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その刀を下ろして、帯刀男子さま!  作者: 月見七春
第九十九章 おはように撃たれて眠れ!
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第千八百七十七話

 



 結ちゃんと連絡がついたのは、その日の夕方だった。

 話しそびれていたことがある。結ちゃんの戦いに関する姿勢とか、スタイルについて知りたい。

 レンちゃんが話してくれた、結ちゃんの選択っていったいなんだろう。

 そのまま尋ねると「できなくて苦しいことを見つけて、それをなんとかすることに集中する」だった。


「どゆこと?」

『春灯が現世で大忙し。それで荒ぶる春灯が現世で化け狐になって、人々を攻撃し始めた! さあ、どうする!? 私のスタイルだと?』

「……え。私、退治されるの?」

『しないしない。話の上だから都合よく簡潔に言うと、荒ぶる理由を特定する。今回は、現世で大忙しなことを見つけ出す』

「おお」

『で、春灯がうわーってならないよう、必要なことをする。いまの春灯だと、育児ならぬ育ぷちずで頭がわーってなってるじゃない?』

「んー」


 外に出て話しているとはいえ、すぐ後ろにある家の中でぷちたちが元気に遊んでいるので、なんとも言いがたい。事実、わーってなってるし? それは結ちゃんにもお話したからさ。

 察して、そのまま次へと話を進めてくれる。


『いまも、これからも忙しくないよう、わーってならないように必要なことをするし? 態勢を整えていく。それとは別に、これまで忙しすぎて置き去りになっていたケアをする』

「なんか、大変そう」

『そうなの。大変なの。都合よく簡潔に済ませちゃったけど、荒ぶる理由を特定するのがたいへん。おんなじ共同体になれるかどうかもむずかしい。なれても、いまの大変ななにかを抱える相手と伴走できるかどうかは、別』

「ううん、たしかに」


 そんなのどんなヒーローもやらないし、やれない。

 地味だし。時間かかるし。モデルケースをあまり知らないし。

 ヒーローとせずとも、ひとりにできることに限界があるというか、理想的なモデルがないのかも。

 さすがにもう見ないけどさ?

 暴れて我を忘れる女性をキスで黙らせるとか。わめきちらす男性を殴っておとなしくさせるとか。その流れで荒ぶる理由を明らかにできるのかって話で。

 無理だよなー。別だもんなー。

 わーってなっている状態が、行動に出て、しかも本人にもどうしようもない。そういうときの対処法を知らない。

 アメリカン・スナイパーで戦地から帰国した主人公は、まるで別人になっていた。寝ていると突然、大声をあげる。感情が出てこない。揺れない。そのわりに自分をケアする行動に移れないし、自分はだいじょうぶだと言って済ませてしまおうとする。

 奥さんはたびたび主人公に持ちかける。カウンセリングを受けたら? とか。退役軍人の集いに参加してみては、とか。戦地で敵対勢力が間近にいるときに取る安全を確保するための行動は日曜日にお庭でやるバーベキューで行なうと危ない。にも関わらず、切りかえることなどできない。そんなの本人の意思でどうにかなるものじゃない。

 未来ちゃんのおうちの話を聞かせてもらったりさ? 聖歌ちゃんがお姉さんを失ってしまったときの話とか。

 体験がない私はいくらでも無責任に「こうしたら?」とか「こういうところが悪い!」とか言って済ませられる。言わないまでも、心の中で思うことも。

 だけどそれが当事者にとって、どれほど無責任かつ暴力的に聞こえるか。

 体験がない知識は、解像度がゼロか、ゼロに等しい。

 体験できるのがいい。至上主義とまではいかずともね。

 聞いて、見て、やってみて。そのどれも、バイアスがかかる対象であることを踏まえるなら?

 体験がない知識であることを踏まえて、安易に評価せず、知ろうと努める。相手の負担にならない範囲でできることだって、たくさんある。

 そうはいっても、結ちゃんの言うように、ヒーローがやるのかっていうと微妙だ。

 たぶん国を問わず、いろんな作品で描かれてはいると思うの。ありふれた流れじゃないかな。成敗を取り入れるかどうかの差は大きいとは思うけど。人の関係を密に描こうとするのなら、どうしたって、出てくるよね。絵本でもゲームでも、よくあるんじゃない?

 なにで悩んでいるか。

 どうしよっか。

 交流を通じて、解決に向かっていく流れは王道なのでは?

 ロミジュリは悲劇で終わる。神話でもこじれにこじれる。

 犯罪捜査ものだと、すでに罪を犯しちゃってるので、法執行機関の逮捕、場合によっては射殺という幕引きもある。アメリカのドラマはかなり多い!

 ヒーローものだと? むしろ力が強すぎるないし、過剰な手段を得てしまっているから、悩みにアプローチする前の「お願いだから落ち着いて!」が通用しない。警察やFBIが犯人を射殺することなく生きて捕獲するのにかなり神経を尖らせて、危うい場面を乗り越えて達成できるかどうかっていうのに、武装しまくっているか、そもそも肉体が武器みたいな人たち同士の争いでそこまでできるのかっていうと? かなりきつい。

 もうご長寿っていっていいと思うけど、ドラマ版フラッシュはそこんところ、かなりがんばってる。特殊な力を持つメタヒューマンの力を無効化して、監獄に入れちゃう。これだと殺すか殺さないかの違いしかない。捕まえる人がただただ増えていくだけだから。それでもけっこう、がんばっているほう。

 アプローチはむずかしい。ジョーカーと接した医師はすっかり心酔して、ヴィランになっちゃったもんね。ハーレイ・クイン。彼女って、精神鑑定しにきたんだっけ。ダークナイト版のジョーカーの精神鑑定なんか、映画版ハンニバルで彼を相手に精神鑑定するようなものじゃない?

 つまり、自殺行為。

 敵対していた頃の教授をもしも仮に捕まえられたとして、私は彼の前に立てたか。

 絶対に無理だ。

 そういうだれかと敵対しているときに、結ちゃんのやり方を選べるか?

 白状する。

 選べるなんて言えそうにない。


「どんな相手でも、結ちゃんはそれを選ぶの?」

『いまはそう決めてる。ただ、なんだろ。無理さを体験しない限り、うまくは答えられないや』


 まだ、体験してないってこと?


「もしも私が妖狐になって暴れたら? 結ちゃんにひどいこといっぱい言うし、やったら?」

『ぶっ飛ばす』

「ええっ!?」

『うそ。んー、春灯なら気にならない。知ってるし』

「知ってるかどうかが重要?」

『ちょっとちがった。ううんと、どう過ごしてきたか、かな? 脅かされ度が大きい』

「脅かされ度」

『暴言を吐かれたり、殴る蹴るみたいなことされたり。暴力の類いは脅かされ度があがる。夜に後ろからついてくる足音なんかもそう』

「おお」


 わかりやすっ。


『なので、実をいうと春灯が聞いてくれた私の戦い方って、お互いの脅かし度と脅かされ度を下げる感じなの。ナウシカみたいに』


 待って!?

 わかりやすすぎか?


「いまのですごく腑に落ちた」

『そこで、どちらか一方でも、お互いでも、ヘイトがあると? もうたいへん。それは春灯もわかるでしょ?』

「うん」


 みなまで言うな。

 三年間、一緒に過ごして体感してきたことだ。


『うちの学校も春灯の学校に負けじと場数を踏んできた。だけど、ヘイトっていう意味じゃ私はまだ、きつい体験をしてないんだと思う』

「……そっかあ」


 細かくは聞いていない。

 というか、掘り下げて尋ねたことがない。

 結ちゃんもまた、私から話さないかぎり、深掘りしない。

 お互い、いろいろ体験してきたんだと思えばこそじゃないか、なんて。私は勝手にそう思っている。聞いていいのかどうか悩む。


『しんどいことは何度かあったけど、自分の選択を変えるより、改善点を見つけて修正すればなんとかなることばかりだったから』


 そう言えちゃうのが、すごいよなあ。


『レンはそれを私がマイペースだからだっていうけど、私に言わせれば自分の大事な選択を育てるほうが大事。いやな相手となんて、比べるまでもない』


 こういう強さが羨ましい。

 ときにだれかと衝突する理由にもなるんだろう。

 それでも私はいいなって思わずにいられない。


『逆に私がそんなだから、この選択には仲間が多いほうがよくてさ。この選択はひとりで夢見るものじゃないんだって、やらかすたびに気づく』


 ひとりで夢見る選択か。みんなで実現していく選択なのか。


『それで結局、なにするにしてもひとりじゃたいしたことできないなーって。なんでもそんなもんじゃないかなーって思うわけ。北海道からじゃ手伝いに行けないけど、春灯はどう?』

「んー。助けてもらってるよ」

『お。ならどしどし助けてもらいなよ』


 これから仕事だから、またねと結ちゃんは通話を切った。

 ひと息ついて、うちへとふり返る。

 カナタさんが「待って! 待って! あああ!」と、ゲームでやられたっぽい悲鳴をあげている。ぷちたちのほうが、よっぽど上手。

 お父さんとお母さんにはこっそり、カードゲームは教えてくれるなとお願いしてあるけど、もしもぷちたちが見つけてハマろうものなら? 私もカナタも一方的に負ける日がくるのだろう。

 出費を思うといまから気が重い。

 宝島にはないのだろうか。助けてもらえる術なんかは、特にほしい。上限なしだ!

 聖歌ちゃんたちが来てくれるという。

 ノノカたちも暇を見つけて、また来るって。

 それより私が学校に戻ったほうが早い。

 カナタがほんとにいろいろ手伝ってくれる。徐々にだけど、みんなをお任せしても時間が過ぎるようになってきた。

 それこそ心は化け狐くらい大荒れだった私は気づかなかったけど、カナタはカナタで自分のぷちたちのお世話を見る日もくるに決まっているのだし、私のぷちだろうと家族じゃい! と心を決めて、いろいろ学んでいたみたいだ。そこまでしてたなんて、気づかなかった。

 いやなとこばかり見つけようとしてた。

 それくらい余裕がなかった。

 気持ちに余白がなくて、こうあるべきが増えるとき、心は防波堤まみれになる。それだと今度は波がこない。防波堤を築いて干潟が塞がれたら、そこで暮らすいきものたちにとって死活問題だ。防波堤はなんのために築くのか。波はいらないのか。

 加えて家の扉や窓をがっちがちに固めて、侵入を防ごうとしたら? 電気をつけないくらい、日中でも真っ暗だ。そこに留まったら気持ちが滅入ってしまいそうなのに、日頃の刺激が怖いと脅かされ度を減らすために必要なのかもしれない。

 代替案なんて、余裕がなきゃ見つけられない。

 余裕のあるとき、脅かされ経験がちっともたまっていないときは? いくらでも好き放題いえるよね。「こうしたら?」とか「そんなことしてちゃだめでしょ」とか。場合によっちゃ「そういうところがお前のだめなとこ!」とか「だからいまでもずっとぼっちなんだよ」とか「ああ、ほんとばかだな」とかさ? 言っちゃうか、思っちゃうかするのかも。

 でも、どれも戯れ言だ。

 脅かし度と脅かされ度。それに、脅かされ経験もあれば、脅かし経験もあるかも。

 簡単には払拭できないやつだ。

 カップルが別れるときよりもっとずっと深刻になりがちな、離婚に至る経緯には? ありそうだね。脅かしと脅かされ。あるいは、加害と被害も。

 日本の映画で「ちょっと今から仕事やめてくる」ってのがあってさ?

 会社でパワハラが蔓延してるの。

 脅かしと脅かされ、加害と被害がはん濫してた。

 会社の中でだよ? 悲惨だよ。

 学校が舞台になっても、そういうノリってあるところにはある。バイト先でもそうだろう。

 家庭の中でさえ、あり得る。いくらでも。

 ご飯を用意したのに、なにも言わずに食べないとか。外で食べてきたわってさらっと言っちゃうとか。そういうのも、だめだ。

 これらの積み重ねが私を妖狐にして、ひとりの男を教授のような恐ろしい人にするのなら?

 対峙したとき、結ちゃんの選択を仮に私なりにやるとしたら、どこまでできるだろう。

 アメスナの主人公がいた戦地。彼は凄腕のスナイパー。だけど、常に脅かされている。戦地だもの。人は銃で撃たれたらだいたいは動けなくなる。当たり所が悪ければ即死。ゲームみたいにどこに敵がいるのかはわからない。こどもさえ、銃器を手に取ろうとする。狙撃して撃ち殺すとして、その選択が日常の、それまでの自分を脅かす。脅かされまくりだ。凄腕のスナイパーとして敵を脅かしているかもしれないけれど、だからといって彼自身が感じる脅かされ度が軽減されるわけでない。断じて、ない。

 そうして積もり積もった脅かされ経験をケアできないまま帰国して、彼はひどく苦しんだ。

 なにをしようが、経験はなくならない。

 脅かされた記憶は、鮮明に残り続ける。

 戦地での体験がない人々にとって、知るとしても体験と結びつかないから、どうしたって上滑りする。繋がらない。無理に繋がろうとするのは暴力に等しい。

 第二次大戦じゃアメリカでも所によって煙たがられたそうだ。日本はどうか。かなり悲惨だったという。帰還したからといって、戦争、ううん。殺しあいの経験は、記憶は、ずっと残り続ける。なのに、それをケアするという概念さえないまま、責める人たちさえいる。まずなにより、自分が自分を許せなかったら、あまりにつらい。かといって殺しあいに参加した事実は残るのだ。それに対して、どう折り合いをつけていくのか。

 私はどう、折り合いをつけていくんだろう。

 去年は本当にたいへんだった。

 いまとは別種のたいへんさは、いまでも鮮明に残っている。

 中学時代も、小学校時代も。

 ユリア先輩も、シュウさんも。アダムに、教授も。

 黒いのや白いの、ウィザードたちよりもずっと、四人を思い浮かべる。

 あ、ユリア先輩とシュウさんはさ? 荒ぶるに至った理由がわかっているし、いまじゃ安心して一緒に過ごせるし、なんてことない。元気になってよかったなーって感じなんだけど。でも、アダムと教授はちがう。

 もしも映画なら、三年後って雑にテロップつけたいところだぞ?

 年月の問題じゃないんだ。テロップつけて経過させる年月が十年だろうと二十年だろうと、引きずり続けることだ。一生かけても残ったとして、ちっとも不思議はない。

 このあたりはほんとに、そうだと感じる人と「まっさかあ」と笑い飛ばせる人との間に、埋めがたい溝があるんじゃないかな。責める責めないはまったく別の話だ。たんに事実として。


「戻るかー」


 あえて声に出して、玄関へと戻る。

 サンダルを脱いで、リビングを目指しながら思いを馳せる。

 戦闘現場ないし暴力現場での脅かし度、脅かされ度を下げる術とは。

 思い浮かばない。万能な手段はない。いまのところ、見つからない。

 武装や能力などの攻撃に用いる手段を封じる? それが相手にとっての脅かされ度をあげる可能性がある以上はむずかしい。

 望ましい手段はないが、それ以外に好ましい手段がないから選ぶ。

 制御下におこうとする。

 マッチョな支配のパワーゲームは、ろくでもないものしか循環しない。

 そこから抜け出して、私なりに結ちゃんのやり方を実現する術って、あるのだろうか。

 リビングを覗くと「も、もう一回!」とお願いするカナタに、ゲーム得意なぷちたちが「しょうがないなあ」とうれしそうに笑って応じている。

 いっそゲームでどうにかならんか!

 ならんならん。

 法はなぜできたのか、という話に向かっていきそうだ。

 いろんな手段が開発されてなお、いろんな手段に先がある。手段が生やす根もあれば、育ちように気をつけたり、栄養源に気を遣ったりする。人の営みは膨大すぎて、十代の私には巨大すぎるもの。

 どうすればいいんだろうね?

 考え続け、体験し続けていくか。

 わかんないから、わかりたいのだ。




 つづく!

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