第千八百九十話
一階建ての飲食店、屋上のテーブルで現地の人たちに囲まれながら食事を取る。
社員全員で、とはしない。複数名でテーブルをみっつほど、離れて埋める程度。
チャイニーズレストランなのでアジア系が目立つが、それにしてもアジア系とは雑だ。広すぎる。インド、エジプトあたりから中国系、フィリピンやタイからも人が集まるが、日本人からしてみてもそれぞれに微妙な違いがあるのではないかと感じる。
しかし、ささやかなものなのかもしれない。
西側諸国とひとまとめにしても、EU各国それぞれの人々の特徴を述べよと言われたら語れない。
アジア系うんぬんと言いだしても、さっぱりわからない。
専門家たちはどう語るのだろうか。多人種が暮らす国でかつ、治安がある程度維持されていて、さらに警察機関が機能している場合には、事件の捜査にある程度の見通しを立てるうえで、ルーツは非常に重要な情報となり得る“可能性がある”だろうが、名前から読み取るのだろうか。
わからない。
味つけからゆで加減まで、すべてが謎に包まれながらもソース味らしいヌードルを啜る。うまい。多人種が集まる国は、それぞれのルーツに応じた料理店ができがちな印象がある。観光客向けではない、いわば大衆向けの料理店では、ルーツに誘われた者か、同じくする者が集まる傾向が強いとも感じる。あくまでも絶対的ではない。時間を重ね、やがて世代を重ねていくことで、なんでもあるのが当たり前に馴染んでいく。宗教的な服装もときには当たり前に混じる。
その混ざり合い溶けあう感じがいい、と感じる者にとっては居心地のいい国なのかもしれない。
それでも階段をのぼって、背の高い白人男がふたりのこどもを連れてくるのは目立つ。
手を掲げ、こちらだと招くと三人はためらいもなく同じ席についた。
余計な前置きは一切なしに「商品は」と男が英語で尋ねてくる。
「ヌードル、いけますよ? おこさんもお腹がすいているのでは?」
「晩ご飯は済ませてある。この後に買い物に出向く予定でね。きみが予定をずらしたおかげで」
退屈そうだ。興味もないのだろう。
ことばほど苛立っている様子もない。ゆっくりと語りながら、高いテーブルの下で窮屈そうに足を組む。
「時間ができた。が、商品に変更が出たというのは些か気がかりだ。説明を」
同席している田中くんたちが「社長」と不安そうに見つめてくるが、にっこり笑って不景気な感情など流してしまえ。田中くんに目配せをすると、彼が足元にあるカバンから、みっつの小瓶を取りだした。
丁寧にテーブルの上に並べる。
黒い液体が入った、親指大ほどのガラス瓶がみっつ。
「人の心を変える呪いをかける薬、とでも言えばいいでしょうか」
「キミが差し出す予定だったものに比べて少ないな?」
「あっはっは」
軽く笑いながら内心で「物扱いか」と感想を。
「それを用意できる技術と人員、そして全員の活動の支援と言っていたな。キミの国では爆破事件が起きたそうだが」
「ははあ、お耳が早い」
「興味があるのは、薬そのものよりも、なあ?」
テーブルに刺さったパラソルを見上げるふたりのこどもは、テーブルの下に顔を下ろしたり、身体を起こして柄に手を伸ばそうとしたり、かと思えばメニューを気にしたりと忙しない。
だいたい五、六歳ほどだろうか。あどけない顔立ちからしてはっきりとはわからない。服装もユニセックス。性別も掴みがたい。色の薄い金髪。ライティングの加減によっては銀色に見えそうだ。
ふたりは好奇心に駆られて落ち着かなくしているが、男が咳払いをすると背筋を正す。顔を強ばらせて。しかし、すぐに視線をあちらこちらへと泳がせる。
特別、注意するでもない男に尋ねるべきか悩むが、やめた。
「いやいや。もちろん、提供しますよ。技術も、商品も。けれど試供品が欲しくはないかな、とね。田中くん?」
「アリがふたつに、ムカデ。瓶の蓋にそれぞれの虫の焼き印をしたコルクで栓をしてあります」
「女王たるアリの意思に従う薬は、血を一滴いれたものを相手に飲ませることで、一定の強制力を発揮します。ムカデは心の脆さや弱さを刺激して、暴走させ、一時的に凶暴に変える薬です」
田中くんが小瓶をみっつ、差し出すと彼は受け取りもせずに自分を睨んだ。
「名前とイメージは練ったほうがいいな」
「これは手厳しい」
「が、いまさら説明されずとも承知している。他にも種類があるのだろう?」
「それはもう。素材が大量に手に入りましたので」
「ハチはあるのか」
ニュースで報じられている貧民街の火事の話題について触れてくるかと思いきや、関心は別にあるようだ。
「と、いいますと?」
「蜜を集めてくれるハチだよ。アリより好きでね」
「――……お気に召しませんでしたか?」
「提案を拒むつもりではない。次の商談に向けた提案だ」
「では、蜜というと具体的には?」
「恵みだ。特に日本のハチのミツはうまいというな? こう言ってはなんだが」
はじめて彼はテーブルに両肘を置いた。
手を組み合わせて、やや前のめりになる。
「弱味を握ればいい。心神喪失を狙うのも、そう。こちらはそちらの将来性に投資したいと考えている」
「組織の長に飲ませてしまえば行えることは増えますが」
「アメリカを見たまえ。大統領選挙から始まり、ずっと大騒ぎだ。大統領はバッシングを呼び、集めているが、同時に強い支持者もいる。情報の流れは速まるばかり。乾燥した林に火がつき、風が強く吹けばどうなる?」
情報は風。林は人々。不安や怒りは火といったところか。
鎮火は困難だ。支持されて選ばれたのであろうと、そうでなかろうと、国家の首相となれば、簡単には変わらない。アメリカでいえば大統領令でごり押しできるとして、あらゆる無法を通したところで、与党が議員の過半数を取っていたら? 反対し、抗うことはできない。ほとんど不可能に近いと言っていい。
別に国家まで規模を大きくせずとも、企業であろうと学び舎であろうと、より小さな集団であろうと、家族でさえも、同じだ。
集団形成の合意の難しさに比例して、鎮火もまた困難になっていく傾向がある。
なにかしらの業界であろうと、同じ。
「薬を使うまでもないと?」
「格差が広がる、それはつまり対立の根が深まり、溝が広がるということでもある。けれどそれも大きな流れの、ほんのささやかな一部に過ぎない。水を変えるほどの薬でなければ、既存の方法と変わる必要性があるのだろうか」
「強い効果をお望みかな」
「いや、制御できない手段は魅力的ではないよ」
気乗りしないという返事しか並ばない。
「それでも投資するくらいには将来性を期待なさっている、と」
「娘たちが世話になったからな」
こちらはいただいていくよ、と。
名刺を置いて、かわりに小瓶を取り上げると、男はふたりのこどもたちと去っていった。
笑顔で見送るが、こどもたちさえ振り返りもしない。
姿が見えなくなって、ふん、と鼻息を出す。取り上げた名刺には会社と名前、裏面に電話番号が記載されている。だが彼のものかどうかもわからない。事前に聞いた名前ともちがう。どちらも偽名でした、と言われても不思議はない。
娘たちという単語を聞いて連想するものと、彼が連れてきたふたりのこどもをふり返りながら、田中くんに尋ねる。
「あれって、彼のこどもだったと思う?」
「さ、さあ。顔立ちはちがっていたような。歳も離れすぎていますし」
なんの助けにもならない返事に呆れながら、名刺をシャツの胸ポケットにしまう。
たんなる小児性愛者じゃあるまいな、なんて。冗談でも言える雰囲気ではなかった。
あれで金払いはいいのだ。不思議なことに。
「社長、いいんですかねえ」
「いいんじゃない? 金払いのいい金持ちはいつでも大歓迎さ。そうだろ?」
だれだって、お金はほしいもの。
それよりもね。
「ハチって、なんだろうね」
「さあ。ハチミツがお好きなんじゃないですか?」
「あっはっは! そんな、どこかのクマのキャラクターじゃあるまいし!」
田中くんの間抜けな返しに大笑いしながら、別のことを考える。
昆虫に興味があるでなし。薬というコンセプト自体、好ましいと思っている素振りもない。
実際、好まないのだろう。関心を持てるレベルじゃないはずだ。
そこまではいい。
肝心なのは、ハチだ。
ろくに興味を示さないにも関わらず、ハチだけ単語がぽんと出た。
それも日本のハチのミツときた。
あまりに露骨で雑な提案じゃないか。
それにしては、捨て置けない。
匂う。金の匂いがぷんぷん漂ってくる。
新入社員でもそれくらい察しそうなくらい露骨だったのに、田中くんときたら!
「いやでも、しょっぱい料理ばかりですよ? 甘いのがいいなあ。ハチミツ舐めたくなってきました」
「ジュース頼んだら? 甘いのが多いっていうよ?」
「冷たいフルーツティーみたいなのにも入っていますかね」
「店員さんに聞きなさいよ」
「それもそうですね」
給仕をする店員に嬉々として手を掲げて注文し始める甘党はさておき、日本のハチのミツとやらが気になる。社員は漏れなく出国したあとだが、伝手がまるでないわけでもない。
いざとなったら?
堂々と戻ってやるのもいい。
捕まるリスクはあるが、自分でやるのが一番刺激的じゃないか。
楽しくいかなきゃ、人生は。
「あのロシア人が言っていた恵みって、いったいなんですかね?」
「カロリーじゃない?」
「身も蓋もない! それハチミツが高カロリーってだけですって!」
のんきな田中くんを適当にあしらいながら帰国の策を脳内で練り始める。
同時に薬の材料調達について思いを馳せる。
触媒として、なにか愉快なものはないか。
どれほど奇抜なものでも構わない。
それこそ、高校生の侍くんたちの中であれこれ目立つ狐の少女の毛なんかあれば、望ましい。
住良木はとっくに手に入れて、いけないことをしているはずだ。
うちよりもクリーンな振りしやがって! 腹立たしいことこのうえないが、奴らには禁忌を踏み越える勇気がないから歩みが鈍い。
そうとも。オカルトな領域で生きている少女たちの、いわばオカルトそのものの象徴を手に入れて使ったら、どうなる? 面白そうじゃないか。
「久々に研究したくなってきちゃったなあ」
「社員がひとり妙なことになって、逃げ出して! もう本当に大変だったんですよ? 社長、ぜったいにやめてくださいね。あなたはトニー・スタークじゃなくてジョーカーってタイプですから」
「でもさあ、田中くん! この世にはヴィランが必要だと思わない?」
「出た! それ! 二度と聞きたくないです。彼女の件じゃ警察から裁判まで、もう死ぬ思いだったんですよ?」
「いやいや。必要だって。作りたいなあ、世界を変えるほどの閃きを形にしたいわあ」
「お願いだからやめましょ? ね?」
懇願する田中くんをよそに、思案に暮れる。
怪物になる薬も、奇妙な存在を身体に取り入れる技術も、正直ぜんぜん好みには遠い。
まだまだ足りない。
田中くんの言う一件から刺激的な実験からは遠ざかって久しい。
そろそろなにか作っちゃおっか。
そう考えたら俄然、あの少女のなにかが欲しくてたまらなくなってきた。
いけない。悪い癖だ。
欲しくなると執着してしまう。
なにがいいだろう。
ああでも、実験のためとはいえ少女の身体の一部が欲しいだなんて、迂闊に言わないほうがいいな。誤解を招く。
◆
猛烈な寒気を感じて思わず飛び起きた。
私の部屋だ。天国修行、今夜はお休みかな?
わからない。気づいたら、汗だくだった。ぷちたちはまだ、私に密集してない。
スマホのサイドボタンを押して画面で時間を確認すると、深夜二時すこし過ぎ。
上半身を起こして、両手で顔を拭う。
汗びっしょり。寝巻きもそう。ひやりとしてタオルケットをめくって、一安心。
「ふう」
もう一度、寝直す気にはならないほどの汗かきぶりにうんざり。
着替えるだけじゃ気が済まないくらいだ。
なんだろう。しばしば感じる。私のシックスセンス的なやつ? スパイダーセンス的な?
ないない!
そんなのないってば!
冗談はさておき、胸に手を当てる。
鼓動を探ると、かなり荒ぶっているように感じた。
しばらく深呼吸を繰り返してから、立ち上がる。
ぷちたちを起こさないように静かに箪笥から着替えを出して、一階へ。
お風呂場に直行しようと思ったら、和室の襖の隙間から淡い光が漏れていた。
あれ? カナタさん、起きてるのかな?
近づこうとしたら、狐耳で忙しない音を捉えた。衣擦れや身動き、布団の擦れる音など。
お? お? なんだ? と気になって襖をそっと開けるのと、ほとんど同時に明かりが消える。ただ、カナタさんの息づかいははっきり聞こえた。寝息じゃないのは確かだった。
「カナタ、起きてる?」
「ふお!? お、おう。なんだ、春灯か」
だいぶ上擦っていらっしゃる。
「……なにしてんの?」
「い、いやあ。なにもお?」
露骨に怪しい。
着替えと一緒に持ってきたスマホで明かりを照らすと、敷き布団の中から袖が出ていた。カナタのものじゃない。
「それ、私のブラウス?」
「あ、ああああ、あとで、洗濯籠に戻すつもりで」
「――……ああああ」
今日着ていたやつっぽいし、あわててかぶった布団じゃカバーできていない足元に脱いだパジャマのズボンが見える。
もろもろ察した。
「お、おやすみい」
そっと襖を閉めようとしたら「待って! せめて怒るかなじるかして!」と言われました。
いやあ。そのう。
「え。でも、手伝う気分じゃないし」
「ううううっ」
いまごろしおしおカナタさんになっているのかもしれない。
でも、寝起きが最悪だったし、深夜だし、汗だくだしで、気が進まない。
寒気ってこれ?
いやあ。そういうお年頃だし、別にないとは思わないよ。
ブラウス持ち出したのはどうかと思うけど。心底どうかと思うけど。ありかなしかでいったら断然なしだし、洗濯籠を漁る時点でもうほんと「やらかしやがったな!」ってなるし、人によっては「絶対もうむり」判定しそうなポイントだけど。
ふたりの仲だし「漁る前に言って?」って感じだけど。
ん? 待てよ?
「スマホでどういうの見てたの?」
「どういうのって質問が赤裸々すぎてつらい!」
「いやでも他に尋ねようがないといいますか」
えっちな動画なのでは?
「あ。まさか隠し撮り的なヤツじゃないよね? ブラウス持ち出しで九回裏までノーヒットのアウトふたつにツーストライクで、試合終了間際に追いつめられてるのに」
「それもうアウトじゃん……」
「で、どうなの?」
「さ、さすがに隠し撮りでは」
私のパンツをこっそり持ち出したことが前にあったしなあ。
テレビで芸人が奥さん相手にやらかした報告するみたいなの、前に見たことあるけど。カナタさんにもそういう一面があると知る機会があることに驚き。
「で、電子書籍のさ。春灯の、グラビアがあるだろ?」
「おーぅ」
侍向けの季刊誌、電子で出てるんだ。すご。
「久々に見たいかも」
「い、いまぁ!?」
「じゃあ、交換条件。見せてくれたらお風呂で身体洗うの手伝わせてあげましょう!」
「……余計、その。生殺しになるんですけど」
「気が乗ったら、ちょっとだけ手伝ってあげてもいいよ?」
「乗らなかったら?」
「ブラウスこっそり持ち出さなくても、燃える材料になりませんかね?」
自意識過剰なんだよぼけがあ! くらいの発言だと思いながらも、こういうときくらいは自惚れたい。冷静になるとやまほどツッコミ入れたり、ないわーの嵐をぶつけたくなりかねない。
未だに寝起きの最悪な気持ちを引きずってもいる。
自分本位なところ、あるけど。
「いいの?」
「こんな時間まで手こずってるカナタさん、困ってるんじゃない?」
「まあ……恥ずかしながら」
ええ、そりゃあもう。
死ぬほど恥ずかしい状況ですよね。
いまだに布団の中で身動き取れずにいますものね。
逆の立場だったら死にたくなるほど恥ずかしいと思いますよ? ええ! そりゃあ! もう!
「私も寝起きが最悪でさ。気分を変えたいの。楽しく踊って洗い終えたら、ね?」
「やばい。目が冴えてきた!」
まさかとは思うけど、一睡もせずに手こずっていらっしゃった?
お片付けのあとが見えない点で、仕掛かりだしたのがいつなのかが気になりはじめる。
いやもう。
ずっと生々しいんだけど。
いいのか、こんなんで。
まあでも、起き得るよなあ。アマテラスさまと見た配信動画じゃ、ある芸人さんが真夜中にこっそりソロ活動してたら奥さんがいきなり扉を開けて目撃されて、すぐにそっ閉じされたみたいに言ってたし。
お子さんできたあとや、大きくなっていくとますますむずかしいってこともあるみたいだし?
ある程度は、ひとりでどうにかするっていうのもね。よそで浮気したり、風俗いかれたりするよりずっとまし。困ってるって相談しあえるのかいいな。
「あああ。じゃあ、その。いいかな」
「どうぞ?」
じっと見ていたら、カナタが顔だけ私に泣き笑いの顔を向ける。
「できれば布団を出るまで見ないでいただけると。ぶ、武士の情けってやつ?」
「あー」
お互い何度も裸を見ておいて、いまさら?
いや。いまさらだろうとなんだろうと、そりゃあ出にくいよなあ。
わかっているのに、開いた襖に掲げた手を当てて、にんまり笑顔で見つめちゃう。
「パンツあげるの手伝ってあげよっか?」
「けっこうです! なにとぞ、なにとぞ、今夜の狼藉を許してつかあさいっ!」
布団の中でもぞもぞと動いて、土下座の構えを取る。
洗濯籠からブラウス持ち出し、彼女の実家でソロ活動。すごいなあ。罪を数えたらきりないレベルじゃない? ね。
彼女の実家で家族がいるのにやっちゃう人もいるというし。それは私たちも現世でなく隔離世に移動してではあったけど、体験したわけだし?
彼氏と彼女の立場が逆でも、たたき出されても不思議はないことでもあるわけだけど。
幸い、見つけたのが私だしなあ。
ほんと、もー。
これまでもなにかしてないかが大いに気になるところ。
だけど今夜は揉めたり怒るほどの元気はない。
ただ、そう遠くないうちにトモかキラリには愚痴ると思う。
どう思う!? って。
それくらい気がかりなことだけど、今夜は?
「これまではどうだったのか、大いに話しあう余地がありそうだけど?」
「ううっ」
「さっきも言ったとおり、寝起きが最悪なの。気分、変えよう」
「……わかりました」
しばし、見つめあう。
「あの。それで。見ないでいただけるとありがたいんですけども」
「だめ。見てる」
「……はい」
私の笑顔にカナタがなにを見たかはさておくとして。
強い寒気と、これまで体験した事件とをどうしても結びつけて考えてしまう。
それくらいにはきつい一年だった。
長い一年だ。今年もそう。
今夜も長い。
せめていい気持ちで眠りたいから、いいとこ取りをさせてよ。
いまできる限りでいいからさ。
つづく!




