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その刀を下ろして、帯刀男子さま!  作者: 月見七春
第九十九章 おはように撃たれて眠れ!
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第千八百五十九話

 



 みかんを撫でながら、ふわふわと漂う雲の隙間にあるあぜ道を歩く。

 うちの学校の学院長を思い出していた。

 七福神なのではないか。そういう噂がずーっとある。確信を抱いた時期もある。けど、いつもそれとなく話を逸らされてしまう。ただたんに、うちの卒業生で、七福神のどなたかの御霊を宿した侍なのかもしれないし、真相はだれも確かめていない。

 うちの学校は羽振りがいい。

 打ち出の小槌でお金でも作ってんじゃねえの? なんて言う人もいるくらい、羽振りがいい。このご時世なのに。私立なので学費が高いから、そこを予算に回せるのなら? 羽振りがいいのも納得できるんだけど。そういうわけにもいかないんじゃないかなあ、と思えちゃうから噂は信ぴょう性を増す。

 住良木くんちの大企業の資金援助的なやつを受けている。技術協力も惜しまない。住良木は隔離世技術の開発に力を入れているから、うちの学校は適役。だとしても、現状では収益性が皆無の隔離世技術に投資して回収できていない現状を鑑みると「なぜ?」と疑問を抱く。

 侍隊も警察の予算を食い潰す金食い虫、いらない! なんてバッシングを受けているわりに、交番勤務から署内常駐の警備部まで、人材豊富。やっぱりそこにも疑問はある。

 へんなの!

 私が会ったのは、七福神さまなのかなあ。

 出会った覚えのないおじさんだった。たまにすごく老けて見える。釣りをしていて、みかんをくれた。不思議な瓶を携えている。とっとこ歩いて気づく。

 どう考えても、ねえ?

 じゃあこのみかんは、なんだかすごいみかんなのだろうか。

 それともおいしくてありふれたみかんなのだろうか。

 確かめるのなら?


「やっぱり、食べるしかないのでは?」


 夢を見ている私の魂をアマテラスさまが天国にお呼びくださっている。

 そんな状態で、みかん食べたらどうなるんだろう。

 いやいや。さっきお茶とかお菓子たべたやんけ。ちなみにおせんべえばかりでした。たまにはザラメのついているやつとか、ピーナッツを添えたりとかしてくれてもいいのよ?

 ちっちゃな身体で食べられる限界量はたかが知れてて、お菓子よりお茶を多めに飲んだ。この姿でおトイレしたら、現世の私はお漏らししないんだろうか。ちいさいほうならまだしも、でっかいほうだったら?

 恐ろしい! なんて恐ろしいんだ……っ!


「さ、散歩が終わってからでもいいよね」


 なるべくお腹を刺激しない方向でいこう。

 おとなだってお漏らしをするという。だからといって、進んで漏らしたくはないのである!

 なんちゃって。


「このまま歩いてたら、他の七福神さまにも会えたりするのかな」


 左右の雲の向こう側はマジックアワーの青と紫と金色のグラデーション。鮮やかな赤も混じる。ただし雲は結局、水じゃんね? 触れたら冷たい水蒸気なのでは。そう思って手を伸ばしても、ふわふわもこもことした弾力で私の手を押し返してくる。ひんやりとしているけど、ずっと触れていると熱が移っていく。

 なんだこれ。よくわからないまま、ふわもこに手を当てて先へと進む。

 頭の中でおぼろげに屋敷の方角を覚えておく。じゃないと戻れそうにない。

 目印らしい目印も、道のりを示す看板も特にない。

 雲の壁の圧迫が徐々に増して、道がくねくねと折れ曲がるようになってきた。ゆるやかな上り坂になって、気がつくと石段が設けられた階段になり、一段ごとの感覚が徐々に狭まってきて、ものすごい急勾配になっていく。

 金色雲を出すか出さないか悩みながらも、ぷちさいずの私なりに意外とすいすいのぼれちゃうので、駆け足気味に進んでみた。お山のうえにある、どえらいお寺への参道みたいだ。日本にも随所にあるし、中国なんか半端ないところがあるみたいだね?

 そんなノリだなあと思いながら、徐々に切れてきた息でやっと急な階段をのぼりおえた。


「ふう! ふう! ふうう……」


 膝に手を当てて、肩で息をする。

 周囲を見る元気が戻ってきて、ようやく顔をあげてびっくり!


「お、おぅ」


 雲の壁で三方を塞がれていた。

 ふり返れば階段はなんてことなくそこにある。壁に覆われて景色が見えない狭くて急な階段が。


「えええ?」


 ドン引きしながら、三方の雲の上を見た。

 高いのなんの! モヤがかかっているのもあって、先がちっとも見えやしない。

 天国。言ってしまえば高天原なのだと私は思っているんだけどさ?

 ここに暮らしているのは、みな神さまと、そのお使いばかりとなれば、これくらいの壁はひょいと飛び越えちゃうんだろうか。

 こんなところで立ち止まっているところを見つかったら「お。九尾の子狐だ。こんな壁ものぼれないのか?」「やい、妖怪風情が高天原でいきってんじゃねえぞ!」とか言われちゃうんだろうか。おおおお……。


「くくくくく……」


 頭上、ずっと高いところから、小さな女の子の声が聞こえた。


「あーっはっはっはっは!」


 高笑いだ。いちいち言わずともわかるくらい、露骨な。


「まさかまさか! もしやもしや!? そこにいるのは、地上の腑抜けた狐じゃなぁい!?」


 幼い声で、勝ち誇った口調で見下してくる。

 見あげて目を細めるけど、見えやしない。

 一周回って間抜けな空気だと感じているのは、私だけ?


「とうっ!」


 遥か頭上で軽い音が聞こえた。たん、と。

 三秒もしないうちに、なにかがもやを突っ切ってきた。

 それは丸くて長いものを縦にくるんと回して、まさに私の眼前に落ちてきた。

 両足をガニマタにして踏ん張り、一瞬にして顔を青ざめさせて、ぶるぶると震える。

 ふわふわの丸い耳に、たっぷりふわふわの栗毛の生えた長い尻尾。私と同じ白衣に緋袴の、ちっちゃな狸の女の子!

 そのままゆっくりと後ろに傾いて、尻餅をつく。


「あああああああああああああ!」


 それからあげた悲鳴はきっと、着地の痛みによるものにちがいない。


「レンちゃん、だいじょうぶ?」

「はーっ! ひーっ! あああああああああああ!」


 左右にごろごろ転がって、何度となく雲の壁にぶつかっている。

 彼女が落ちつくまでに何分もなだめる羽目になった。っていうか死ななかったのもだけど、骨が折れてないのも奇跡。なにかと現世と異なる場所なのか。あるいはレンちゃんがちゃんと着地するはずが、詰めを誤っただけなのか。

 いずれにせよ、真っ赤に腫れた足を雲の壁にひっつけた彼女は涙目で、顔をひきつらせながら「青澄春灯はこんな壁ものぼれないだなんて! ざぁこ!」と勝ち誇ってくる。

 なんか。

 みょうに。

 ほっとするわあ。


「なにその目!」

「ううん。元気でるなあって思ってるだけ」

「ばかにするなよ!? みくだすな!」


 それはレンの宿命だから! って宣言される。

 無理じゃないかなあ。否定される気がするよ? その宿命。

 言わないけど。そのままでいてほしいから。


「レンちゃんもここにいるの、なんで?」

「青澄春灯よりもレンはここでたっぷり修行をしているだけ!」


 ふいっと顔を背けられる。ただし彼女の足は、雲から一切離れない。

 痛いんだろうなあ。つついたら怒られるよなあ。

 じゃないか。

 北海道にあるお嬢さまたちの集う女子校であり、隔離世絡みの教育を受けられる四校のうちのひとつ、北斗の子。私と同い年で、金長狸を御霊に宿す狸娘。

 私と彼女の共通認識では、狐はあらゆる獣の中でもっとも化け術が得意。だけど化け術の技術では、彼女のほうが数段得意。この逆転現象を踏まえて、彼女は私によくマウントを取ってくる。ちなみに星蘭のユウジンくんも狐憑きだけど、レンちゃんよりも数段、化け術も仙術も得意だから、彼女は飽くなき向上心で打倒を狙っている。学校がちがおうと関係ない。彼女は一番になりたい人なんだ。

 たとえばその向上心は、私の中学時代の同級生でともだちで、北斗に進学した神力結ちゃんにも向かっている。

 白足袋と草履を脱いで、素足を壁に当てる彼女は私とまるで同じ服装だけど、背に伸びる髪を赤い糸で結わえていた。それだけ見覚えがない。


「レンちゃん、髪伸びた?」

「なにそのとってつけたようなあいさつ」

「結わえてるから。前はストレートだったよなあって思って」

「ああ、これ? 結にもらったの。あの子もいるよ? レンのお付きで!」


 ドヤるけど、足はぱんぱんに腫れてるんだよなあ。

 早く引くといいなあと思いながら尋ねる。


「このうえにいるの?」

「ううん。結はすこし離れたところ。レンは神使として修行をしてる。見たとこ、青澄春灯もそうだね」


 しんし、かあ。


「かなあ」

「なにその間の抜けたノリ。いかにも青澄春灯って感じ!」


 私って彼女の中で、どんなんなんだろう。

 IQ3みたいな感じなのかなあ。言い得て妙。


「結は神使のお話を聞く役割を仰せつかって、休憩所で雑用をしてる。対するレンは神使、結にお世話される側ってわけ! コンビたるもの! こうでなくてはね!」


 自慢げだ。鼻が伸びそうな勢いだ。

 両手を腰につけてふんぞり返る。足裏を壁につけたままで。地味に活躍してるよ、腹直筋!

 そこではたと気づいた彼女が姿勢を戻して、真顔になった。


「で。なにしてんの?」


 落差すごいな! テンションの!


「ニュース見てない? 東京のやばい事件」

「あー。いまレンたち北海道だからさ。ニュースとか見ないんだよね」


 いやもうテレビつけたら、どこもビル爆破で持ちきりになってるのでは!?

 まじか。地域ちがうから? たんにニュース見ないだけで、これだけ落差がでちゃう感じ?


「事件の解決に手を貸したり、式神のこどもたちのお世話にてんてこ舞いなの」

「あっそ。で、いまは?」


 軽く流されたね!?

 私のこのところの一大事が、あっさりと!

 わお! なんか新鮮だよ! もういっそ新鮮すぎて吹っ飛んじゃうよ!


「えーっと、散歩? アマテラスさまが戻ってこないし。ひまだし。煮詰まってるし」

「はんっ!」


 私の答えを聞いて、いかにも勝ち誇ったように鼻で笑う。


「散歩ぉ? いかに太陽神の神使に選ばれても、やってることが呑気!」


 どこまでも自慢げだなあ。ぶれなさが眩しい。


「なんにも言われないんだもん」

「指示は待つよりもらいにいくのがいいのよ?」


 どうせマウントを取るのなら、ここでも責めてくるかと思いきやちがう。

 胸を張って助言をしてくれちゃうところが、彼女の素なんだと思う。


「そだね、気をつけるよ。それでレンちゃんは? だれかの神使なの?」

「まあね。だれかっていうか、狸街があるの。そこで働いてるんだけど、楽しくやってるよ」


 意外。


「アマテラスさまの元にいてそれ、とか言わないんだね?」

「言う必要があるの? 自分の居場所でできることに夢中になることはあっても、だれかの居場所を妬むのは暇じゃなきゃできないよ? レンはいまが楽しいから、そんな暇ないの」

「おお……」


 こういう割り切りが清々しくて好き。

 アダムと出くわした日、そのすこし前に京都で勝負を挑まれてから、なにかと絡まれている。

 なのにきらいになるどころか、なんだかどんどん好きになっちゃう理由がここにある。


「青澄春灯は暇を持てあましてる、くっさい匂いがするね?」

「えっ」


 ぞわっとした。

 御珠の臭さがここでも出てたのかと焦るけど、彼女は呆れるだけ。


「どうせひとりで悩んでるんでしょ? 結から話を聞いてるけど。青澄春灯と天使星ってそういうところが似てるんだってね」


 たしかに私とキラリと結ちゃんは同じ中学出身だけど、困る。

 レンちゃんにどこまで話しているんだろう。どれくらい?

 恥ずかしいことしかしてなかったからなあ! どんな風に思われているかって話だよなあ。

 なんて考えていたら、眉間を人差し指でくいっと押された。


「人と話してるときは、相手に意識を向けるんだよ?」

「ご、ごめん」

「前よりぼけぼけ度があがったね? だれといてもひとりになってる証拠だ。レンは知ってるよ、そういう感覚」

「おうっ、おうっ、おうっ」


 くい、くい、くいっと押される。


「愛生にもそういうとこがあった。結も。もちろんレンにもね。やめときな? いいことないから」

「ないの!?」

「ないよ。陽気な人たちといたら、陽気になる。こわい話ばかりする連中といたら? そういう話をするし、お金儲けが好きな連中なら? わかるでしょ?」

「おぅ……」

「でね? ひとりで塞ぐと、切りかえられなくなる。暗さかつらさがあるなら、そこにどんどんはまっていく」


 身に覚えがありすぎる……っ!


「相手がいるのに浮気や不倫するとき、ちがう自分になれるから誘惑を選ぶ。いまあるものより、ないものを軸にしやすいからね? ひとりは塞いでいくばかりなんだよ」

「――……おおぅ」

「結はもう、そんなことない。話を聞くと天使もそう。でも、青澄春灯はまだ変わってないんだね。単独でライブやって、歌もやって、番組まで持ってるのに。意外」


 痛恨の一撃! あともう一撃くらったら死んじゃう!


「レンについてきなよ。上で探し物をしてたら見つけたから声をかけたけど、肝心のものは見つかってないんだ」

「う、うん」

「ライブの話きかせて? 青澄春灯の好きなことの話。仲を深めるときは、まずそこからだもんね!」


 白足袋をはき直して、草履を履く。

 さっと立ち上がって、何度か地面を踏んで確かめている。

 すこしだけ顔を曇らせたけど、鼻からいっぱい空気を吸って「ま、こんなもんか」と緊張を解く。


「ほら、行くよ。立って」

「う、うん」


 遅れて立ち上がると、彼女は私の手からみかんを取り上げた。

 そして腰に帯びた私の巾着の口を広げて、みかんをそっとしまう。


「落としたらみかんが痛いし、あなたも悲しいでしょ」

「……うん」


 むしろ私がお世話されてる。

 愛生先輩とため口で話して、超絶マイペースで偽らない結ちゃんと親友になり、金長狸を御霊に宿して化け術を極めようとまい進する彼女は、自分を生きてる。

 私にはそれがとても強く、まぶしく見えるんだ。


「いこっか」

「うん!」

「ひとりであがれる?」

「だいじょぶ」

「じゃあ先に行くね」


 彼女はまず雲に手を当てる。足を乗せるフックと、掴めるハンドルがにょきっと生えてきた。まよわず乗っかって、棒状のハンドルを掴むと、一気に彼女の身体が上昇していく。雲にレールが隠れていて、簡易版リフトみたいになってるんだ。

 あれも彼女の化け術なら、すごい。そこまでの発想、したことない。

 私はいつだって、金色を利用する。

 なまじ金色が便利だから、頼りすぎてる?

 だめだめ!

 いまは悩むより、彼女と一緒にいよう。

 さっさと金色雲を出して、乗っかる。彼女に置いていかれないように、飛んでいこう。


『いまあるものを求めよ、だな』


 そうだね、十兵衞。

 あるものに真摯になってからだ。

 ないものを作ろうとするときには、余計にたいへん。

 あるものに真摯になれなきゃ、全力であるものを守ろうとしている人たちに背中を刺される。

 その人たちの中には、まず、自分が含まれる。

 あるものを育てることを怠ってしまうんだ。守ることも。つい、ね。

 隔離世はみんなにとってないもの。金色もそう。九尾の私自体、そうだ。

 小楠ちゃん先輩が空飛ぶ舟で私を叱ってくれたとき、かけてくれた言葉もそう。

 まず私にあるものから大事にしていくんだ。それでいいんだ。

 だっていうのに! 私め!

 ひとりに塞ぐと?

 だめだね。たしかにレンちゃんの言うとおりだ。

 ないものに心を傾けてしまうんだ。どうしても。

 生半可な知識で、体験としてないものもあれば?

 知識がなくて中途半端で、なのにとても苦しくてつらい体験によって足りないと感じるものも。

 そういうときには要注意。

 まさにいま、私の心が傾くもの。

 助けられ「ない」こと。でき「ない」こと。つらいまま、どうにもでき「ない」こと。

 それよりもいまは?

 レンちゃんと過ごせる時間が「ある」でしょ?

 思わぬ出会いが「あった」んだ。

 そっちが大事。

 だから、いこう。




 つづく!

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