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その刀を下ろして、帯刀男子さま!  作者: 月見七春
第九十九章 おはように撃たれて眠れ!
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第千八百六十九話

 



 朝ご飯をみんなで食べているときに、お父さんがテレビのニュース番組を流した。

 朝の連続テレビ小説前と、終わってから次の再放送までの間がピークタイムみたい。

 ぷちたちからは不興を買いがち。なのでタブレットでぷちたちが好きな番組を流そうとしては「テレビよりちっちゃい!」と言われたり「新しいゲームほしい!」と無茶な要求をされたりして、そのつどなんとかかわしている。

 そのやりとりが地味に面倒だから、お母さんも私も「スマホでいいんじゃない?」と文句を言うのだけど、連続テレビ小説に惹かれるわ、チャンネル権で揉めるわで、そもそも干渉するのが面倒だから放任気味。結果、なぜかカナタが気を遣おうとしておろおろする。いいのに。

 あくびをかみ殺しながら食事して、雑にテレビ音声を聞いているかぎり、事件の進展はなにもなし。だれがなぜ、いったい、恐ろしい規模の連続爆破事件を起こしたのか。謎多き恐怖事件といえば、連続殺人事件がぴたりとやんだ。だれが犯行を? なぜとまった? 捜査が続いているという淡泊な知らせと、葬儀や遺族の訴えが軽く触れられる。

 それよりも新元号は? 元号が変わるうえで天皇陛下はどうなさるのか。関係者の動きは? 他にも経済の時事問題や、大手企業の不正会計問題など、トピックスはやまほどある。株価の動きとかね。

 株価といえば、資産運用をうまく活用できるといいな。歌手を続けるのなら、堅実に積立式の自前の年金なんかもあるっていうから利用したいよね。ぼけっと働いていたら、厚生年金は利用できないのだし。そのへん調べて進めると、心配事が減るかも。お金はお金のまま持っているのが一番お金がかかるっていうしなあ。貯金するだけじゃなくて、お金に働いてもらうっていうのがいいそうだ。

 なんだかそれ、こどもが自転車の練習をするのを補助する気分だね?

 ぷちたちにはまだ早いだろうに、ドラマが始まるとなんだかんだ見ちゃう子が多い。全員ではないけども、食卓の関心はゆるめにテレビに向かう。


「おいなりさんの役で春灯にオファーがこないかなあ」

「「 ないでしょ 」」


 なに、おいなりさんが出てくる朝の連続テレビ小説って。

 おいなりさんの主張が強すぎるでしょ。

 そういう毛色の作品って、選ばれたことないでしょ?

 母と娘そろって突っ込んじゃうけど、お父さんは未練がましくテレビを見ていた。

 ほんとなにいってんだか。

 ただ、時が流れて選ばれる作風がやんわりと変化しているような気もする。

 実際、どうなんだろうね?

 そこはわからないけど、でも知名度が格段にあがると噂のこの局とお仕事できるほどがんばれてはないかな。まだ。さすがに。


「教育番組の枠でお仕事できるといいなーとは、思うかな」


 そこもいまの私からしたらむずかしすぎる印象があるけど。

 やりたい人ーって呼びかけたら? はいはいはい! って大勢が手を挙げる枠じゃない?

 そんなことない?

 私は惹かれるけど。一定の期間の仕事になるし。うまくいけば長くできるし。契約金はそれほどでない、なんて噂を聞いたことがあるけど、やっぱり知名度的に強いと思うのだ。

 なにより私自身、勉強になりそう。

 そんなことを言おうものなら「なにぬかしよる、勉強になる? そんなもん声がかかるかからん以前に自分でせい! どあほう!」と怒られちゃいそうだけどね。


「マネージャーさんに話してみたら? で、カナタくんはどう?」

「え。へっ!?」

「あなたも芸能のお仕事してるんでしょ? なにか興味があるものは?」

「え、あ、え」


 お母さんの振りに露骨にテンパってる。

 さては正解を探しているな? ないない。そんなの。

 雑な談義なんだから、思ったこと言っていいんだって。


「役者志望でがんばってくの?」


 私が尋ねると、カナタはますます困った顔をする。


「その、稽古をして、先輩たちと過ごしてると、そういう気持ちになるんだけど。向いてないって気持ちがすごくあって」


 おお。引きずってる!

 まだ引きずってる!


「なにかあったの?」

「七星がどんどんうまくなってくのに、俺ぜんぜんでさ」


 ドラマや映画をさんざん観ておきながら、こんなこと言うとなんだけどさ?

 演技のうまい下手って、なんぞや。

 まるで思いつかないってことでもない。

 しゃべりに抑揚がないとか、顔だけ迫真で身体の姿勢がへんてことか棒立ちとか、声は迫真なんだけど身体がついていってないとか。状況と人物が自然に見えないとか。

 だけどそれらが実際、的を射る視点なのかといえば別。

 そういうところを掘り下げたくなる。正直。

 でもなんだろな。ある意味この不安って、カナタにとっての傷からきてるような気もする。

 素人が判断するの危険だし、ましてやそれを言うのはアウト。


「なーんかこう、実感みたいなのがほしいんだ」

「お芝居の実感って、なんだろ。菊比古の舞台みたいな感じかな?」

「あそこは名場面だったわー、マジで」


 私の問いにお母さんが速攻で乗っかってくる。

 昭和元禄落語心中、八雲師匠の昔話。まだ落語がぜんぜんうまくできなかった頃の彼が、落語が達者すぎる身内の誘いでやったお芝居。


「たしかにあんな感じかも。自信をまるでもてないところに共感しかない。舞台でなにも見えない、あの感じ」


 うわ。思ったよりも深い闇落ち寸前なのでは?


「練習はする。それを支えにするんだけど、そもそも俺よりうまい人しかいないし、俺よりたくさん練習している人しかいないからなあ」


 あああ。

 菊比古さんもそんな感じだったのかな。

 助六っていう、彼をお芝居に誘った身内がいる。その助六がまた、うまいのなんの! どういう落語を聞きたくて、どういう落語がしたいのか、はっきりわかってる人だ。そこが菊比古にないところだった。

 助六はその感覚を土台にして、稽古を重ねるうえでどんどん自分と落語のやりようや勘所を掴んでいったんじゃないかな?

 だけど菊比古は、自分はなんだろ、どうしたいんだろ、そもそもどうありたいんだろって悩みながら、落語ってなんだろ、どうしたらいいんだろってさらに悩みを抱えてやっていた。

 方向性が見えない菊比古と、目印を見つけて歩き続ける助六とじゃ、そりゃあ歩みに差が出るのもうなずける。

 全部、私の解釈に過ぎないけどさ。

 自分はこうだ。芝居でこうしたい。このふたつが見えると変わってくるのかな。

 言い換えればそれは、ぷちたちに対する私についても、歌や、今後の戦いに関する私についてもいえることじゃないかな?

 なんのための技術か、みたいな話になっていくんだろうか。

 上下しか見えないとき、それを自己否定のための道具にし始めると? 地獄だよ。

 見あげたら天井知らずに大勢いるんだもの。時代の垣根を取り払ったら? 数えきれない。

 自分の栄養にならない比較は、たんなる地獄への片道切符に過ぎない。

 わかっていても、抜け出しがたい。

 そもそも比較が当たり前の環境で、ながーく過ごしてきてるんだから。

 染みついちゃってるんだ。染みを取るのは、たいへん。ミートスパの色くらい取りがたい。


「ああ、でも、もう一回みなおしてみるかなあ」

「いいんじゃない?」


 菊比古に自分を重ねるカナタはいつか、芝居と自分を見つけられるのかな。

 ぷちたちにするには、まだ早い話題だよなあ。

 案外さ? こども時代に「あ! これ好き!」って見つけることで、助六みたいに自分を見つけるきっかけになるかもしれない。

 ありがちなのは?

 仕事になるならない、食える食えないでこどもを評価しちゃうこと。より深くいうなら、評価を否定し心を折るために利用すること。そんなの乗り越えろ、だめならここで諦めろ、なんてやる必要、まるでない。

 ないけどそれをする人は多い。こどもが相手のみならず、ね。

 いいんだよ。いちいち邪魔しなくて。背中を押しとけば。

 法の範囲内で留まるなら、止めることないもの。あ。グレーゾーンを攻めるようなのも一応セットで。ここで厳密さがいるかって気もするけどね。念のため。

 でも、そうでないならいちいち止めることはない。

 むしろ出会いの機会が増えたらいいし?

 それはぷちたちに限らず、私やカナタにも、お父さんやお母さんにも、なんならおばあちゃんたちにさえもいえること。

 だからいろんな情報に触れたい。いろいろやってみたい。

 それには先立つものが必要でしてね? とか。

 そもそも暴れん坊キッズを連れて移動するのが心身に多大のストレスを、とか。

 ぷちたちはなんとかするとしても、周囲の人たちの目が強烈なストレスに、とか。

 うんざりするような条件が、一気にぶわっと広がってくる。

 ぷちたちとの写真を写真アプリにメッセージとハッシュタグつきで投稿するし、呟きアプリにも乗っけてみると? まあまあ。うんうん。すごい。細かくは言わないけど。

 式神ってなに、ただの実子なのでは? 隠し子疑惑! とかね。たいへん。

 望むと望むまいと繊細な立場に。

 この状況下でカナタとのくだりを投稿すると、さらに燃料になるみたい。

 仕事の相談のみならず、高城さんとはそのあたりの話もする。

 どうするにせよ、あれこれ言ってくる人はいるのだから、開き直ってやっちゃえという気にはなる。ただ、日常が大変すぎることは変わらないので、そこにかかるストレスが悪戯に増える現状はしんどいのも確か。

 元気がいる。元気がわき出る泉がいる。

 だけど防波堤がなきゃ、泉はどうなる? 波が連れてきた淀みや土砂で塞がれてしまう。

 心が波打ち穏やかさなどまるで存在しないかのような時期もまた、ある。

 自分というものに繋がる答えが見当たらないときなんかは特にそう。

 いつか見つかるよ。

 焦るな。落ち着いていこう。

 それは土嚢くらいの気休めになるよ。土嚢がないときには助かるよ。

 波が激しいときには泉を守り切れないかもしれない。でも、防波堤を築くなら基礎が大事。ね?

 防波堤はどういう作り方になってるのかな?

 工法がありそうだ。

 鉄筋で柱を組んで、そこに巨大な鋼の板を並べていく。合成板を並べてがっつり塞ぐし、地面とがっつり繋げて、波に押し流されないようにする必要もあるよね。深い杭を刺す、という手法があるそうだ。その杭は、どんなものかな。

 助六なら? 俺が聞きたい落語はこう! 俺のしたい落語はこう! っていう思いなんじゃあないかな。あるいは、落語が好きだっていう熱意なのかもしれないよ?

 泉の周囲の土を盛り上げて、波打ち際まで距離を稼ぎ、その間にいくつもの段のような防波堤を築く、なんていう手もある。

 人によって、それは知識かもしれないし、体験かもしれなければ、技術かもしれない。実績という人もいるかも。あるいは、それらがなくても対応できるくらいの柔軟さか。はたまた、もっと単純に「自分を守り抜く」という思いと、そのための方法なのかもしれない。

 なにもなしで築き上げられるものじゃないな。

 体験なしには進まないし、縁がなきゃ無理だし、知識も技術もほしい。

 ぷちたちの頃にもきっと、あったんだ。

 お母さんとお父さん、幼稚園の先生、いとこのお姉ちゃんやおばあちゃんたちが見守り、育んでくれた私の防波堤。小学校の六年間で壊滅して、おうちや安心できる人との時間でやっと嘆くことができて、再興なんかできなくて。中学で突貫工事を繰り返しては壊れ続け、高校でやっと見渡す余裕ができてきている。振り返る事を頑なに拒み続ける小学校時代を除いて、だけど。

 こども時代にだって、ちゃんとある。

 ぷちたちにないだなんて思っちゃだめ。

 思い出すことさえいやな時代に破壊されたような振る舞いを、私がぷちたちにしちゃだめ。

 もちろん、私自身にも、だれが相手でもね。

 出会ったばかりのカナタは、だれに対しても、自分に対しても、そういう振る舞いを連想してそうだった。そういう自分に抗うのに必死に見えた。シュウさんもまた、そうだったんだろうけどさ。弟に当たってた。

 人によっては骨肉の争いになってたんだろうな。兄弟ゲンカ。ケンカとしながら、でも歴史をふり返ると殺しあいに発展しているケースもあるわけで。

 泉に土砂が入り込んだら、それを取り除くのは容易じゃない。

 元気の泉が湧き出ることって、ゼロとは思わない。出会いに恵まれるってこともあると信じたい。好きになれるものと出会い、継続できるよう育めたらいい。ただ、あてにするには頼りないほど、土砂が入り込んだときの日常のつらさは尋常じゃない。

 だれかの比較や中傷は土砂。自分の栄養にならないのに、自分でしてしまう比較も自己否定も土砂。泉に土砂を注ぐのは、他人とは限らない。なにより自分が注ぎがち。

 注ぐ動作になれると、だれかの泉に土砂を注ぐ感覚を知らないまま、自然に行なってしまう。そこにはなんの罪悪感もないかもしれない。自覚がないのなら? ためらいなどないだろう。自覚があってするのなら、もはや完全にアウトだ。

 結局のところ、どれも自分の土砂をだれかに注いで楽になりたいのかなって感じるし?

 そんなことしなくても、土砂を取り除く方法はあるよ。

 焦らず、落ち着いていこう。

 自分に言い聞かせようと朝から気合いを入れた、その矢先。


「えいや!」

「そいっ!」


 ぷちがミートボールを投げ、もうひとりのぷちがバゲットで打った。

 まさかのまさか、ヒット。ひゅんと飛んできたミートボールがぺちゃっと私の胸に当たる。

 あまとろソースがTシャツにべっとりついて、時間差でミートボールが落ちた。どこに? ジーンズの膝に。もちろん汚れたよ?

 ふ、ふふ。

 ふふふふふ。


「食べ物で遊んじゃだめって言ったの覚えてない子は、だーれだ?」

「「 ひえっ 」」


 すまない。

 これからしばし荒れます。

 ひゃっほう! 嵐の予感だぜ!

 だめっていう注意と、朝ご飯と、ソースの染みを落としてからな!

 あはははははははは!

 ああああああああああああああああああああああ!




 つづく!

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