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その刀を下ろして、帯刀男子さま!  作者: 月見七春
第九十九章 おはように撃たれて眠れ!
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第千八百八十七話

 



 さんざん歌って、ますます気が晴れた。

 だからギターを置いた。立ち上がって椅子を消す。

 私の思いがなんであろうと、私が私を人だと捉えていようと、人によっては妖怪で、気味の悪い狐に見えるのだろう。

 なまじ姿がそう見えるのだからこそ、私は自分自身で掌握しておきたい。

 自分は人だと。人に過ぎないのだと。

 けれどそれがすべての人に伝えられることかといえば、また別の話。

 認識ってやつはむずかしい。

 自分も、相手も、自分自身がなぜそれを行なうのか、どうしてそのように考えるのか、把握しているわけじゃない。戦いの最中で接する相手が、私にとって最も相性の悪い存在なのかどうかさえ、なかなかわかりにくいことだ。私にとっては教授がそう。

 仮に癒やしや救いが必要だとして、それを得るために暴力さえ振るえてしまうのもまた、人なのだから。


「お。やるか?」

「身体を動かしたい気分だから」

「そうこなくちゃ」


 彼は黄金のギターを刀へと戻すと、鞘に収めた。

 五メートルほど私から距離を取る。

 そして抜き放つ。十兵衞の一振りを。

 胸が膨らんで見えるほど、めいっぱい息を吸いこんで、二倍の時間を掛けてゆっくりと吐きだす。それから私に身体を向けて、下段に構えて待つ。

 呼吸を整えてから、私も引き抜いた。

 彼とちがって、私はタマちゃんの一振りを選ぶ。


「そっちでいいのか?」

「意外?」

「いやあ。いいさ」


 歯を見せて笑う彼の刀を握る、手。

 柄から刃先にかけて、金色の霧が漂い、雫が伝う。

 凝縮させた自分の霊子をどのようにするのか。


「いくぞ」


 下段から振り上げる。

 離れた距離であろうと右目が「ここは相手の間合いだ」と見抜く。

 真横に飛んでみて、正解だった。

 先ほどまでいた場所に、金色の雫が豪快に散らされていく。小さな液体の粒がそれぞれに刃に化けて床を貫いた。消防車の放水ぐらい、勢いがあったよ? 実際、五メートルなんかめじゃない。その十倍とちょっとの距離まで、床に数えきれないほどの刃が刺さっていた。

 身体中を貫かれ、手を伸ばした先でまた刀が私を刺したときの痛みを思い出す。

 どんなにおばかに思えても、彼はやはり、私にとっての帯刀男子さまだ。

 金色も使いようだと思い知らされる。


「止まるなよ」


 ぞっとして、無我夢中で真横に飛んだ。

 一度じゃ足りない。止まっちゃだめだ。

 そうする必要があった。彼の攻撃が止まることはなかったからだ。

 振るい、化かす。

 刺し穿つ。ううん! 心が疼いちゃう!


『目測』


 十兵衞がなにかを言った、そのうちひとつだけ、単語が聞こえた。

 無理でも無茶して着地した足で大きく飛んだ。避ける先を刃が通り抜けていく。跳躍した私のお腹をかろうじて刃先が撫でて、通り抜けていく。

 ずっと同じ方向にずれて避けていたら、そりゃあ先読みされるよなあ!

 タマちゃんの刀を振るって、刃の金色を頼りに私の霊子を重ねる。

 彼のように化かすことまでは考えない。ろくに試したことがない。

 もしも化かすなら、あくまでも私の霊子。

 正直「使いどころなんてないってぇ!」と思っていた尻尾コプターを発動して滞空時間をなんとか稼ぎ、地面に向けて刀の切っ先を振り下ろす。

 金色をやまほど出して、化かしてしまえ! なにに?

 カメハメ波的なのに! シャン・チーでも発言で使うくらいだし!


「おおおおお!」


 空へと一気に加速しながら逃れていく。

 天井があるかもしれないのにぶつかる気配なし。

 試練の部屋が気を利かせてくれたのかもしれない。

 滞空しながら床を見おろすと、彼を中心に孤を描くように刀がやまほど刺さっていた。

 峰を肩に乗せて、彼が私を見上げる。


「それで逃げたつもりかあ!?」


 余裕綽々だ。声の調子は変わらない。

 立ち向かうには彼の転化を戻すか、さらに転化するくらいの離れ業がいる。

 シャン・チーでいうなら、テンリングスで暴れ回る男を相手に不思議な格闘術で舞い踊り、いなしてみせた女のような離れ業が。

 いまの私にあるかって?

 ねえ!

 俺ら東京さいぐだの歌詞くらい、ねえ!

 テレビで「実際にそういう村があるのかどうか」検証してたっけ。

 いまそれどころじゃないんだけどもぉ!


「さっきの技って、空に向けても使えるのかな!」

「ったりめえだろ! 試すか?」

「むむっ! 作戦たーいむ!」

「認める!」


 あいつ、中身は私とたいして変わらないな。

 尻尾コプターで宙に浮かびながら考える。

 金色転化による刀飛ばしは遠距離技。たとえ空だろうとなんだろうとお構いなしだ。

 消防車の放水に例えたけど、眼下に見渡す刀の山を見る限り、威力は遠のいてみてもさほど変わらない。放水量、あるいは放水する力そのものにまだまだ余裕があるのか。それとも、なにかからくりがあるのか。

 いずれにせよ、飛距離に余裕がある。試す気にはなれない。

 高度をあげて逃げたら、あるいは攻撃されなくなるかもしれない。

 けど彼にもノンちゃんお手製尻尾コプターがあるし、金色を使えば空を駆けることだってできる。対する私に攻撃手段がないのなら? じり貧だ。

 攻めなきゃ打つ手がなくなる。

 目的を決めよう。

 しばく?

 のーしばくでいきたい。

 じゃあ、どうする?

 刀を奪ってみる?

 それもかなりたいへんだぞ?

 ファリンちゃんみたいに、彼の刀をぐんぐん吸いこむ掃除機があったら。

 トモみたいに、彼がなにをしようと構わず避けぬいて、懐に飛び込めるスピードがあったら。

 そう願うとき、私はなにを目的にしてる?

 攻撃をものともしないこと。ファリンちゃんの場合は、相手の攻撃を自分のご飯に変えちゃうところが強い。トモの場合は圧倒できるスピードがひたすら強い。

 どんな手段を選ぶにせよ、先を行くだれかはいる。

 スピードスターのフラッシュなら、未来のフラッシュの敵だし?

 私にとっては、彼だ。

 どうせ胸を借りるなら、彼の振る舞いから得たインスピレーションを活用したい。

 金色を化かして眼鏡を装着。久しぶりの尻尾コプターに付け根がだいぶ痛くなってきたし、やるだけやってみよう。

 そもそも、そろそろ切り上げないと。ぷちたちが待っているのだから。

 思いきり、やりたいことしてみるか。


「お待たせ!」

「おう! そんじゃあ、いくぞ!」


 彼が腰を落として、両手で柄を握りしめる。

 遠目に見ても十兵衞の刀の周囲に漂う金色霧の濃度が増していく。

 遠距離かつ広範囲を狙えるのかもしれない。

 構わず私は両手に卵を出しては、彼めがけてこれでもかと投げまくる。

 振りかぶった彼が刀を振るった。立て続けに何度も。角度を変えて。おびただしい数の矢に姿を変えて飛んでくる。私の投げた卵はやっと十二に届いた頃。あまりに儚い反撃だけど、卵は孵る、もとい! 変えるためにある!

 縁に頼るとしましょうよ! ただし呼び出すんじゃなく、力を借りることでね!

 右手の中指と親指を合わせて、めいっぱいの気合いを込めて鳴らそうとする。

 せいやっと試してみたけど?

 おおはずれーっ!

 でも卵は変わる。巨大なスピーカーに。

 ぱっと浮かばないなら、なにをするの?

 どうやら私、とびきり声がでかいみたいだからさ?

 マイクを手にする。

 思い切り、めいっぱい息を吸いこんで、迫りくる矢の群れに向かって叫んでやるのだ。

 どでかい音波でどうにかなったりしないかな? なんて安直な手段!

 小楠ちゃん先輩なら悲鳴をあげそう!

 構わない。どうせ試せるんだ。なんでもやってやる。

 ちなみに結果はどうだったかって?

 じゃあ、具体的にどういう対決になるのか整理してみようか。

 私の肺活量VS彼の刀を使った舞い。

 どっちが先に限界がくるのか。

 あえて答えを言うまでもないんじゃない?

 射貫かれた私は烏天狗の館の正面フロアに戻されたよ!


 ◆


 いい線いってると思ったんだけどなあ。

 如何せん組み合わせが悪かったら意味がないからね!

 ものは考えよう。

 喉は無事。ぜんぜん平気。あっためといてよかったまである。

 お風呂場でぷちたちの話を聞きながら、ひとりひとり身体を洗っていく。

 入れ替わり立ち替わり、毎日大仕事だ。

 ほんとによくしゃべる子を筆頭に、元気が有り余っているからお風呂はずっと賑やか。

 最初の頃は頭が真っ白で「さすが!」「しらなかったー!」「すごい!」「センスあふれるぅ!」「そうなんだー!」を反射的に返すロボット状態だったけど、いまは話が頭に入ってくるくらいになった。

 しゃべりたがりぷちたちが相手のときに実感するのは「ああ。こんなに話したいんだなあ」ってことでさ? 逆にあんまりしゃべらなかったり、しゃべるのが苦手なぷちが相手のときに実感するのは「聞いてほしいんだなあ、知ってほしいんだなあ」ってこと。

 ふたつはちがうんだよね。似てるようで。

 順番ね、となだめながら、洗っている子に集中する。

 割って入ろうとする子もいるけど、順番を抜かすのはなしだし、足りなくても大丈夫なように心がける。あとで話せるっていう安心体験を育てて、なんとか「自分が自分が」をなだめる。

 うまくいってるかって?

 ぜんぜん!

 ないない!

 こつこつですよー。

 うまくできなくてもへこたれない、じゃなくて。そもそもへこたれなくていい、くらいにしても、間に合わない。こうじゃなきゃだめ、正解に合わせてって張りつめていると? そんな自分は、へこたれ私を救わない! 追いつめるだけだ。

 ぷちたちからも気持ちが逸れるしさー。

 そうなると元気勢が「きいてきいて! ああああああ!」ってなるし静かおとなし勢が「ぜんぜんみてくれない、きいてくれない! あああああああああ!」ってなるし、そうするとますます私が「あああああああああああああああああああ!」ってなるからさ。

 疲れちゃう。

 でもねー。気が晴れちゃったからなー!

 やめたやめた! できないことをそのままやろうとするの、やーめたっ!

 聞くことはできる。尋ねることもできるし、どうしたの? なんでだろ? って教えてもらうこともできる。

 ひとりずつとなら、なんとかなる。

 みんなが相手だと、むり! いまの私には無理!

 仮にぷちがひとりしかいなかったら? いまの「なんとかなる」じゃ「ぜんぜん足りない! ああああああああああああ!」ってなるかもしれないけども!

 そういう私の身近じゃないわからなさに「あああああ!」ってなるのも、やめ!

 知りたいぞ、とか。学ぶぞ! とか。そういう切りかえに繋げるのであって、わからないままで済ませようとするのは? やめ!

 そう切りかえて、ひとりずつ相手をした実感はなにかって?

 ろくに話おぼえてねえ!

 ほんとにおぼえてねえ!

 キラリたちがいろいろ遊んでくれたんだって。いまお庭で作ってるコースとか、ゲームで作ってるテーマパークの再現とか、見に来たいって。学校に戻ることになっても、ちゃんと作り続けたいけどいい? とか。ほんとはおうちで私と一緒にずっとのんびりしてたいとか。

 覚えてるのは、これくらい。

 金魚マシンをこうしたいーという改善要求、明日の晩ご飯やお菓子はこれがいいっていうおねだり、隙を見つけての「キラリちゃんおすすめの靴がほしい!」とか「新しいゲームも!」とか、果てしない。

 そこまでのお財布の余裕はない!

 化け術を遊びに取り入れたら、靴はなんとかなる。

 なにかしたいなあ。初歩的な遊びがないか、調べてみよう。この子たちが興味をもつ以前にまず私とカナタで試しておきたい。

 転化も化け術も、もっとうまくなりたい。

 タマちゃんの刀を抜いても、私は活かせなかった。十兵衞の刀ならどうだったかって? 振り回して終わりだ。それを活かすとはいわない。

 ただただチルアウトを流して、ぷかぷか浮かぶように寝ていたい。

 そういう方向性へと導くための手段が私にはまだ、ない。

 最後のひとりを洗い終えて、私もさっくり身体を洗うと、湯船に浸かる。

 のんびりは無理。さくっと出て、身体を流したら脱衣所へ。

 ひとりずつ出てきてもらって、タオルドライ。

 待ってるカナタに託して、尻尾をドライヤーで乾かしてもらう。風邪を引かないように。

 ここまでくると流れ作業。最後のひとりを見送る頃には湯冷めしちゃうので、最初に出たときに手早く身体を拭う。そういうの、疲れたり参ったりしているとむずかしい。

 自分でできるならそれでいいやと、こどもに任せるようになるのかも。思考がバグって、だれかに身体を拭いてもらった体験がないのはどうなんだろうとか考えだすときは? 疲れてる。気にするのならむしろ「できる。やれ」で、ろくにケアされない状況のほう。

 ぷちたちが入ると脱衣所も、お風呂場もかなりすごいことになるから、後始末がてらついでにもっかいあったまりにお風呂へ戻る。浴室の壁に飛び散る泡だの、尻尾も含めた抜け毛だの、ひととおり流しておくし、さらっておく。排水口には抜け毛キャッチシートを使ってるので、さくっと剥がして捨ててしまう。

 いつもやってるかって?

 ははっ。

 そんなわけないじゃん。

 そこまで完璧に生きてませんからね!

 元気あって余裕あるときにやるの。

 学生寮だったら、カナタがけっこうカバーしてくれてるところだし?

 尻尾を乾かすのにしたって、高等部では特にトモに、あるいはその場に居合わせただれかにずーっと助けてもらってる。ぷちたちと生活するようになってからは、カナタに助けてもらってる。カナタのぷちが現世で生活するようになったら? お互いさまってところで、一緒に伴走できますように。

 いますぐはやめてほしいけど。それどころじゃないもの。大変すぎて。


「ふええ」


 魅惑に抗えずに湯船に浸かっていたら、涎が出ちゃった。

 頭がかくんと揺れる。眠気と疲労が一気に押し寄せてきた。やばい。このまま寝てしまうかもしれない。

 上半身をぐっと伸ばして、胸を張って腰を逸らしながら考える。


「んんん~!」


 手段の開発がいる。

 軸はなにがいいかな。

 陰陽、かな。

 転化。いままで何度かアイディアは浮かんできたんだ。

 気が晴れて、腹も据わった。

 ただの攻撃手段としての技はいくつか発掘したけど、長いこと使ってない。

 魅力をあまり感じない。富豪が警察の署長になるドラマがあって、一時期暴走して、過剰な装備を搭載して署員が引いてるシーンがあったけど。まさにあんなノリ。

 私のしたいことにそぐわない。

 大神狐モードも長いことご無沙汰してる。使ってない。

 相当な霊子を扱えるようになる。けど、それで相手をしばくっていうのがぴんとこない。

 転化をする。艶やかに、舞うように。

 そっちのほうがよっぽどタマちゃんと大神狐のイメージに合う。

 だけどいざ実現しようとなると、私に手段がない。

 ファリンちゃんに教えてもらうのが一番はやい。この手の術といえばユウジンくんなんだけど、彼はずっと京都だしなあ。葛葉さんちの美希さんなら、なにか知らないかな。

 というかそもそも、お母さんはその手の術の扱い、知らないのかな?

 お父さんは体術先行タイプっぽいしなあ。

 頼ってみよう。

 尋ねてみたいぞ?

 調べて、学んで、掘り下げていってみよう。

 私らしく、私の求める戦い方を作りあげていこう。

 ヒーローの定義もさまざま。

 現世でしばかれそうになることだってあるだろうし、好むと好むまいと、現世で戦わざるを得ない場面もあるだろう。

 いやだ、きらいで乗り切れないなにかに出くわすのも人生だ。

 離れられたらいいし、逃げられたらいいけれど、それがむずかしい状況だってあるからなあ。

 事前に備えておこう。自分の戦い方、逃げ方に繋げる術を、いくらでも。

 決意を抱きながらも身体はふやけていたら、閉めた戸にごんごんごんと、なにかがぶつかる音がした。恐る恐る見たらさ? ぷちたちがへばりついているのが、磨りガラス越しに見えた。


「ママ! まだ!?」

「ぶべええ!」

「はやくうう! でてよおお!」


 ははっ。

 みんなが寝るまで休めねえでやんの!

 今夜のご褒美にこっそり宝島でケーキを買っておいたんだ。

 ぷちたちにはぜったいにバレてはいけない……。

 しゃあない。

 ぷちたちの就寝時間まで、あともうちょっとだ。

 ケーキが私を待っている!


「「「 ママ!? 」」」

「でますー。でるからー。おおきな声ださないでー」


 身体が重たいけど、立ち上がれ。

 立つんだ! あとでケーキが私を癒やしてくれるのだからっ!




 つづく!

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