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その刀を下ろして、帯刀男子さま!  作者: 月見七春
第九十九章 おはように撃たれて眠れ!
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第千八百五十六話

 



 空港に降り立ち、手配済みの車で移動する。

 雑然とした車列は日本じゃ考えられない密集度なのに、一定の速度で進み続ける。

 巨大なタワー型マンションが立ち並ぶ住宅地へと入り、次々と停車。

 待ち構えていた男が全員に鍵を渡して、ひとりひとりが自分の部屋へと向かう。

 最後に自分の元へとくるなり、男が英語で切り出す。


「社長、ようこそ」


 手短に握手を済ませて、ふたりでマンションへ。

 周囲を建物に囲まれながらも、距離があるから日差しが入り込む。

 駐車場からあがった広場には透き通ったプールが設置されているが、ぱっと見ではだれも泳いでいない。

 移動中に見かけた貧民街は掘っ立て小屋の群れのようだった。中心部から遠ざけられて立ち並ぶ小屋の周辺にアスファルトを見かけない。都市部から廃絶された、貧しさ。日本ではなかなか目にする機会のない光景だ。

 対してここはどうか。

 国外の中流層も、国によるが、ここではちがう。外資による企業に勤める高給取りとなれば、途端に見おろす側に回る。

 貧富の格差を、露骨に目の当たりにする。

 一転して都市部は日本のそれと大差ない。人の密集度も東京や大阪とちがって、それほど集まっていないから、過ごしやすいようにさえ見える。


「日本のニュースによると、Samuraiがなにかをしたそうですよ」


 アジア系の案内人の侍発音よりも、なにかをしたということのほうが当然ひっかかる。


「映像はあるのかな?」

「こちらを」


 小脇に抱えたタブレットを操作して、画面を見せてくれた。

 青澄春灯と緋迎シュウの姿が見える。画質はそれなり。SNSで出回った画像だ。スクリーンショットで捉えたもの。あいつら、なにやってんの? というテキストが間抜けだ。


「ニュースじゃないよ、これは」

「彼らが騒動を調査した、としかなくて。ご覧になります?」

「あとで自分で見るよ」


 事前に気を利かせて調べてくれたんだろうが、学生の気まぐれと大差ない。

 なら調査すればいい。社員も情報を追っているのだし、自分で検索したほうが早いまである。

 ただ、知らせとしてならありがたい。


「どうも。鍵は?」

「ええ。こちらを」


 速やかに渡してもらい、礼を述べてエスカレーターへ。

 ついてきて呼び出すボタンを押してくる。もういいよとチップを渡して見送った。

 程なく降りてきたエレベーターの中から、ピンクに水玉模様の水着を着た小さな女の子が飛び出してきた。こら、と呼びかける男性と女性が続く。三人とも、日本人のようだ。

 笑顔で会釈をして、入れ替わりに中へ。

 女の子は一目散にプールへと向かっていく。

 泳ぐ人もいるんだ、と軽く驚きながら、扉が閉まるのを見守った。

 ここが日本なら迷わず最上階のフロアを、と思ったのだが、一時的な滞在先でわざわざ豪遊する気もない。ひとつ下のフロアで降りる。

 部屋に入ると内装から着替え、なにからなにまで既に用意されていた。

 ひととおり確認していたら、呼び鈴が鳴るから扉を開けると、若手がふたりでアロハシャツに短パン姿で立っている。すっかり観光気分に浸っちゃってと内心で呆れはするが、ツッコミは入れない。しばらくはおとなしくする予定なのだから。


「社長、日本の情報です」

「なにかお聞きになりました?」


 ふたりを中に招き入れて「なにも」と返す。

 お手並み拝見。

 中に入って周囲が見渡せる窓際に設置されたソファに三人で座り、報告を聞く。

 侍隊が爆破箇所に派遣されたこと。消防と警察の人間が一時、消息を絶ったこと。青澄春灯が現地入りして、車内で眠りについてから数時間の後、消息不明だった消防と警察の人間が漏れなく見つかったこと。

 ただしまだ、ビルの爆破に関する情報は掴めていないこと。

 加えて謝肉祭遊園地について、行けないことを憂い、怒り、訝しむ発信がSNSで急激に増えたこと。


「ステルス用の秘宝、既に見つかってしまったようですね」

「士道誠心学院高等部の現在の在校生のこれまでの動向を見るに、既に遊園地は彼らの手に落ちたものと考えています」

「破壊できたと思ったのですが」

「もともと、オカルトそのものっていう一品が相手だ。高望みはしてないさ」


 いいよと軽く笑って流した。


「追っ手がかかったり、私たちの名前が挙がっている気配は?」

「そちらはまだなにも」

「ただし製薬部門で研究対象だった被験者の元社員が教団に保護された以上、いずれは見つかるのではないかと」

「それも構わないよ。どこにいるのか、彼らは知りようがないのだから」


 足を組んで窓の向こう側を眺める。

 高層ビルがここ以外に何本も。タワー型マンション区画は地震が起きたらどうなるか。

 ビジネス街やショッピングストリート区画はそうでもない。

 低く広く。なんでも背の高い建物にしないあたり、品がいい。

 世界中をのんびり回りながら、さらなる充実を図るには?

 慎み深くいかないとね。


「それにしても、警察が高校生に任せるなんてどうかしてません?」

「こどもになにかあったら、連中、どうするつもりだったんですかね」


 フィクションじゃあ多いよ。

 それもこども向けの作品なら?

 漫画にアニメじゃ鉄板だ。

 おとなは頼りにならず、こどもが立つ。

 あるいはおとなたちの尻拭いを、こどもがする。

 主人公たちと共に叩いていられるうちはいい。だがだれもが等しく歳を取り、叩いていたうんざりしている社会とおとなの一部になるときが必ずくる。

 次はどうする? なにかを叩くことで、こどもの頃からの振る舞いを維持する?

 ご自由にどうぞ。


「そんなのは知ったことじゃないな。それより、うちのシェフたちは狩りなしで退屈してない?」

「「 それが、その 」」


 ふたりして目を見合わせて、気まずそうだ。


「肉が食べたいって言ってまして」

「どうします?」

「どうしますじゃないでしょ。深夜まで待たせて。工場の準備は?」

「それなら既に」

「けっこう。ラボは?」

「そちらも」

「なんの問題もないな。手配するとしようか!」


 遊ぶのは夜になってからだよ、と言ってふたりを追い出す。

 肩を回して、首を回してから「仕事しますかあ」とぼやいた。

 窓際へと近づいて、淡い青空を見あげる。

 まぶたを伏せて、思い描くのは? 鍵を受けとったときに見た、少女の顔。

 さっきのフィクションの例えは我ながら、古くさい。

 そりゃそうだ。もはや追っていないのだから。

 いくつかの段階を経て変化していく。いろんな軌跡をたどることになる。

 人によってたどりかたは異なる。小学生で早々に離脱する者もいたし、そもそも家で見ることを許されなかった者もいた。いまの子たちはどうなのか。無料で配信しているアプリもあるが、そもそもなにを見て、どう感じているのだろう。

 先ほど来たふたりにせよ、二十代。ひどく当たり前のことをいうが、もう十代とはちがうのだ。代謝の早い若い世代はなにを見て、どう思うのか。

 若い社員たちを見ていても不思議に思うことは多い。

 なのに、どうしてか。

 少女の顔からは、とてもよく見慣れた感情が見て取れた気がした。


「なんだっけなあ。あの漫画の、あのセリフ」


 不覚にも、で始まるんだ。

 綺麗なものは汚したい。だれも踏みならしていない雪に足跡をつけたい。

 人生を左右する強烈な刺激と記憶を、相手に刻みつけたい。

 支配を。己に強く囚われるような干渉を。焦がれる相手にほど、したくてたまらない。

 雄の衝動が吠える。

 蹂躙を。

 初体験をしたときの「ああ、こんなに簡単なことなのか」という実感と共にのめり込んだ、あの衝動に同じ強い願望が、あの少女の顔を思い浮かべるほど滾る。

 いますぐ蹂躙を。

 日本を離れたのは早計だったかもしれない。

 壊したくなるな。あるいは、染めてみたいだなんて。


「なしだな」


 こんな執着は早々に捨て去ろう。

 面倒ばかり増えるのだ。

 そこそこに働いて、じゃんじゃんばりばり稼ごう。そしてはちゃめちゃに遊ぶのだ。

 おとなは長い。

 人を貶め染めようとする我欲は身を滅ぼすものだ。

 こんなのは風俗に行くか、一晩の相手と協力的に楽しんで済ませてしまえばいい。

 ユニット単位で、限定要素をひとつずつ外しながら、どこでも開拓可能なビジネスを。

 声明を出せば注目を集めるだろうが、そんなつもりはさらさらない。

 移動先が限定されすぎてしまう。

 だから出さない。そして大勢が「だれが? なぜ?」と疑問に頭を抱えている。

 進捗はないようだ。それもいつまで保つのやら。

 どうでもいいな。

 のんびり急いで次の行動を。

 人生は進んでいる。

 目を開けて眼下を見おろした。角度が急すぎてプールが見えない。

 三人の家族はいまも遊んでいるのだろうか。

 それくらいの過ごし方がいいな。


 ◆


 夕方に唐突な寒気がした。

 ぞわぞわぞわって、背筋を伝うようなやつだ。

 何度か覚えがある。いやだなあ。まただれかに狙われている?


「ねえママ、手が止まってるよ?」

「はやくー!」


 ぷちたちに呼ばれて我に返る。

 隔離世に組み立てられた、私の金色を触媒にしたぷちたちのコース作りはゆるやかに進行中。

 だけどさすがにそろそろ、晩ご飯の準備に移らないと。

 金魚マシンで試走をしている子たちもいる。コース作りにのめり込んじゃっている子も含めて、みんなすこし疲れが見えている。それよりもっと楽しんでいて、興奮しているから、顔が生き生きしていた。好ましいけど、でも、ここらへんが今日の区切りどきかな。


「今日はここまでにしとこっか!」

「みんな、ストップだ!」


 走っている子たちを見守ってもらっているカナタも号令に加わってくれた。

 えー、もう? とか。はあい! とか。まだまだ! とか。無視して走っていたり、夢中すぎて聞こえてなくて、私の金色素材をコースにくっつけていたりする。

 驚きまくることばかりだ。コースのそばで、樹や花や絵や彫刻を作って飾り立てている子もいるし? 金魚マシンで走ることを想定していたのに、飛び跳ねたり、シューティングゲームのように的を射ることができるようにしたりと、工夫をする。

 みんなの中に、存在するんだ。

 やりたいことが。

 地面から芽が見えるほどわかりやすい子もいれば、土の中で種の殻を破ったばかりの兆しが見える子もいる。よくわからないようで、だけど、行動をみて尋ねてみると、その子の熱があったりしてさ?

 楽しい。

 楽しめる距離感に慣れるには、まだ時間がかかる。

 いまなんかもう「やだやだ!」って続けたがる子に「んんんん!」とアゴに梅干しこさえちゃうほど顔に力が入っちゃう。

 言うとおりにして、は、だいたいこじれる。長引く。揉めるし、つらい。

 だからって、延々と待っていられるかっていうと、それもまた別。

 できれば、みんなをお風呂へ誘ってさ?

 お風呂上がりに、ご飯を食べようって流れにしたい。

 そしたら、みんなでハミガキして、お話をして、寝かせて終わるのだ。

 強情を張ってギャン泣きスイッチが入ると? どこにそんな元気が? っていうくらい、延々と泣き続けるまである。無理はできない。

 心のどこかでいつも、どんな節目でも、思い描いてしまう。

 いつか、私はこの子たちが外に出てくる前の状態に戻れるんじゃないか。

 たとえば、この子たちが眠れば、すくなくとも近づけるんじゃないか。

 そんな風にはいかないんだよなあ。

 ふんわりと考える「おとななら」、あるいは「この子たちの親なら」? 自分が譲るのがいい? それだと自分の気持ちはどうなるの? 譲ってばかりで、不満が爆発しない?

 そんな部分でさえ、地味に苦労しちゃうじゃない?

 だってもう、四六時中、頭がずっと「わー」ってなるんだから。

 そんな状態で貯めこんだらどうなるのか、想像するまでもないのでは。

 じゃあ自分ががつがつすればいいの?

 ぷちたちはどうすればいいの? 我慢しろって?

 どうなの? それは。

 こどもだから、養われているんだから、言うとおりにしろって?

 ないわー。

 ないない。

 反抗期がきたり、自分がおかしいのに気づかず指摘されたら、こういうの?

 親の言うことを聞いていればいいんだよ! って。

 学校なら。先生か、先輩か。部活で、これまでのやり方とかになるのかな?

 会社なら? 上司や先輩。慣習、慣例。取引先との関係性とか?

 どこでも起こりえるよね。年齢、性別。人種さえ含まれる。

 そういう構図じゃんね?

 うわあ。

 やっぱりないわー。

 仮にこの感覚がどれだけ無様でも、あるいはどれだけ真に迫っていても、実は関係ない。

 これも、棘だ。

 心に刺さる刀。

 見込みが正しかろうが悪かろうが、感情的になって振るう時点で危うい。

 ぷちたちと付きあうにしてもね。だいぶ、危うい。

 刀が揺れるだけで心が刺激に痛む。

 こういう場面でさえ? 感情的になる。

 どうどう。どうどう。落ち着け、落ち着け。

 そうなだめているうちは忙しくて大変だ。

 だけど、ぷちたちがそれぞれなにに執着しているのか、なにがしたいのかわかればさ? どうして、やだやだなのかがわかるかもしれない。

 わからないことも多いけどね!

 ひとりを知ろうとできたら。みんなを知ろうとできたら。

 ことばにするのは簡単で、実際にやるとなると時間も元気ももりもり持っていかれる。

 教えてくれたらわかるってものでもないしなー!

 な、なんて? ってなることもあるんだからさ。

 なので、それから一時間はかかったね! 現世に戻るまでに!

 隔離世のコースもそのままにしておくわけにもいかないから、カナタと協力して、小さなブロックオモチャを触媒にして記録することにした。

 現世に小さな小さな模型を持ち込むような形だ。

 そんな形にしちゃったものだから「お風呂にもってく!」となるし、ご飯中もみんな夢中だし、ハミガキに誘っても付きあってくれるまで、途方もない時間がかかった。あくまでも体感的にだけどさ。

 夜も寝つくまでに時間がかかるったら!

 そんなにハマったのかとビビる。

 サンドボックスゲームもわりとハマっていたけど、あれはプレイできる人数が限られてるんだ。うちじゃあ、どうしても。スマホとタブレット、ゲーム機、パソコン。人数分はないからね。

 こういうの好きなのかもなあ。


『寝かせなくていいのか?』


 十兵衞、聞いておきながら、なあに?

 やる気がすこしもない声じゃん!


『どれほど昔か思い出せんがな。だれもがみな、過ごしたときの振る舞いだ』


 夜更かしして、いずれ寝ちゃうまで見守る?


『あるいは部屋を離れるか』


 おばあちゃんちに行ったときの、こどもの集まりみたいだ。

 ほっとかれるんだよね。わりと。

 どうにかしなきゃ、どうにかするんだって囚われるほど、思いどおりにならなくて疲れちゃうんだなあ。


「みんな、もうすこし起きてる?」

「「「 うん! 」」」

「だいじょぶだよ?」

「ママは下でのんびりあまあましてきたら?」


 おうおう。そこまで言う!?

 噴き出しそうになっちゃった。

 じゃあと思って立ち上がろうとしたら、パジャマの布地が引っ張られる。

 ひっついたまま寝てる子もいるんだ。そりゃそっか。全員が全員、盛りあがる元気が残っているかっていったら、別だよなあ。

 抱き上げてベッドに寝かせる。

 よくよくみれば、あくびを堪えてうつらうつらしている子もいるし?


「じゃあ、ねむたい子はおいで。お話ききたい子はいないかなー?」


 盛りあがってる子の中には「いいのに!」って反応する子もいるけどさ。

 いいんだ。それで。

 ひとり、ふたりと近づいてくる。そういう子は寝かしつけるよ?

 それで、部屋を離れるときには「寝ている子もいるから、起こさないように、しずかにね?」とひとことを添えておく。返事はまばら。

 そっと扉を閉めて、聞き耳を立てる。離れがたい衝動もある。

 気になる部分も。


『様子を見に来ればよい』


 タマちゃんのことばにうなずいて、静かに一階へ。

 和室を覗くと、カナタが畳の布団に入ることもできずにうつ伏せで寝ていた。

 ため息が出ちゃうけど、今日はめいっぱい、ぷちたちと遊んでた。

 私からしたらじゅうぶん体力オバケに見えるカナタも、ぷちたちと遊んだら疲れ果てちゃうんだなあ。

 布団をめくって、金色雲を使ってカナタを移動する。

 掛け布団をかぶせてから、明かりを消してリビングへ。

 お父さんもお母さんも既に寝室に撤退していて、私だけ。

 これはこれで、さみしいんですけど。あのう。

 テレビをつける。音量をぐっと絞って、ネット配信サービスのアプリを起動。気になってたドラマの続きを見る。

 ソファに寝そべって流し見してたら、記憶が飛び飛びになっちゃった。

 気がついたら次のエピソードの終盤間際。いちど終了して、地上波に切りかえた。

 ちょうど真夜中の報道番組が今日のニュースを伝えているところだった。

 連続殺人事件の続報はなく、ビルの爆破事件は平成最大のテロ事件として取り沙汰されている。今日も現場の映像が流れていた。

 夕方になる前にマドカからメッセージが来ていたけど、ネットに私がいた場面が撮影されて画像がアップされていたそうだ。

 こまるー。事務所も「あー、もう」ってなってるのでは。

 さすがに見ている番組では取り扱われていない。

 ただし、一時的に警官と消防隊員が消息不明になるも、無事に見つかった旨は知らせていた。

 さすがに謝肉祭遊園地の話題は一切ない。隔離世絡みの話題は入らない。ここまできても。

 実際、ビルをいくつも同時に爆破する人、あるいは人たちがいることのほうが、よほど脅威だ。

 いまも犯行声明は出てなくて、総理の声明で「迅速に調査を」という当たり障りのないメッセージが流れる。

 次の現世への犯行なしに、一ヵ月も経過したら? どう扱われているのだろうか。

 跡地の処理はそれぞれの区が負担するのかな。空き地はだれが買うのだろう。

 しれっと別のビルが建つのだろうか。

 ソファに寝そべりながら、ぼーっと考える。

 ろくになにも思いつかないまま、スポーツコーナーになって、天気を伝えて終わっていく。

 朝のニュース番組だと「かわいいわんこ!」とか「おいしいごはん!」とかやるけど、夜の報道番組はお堅くて、そこまではやらない。

 気がついたらあっという間に一時間が過ぎてしまう。

 別の局で報道番組が始まる時間帯。切りかえようかどうしようかで迷う。

 やめた。

 ねむたい。

 それに、気持ちがどんどん重たくなるばかりだ。

 ぷちたちの様子を見るかと気持ちを切りかえて、起き上がる。

 ソファから立ち上がるのに、たっぷり二十秒をかけた。身体中が痛い。

 なんだあ? 筋肉痛かあ?

 もーってうんざりしながら、テレビを消して二階へ。

 聞き耳を立てるけど、静かなものだった。

 扉を開けると、明かりがつきっぱなし。模型を囲んで眠気に撃沈した子が目立つ。ベッドによじ登ろうとして力尽きた子もふたりほど。

 ひとりを前屈して抱き上げようとして、腰に激痛が走る。


「ふ、お――……おおお」


 みんな重たいし、ベッドに寝かせようとすると前屈からの上半身を起こす運動の繰り返し。

 明らかに腰が痛い。筋肉痛だと信じてる。

 でもまさか、そんな。笑うしかない痛みに、姿勢を保持してぴたりと固まる。

 そのまま金色雲をいくつもだして、ひとりずつベッドに運んだ。役目を終えた雲を身体のそばに集めて、姿勢を保持する支えにする。

 最初からこうしておけばよかった。ああでも、抱き上げたい気持ちもあるんだ。理屈じゃねえんだ。あああ。でもいまは無理!

 脂汗が全身にじわっとにじむ。ひいひい言いながら痛みをなだめて、ぷちたちにタオルケットをかけた。

 コースを記憶させた模型を壊してしまわないよう、机のうえに置く。リモコンを使って、照明を落とした。

 そしてやっと、床に敷いた布団に寝そべった。それから雲を消す。

 いつものことながら、尻尾の存在感が仰向け寝を邪魔する。

 横向きになって、ふと思いつく。

 金色雲をベッドにしたら、私でも仰向け寝ができるのでは? 昔のように!

 思い立ったが吉日。

 さっそく試すべく金色を出して、布団と私の隙間へ。

 金色雲に化かして私を浮かべようとしたら、均等に板にすることができず、ふわふわぼこぼこしているせいか、腰が曲がって再びの激痛!


「お、ほっ、ふっ、ふうっ」


 や、やめよう。この試みは、腰が痛くない日にしよう。

 ゆうべ張り切ったのが効いているのかな!? 今日になって突然の腰痛、あんまりじゃない?

 ねえ!

 たいへんだよお! もおおお!

 カナタが寝ててよかった。ほんとに。




 つづく!

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