第千八百六十四話
遠くに鹿が見えた。豊かな毛は遠目に見ても、野生とは思えないほど艶めいていた。
群れはこちらをしばらく眺め、飛び跳ねるように離れていったよ。子鹿もいた。
木々の隙間のずっと先の逃走劇は、一瞬。
落ちついてまばたきをすると、最初から鹿がいたのかわからないほど。
彼らのいた場所にいけば、食事やうんち、足跡の名残を見つけられるかもしれないけどね。
遠目に見る限りじゃ、最初からそこにいたのかどうかわからない。
人の耳だけだったら、ろくに気づかなかったであろうささやかな、しかし確かないきものたちの音を捉える。遠くて儚くて、簡単に途切れるような距離感。
当然だ。
己に障るいきものがいるのが、自然なのだから。
気にしても遠ざけようのない小さな蚊や、目に見えないほど小さなノミは地面や木々に身体を擦りつけたりする。自分を食べて生き延びようとする大きないきものがいたら? 逃げる。
元々、いきものたちの距離感は遠いのではないか。
身近にいられるいきものといえば、同種になるのか。
かといえば、言い切れない。
メスは毎年、パートナーのオスを入れ替えたり、食い殺したりする。より繁殖能力のある若いオスに切りかえることもあれば、オス同士のハーレムポジション争いを積極的に遠ざけないことも。
主観の位置、そして主観保持者の価値観によって、上記の内容はまったく異なる言い方になるはずだ。また、それぞれのいきものたちの実態をそのものすべて語れるはずもない。膨大な観察の体験を元に語れるかどうかも大きなポイントになる。データではなく、体験というのが肝。それに語る場に集まる人々の倫理観は重要な土台となり得るはずだ。
簡単にはわからない。
実際には、どうなんだろうね?
レンちゃんや子狸ッズがよく歩いているのだろう道はそうでもない。ただ、落ち葉が積もる左右の道はどうか。掘ったらミミズやモグラがいそうだ。樹のそばで根の下を掘れば、セミの幼虫もいるかもしれない。
そうでなくても、ここは植物の王国だ。樹の肌に見えるのは、なにも苔だけじゃない。キノコが生えていることもある。鮮やかに朱に発色していて「食べるな危険」だと怯む。
おばあちゃんちのそばにある山を歩くとき、登山が趣味の渋くてマッチョなおじさんがいろいろと教えてくれた。みんな、お店で買える食べられる野菜しか知らないだろう? だけど実際はそうでないものがとてもたくさんあるんだよって。
秋は栗に松茸、春は山菜。そのおじちゃんちから届く食べものは、山の恵みたちばかり。他にもいろいろ届くけれど、なかでもキノコはどれも味と香りが濃厚でおいしい。
そのおじさんのことばの中で、印象的なもの。
街にいると忘れてしまうことがある、と登山の思い出をふり返ってのことばを、なんでかいまさら思い出していた。
昆虫たちは植物の次に身近にいる。そのずっと遠くに、哺乳類がいる。
なんだか不思議だ。
「いきもの、いるんだね?」
「いるよ。営みがあるんだもの。神々と神使だけじゃ、立ちゆかないからね」
「――……営みがあるってことは、食べるの?」
とても繊細な話題のようで、恐る恐る尋ねたら彼女は立ち止まった。
ゆっくりと振り返り、ほほえむ。ただ、それだけ。
すぐに前を向いて歩きだすんだ。もったいぶるのか、答えないつもりなのか。
意味深!
「あとすこし。たぶん、十分もないから」
さっそく話題を変えられる。でも、ありがたい知らせだった。
思いのほか、長い距離を進んでいる。
体感でうちの学校から駅前まで歩くよりもずっと、時間がかかっている。
何キロほどの道のりなんだろう。車なら早いんだろうけど、車道なんてない。四輪駆動でも乗り越えられないくらい巨大な岩に邪魔をされる。
モンスターマシンだっけ。車体よりもばかでかいタイヤに、頑丈な車体フレーム。そして強力なスプリングと、ぺらぺらに思えるような車のボディ。あれで、嘘みたいな坂をのぼったり、縦回転しようとしたりする、発想からしてどうかしてるとしか思えないエキサイティングな催しがあるそう。いろんなレースと同じく、エナジードリンクの企業がスポンサーについてるやつで。
ああいうノリなら行けるだろうか。
いや、無理だ。
道幅が狭すぎる。
樹を傷つけながら進むことになるし、そもそも車のパワーじゃ壊せない。
おじさんの話を思い出す。
いろんな写真を見せてもらった。
歩いていくことでしか見られない景色があるんだ。
日本は山岳ばかり。国土の面積がたしか、三十七万八千平方キロメートル。で、森林はそのうち、焼く二十五万平方キロメートル。山地に至っては、二三万とんで、三百三十一平方キロメートル。国土の地形のおよそ六十一パーセントが、山地だ。
標高百メートル未満の地域は、国土全体の四分の一程度。
弓なりの日本列島は、弓の中心部分を脊髄のようにして、山がそびえ立っている。
おまけに森林の面積は多め。国土面積を占める森林の比率は山地よりもちょい多め。
都心部や街で暮らしていると忘れてしまいそうになるけれど、山林ばかりなんだ。
山や林を切り拓き、岩盤や土をかき分けて作ったトンネルは人の営みの血脈のよう。掘削技術の発達なくして新幹線も高速道路も、あちこちの道路開通も難しかったんだろうなあ。
家族でスキーに行くと痛感するのが、山の道路の険しさ、頼りなさ。車線は片側一車線。観光バスがすれ違うのは無理だろって思えるくらいの急カーブもざらにある。そんなところに雪が積もるんだ。無理でしょって感じ。でもこれ、ほんとは逆でさ? 片側に何車線もあるのが当たり前っていうほうが、全国的に見ると「ひろっ!」って話だ。
どこもかしこも、身近なものが基準で当たり前ってわけじゃない。
富士山の頂上に向けて「車で行ける道路を作ろう!」なんて話が持ち上がったら、どんなことになるだろう。そもそも、それをする意味がどれほどあるのだろう。
自然環境をはじめ、生態系や景観とトレードオフだ。お金もかかるし、人手もいる。怪我をする人も出てくるだろう。材料を集めるのもたいへん。そこまでして工事をする意味があるのかどうか。その答えが、景観地を守る要因になっているのではーなんて妄想しちゃう。
山の奥地って、そんなところある。
カナタのバイクで走った箱根の峠はまだしも、日本の脊髄のような山岳はどうか。
すごく有名な観光地なら、道がある必然性もあるのかも。日本ですごいダムというと、黒部ダムになるのだそう。そこから移動して、猛烈な積雪の谷間を進むような道があるそうだよ? バスで移動できるみたい。あれなんかは、一度体験してみたい道かも。
逆にさ?
どこそこ山の頂上とか、その過程にある山道とか、山から山へと移動する合間にある景勝地なんかは、まさにおじさんの言うように歩いていくことでしか見られない景色がある。
そのどっちも、結局、行ってみなきゃわからない。
画面越しじゃ空気も音も体感できないしなあ。人が完全に部屋に引きこもって、ドローンが世界中を飛び回り、装置をつけたらリアルタイムでその場にいるかのような疑似体験ができるように錯覚できるようになるとしても。やっぱりそれは、リアルじゃないしさ。
歩いてみると、やっぱり疲れる。
金色雲を出して乗っちゃうのも手だけど、なんでかな。歩くのが気持ちいい。
限度はあるけどね!
そろそろしゃべって歩くのが疲れる頃合い。
下駄で歩くの地味に痛いんだ。キラリが猛烈にアピールしてくれたけど、実際、靴で歩き心地はがらりと変わるね。実感した。昨日今日の移動で親指と人差し指の間の肌が、けっこう傷ついてきてる。
鼻緒の部分、痛くないように化かしていいかなあ。だめかなあ。
なにげなくレンちゃんの足元を見た。彼女なら案外、化け術でうまくごまかしているのでは、なんて思って。でも先を歩く彼女の下駄がどうなってるのかなんて、よく見えるはずもなく。
結局、これまでのように彼女に聞かれちゃった。
「なに?」
「あの、鼻緒が痛くて」
「飛ばないなら、化かしてみたら? 足袋か鼻緒がオススメ」
「いいの!?」
「化かしちゃダメなんて、だれか言ってた?」
「言われてない!」
「じゃ、遠慮せずにやれば?」
「そうする、けど。ちなみにレンちゃんはどうしてる?」
「いまはとうに慣れたけど、前はスニーカーにしてた。結局やっぱり楽だもの」
「たしかに!」
足元を見おろして、すこし悩む。
「罰当たりなんてこと、ないかな」
「まだ歩くよ? 飛ばないなら、あとは痛みを我慢するのか。それとも?」
前はスニーカーにしていた人がしれっというんだから、私が気にしすぎているだけなのでは。
どうだろ。わかんない。ただ、ほんと、鼻緒はつらい。
慣れたら楽ちんになるのかな?
正直、ヒールも無理派だ。
苦痛だもの。歩くのが。足の形に影響を与えるし?
結局やっぱりスニーカーが楽だよ。ほんとにそう。
ああ、でも。
怯む私に彼女は表情を和らげて提案してくれる。
「じゃあ、せーのでいっしょに変えようか」
発言がもうお姉ちゃんなんだが!?
実は私より年上ってことない!?
ねえ!
「いいの!?」
さくっとちょろく飛びついちゃうんですけどね!
「早いでしょ」
た、たしかに!
思い悩む私の手間をまるごとずばっと包んで、行動へと手を引いてくれる。
いまさらながら、昨日であったときの、そしてこれまでの彼女とぜんぜん調子がちがう。
気を遣ってくれた、と昨日は思った。
それよりもっとずっと、私のくたびれっぷりに寄り添ってくれているのかもと思い直す。
愛生先輩と仲良しで、結ちゃんとともだち。
思っているよりずっと、しっかりしてる子なんだなあと気づく。
キラリにオススメしてもらったスニーカーに化かした。彼女の下駄も、よくみるアルファベットのロゴがついたスニーカーに早変わり。それから「その靴、実際に履いてるやつ?」とか「歩き心地どう?」とか「楽になった?」とか、あれこれと尋ねてくれる。
そういうこと、まったくできないわけじゃない、と、思いたい。
ただ、最近はろくにできてなかった自覚がある。
待って!?
そもそも日常的にトモやキラリやマドカに頼りっきりだったぞ?
おっと!?
ぷちたちに対しても、ろくにできてないまであるぞ?
おぅ。
どんだけ視野が狭まってたんだ、私。
これもまた、いい刺激かな!
気づけてなかったことに気づいた、これも一歩なり!
なんて済ませていいのかさえ、本当のところは悩むけど。
気持ちの足しにもならないから、いいや!
◆
どれほど進んだのか、徐々に道幅が広がっていく。やや下り気味だけど、道はほぼ直線。
ひやりとした冷たい風が吹いてくる。川や池が近くにあって、一年中涼しいのだという。それに湿度もそれなりに高い。涼しいのだから、気にならない。
石段が見えてきた。やがて手すりもついてくる。銀灰色の木製の手すりに触れると、すこしだけ埃っぽかった。ただ、触れた箇所とそうでない箇所が色で見分けがつくほどじゃない。石段にしても、わずかなデコボコに土こそあれど、きちんと面が見えている。
ここを歩く人はそれなりにいるみたいだ。人っていうか、神使の狸たちかな?
そのわりにすれ違わないのは、なんでだろう。
途中で分かれ道も見かけなかった。
私が気づかなかっただけかな。実際、靴を変えてもごまかしがきかないくらい、けっこうくたびれてきた。石段の間隔が疎らなのも困る。
足を取るような石はない。ゴミもなければ、落ち葉もない。
だれかが掃き掃除をしているのかな、なんて思っていたらさ?
「一度とまって、顔あげてごらん」
「え」
足を止めて、言われたとおりにしてみて息を呑む。
目の前を淡い光をお尻で放つ虫が飛んで、横切っていく。一匹だけじゃない。あちこちに飛んでいた。そのずっと向こう、下り坂の先に高さ五メートルほどのドングリやキノコがいくつも連なっている。窓やドアが設置されていて、内側からは虫の放つ光よりも暖色の明かりが漏れ出ていた。
あともう一キロあるかないかの距離感で、老若男女の狸たちが出歩いている。露天もあるし、ぷんと脂の焼けるいい香りが漂ってくる。お肉だ! と気づくけど、よく知らない匂いだ。なにを食べているんだろう。買えるのかな。
食欲が出てきた。現世の時間だと深夜を回ったあたりかな。ちょうど、真夜中にお腹がすいてくる時間帯なのでは!? だったらもう、食べても許されるのでは!
そうはならんやろ。
「あの――……」
未練でレンちゃんに尋ねようとしたときだ。
だだだだ、と子狸ッズたちが私とレンちゃんの横を駆け下りて、一斉に叫ぶ。
「「「 おじいいいい! 狐だああああ! 」」」
ぎょっとした私とちがって、レンちゃんはやれやれと苦笑い。
待って!? そんなやれやれ程度のリアクションで済むの!?
私は大層ビビってるんですけど!
なんか恐れてたことが起きてるよ!? ねえ!
「「「 きた! 」」」
子狸ッズが歓声をあげるなか、びゅおおとなにかが飛んできた。
ぴょん、ぴょんと。勢いよく何メートルも高い跳躍力で、私とレンちゃんのそばに「ほっ」と着地する。両手を広げて、一切の乱れなく。
「「「 おじい、さすが! 」」」
「じゅってん!」
「じゅってん!」
「ええいもうひゃくてん!」
「「「 おーっ! すげーっ! 」」」
子狸ッズが拍手する。
妙に慣れたはやし立てっぷり。おじいと呼ばれた狸の後ろで屈み、みんなで落ち葉を空へと投げると? それが一瞬で紙吹雪に早変わり。ひらひら散って、石段に乗っかると? それをお掃除する子狸が「ったく、やれやれ」って面倒そうにホウキで掃く。
よくよく見ると、乗り気な子狸はそこそこなのが、なんともいえない味わい。
おじい狸はご満悦だ。
ずうっと目を閉じていらっしゃる。お顔はしゅっとしていた。毛に膨らみがないから、そう見えるのかもしれない。掲げた前腕をはじめ、全身が筋肉でごつごつしている。あと、肩掛けしかしてなくて「あ、オスだ」とわかるものがぶらぶらとご立派に揺れていた。
ねえ!
これ新手のセクハラなのでは!?
突っ込んでもいいのかな? 突っ込むぅ!? 落ち着け! 向こうはすっかり落ちついてるぞ! でもこんなに露わだと元気になったらまる見えなのでは!?
シモに向かった冗談はさておき。
「おお。おお。こりゃあ、馴染みのある匂いがぷんぷんする狐さんじゃなあ」
「天照大神の神使、玉藻の前と縁を結ぶ現世の狐憑き、青澄春灯です。じいさま」
「ほお、ほお。ううん、べっぴんさんじゃあ。狐にしては、親近感が沸くのお」
「「「 おじい、こいつめっちゃ丸いよ! 」」」
顔がね!? なんて言わないからね!
しわしわの声のわりによどみなくおしゃべりになるおじい狸さん。レンちゃんが代わりに紹介してくれたんだけど、なんだろ。えらい狸さんなのかな。
「あ、青澄春灯と申します」
「福じゃ。福じいか、じいさまとよう呼ばれておるよ、お嬢さん」
会釈をすると、鼻をすんすんと鳴らしながらお辞儀をしてくださる。
つい視線で追い掛けて、ご立派な袋を目にしちゃう。
狸、それもオスとなると、化け術に玉袋を使うこともあるとか。巨大な床にしたり、壁にしたりしてさ? 昔の煙管や火鉢の火が落ちて「あひい!?」とたまらず化け術を解除する、なんていう話も有名だそう。
あそこ、そんなに痛いんだ。へえ。
「狸を人をいたずらに驚かし、狐は人をみだらに誘惑するという。狐七化け狸八化けというでな」
『八つ九つ、数が自慢とは情けない。多く化けるより、ひとつの質をあげればよい』
タマちゃんがさらりと告げる。
福じいさんにもレンちゃんたちにも聞こえてないみたい。
おかげで私、背中に冷や汗たらり。
「いやあ。お嬢さんのような狐ならば、わしも久しぶりに化かされてみたいものじゃあ」
「じいさま、現世はもうそのような言いようが通用しませんので。色気はお控えください」
「……つまらん」
「街へ入りますよ」
「おう。好きにせえ」
あっさりとレンちゃんにうなずき、子狸ッズたちを抱え上げる。
ぴょんぴょんと飛んで、街へと戻っていった。軽快だ。
ただし背中側を見ると、お尻もよく見えるというもので。
なんかもう。
露わすぎて、どうも。
動物園や水族館で思わぬ場面を目撃して気まずいみたいな感覚、でいいんだろうか。
福じいさんも神使なら、ますます罰当たりな気がするんだけども。
「歳を重ねてなお女好きでね。結もレンも口説かれた」
「すげえ」
「街の顔役のひとりだから、無碍にはできないんだ。遊びも派手でさ」
「おじいさんなのに?」
「年齢なんか関係ないんだってことがよくわかるよ。ご年配狸の色恋、よくあるよ?」
「よくあるんだ……」
現世のラジオじゃ人も高齢者の恋愛沙汰の相談が多いそうだけど。
なかなか知らない世界だなあ。
そっかあ……。
丸出しなのもアピールなんだろうか。
『狸は品がない』
こらこら、タマちゃん!
いまから狸さんたちの街に入るんだから! ね!?
『ふくというならふくを着ろ』
ぷりぷりしていらっしゃるところなんですが!
ダジャレがしょうもないよ!?
『ものは粗末ではなかったが』
そういう問題じゃないよ!? やめて! 思い出しちゃうでしょ!
『狸のままでいすぎだ』
憤まんやるかたないというタマちゃんにはたと気づく。
子狸ッズたちも、さっきの福じいも、基本は狸姿だ。後ろ足で立つことはあるけれど、四本足でとことこ歩きもする。上下に洋服を着てるってこともない。
『野蛮! 粗野! 原始的!』
ちょっと前からもうずっと悪口なんよ。
タマちゃん。わかった、わかったから。
ね? 休んでていいからさ。
ふうふうと息を吐いて「寝る」というタマちゃんにおやすみを告げてから、レンちゃんに尋ねた。
「ここの狸たち」
そこで思い直す。
宝島で見かけた、たくさんの神使たちを。
「神使のみなさんって、獣の姿が基本なのかな」
「ここは特にそう。服が自分に馴染まないという神使も多い。宝島じゃ服を着てる神使のほうが多いけど、この街はね。狸たちの居場所だから。楽なのが一番でしょ?」
「彼らにとって?」
「そ。ただし、もっといえば地域や狸によるよ。というか、神使によるかな」
「あ、ライフスタイル的なこと?」
「まあね」
となると、あれか。
ぼろんぼろんの、ぽろりまくりか。
なにいってんだ。ほんとに。
「神使であると同時に、狸だから。結もレンも、それで開き直ってる」
「――……なるほど」
思いもよらないヘビーな展開だぜ。なんちゃって。
だって日頃は目にすることのないヘビーなものがぶらぶらぶら下がっているわけでしょお?
見ないようにしても目に入っちゃう可能性が高いわけでしょお?
開き直るにしたって、開けっぴろげすぎません? ねえ!
なんの話だ。いや、いい。考えるのはやめておこう。
訓練だって開き直っておこう。
「結のいるところに案内するよ。来て」
「会えるの!?」
「もちろん。あーとー、ひとつ助言」
階段を下りようとした彼女がふり返る。
「あんまり下を見なければ、すこしはマシ」
「な、なるほど」
「ぶしつけに見ていいものじゃないし」
それはたしかにそうなんだけど。
なんでだろうね?
ここ最近で一番、納得いかない気がするの。
つづく!




