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その刀を下ろして、帯刀男子さま!  作者: 月見七春
第十六章 新学期、新たな刀との出会い?

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第百九十九話

 



 説明を聞き終えたみんなの中で、真っ先に口を開いたのはギンでした。


「ばっかじゃねえの。なんで刀を持ってない奴らを俺らが総出で追わなきゃなんねえの。なに勝手に決めてんだ」


 で、ですよねー!

 ああ! 胸が痛い! 脇腹からえぐりこまれるように痛い!


「あほか。俺一人で十分だっつうの」

「って、怒りの矛先そっちかーい! 鬼ごっことかやる気ねえしとかじゃないんかーい!」


 私のツッコミにギンが睨んでくる。


「あほか。夏休みは警察にこき使われてたんだ。それくらい出来るようになってねえと様になんねえだろ」

「……まあ、沢城の言うとおりだね。あたしもやるなら一人がいい」


 トモまで!


「自分の力を試したいってわけか。わからんでもないがなぁ、そいつはどうかと思うぜ」


 タツくん……!


「そうとも。月見島の言うとおりだ」

「あァん!? んだと、シロ!」

「落ち着け。今回の行事の目的はあくまで、刀を持っていない生徒に刀を抜くチャンスを作ることにある」


 ギンを片手で制して、シロくんが私たちを見渡した。

 頼りになる我らが九組の参謀役は涼しい顔で言ったの。


「全員で窮地を演出できるかどうか。今回の僕らの課題はそこにある」


 ぐぬぬ、という顔をするギンとトモはフラストレーションたまってそう。ひょっとしたら討伐隊、本当に大変だったのかもしれない。


「だからギンとトモには活躍してもらわなきゃいけない」

「……わかってんならいいんだよ」

「そうそう」


 そんな二人を乗せる言葉をしれっと言って眼鏡のツルをあげるシロくんにも、夏に何があったのかが気になります!


「指揮は月見島と住良木が執るべきだと思う。僕らのクラスを把握しているのはカゲだが、全体を見渡すのが上手なのは二人だと思うから」


 シロくんの言葉に、隣でぽけーっとユリア先輩を見ていたカゲくんがあわてて背筋を正す。

 カゲくんたらふわふわしているなあ。この夏に何かなかったのかな?


「……レオ、譲る」

「タツ……いいのか?」

「京都で自分勝手に暴走した俺にはまだ早い」

「早いとは思わないが、そういうことなら」


 タツくんの言葉に頷いたレオくんがシロくんを見つめた。


「結城。きみの力を借りたい」

「……あ、ああ」


 どこかで絶対王者の風格を自ら背負っていたあのレオくんがシロくんにお願いだなんて!

 ……やっぱり、夏は人を変えるのかな。


「何か変なこと考えてませんか?」

「の、ノンちゃん。やだなあ、そんなことないって」


 こそこそ二人でやりとりをしていたら、視線を感じたの。

 レオくんが私たちを見つめていたんだ。

 すぐにレオくんは生徒会のみなさんに視線を向けて、口を開いた。


「一年生の部はお任せください。侍の資質ある者に刀を抜く好機を迎える手伝いをしてみせます」


 任せたと微笑んで立ち去るラビ先輩たちを見送ってから、レオくんは提案した。


「既に策はある。僕の考えは――……」


 告げられた内容に、私たちは大いにどよめいたのだ。


 ◆


 翌日、特別体育館。

 一年生の部の開始前に、私は刀を二振り携えてうずくまっていました。

 長屋の中には先輩方や先生方がいる。

 城を見ると、入り口付近に大勢の一年生が集まっていた。メガホンを手にしたコナちゃん先輩が競技の説明をしている。

 鈴を取られたら取り返す。例年、鈴を持っている生徒ほど刀を抜く確率はあがる……本当かなあ。とにかく、鈴を持ち続けること。鬼に奪われたらなんとかして奪い返すこと。

 制限時間は一時間半。

 それでは鬼のみなさん、どうぞいらっしゃい!

 その呼びかけに私は一人、マントを羽織って優雅に歩いて出て行かなくてはならない。

 レオくんの作戦の一つだ。

 窮地を演出し、危機的状況から脱するために刀を求める。そういう筋書きを辿るために、私たちはみんながピンチだと感じる状況を作らないといけない。

 ただ鬼として鈴を奪うだけでは、窮地は演出できない。ただの鬼ごっこ、それもちょっと険悪な感じでやるだけで終わってしまうから。

 侍の強さを心が折れない程度に体感させて、立ち向かわせること。

 それが今回の目的なのです。

 ならば、演出は過剰なくらいでいいというレオくんが笑顔で昨日私に告げたよね。


「君には狂いし天使として降臨してもらいたい」


 って。

 うちのクラスの何人かが吹き出したのを私は忘れないよ! ぐぬぬ! はずかしぬ!

 でも、やろう。


『嫌じゃないのかの? 面倒ならやらなければいいじゃろうに』


 だめだめ。せっかくの行事だもん。鬼だとしても参加していることには違いない。

 なら私は全力で楽しんでやるのだ!


「ふはははははは!」


 ざわつく一年生たちに心が折れそうだけど、めげない。


「我が名はクレイジーエンジェぅ! おまえたちを恐怖の底へ突き落とす名だ!」


 手を空へとかざす。


「時は来た! さあ逃げろ! 散れ! さもなくば、我が使徒がそなたたちの鈴を奪うどころか破壊するぞ!」


 どよめくみんなの中で、何人かが駆け出す。それは概ね、青組応援団にいた人たち。

 そうじゃない人たちはまだどうすればいいのかわかってないみたい。

 ならば、レオくんが授けてくれたプランAの実施だ!


「叫べ雷! 猛るは嵐! この右手に宿れ雷神! 放つは閃光の槍――……!」


 ば! と前に右手を振り下ろす。


「いけえええええっ!!!!」


 直後、私の両隣を雷光が通り抜ける。それは天守閣へとのぼっていった。

 誰あろう、仲間トモと結城シロである! 二人の必殺技をさも私の魔法みたいに演出したのです。

 あわてて逃げ出すみんなの逃げる道の先に二人の鬼が降り立つ。

 青髪の鬼、赤髪の鬼。岡島くんと茨ちゃんだ。その身体に闘気をまとって、いかにも強キャラ感を演出していた。


「さあ、行こうか」

「おう! おらおら! 逃げないと鬼が捕まえるぞ!」


 茨ちゃんの恫喝にみんなが急いで逃げる。

 よかった。乗ってくれるくらいにはみんな、刀を欲しがってる。

 仕方なしに参加してなあなあに歩いている人がいたらどうしようかと思っていたの。

 ギンはそんなやつ鈴奪ってほっときゃいいだろって言ってたんだけど、どうせなら楽しんでもらいたいよね。

 それにしても驚くべきはレオくんとシロくんの手並みです。作戦通りなんだもん。

 城の前にある三つの道のうち、二つとお城は塞いでいる。だから逃げるなら一つの道しかない。青組応援団に参加したみんなは揃って茨ちゃんたちが出てくる前の道を行ったけど、そっちはそっちで対処済み。

 さあ、私も仕事にかかりますよ!


『どうする気じゃ?』

『狐、昨日の話をもう覚えていないのか』

『い、いちおう確認したまでじゃ! ハルはわかっておるのか、というな!』


 はいはい。

 大丈夫、わかってるよ。

 そのために今日は秘密兵器を身に付けてきたの。


『マントか?』


 のんのん。スパッツです。これさえあれば大丈夫! ジャージ下と悩んだんだけど、トモにそれはやめようって言われました。


『なんの話じゃ!』


 ふふん! まあ見ててよ。

 夏休みで掴んだ要領を踏まえて空へと駆けていく。

 金色の霊子が私を支えてくれるからだいじょうぶ。

 空にのぼっても、これならもうパンツの心配ないよね。どやあ!


『……むしろ今まで配慮してなかったことに疑問じゃ』


 う。

 そ、それをいわれると痛いです。

 ま、まあ許しておくれよう。

 さて。

 空に昇った私は特別体育館の中を見渡しました。

 九組のメンバーを鬼として壁になるよう立ちふさがっているから、立ち向かう必要のないみんなは当然のように港湾区を目指して走っていく。

 よしよし、いい感じだ。

 さあ、次のステージだよ。気張っていくぞう!




 つづく。

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