの発端として数える条例案についての話し合いで大事なものだった。

 打ち明け話をしないままでも、できる手段はあるのかもしれない。

 あるいは他に話すやり方があるのかもしれない。

 それこそ、プロセス。いわゆる過程や工程がね?

 でもトニーが指摘した通り、なかった。

 話せないし、踏み込めないし、踏み込まないし、踏み込まれたくないし? 踏み込みたくさえないのなら?

 当たり障りのない会話をちょちょっとして、肝心な選択が十分に検討できるかって?

 無理でしょ。

 いくらなんでも。

 あれと同じというのなら、なるほど。とてもしっくりくる。

 プロセスがない。


「悩ましいけどね。そういうの苦手な人もいるし? なにがいいのって疑う人もいる」


 押しつけられる類いの話じゃないし?

 押しつけたら、それこそヒーロー対ヒーロー! 仲間割れのきっかけになりかねない。


「いまやることじゃない、とか。いまじゃなくていい、とか。見ながら思ってた」

「う、うん」

「だけど、そんなの吹き飛ぶくらい大事な理由があるから、私は見てた。春灯はどう?」

「わかるよ」


 マドカの感想、かなりきつめ。

 でも私も同じ印象を持っていた。正直にいえば。

 ただ、あの場で私にできることはあった。

 離れてみるとね? わかったよ。

 機能を絞り、目的を共有して、それをどう解決するかに向けて話すとか。

 あるいは、みんながアイディアを出してくれるのなら?

 ブレインストーミング形式で否定はなし。めいっぱいアイディアを出してもらう。

 それをまとめてから、方向性を絞るみたいな軌道修正に向かうことだってできた。

 問いはある。

 探査術開発かくれんぼのためにみんなが集まってくれる中で、一部の集団で延々と金魚マシンの方向性について議論していていいのかって。

 どうしても思うの。

 いまじゃなくてもいいのでは? って。

 それならそれで、金魚マシンについて考える班として分けて行動すればいい。

 結論を焦るほど、ままならなさに執着してしまう。

 宗矩さんの教えのように、そういう状態にある自分を意識して、心をすすぐといいかな。

 執着しちゃうし、焦っちゃう。そこが変わらないのなら? いますぐ変えられそうにないのなら。それはもう、そういう自分だと受け入れちゃうし? 許しちゃう。

 で、その先は? って話。


「あの場でしてたのって、今後に向けて大事な話だもんね?」


 いまだけ見れば、いかにも非効率的で非合理的! って感じだ。

 けどなー。長い目で見ると必要な内容でもある。

 いまじゃなくてもいい、けど、それで後回しにしていたら?

 とうとうやる機会がないまま、放っておかれてしまう。

 私にはそういうことがたくさんあるからさ。

 みんなと分かれて、いろんな方向性でアプローチできるほうが助かる。


「わかってるなら、もうちょっと力を抜いたら? 肩パッド入ってんのかって言いたくなる」


 アメフト選手みたいになってるのかな。

 肩にでっけえ重機のってるぜ!

 いや、ちがう。使いどころがちがう。


「気負ってるのかもー」

「かもじゃない、まさに気負ってるでしょ」


 うっ。

 反省します!


「渋谷がまさに作り込まれてる。金魚マシンをドローン代わりに飛ばして調べるっていうのなら、作り込み金魚マシンがあってもいい。シオリ先輩や柊さんにも声をかけて、機械に干渉できる回路があってもいいわけじゃない?」


 それこそまさしく私ひとりでは作れないものだ。


「あるいは八葉くんと協力して、いろんな場所に潜入できる機能を模索したっていいわけ」

「あとね? 妖怪系の御霊の子とか、水神の御霊の子とか。水に化けたり、潜入にうってつけな妖怪に化けたりできるといいなって!」

「いいね! 春灯と私の案は金魚マシンの機能についての提案だよね?」


 疑問符をつけるように尻上がりに問われて察する。

 みんなが話しあっていたことは、じゃあ、金魚マシンのなにについての話かな?


「みんなはそもそも金魚マシンのベースについての話をしてた」

「すごく近くて、だけど分けられる話。分けられる、ということは?」

「ちがう、と感じることでもある、かな」


 マドカに返事をしながら、すとんとなにか気持ちよくお腹に落ちた。


「あ。だから、もやもやしてたんだ」


 私は私でしたいものがあったんだな。

 そこからずれてるように感じて、いらいらしちゃってた。

 いまじゃないとか、みんな待ってるとか、それはそれで「いらいら成分」の中に配合はされてる。されてはいるけど、主成分じゃない。


「マシンのベースも、マシンに求める機能も、どちらも大事でしょ?」

「たしかに!」

「春灯の提案だって、機能についての提案だって、別で必要じゃない?」

「ほんとだ!」

「それ、みんなに話してみない?」

「話してみ」


 る、と言いかけて、ふと尋ねる。


「いま私、すごくおばかなのでは?」

「黙って抱えていらいらしていたら、それはありがちで悲しくて、ほんと、やりがちなおばか」


 春灯はばかじゃないよ、って。

 笑顔で言われるのが、なあ。

 なぁんか、引っかかるんだけど!


「なにその顔」

「でも、さっきの返事はどれもめっちゃばかっぽい!」

「おのれ!」


 言ってやったわとどやるマドカの脇を執拗に右下斜め四十五度の角度から突いてやる!


 ◆


 どうもー。立沢理華でぇす!

 そしてそしてぇ?


「青澄ユメでぇす!」


 今日は春灯ちゃんのぷちのひとり、ユメちゃんとふたりで行動中でぇす!

 いまは完全にふたりきりで探し物に勤しんでいる真っ最中。

 自撮り棒につけたスマホで撮影しながら渋谷の街を進む。

 山手線から出て、センター街の入り口を横目に道玄坂へと上り坂を行く。


「おねえちゃん」

「理華でいいですよ」

「じゃあ、りかちゃん」


 まちがっていない。

 なにもまちがっていない。

 おそろしいほどまちがっていない呼び方だけど、なんでだろう。

 一抹の不安を感じるのは。

 問題あるかな。

 ない。限りなくないに等しい。

 なのにもやもやするのはなんでかな?


「――……りかおねえちゃんにしましょうか」

「めんどくせっ」


 お? 言うな?

 意外とストレートにぶつけてくるな?


「そういわないで。ね?」

「しょうがないなあ」


 青澄さんちで出てくるフレーズなんだろうか。

 春灯ちゃんの口癖とか? たいへんそうだもんな。


「りかおねえちゃん、なにしてんの?」

「んっ!」


 思いのほか「おねえちゃん」呼びに響くものがある。

 ひとりっ子の叶わぬ夢が一瞬叶った気がして。


「ユメをゆうかいしてるの?」


 すぐに砕けましたけどね!


「ちがいまーす。渋谷の街を歩いているんでーす」


 改めて確認しよう。

 ここは宝島ではなく、現世。

 烏天狗の館ではなく、渋谷の街。

 自撮り棒につけたスマホ画面をみると、彼女は私の首裏にひっつくように抱きついている。

 春灯ちゃんにくっつくときのようにだ。

 三歳児くらいの子が遠慮なしに肩車の位置に居座っている。

 どれほど拒否しても、すばやい身のこなしでのぼってくるのだ。制服の布地も、私の身体へも、一切の遠慮なく。脱げそうになるわ、痛いわ、重たいわで最初は抵抗したのだけど、すぐに諦めた。彼女は諦めない。意地でもそこにいようとする。

 地味に重たい。何キロあるんだ。

 体幹を問われている。姿勢を正して、なんとか先を進む。

 スマホのメッセージアプリの通知が止まらない。聖歌たちから「どこ?」とか。縁で繋がって増えた人脈ごとに用意したグループから「実は」とお悩み相談とか。

 そして、実際に捜索活動などに勤しむ頼もしいメンバーだけのグループから「パパ活してた未成年の子がいなくなった」とか「いつも使ってるホテルの店員が消えた」とか。

 そういう知らせを受けて、噂の真相を探りに出かけている。

 操作はしない。撮影中なので、返信もしない。

 わ、ざ、と。

 意地悪?


「じゃあユメになにかちょうだい?」


 おっと。なかなか思いどおりにいきませんね?


「なんで」

「ママに言ったら、りかおねえちゃん、怒られるよ?」


 わお。


「やりますね」

「あなどるなよ?」


 手強いな。

 個人的欲求に基づいた行動は気晴らしであり、やめられない嗜癖でもある。

 放っておけないし、聖歌たちに押しつけられないし?

 チラ見して帰るだけのつもりだったのにな。

 この子、厄介。


「ユメ、知ってるよ? しぶや、うめえもん、いっぱいだって」


 ママがだらだら見てるテレビが言ってるもん、と。

 意外。春灯ちゃん、街ブラ系の番組の枠を狙っているのだろうか。

 それとも疲れて頭も心も「わー」となって、とりあえずつけたテレビ番組なのだろうか。

 ユメちゃんから伝わる青澄家の日常ぶりをついつい妄想してしまう。

 いけない。いまは行動中だ。

 おやつひと品程度で済むなら、安いもの。要求はささやか。

 食い意地なあたりは、まだまだおこさま。

 うめえぼうでも買ってあげようかな。いや、スナック菓子はNGかもしれない。

 晩ご飯に影響が出たらアウトかな。

 聖歌たちとぷちたちのお世話を引きうけたとき、注意事項をまとめたメッセージをもらった。

 そんなことにはならないと思うけど、買い食いはだめだよって言われてた気がする。

 春灯ちゃんのメッセージ、もはや「ママじゃん」って思ったっけ。

 まあでも、ハミガキひとつとっても大変だ。春灯ちゃんはひとり、ぷちたちは大勢。

 しっかりやろうとすればするほど難しさを痛感するのだろう。

 想像しかできないけれど。

 意外とむずかしいな。食べものって。

 なんでも食べられるのだろうか。お腹を壊したりしないか。アレルギーは?

 預かっていることを考えると、下手なことはできない。

 そもそも小さなこどもがお腹こわすようなこと、できるはずがない。


「んー、うめえもんはママに怒られちゃいます」

「おみやげ方式なら、ありなのでは!」


 思いのほか知恵が回る子ですね!


「そ、それはあとで考えるとして」

「でた! おとながいつもいうやつだ!」


 春灯ちゃん、この子たちの前でよく言っているんだろうか。


「ユメちゃんの知らないことをしましょうか」

「えー。たべものでいいよ?」


 露骨に面倒そうに頭を左右から叩かれる。

 遠慮がない。センター街沿いに歩きながらすれ違う人がちらちら見てくるし、笑い声も聞こえる。とても恥ずかしい。


「いやいや。みんなに話したくなるし、春灯ちゃんに伝えたくなるような体験、してみたくないですか?」

「よくわかんない!」


 う。

 わかりやすさが大事ですね。

 相手はちびのぷち。まだまだこども。

 回りくどいのはだめだ。


「おもしろい場所に行ってみません?」

「うめえおみやげ、なしってこと?」


 くっ。粘り強いっ!

 うめえ棒でも、ユメちゃんたち全員分となると? それなりの金額になる。

 聖歌たちが怒る可能性を想定すると? あるいはユメちゃんと出かけたフォローに春灯ちゃんへのお土産を想定すると?

 これはもう、しっかりお土産を買ったほうがいい。

 単品で楽しむものを大量に買っても、持ち帰れないし。

 言ってもなにかちょうどいいものが思い浮かぶかというと? 正直、ろくにない。

 渋々「探してみましょうか、お土産」と折れた。

 自撮り棒を畳んでスマホを外して検索開始。


「買ってくれるんなら、あとでもいいよー? むしろ、たっぷりなやもうよ」


 とことん知恵の回る子っ!


「それで、どこいくの? りかおねえちゃん」

「不思議なことが起きているホテルがあるそうです」

「ふしぎって、どんなの?」

「んー。真夏の怪談? こわーいこわーいことが起きているんですよ」

「ばかにするなよ? ぐたいてきにー、なにが起きてんの?」


 どんな日常を過ごしているんだ。

 語彙にめまいがしてきた。


「人が入って、出てこないんだそうですよ? 人を食べちゃうホテルなのかもしれません」

「ユメ知ってるよ? そういうの、こどもだましっていうんだよ」


 もうちょっと素直でもいいと思うの。


「まあ、そう思うところなんですが。実際、なにかが起きているみたいなので」

「りかおねえちゃんが解決するの?」

「いいえ? なにが起きているのか、軽く調べて、みんなと解決する準備をするんです」

「ふーん」


 ちっとも興味わかないね!?

 早く済ませてとばかりに「じゃあ、いこー。すぐいこー」と訴えてくる。

 重たくて面倒だけど、聞いてくれないだろうなあ。

 これから行く場所は危険かもしれないから、手を繋いで歩いていて、勝手に飛び出されるよりずっとマシ。そう予想するから、あえて耐えている。

 真夏に首回りが暑いのもつらい。

 舐めてた。ベビーカーとか、抱っこ紐とか? 必要だ。

 なきゃ首回りが死んでしまう。

 なるべく早くに済ませよう。

 指輪、頼みますよ?


『妙な気配を感じたら知らせればよいのだろう? もっと多くを望んでくれても構わぬが』


 いいえ。

 小さな子と一緒にぶらつきに来ただけなので、今日は危険はなしでお願いしますね。

 コンビニが見える路地へと右に曲がって、ホテル街へ。

 すぐに指輪が面倒そうに訴えてくる。


『さて、そううまくいけばいいが』


 含みがある。

 それだけで、察してしまう。

 通りには中年のおよそ五十代あたりの男性と二十代の女性が腕を組み、歩いていた。ちょうど奥に見えるホテルから三十代の男女が出てくる場面も見える。

 目の当たりにしないと、なかなかぴんとこない。

 恋人同士である場合だけじゃない。個人間で金銭を受けとり、代わりに性的な行為に及ぶ関係性もあれば? 不倫という関係性もある。お金があればいい、とか。後腐れのない肉体関係を、とか。いまのお互いの人間関係を変えるほどではないが、会って食事やデート、セックスはしていたいという関係性を維持している、とか。

 いろいろと。

 いまは二組の男女を見かけたけど、別に同性でも入れるようになってきているとも聞くし? 渋谷でも、新宿あたりでも、変化している最中かもしれない。

 儲かって仕方ないというわけでもないだろうし。クリスマスとか、バレンタインとか。あるいはハロウィンとか? その手の「盛りあがる」日でもなければ、空きもあるだろうし。

 そうでもないのだろうか。

 考えてみると、瑠衣と利用したことないな。

 高校生だし。まだだめ、と言われる年齢だし?

 服装でごまかしてもバレそうだ。

 一時期、盛大に活動してた聖歌の例を踏まえると?

 そこまで潔癖でもないのだろう。

 そんな通りを見渡してみる。

 通り道だから歩く人か。はたまた、ホテルに用事があるから歩く人の二種類に分かれそう。

 建物にはパッと見て違和感がない。

 歩いてみるのがいい。


『いや。こどもを連れて歩くなど、勧められないな』


 教育上の理由で?


『否定するのもどうかと思うが、ちがう。仲間を連れて探りに来るべき場所だ』


 脅威を感じていると。


『忠告をする程度には。具体的にはなんともいえんが、どうにも趣味の悪い匂いがする』


 匂い、ね。


「りかおねえちゃん?」

「んー。考えていたら、お腹がすいてきちゃいました。お土産探しにいきましょうか」

「ろこつー! でも待ってた!」


 さあさあいますぐ行こうと訴えるようにあばれるので、急いで退散。

 勇気を出せば好奇心のままに進めるだろうが、危険が予期される場においては危険へと近づけるもの。臆病すぎてもいけないけれど、さじ加減が大事だ。

 瑠衣たちを誘って頼むとしよう。

 守るものと一緒に活動しているときに首を突っ込めない。

 やるなら万全な態勢を整えて。

 予想外ではあった。

 指輪が警告してくるほどの異変とは、いったいなんだ?




 つづく!

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