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その刀を下ろして、帯刀男子さま!  作者: 月見七春
第九十九章 おはように撃たれて眠れ!
1899/2984

第千八百九十九話

 



 身体と名前を偽り帰国便に搭乗する。

 田中くんたちに愉快な海外旅行にまつわる後のことはすべて任せて、気軽に日本へ戻る。

 その傍ら、タスク管理をしていた頼りになるお局より渡されたファイルをファーストクラスで広げて眺めていた。


「いろんなものを作ったなあ」


 社員はひとりとして残っていない。

 だが取引先は別だ。かつての顧客はやまほどいる。

 中でも青澄春灯らを対象に狙う理由がありそうな顧客をリストにしてもらったのだが、眺めていると口元がにやけてしまう。

 最近、彼女はワイドショーに取り上げられていた。たくさんのこどもたちと過ごす実家と生中継。高校生の彼女が十人を超えるこどもを、密かに妊娠、出産していたのか? などという筋でバッシングする記事も週刊誌に出ていたそうだが、事務所や学校から、こどもたちと彼女は幸せに暮らしているためどうか見守っていただきたい、などという正気を疑うようなコメントが出たという。式神だ、という話も彼女から出たが、要領を得ない。

 隔離世? 侍? 刀? 意味がわからない。

 占い、スピリチュアル、オカルト。そういう部類の話にしているだけで、頭がどうかしている集団なのではないかという意見も出る。おまけにスピリチュアルときたら! これが陰謀論や後ろ暗い社会とどれほど仲がいいか。

 高校二年生の少女が多産。それを隠すために、ではないのか。よほど遊んでいるのか、あるいは相当悲惨な目に遭ったのか。では彼女の人生はいかなるものか。

 そういう筋のゴシップ。言い換えるならまさしく、興味本位の噂話。下衆の勘ぐり。下劣で品性がいやらしい好奇心は、しかしだれの心の中にもあるものだ。

 それは「不思議な力で生まれた小さな神さまたちです」よりも「若くして出産する未熟な歌姫の厳しい現実」のほうが、満たしてくれるもの。

 なにせ人は信じたいものを信じるし、済ませたいように済ませるし、知らないままで結論を出そうとせずにはいられない。自然に振る舞えばそうなるのだから、

 式神とかいう単語をまともに掘り下げる番組はひとつもない。隔離世だなんだもそう。よくはわからないし、わかるつもりもない。なにやらオカルトで怪しい連中、でしかない。生まれつきのハンディキャップのように、あるいは後天的にそうなるように、彼らもまた、そういう領域の人々だと捉える。

 だから彼女がメディアに出演し、ライブを開催することは結構ショッキングな出来事だが、これまでにもいろいろな人々が出てきたのとなんら変わらない。

 ただし、大勢のこどもたちと過ごしているともなれば、そうもいかない。

 ひどく差別的な領域に踏みこみかねず、大半は自然に静まっていく。事務所の働きかけもあるのか、ないのか。芸能界のことまでは知らないが。テレビとしては使いにくかろう。次のライブに備えてか、はたまたオファーが取り下げられてか、このところ彼女の出演する番組がみるみる減っていると聞く。

 単純に大勢のこどもたちと過ごすので手いっぱいなのではないかと会社の女性の何名かが教えてくれた。男性陣の静けさが情けないこと、このうえないな。かくいう自分も子育ての経験はないがね。

 いずれにせよ青澄春灯を追い続ける三流ゴシップ誌の記者と、教育セミナーを開催する団体で理事を務め離婚歴あり問題ありの男のふたりは一押しされていた。

 もっと、こう、悪党の種として頼もしい腕っ節のあるヤツがいいのだが。あるいは怨念が強くて刺激したら一ヵ月は燃え続けてくれそうなヤツが。

 でなければ仕込みに時間がかかってしまう。

 正直、面倒くさい。

 会ってみなければ、彼らがどれほど感情的かはわかるまい。ファイルに並ぶ名前はどれもこれも期待外れなものばかり。もっとパンチの効いた愉快な顧客はいないのか。

 いないかあ。めぼしい名前の筆頭格がウィザードで、彼伝いに流れてきた顧客に愉快な連中が偏っていたのだから、いるわけがない。あいつにもう一度接触するほど愉快な脳みそしてない自分にしてみれば、悩ましいなあ。

 ま、お試しでいくか。いきなり本命を狙ってあっさり解決されても面白くない。こちらもいろいろと初めて尽くしだ。

 そう切りかえずにはいられないくらい、ファイルの中身には希望が見えない。


「神輿には乗っていてもらいたいしなあ」


 放っておいたら子育てで舞台を下りかねない。

 彼女を留めるなにかがなければ、仕事にならない。

 まあ彼女以外にもめぼしい相手がいるにはいるのだが。

 あちこちで事故や揉めごとを止めに走り回る少女、仲間トモカあたりが次点に浮かぶ。

 いやでもなあ。


「正統派すぎるのは、ちょっとねえ」


 昭和のヤンキー漫画じゃあるまいし。

 正統派侍少女の敵になりそうな厄介者も思い浮かばない。

 こちらも念のためファイルを用意してもらったのだが、まあいない。

 オカルト四校の卒業生で半グレや厄介者になっているヤツがいたらと願うし、実際探せばいるのだろうが、うちの顧客になっているかっていったら話は別だ。

 ああでも青澄春灯が舞台に戻る誘引剤にはなり得るか。仲間トモカと青澄春灯は入学当初からの付き合いだ、という情報もある。派手に戦闘になれば、放っておける性分でもあるまい。青澄春灯はそういう少女だろう。

 だとしても話は戻る。

 正統派侍少女の敵になり得る厄介者まではリストにない。

 ただし薬は一時期、かなり広めた前例がある。評判もいい。下地があるから、それを利用して雑魚を量産するという手もある。地味だが一手ではある。

 特撮の悪党が使うような手で我ながら泣けてくるが、彼らにも伝わりやすいだろう。


「他に手がないんじゃ、正統派もやむなしか」


 悪党の正統派はなにか?

 そりゃあ、下衆であることじゃないかな。


 ◆


 進路。

 春灯のように仕事が見つかっていたら、それを書けそうだ。

 稽古が必要だとしても、険しい道のりだとしても、職業として認められているのなら? カナタ先輩のように役者という道もある。

 そもそも活躍するには母数が圧倒的に限られている狭い世界のように思える。それは春灯もそう。でも、捉えようによっては、どの業種も、どの場所も、そういうものなのかもしれない。

 生きやすいように、努めるのが楽なほうへと向かい、積み重ね続けていく。

 これこそ王道なのだそうだ。

 シロはそう言っていた。

 わかる。

 仲間トモカにとって実家は居心地が悪い。

 実家で心が揺れ動くなか、がんばるのはつらかった。噛みあわない優しさを浴びせられるのは、それはそれできついんだ。

 それよりもずっと、士道誠心で努めるほうがうれしかった。

 刀さえ手に入れれば。

 それだけでなにかが変わると思っていた。

 その先は?

 どこへいく?

 問われてしまうと困る。

 来年は三年生。その次は?

 親は大学部への進学を勧めてくれているけど、正直かなりきついはずだ。お兄ちゃんたちも助けてくれるつもりでいるけれど、甘えたいからここにいるんじゃない。

 そういう意味では、沢城と同じ悩みを抱えている。

 大学部に進むのなら学生ローンの利用を。と同時に「返すアテは?」と項垂れる。

 返すアテ? そんなものはない!

 アルバイトでもする? ピザでも運ぶ? 走るの得意なんです! って?

 額が額だ。学習に集中できるのかって話になっていく。

 出来高制でいくらでも届け放題のアルバイトってないかな。きっと天職だと思うんだけど。いだてんってドラマで運んでいたシーンもあったし。自分は営利目的だけど。海外ではあるそうだ。日本にも上陸しないかな。

 いや。仮にできたらできたで、自分が好きに働いたらだれかの仕事を奪ってしまう。

 どうしたものか。

 そういうことに悩んでいるのに、部活終わりの放課後は走らずにはいられない。身ひとつ、できることは限られる。すべてをカバーすることはできない。警察無線を傍受することもできないいまはただ走って、走って、走り抜いて、途中で見かける事故を止め、危ない場面があったら顔を出し、ケンカをしていたら仲裁に入ることばかり続けている。

 やまほど走り抜いていると、とにかくお腹がすいて仕方ない。前より食事量が増えた。筋トレも増やしているけど、それでも肉が落ちていく。いま刀鍛冶のコユキが急ぎ、仲間トモカのカロリー消費を食い止める策を練っている最中だ。

 スーツがいる。

 春灯はあたしをよくアメリカのフラッシュっていうヒーローに例える。コミックであり、ドラマや映画でもあるそうだ。そのフラッシュは、肉体ごと変わったなんちゃらマンとかいう不思議な人類になって、どれほど激しい運動をしてもかなりの代謝能力を得ていて、だいじょうぶだという。きついアルコールさえ一瞬で分解してしまうそうだ。怪我だって、すぐに治る。

 けど、あたしはちがう。

 あまりに早く走りすぎると危ないとコユキに注意されている。シロにもきつく言われている。

 だけど走るのが気持ちいい。走っていたら、もっともっとと先を願ってしまう。

 進路も見えないのに。

 人助けの経験値が増える一方で、あたし自身の将来は真っ暗なままだ。

 ひとまず高カロリーのものを食べればいいのかってことで、大食いに挑んでみたりもしたけれど、そもそも食べる才能がなかった。よく動くほうだから、前より食は太くなったけど、大食いができるほどかといったら話は別だ。

 体重も体型も迷子。

 都庁の壁上りをして、ビルの縁から新宿の街を見おろす。

 昔は筋肉痛がひどかったけど、最近はそうでもなくなってきた。このあたりもコユキたちがあれこれ気を配って、対策をしてくれているおかげだ。

 ひとりでは走れない。

 刀を抜いて、刃を見つめる。

 雷切。これさえあればと思ってきたのに、刀に願った夢も、夜景の光を映す刀も「それで、先は?」と問いかけてくる。

 進路?

 進路ねえ。

 うちの世話にはなりたくない。甘やかされる道は選びたくない。お兄ちゃんたちに、道場に来ていた人たちやお父さんに、いかにも女ですと読み取られるような生き方は選びたくない。

 そういう一心で生きてきた。

 だから、茨シズクが御霊を宿して女の子になったときも、春灯を慕う綺羅ツバキが女の子になったときも、わりと本気で揺れた。

 なにより自分に問いかけた。

 カナタ先輩だって、真中愛生先輩やキラリにマドカだって、後追いで自ら望んで獣憑きになった。

 なら、仲間トモカだって男になれるんじゃないかって。

 願えば変われるんじゃないかって、そう思ったのに、変われない。

 中途半端な、あたし。

 春灯の家を訪れて、ぷちたちと過ごしながら親になろうとしている春灯を見ても、同じく揺れた。母とか父とか、そういうんじゃなく、春灯は親になろうとしていた。

 どうなりたいかと、いまなにかは別だ。

 あたしの中にある、どうなりたいかはいまはまだ、実家で暮らしていた頃に積み重ねてきたなにかへの反発心から芽生えた種でしかない。

 仮に種の殻が破れたとしても、あたしとしては認めがたいほどささやかで不愉快なものかもしれない。

 動いているときはこんなことを考えずに済む。

 悩まなくていい。

 あたしは刀を手に、鉄火場に挑んだり。走り回ってだれかが怪我をしそうな状況を回避したり。そういうので埋めつくされていて、いい。

 そう思っていたいのに、できない。

 生きるってことは、もうすこし多くのことをあまねく人々に望むから。

 あたしがどれほど走っても追いつかないほど多くのことを求めてくる。

 生きるのは本当に忙しい。

 だから春灯には休みが必要だ。

 けど心がどうこうと考えるには、現実はあまりに急ぎすぎて忙しすぎるから、走っているときほど立ち止まりにくくてつらい。

 あたしはいま、とてもつらいのだ。


「敵がいて。ぶっ倒して。お金もらえて。それでいい、とはならないもんな」


 刀を鞘におさめながら愚痴る。

 敵がいるということは、そいつによってだれかが傷つけられるということだ。

 いないに越したことはない。

 仮にだれかを攻撃せずにはいられない人がいるのなら、駆けていって話を聞く。調整が必要なら、そういうのが上手な人と繋げる。

 そうして戦わずに済ませる。そうしたい。

 けどあまりに急ぎすぎて忙しすぎる世の中で実現するには足りないことが星の数ほどあって、追いつかない。あたしがどれほど早く走ったところで、間に合わない。

 できないことを忘れたら、できることを見失う。

 うちでいやだったのは、できないことを明確に言われるからだ。

 突然、理不尽に世界の可能性を閉ざされて、強く否定されるような気持ちになる。

 息苦しくて仕方なかった。

 こうすればいいんだよ、は。

 こうしなきゃだめだよ、に聞こえる。

 こういうものだよ、は。

 だから従いなさい、に聞こえる。

 いやだ。

 あたしが悩み、考え、感じて、あたしの思うように決める。

 そう願うままに走り続けてきた。刀を振るい続けてきた。

 春灯んちで、春灯はきっと自分に対する考えとして言ったのだろうことばが引っかかっている。きっと彼女にとってはなんてことない報告として、相談事として、特別大事にしているわけじゃないだろう内容は、あたしの心に楔を打ち込んだ。


『ヒーローになって、敵を倒して。それで救われたかったの。それじゃだめだなって思ってさ』


 だから自分をしっかり持ちたいのと春灯は言った。

 よく春灯は自分をできないできないって言うけど、勉強がてんで無理なあたしからしてみればじゅうぶんすごい。むずかしそうな本も最近は積極的に読んでいる。

 そこで知った話として、教えてくれた。

 人は人を処罰することで、心が満たされるという。悪いと感じる相手やなにかを見つけると、処罰せずにはいられない。叱りたい。ダメだししたい。そうすることで、心がどんどん満たされていく。

 世の中の物語に勧善懲悪、白黒はっきりついて、悪い奴が懲らしめられる話がいかに多いのか。それは処罰することで満たされる心の仕組みを、おおいに刺激してくれるからなのだという。

 魔女裁判、公開処刑をはじめ、闘技場や市中引き回し。噂話にはじまり、最近ではネットの炎上騒ぎに、厄介な絡み方をする人たちまで。みんな含めて、一方的に処罰することで心を満たす。報酬を得る、というのだそう。

 身近な人に「こういうのだめ」だとちくちく逃さず言っているだれかがいたら?

 その人は自分を満たすために利用している、とも言えるかもしれない。もちろん、相手の都合はお構いなしに。

 ヒーロー活動は、それに該当する。

 世に溢れる物語にみる処罰は、とどのつまり、それをする、ないし間接的に参加する人たちの心を満たすためのものでしかない。

 それじゃ困っているだれかを減らすことはできない。

 ただ、困っているだれかを利用して自分を満たしたいだけだから。

 春灯の話は正直けっこうむずかしくて、何度か尋ねたけれど、理解が追いついていくほど反発しかけた。言わなかったけど。言いたかった。

 あたしはそんなんじゃない。

 そう否定したかったのに、脳裏に過ぎるのは実家への愚痴とか、恨み辛みばかり。

 そんなの春灯には言わなかったけど。

 自分をとても大事に思ってくれるともだちに見せるには、あまりに生の自分過ぎるから。

 シロにもまだ伝えられていない。

 春灯はそれでも戦う必要があるときには、刀がいるんだと言っていた。また奇襲を受けないとも限らないし、と冗談めかして笑っていた。

 そう。たしかに、刀はいる。

 だけど刀だけですべてが解決する問題って、そうそうない。

 むしろごくごく稀にしかない。

 車両事故になりそうで、なんとか乗っている人を助けたとして。車が大破したら? けがはないか、他にけが人は出ていないか。警察に通報して、車はどうするかを考えて。保険に入っている人ばかりだとして、連絡があるし。そうでなきゃ大問題。お金の問題になる。それにそもそも車の状況によっては、整備できる場所に運んでもらわなきゃ。

 これが戦闘になると? 戦いに参加した人の治療とケアが必須。人的被害の回復のみならず、物的被害の保障とか復帰とか、悩ましい問題も出てくる。どちらもひどく時間がかかる。人の場合には、数年から十数年、下手をすると死ぬまでの間、人生に強い影響が出る。

 春灯の言うとおり。

 本当に刀じゃ済まない。

 そう気づくと、ますます悩む。

 進路、どうしよう。

 わりと本気で「ヒーローになる」くらいの気持ちでいた。

 恥ずかしくて言えないだけで。


「やっぱだめかー」


 春灯をはじめ、いろんな仲間内から「いかにも!」っておだてられて、すっかり調子に乗っていた。けど、それこそ「ヒーローってこんなもんでしょ」で済ませていただけだ。

 あたしはどんな自分になりたいのか。

 春灯はいま、一生懸命かんがえてる。


「あたしのハルはなんだろうな」


 いま見る夜景はあまりに美しすぎるのに。

 オフィスビルからでさえ明かりが漏れ出ている。

 定時はきっと過ぎているはず。なのにいまも働く人がいる。

 望んでいないとしても。急ぎすぎて忙しすぎる時間の流れの中で、なんとか泳いでいるのだとしても。

 あたしにはとても眩しく思える。

 無理だ。

 どのビルも水槽だ。光の漏れる水槽で、あたしたちという魚が泳ぐ。

 居心地のいい水槽が見つかればいい。

 どの水槽も、とまではいかないものの、住みやすいように工夫されたり、手が行き届いていたりする場合もある。探し続ければいい。

 そう思えるのに、あたしはどこにも居場所を見つけられない気がして仕方ない。

 溺れてしまう。

 すぐに水面に浮かんで、腐っていくのが関の山。

 海にいたい。

 旅をするか。それとも歩荷になるとか?

 わからない。調べていないもの。

 だからいまはどれもちっとも具体的じゃない。

 春灯に触発されて、ヒーロー業がいそがしいコミックの彼らを調べてみたら?

 ヒーロー活動はまだしも、それ以外はてんで気が回らない人が多い印象だ。

 元が金持ちならいい。けどそうでなきゃ、冴えない人生が「ようこそ!」とお出迎え。

 アイスクリームショップの店員でさえいられない。

 しっかり生きろというわりに、そのための手段がよくわからない。

 いまのままじゃ、あたしの速度を遥かに上回る勢いで三年生という高校最後の一年がやってきてしまう。


「はあ――……ん?」


 スカートのポケットが揺れた。

 スマホを取り出すと、コユキから通話の打診。


「なに?」

『もう寮に戻る時間だ。いまどこ?』

「新宿」

『なに!? 聞こえないよ! 風がうるさいんだけどぉ!?』


 めんどうくさいな。


「しーんーじゅーくーっ!」

『ええ!? もう! また夜更かし走りして! 終電までまだ余裕あるし、電車で帰ってくるんだよ! いいね?』

「走れば速いよ」

『もうダメだ! 走りすぎなんだよ!』

「電車代もかからない」

『ぜったいダメだからね!? 聞こえてるぅ!?』

「仲間トモカ、ただちにかえりまーす!」


 流して通話を切る。

 ポケットにスマホを戻して、軽く運動しながら戻ることにした。

 刀を手にした昔の人たちも同じような葛藤に苛まれていたのかもしれない。

 生きるのは、ほんとに、むずかしい。




 つづく!

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