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その刀を下ろして、帯刀男子さま!  作者: 月見七春
第九十九章 おはように撃たれて眠れ!
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第千八百七十一話

 



 翌日の昼休み、無事に帰還を果たした生徒たちで賑わう食堂で八葉先輩たちの集まる一画へ。

 基本的には空いている座席にお好きにどうぞ。だけど毎日過ごす食堂だけに、ふんわりと自分たちの居場所が定まっていく。というよりも、お決まりの場所を好む勢と、そうでもない勢のさっさと座る集団が席を埋め、残りが疎らに残った席を埋めていくだけのことなんだろうけれど。

 コミュニティが露わになりやすい時間帯だ。

 八葉先輩たちのコミュニティは、簡単にいえば二年生男子の集まりだ。男子の中でも陽気で行動派、気軽に人に話しかけるタイプの集まり。なので、そういう男子と絡むのが好きな女子もけっこう混じっている。

 おまけに二年九組を軸に、活躍が目立つ先輩も多い。

 引いては特徴的な活躍をしていたり、技術か知識か、その両方を備えている人がいる。

 となれば縁を結び、深めておいて損はない。

 ということで結局、立沢理華はクラスの全員を引き連れて会う羽目になった。

 いや。多いって。

 多すぎて場所が足りない。だからトレイを持ってテラスに移る。夏場にテラスは人気がない。シンプルに暑いからだ。空調の効いている室内が最高なのは言うまでもない。

 来るんじゃなかったと露骨に顔に出てる人がいるものの、気にせず八葉先輩は私に切り出す。


「俺らが大きな鬼といたの、見覚えは?」

「さすがにありますよ」


 最近とんと見かけないが。


「ワトソンの所属している教団に預かってもらって、いろいろと調べてもらった。おまけに教授やウィザードと一時期つるんでた人がいま、臨時講師になっているし? 彼女は教団にも協力している」


 同じテーブルで冷麺をご満悦顔でいただくワトソンくんを見たら、にこにこするだけ。

 知っていたな。絶対に。いいけど。情報を開示するには段取りがいるのも事実だし。


「で、まあ。調べてたわけだ。目的はいろいろあるが、ウィザードの野郎がすっかり忘れやがった狼少女たち。連中を作った技術の解明が主だな」

「教団は狼少女たちと繋がっているとみているんですか?」

「ああ。そんで、住良木んとこの研究所に勤めていた元研究員で、うちの卒業生が調達しようとしていた素材であり。おまけに」


 待て待て。ああ、じゃなくて。なんでなのかが知りたいんだが。

 話の腰を折るより、まずは最後まで聞こう。


「恐らく少女たちの生成に利用された素材を、俺たちは臨時講師のおねえさんの情報を元に探りにいって、たまたま見つけて、たまたま鬼にしちまったと」

「……それで?」


 なにがたまたまだ。嘘を吐くのも大概にしてほしい。

 必然性しか感じない。先輩たちが知っていた、とまでは思わないけれど。

 すくなくとも教団や、先輩のいうおねえさんとやらは知っていたはずだ。


「で、だ。素材ってのは、とどのつまりタンパク質の粉末だ。食事時に生成元がなにかを明かすには控える類いの」

「はあ」


 流しておこう。直感でそう判断する。


「それで?」

「教団の人らがおねえさんと組んで、地道に調べたら? おねえさんが以前勤めていた企業に行き着いた。そんで、おねえさんはそこでアメコミ映画バリの人体実験をされて、ウィザードに助け出されてる」

「ふむ」


 ますますきな臭くなってきた。


「教団の一員になって再起を図るおねえさんは気合いを入れて、会社に忍び込もうとした。が、そのときにはもう目当てのビルはなくなっちまってた」

「例の爆破事件で?」

「ああ。そのビルん中には、俺らのチームで潜入して、素材を回収したビルも含まれてる」

「もしかして、そのおねえさんの実験に関わった人みんないなくなってる、なんて話に?」

「察しがいいね。そうなってるよ。子会社だなんだ、社長や副社長が別に経営している企業だなんだが入ったビルがごそっとまるごと爆破されて? なんとびっくり! 社員までまるごと日本で確認できていないときた」

「それ、警察は?」

「当然、掴んでる。そっくりそのまま発表できるとも思えないけどな」


 禁忌とされた人の複製を、怪しい素材を用いて行なっていた企業が日本にあります。その素材とは? 素材の調達方法は? 考えたくもない。

 だが昨夜、飛躍が過ぎるとして横に置いた閃きが嘘じゃなくなってきた。

 けれど方向性がちがう。

 これほどの事件だ。だれも放っておくはずがない。

 なら騒乱が目当てか? あるいは撹乱が? 規模が大きすぎる。必要がない。

 ないけれど、私たちはそれを見いだそうとせずにはいられない。いくつものビルを同時に爆破するなんて。

 持ち出せないものを破壊するため?

 素材の開発装置か。複製を作る装置か。あるいは両方なのか。

 ああ。


「お肉料理じゃなくてよかった」


 きのこと大根おろしの和風パスタ。

 実はステーキライスとで悩んだのだ。瑠衣が頼んでいて、とてもおいしそうだったから。

 さてと。整理しないと追いつかないくらいだけど、まだ聞こう。


「あの。その人たちって、まだ日本にいるんですか?」

「立沢ちゃん、最初にそれ聞くのな? なんと連続爆破のその日の朝に、主に空路でとっととずらかってる」

「爆破が起きる前か」


 なんとまあ。

 そりゃあ発表できることなんて、現状ではろくにないわけだ。

 まんまとしてやられました、すみません。じゃあ済まない。

 さらにいえば、素材の内訳と、実際に生成されてしまったことが明るみに出たら?

 そりゃあ、まずいよなあ。

 まずいよ。

 なんとかこっそりことを収めなきゃね?

 技術が持つ影響は大きすぎるものだから。

 どこまで言う? どこまで言わずに済ませる。生け贄がいたらいいのに。平成も終わろうとしているこの段階で、よくもまあ。

 早い話、みんなどうしていいのかわからないのだろう。

 捜査? してるだろう。

 なんとしてでも捕まえようと? しているはずだ。

 海外に逃げました、じゃあしょうがないですねとはいかない。

 国籍を持ったまま、亡命されるわけではないのなら? 逃げた連中をどうにか処分できないか。あるいはバレてはまずい問題だけを隠匿して、事態を掌握できないか。

 それとも公明正大に捕まえて、明るみに出すか。

 外交で言いがかりをつけられそうなネタじゃないか? これは。

 だが、別に一企業がやっていたことに過ぎないのだ。

 追求すればいい。

 人を作る装置の証拠隠滅と騒乱のため、爆破したと裁判で証明するのだ。

 よくて終身刑、いやでも規模からしてさらに重い罪をとなりそうな一件で。

 そもそも、やばい連中が相手なのに?

 果たして彼らがおとなしく捕まるか? 狼少女みたいな奴らが出てきたら?

 整理しきれなくなるくらい「どうすんの、これ」「前例は?」となりそうだ。


「それが理華に持ちかける話である意味は?」

「調べてるんだろ。殺人事件」

「なにか関係が――……」

「わかってるはずだろ」


 踏みこまれた。同じ見立てだと気づく。


「連続性、衝動。常習性。きっと、続く」


 否定しない。


「せめてツラくらい拝みたいんじゃないか?」

「そんなの、なんの役にも立ちませんけどね」

「俺らは行くぞ。夏休みが近い。教団の伝手で追いかける。おねえさんが世話になったんで、一発、ぶん殴るためにな」

「はあ」

「そんで、うちんとこにきた狼少女たちのぶんも、シオリが命を吹き込むことになった鬼のぶんも、ぶちかます。それに連中の技術も知識もまるごと盗んで、二度と再現できないようにする」


 教団の伝手を借りて、という部分に含みがあるな。

 二度と再現できないようにする、という結果を得るためにいったいなにをするのか。

 しかし、実際に関わるとなると連中の手口を明るみにしていくことの価値が増す。

 爆破の手口。狼少女の生成法、そしてもちろん素材の生成法も。


「あの遊園地も、連中が利用していたみたいだ」

「そういえば、あの少年と犬たちはいまどうなってるんですか?」


 直接、少年たちに関わることのできる立場にないから知らない。

 そもそも、どうなっているかの噂がちっとも流れてこないのだ。どうなったんだろうね、という噂しか聞かない。


「先生たちと、侍隊と。そんで協会や教団の関係者が宝島でなんとかできないか探ってる。けっこういい宿で療養しているそうだけど、連中にかなりひどい目に遭わされたみたいで」


 時間がかかるとだけ呟いて、それっきり。


「協力します」

「おう。進捗は随時、知らせるよ」

「お願いします」


 話は済んだ。

 そもそもテラスに出た時点で、みんなそれぞれに気になる人に話しかけている。

 聖歌だけはそばで黙々と冷やしたぬきそばを啜っていたけれど。大盛りで、延々と。

 きっと昨夜から春灯ちゃんのおうちにお邪魔して、ぷちたちと過ごせること、そうして春灯ちゃんと一緒にいることができる期待に胸がいっぱいなんだろうなあ。

 さてと。いよいよ待ったなしになってきた。

 日常の尊さを思い知るときがきたぞ?

 なにをどこまでする?

 問われている。

 犯罪を総なめにしそうな悪党に、八葉先輩は逮捕するでも警察に突きだすでもなく「ぶん殴りにいく」ときた。良くも悪くもそこが限界?

 それに留まらない。

 問いがあまりに膨大に増えすぎた。

 手に負えないくらいだ。


『理華の調査の先に待ち構える問いが、なによりも重要だ』


 私はいったい、どうしたいのか。


『なんのために行い、どのようにして満たされるのか。あるいは、なにを守ろうとしているのか』


 復讐が目当てか。


『それとも犠牲者が出ないよう、秩序に向かうよう、できるすべてを行なうのか』


 先輩は明示した。

 悲劇を止めると。そのための手段を彼は用いる気だ。

 なら、私は?


『報いを受けさせたいか』


 術ならある。

 それしかないわけじゃない。

 けど、既に手段を手にしている。

 狙いは、何倍にもして殺し抜くことか。

 問いを自分に向けると、聖歌が身を寄せてきた。


「ぷちたちを抱っこするの、たのしみ。理華も手伝ってよ?」

「あはは」


 そば食べてなさい。

 伸びちゃうでしょ。


「もうお話おわったんでしょ? じゃあ計画たてよ」

「理華の仕事なんですかね、やっぱり」

「私には無理だもん」


 じゃあ、そば食べてなさい!


「ちゃんと考えてますから」

「だれを抱っこするのか分担も!?」


 なにその分担。はじめて聞いた。

 ぷちたち主体になるでしょ、と諭しながらも、聖歌と話していると気持ちが切りかわる。

 八葉先輩の言うとおり、一緒に来てよかった。

 大事な問いに気づけた。

 どんな手を、こどもに差し伸べる?

 一線を越えた手か、そうでない手か。

 留まることができるのなら?

 留まったほうがいいに決まっている。


『では、粛々と悲劇を止めるとしようか』


 ええ。ぜひともその方向でいきましょう。




 つづく!

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