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その刀を下ろして、帯刀男子さま!  作者: 月見七春
第九十九章 おはように撃たれて眠れ!
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第千八百五十二話

 



 おうちに帰るなり、ぷちたちをなんとか起こしてお風呂を済ませる。

 うとうとぷちをカナタとふたりがかりでなんとか寝かしつけるまでにわんもあ、疲労タイム。

 金色雲に包まれて寝たがる子がいて、ひとり、またひとり自分もとお願いしてくるし? 自分専用のがいいというので、分けた。結局みんなでひっつく形になるのでは? と推測して、大きめの金色雲を浮かべておく。そんな話し合いが始まる前に寝ちゃった子も忘れず、省くこともせずにね。

 カナタとふたりで和室に移動する頃には疲れすぎて逆に目が冴えてきた。

 耳かきしてもらって、からの? マッサージ。

 ベッドとさ? 畳の上に敷き布団って、寝心地がちがうよね。

 吸いこまれていくような感じがしません? 地面の底に、永遠に。

 耳かきでやっと身体の痛さがましになり、マッサージのいた気持ちよさに身悶える。

 不思議だけど、そういうふれあいでカナタが元気なの「ええ!? それくらいで!?」って感じだ。すごい。何年か経ったら、こんなこともなくなるんだろうか。それともずっと、こんな感じなのかな? 謎。


「くふう」


 尻尾の付け根まわりは筋肉がめっちゃ強ばるときがある。

 ぷちたちがめいっぱいしがみつくから、重たいんだ。

 カナタにマッサージしてもらうときのお願いポイントランキング上位なんだけども。

 たまにお尻に手が伸びてくる。

 すごい。今日なにがあったって話だよ。最近ご無沙汰気味ではあるけれども。


「あのう?」

「……すみません」


 いや、謝られても。


「それで、学校から連絡はあった?」

「いや。今夜は続報なしだな。夜も遅いし」

「ふうん」

「小楠とラビ、それぞれから愚痴の連絡はあった」

「ふたりから? 別で? どういうの?」

「いまけっこう、繊細な状態なんだよ」

「あー」


 いまっていうか、けっこう前からそうだよね。

 小楠ちゃん先輩はしゃんとしてる。けど、ラビ先輩は人生のさみしさ全部、だれかに依存してるところがある。極度に距離を取るか、あるいは極度にべったりするか。

 ギンにも、カナタにも、なんなら私にだって、そういうとこあった。もしかすると、案外ありふれたことかもしれないし? そうでもないのかもしれない。

 そこはさ? わかんないけど。

 こどもの頃なら、ハグとか、手を繋いだりとか、どこまでもついていくとか、そういう形で済みそうな行動も年を重ねると? 性行為に発展してしまうことも。避妊の知識がなかったり、うやむやにしてたら? それで妊娠しちゃうことさえ起こりえる。

 さみしさ解消の依存先がひと肌。

 それ自体は別にどうということでもないかな。

 家族やともだち。犬や猫。

 そもそも触れるっていう行為自体、成長過程で無視できない要素な気がする。

 なんにしたって、触れてみたい。だから手を伸ばす。成長したら触れようとは思わない、危険なものであろうと知らないがゆえに興味をもって触れようとする。

 おばあちゃんちで見た猫たちも、犬もそう。親戚のちびっこたちも、ぷちたちだってそう。私もそうだったろうし、トウヤもそうだった。

 その過程で、触れていいものの中に、触れていると落ちつくことがあるものを知る。

 慣れないひとり用のベッドより、お母さんと一緒に寝ていた布団。せっせと歩くよりも、お父さんがしてくれる肩車。どんなに人が大勢いても繋いでいたら迷わないで済む、お父さんとお母さんの手。立場を変えて繋いでいる限りそばにいる、トウヤの手。

 落ちつくにも、いろいろある。

 なにかが起きたら怖いから、触れておけば安心か。すごく高いところで世界を見れて、転ばないし楽しくて楽ちんか。ここならどんなにおっかないものを見ても、近寄ってこない、安らげる場所か。

 触れていたら、触れることができたら。もしくは触れてくれたら、触れ続けてくれたら。

 自分はだいじょうぶだと思えることか。

 そういう感情を頼りに触れることをよしとしたら? あるいはだれかに触れてよいとしたら?

 恋人なんだから、とか。出会いを求めて集まった機会に知りあって、そういう雰囲気になったんだから、とか。そういう理由で相手に触れたい人が、自分の欲求のままに触れてくる。

 もっと認識が歪んでしまって、性別や立場など象徴的ななにかを理由にしては無茶を言う。痴漢の類いもその一種だと考えるけど、構図として恋人同士であろうと、夫婦やパートナー間であろうと、似たような歪みのもとで一方的に触れたがる人もいそうだ。

 自分は触れれば安心できるから、と。

 相手の感情お構いなしに触れる。なんならポルノの延長線上で、相手も喜んでるみたいな認識まで持ち始めると? もうだいぶやばい。真っ黒だ。

 触れたい欲求もある意味、刀かもね?

 自覚的に納刀していただけるといいのですが。

 さみしさに立ち返るのは、きびしい。

 自分に戻って、問いを見つけて解決していくのは、たいへん。

 だからといって、そのツケをだれかに支払わせちゃいけない。男女の間だとこどもさえできてしまう。無責任になにかをするのは魂を穢して殺す暴力だ。

 いいなっていう感覚もね。好きだなあっていう感覚であろうともね。

 暴力だ。

 さみしさの穴埋めはできない。

 過去の記憶や経験の穴埋めも。

 そもそも、できる類いのものじゃない。

 なまじ社会の多数派が享受している、当たり前のものが自分になかったとしても。

 だれかを穴埋めすることも、代替となる体験で穴埋めすることも、できやしない。

 それは私が、ラビ先輩の体験をしていないから言えること。

 考えられることだ。

 もしかすると、魂が求めずにはいられないくらい、痛くて、怖くてたまらないのかもしれない。だれかと楽しく過ごしていようと、小楠ちゃん先輩と交際していてデートしたり、私とカナタみたいにこういう夜を過ごしてみようと、消えないもの。

 消えないんだよな。

 穴埋めできないんだから。

 ぴたっとはまると思えても、思えなくても関係ない。

 別々だもの。

 人と状況が重なろうと、時が流れたら、やっぱり別なんだ。

 埋めることはできない。けど、別のところで満たすことはできる。

 執着せずにいられたらね。

 それを手放せばいいって? 理屈はそうだけど。

 でも、意識的な部分のみならず、無意識にも広がっているものだし、生活のいたるところ、日常のあらゆる部分で刺激されてしまいかねない。

 そもそも自分の言動に出てるかもよ? 意図せず。ぽろぽろぽろって。

 ラビ先輩は出ていそうだ。

 小楠ちゃん先輩に心を開こうとしても、自分自身が開けることのできない箱がある以上、そこがふたりの感情をせき止める障壁になりそう。

 なんて。

 勝手にそんなこと思っておいて、ぶつけるわけにもいかないけどさ。

 このところ考えていたこととも重なるから正直、私も痛い。

 素直になれたら。

 それがいちばんこわい最初の一歩なのかもしれないね。

 自分を斬りつけるような自分自身の心と戦う必要なんて、私はないと思うんだ。

 今日、やってみてわかった。

 あれはあまりにつらい。

 無意識に、自分の考えで自分を斬りつけていたら?

 怪我をして痛みをひどく感じるだけで? 周囲に気遣う余裕なんて吹き飛ぶ。

 支えはやまほどあったほうがいい。

 いちいち自分を斬りつけていたら? できない穴埋めを目標に、無理を続けて祟ってしまう。

 そこまで実感して尚、私は未だ、語ることばを知らない。

 自分で。さいしょの一歩を。

 だれかやなにかに「引っ張れ! 押せ!」と怒鳴ることなく。

 自分で。大好きな人たちの元へと、踏み出せるか。

 必要があるなんて言わない。

 復讐に当てる人もいるだろう。穴埋めができないのなら、同じ穴を、狙いやすい標的に求める人さえいるかもしれない。

 そうじゃないかも。

 いろんな思いが溶けあってぐちゃぐちゃに混ざった人々が集まって、今日も大勢の人が社会で暮らしている。

 どうしたいのか。選ぶのは、自分自身。

 だれかを変えることはできない。穴埋めをすることも、できない。

 どうしたいのか。選べるのは、いま、これから。

 だけど過去がなくなるわけでも、関係なくなるわけでも、傷が消えるわけでもない。

 ずーっと続いている人生の文脈は、なかったことにはならない。

 自分の中に息づいている。どんなことであろうとも。ね。

 自分を許せるかどうか。受け入れられるかどうか。そのうえで、してきたこと、していくことと付きあっていくか。どう、選んでいくか。なのかなー。

 そんなの、恋愛で煩悶としてうまくいかない時期に考えられるのかって?

 無理そうだ。正直。


「けっこうな大恋愛だって、ふたりが付きあうときには思ったんだけどなあ」

「出会いとさ? 長いときを一緒にふたりで過ごしていくことって、別でしょ」

「冷めてない?」

「んー、熱をあげてはいないかな。納めどころがわからない状況をどうするかは、ふたり次第なのかなって思ってる」


 カナタの手のひらが脇腹のそばに置かれて、腰と背骨の周りを指圧する。

 ほどよい圧迫が心地よい。


「んんん」

「たまにうなり声がおっさんになるな」

「気持ちいいんだもん」


 指先で骨のラインをたどるように、尻尾の付け根へと滑らされると至福そのもの。


「恋心じゃない、別の感情次第なのかなって」

「別のって、具体的には?」

「付きあい、縁を深めるほど、相手のいろんな部分と付きあうことになる。それ以上に、自分自身とも。だから、恋の魔法は現実に溶けていくんじゃない?」

「魔法が解ける、じゃなく現実に溶けるねえ」

「そ。関係が深まるほど、より生々しいところまで知っていくことになる」


 相手の養育環境や生育にまつわることまで。

 そのすべてに関わるとまでは思わない。

 また、その必要があるとも思わない。

 相手の穴を埋めなきゃいけないだなんて、欠片も思わないし?

 相手は自分の穴を埋めるべきだなんていうのも、微塵も思わない。

 人それぞれ、穴もあれば傷もあるよ。過去にも、環境にもね。他にもあるんじゃないかな。

 だけど、そればかりじゃないよね。


「ウッディとバズ」

「トイストーリー?」

「バディになるの。人それぞれデコボコしてる。でも、ふたりで組んだら強いの」

「最初はめっちゃ揉めないか?」

「バディフィクションのお約束だね。相棒として落ちつくまでは、試行錯誤がいる」


 むかつくところもいっぱい知っていく。

 いやだなあって思うところもそう。きらいなところも。

 だけど、それは相手も一緒。

 そのうえで、ああだけどこの人だってなるのか。

 あるいは、もう無理だとなるのか。

 アメリカの刑事ドラマが好きだ。警察はバディを組む。訂正、コンビかな。相棒ができる。そしてその相棒を大事にする。ときに足かせにもなる。すべてのコンビが良好な関係を、なんて。そんなのおとぎ話だ。結論ありきで人は動けない。

 一線を越えないから、ぎりぎり関係を保っているコンビもいれば? ふたりでマフィアと取引したり、押収物を横流しするコンビもいれば? お互い自然体で付き合えるよう、相手を把握できるまで気を遣いあうコンビもいる。他にもいろんな例があるけれど!

 そこんところ、どうかな。


「ハリウッド映画やアメリカドラマじゃ結構おおいよ? 相棒もの。バディ」

「デコボコ同士っていうのは、恋愛映画でも多くないか?」

「多いよ? かなりね!」


 まるでちがうふたりが出会う、その化学反応がいいんだよね。

 あんまり王道すぎて、いろんなバリエーションで見かけるけどさ。

 昔にさかのぼっても、やまほどでてくるだろうけど!

 大鉄板だ。


「あとはね。自分の問題で手いっぱいな人も、たくさんいるよ」

「っていうと、いまのオススメは?」

「お母さんと私の激推しなら、ジム・キャリーかな。ライアー・ライアーがいいよ」

「嘘つき男が真実しか言えなくなるやつ?」

「そ」


 彼が最初から最後まで最高だから!

 最近、素敵なコメディアンが主演の映画って見てない気がする。

 徹頭徹尾、愉快で大好きだ。


「もっとえぐい悩みで塞ぎ込んでいる人が主人公の映画も多い。外国映画に見がちなテーマな気がする」


 日本はどうだろう。

 漫画の映画化、ふえてるよね。

 恋愛漫画は特に外れにくそうだ。

 それよりもっと、ベストセラー小説の映画化のほうが多そう。

 版元がどでかいと? ますますその傾向は強くなりそうだね。

 映画と原作、そのビジネスの構造次第なんだろうなあ。どの国も。

 そのうえで、それぞれの地域で選ぶ側の好みと選択の傾向もあるだろう。つまるところそれはビジネスの傾向ともいえるんだろうし? ターゲットに向けた傾向でもありそうだ。

 ボリウッドはやっぱりご機嫌な歌と踊りがほしいしなあ! 長い尺の映画も多いけど、面白い映画がめっちゃ多い! 主人公がもさもさおじさんなこともあって、そういうところ含めて刺激的!

 韓国映画が最近ますます面白くなってきてるし!

 フランス映画の質感にどっぷり浸りたいときもあるぞ?

 それはそれとして!


「けっきょく、どこまで付きあうか。付きあえないことは、どうするかで。いま噛みあわないことも、ふたりなりに過ごせたらいいけど。人の問題って、ね」

「まあ、大変だよな」


 ざっくり言うなあ。

 でもほんと、それ以外に言いようがないよ。

 特に疲れてくたびれた、こんな夜にはね。


「ただ、な? ふたりとも親友なんだ」


 わかってる。


「でも、決めきれないと、進みようがないと思うの」

「対話の、あれ。できないか?」

「素人が真似しても怪我するだけだから、それこそ専門家を頼るのがいいって。未来ちゃんが通ってるとこなら、相談に乗ってくれるかもよ?」

「ルシファーのカウンセラーみたいに?」

「そ。天使と結ばれる彼女のように」


 アメコミ原作のドラマ、ルシファー。

 あれも面白かったなあ。世間知らずのクラブのオーナー、地獄の王にして、天使。

 破天荒というより常識知らずなルシファーが無茶苦茶をして、周囲の人たちが振り回される。

 まさに彼はデコボコそのもの。

 だから、だれと絡んでもギャップまみれ。

 でも彼ほどわかりやすい存在もない。

 天国と地獄、天使と悪魔。そして神と家族たち。

 そんな事情、それぞれの存在が自分で「どうにかするぞ」と決めないかぎり、終末を迎えても延々と家族ゲンカを続けそうだ。

 だけど彼らはそれでいいと思っているし、だから彼らのケンカは永遠に終わらない。

 そんな存在が漏れなく心を開いちゃうのが、カウンセラー。

 彼女と対話を続けていくうちに、みんな自分の抱えている問題に気づいていく。自覚的になっていく。それは痛みを伴うから、だれかを責めることで気にしないことにしたい。

 でも、そのままではいられないから?

 カウンセラーに頼る。解決を求める。

 自分は苦しい。お前は治すもの。さあ、治せ! ってノリで。

 そういう類いの話じゃないから、どうにもならない。

 そこで苦悩する。天使や悪魔の力を用いて、カウンセラーを恫喝する者もいる。

 だけど、だめだ。そういうやり方じゃあ、だめなんだ。


「相談してみるか」

「そうしてみて」


 んんん、と唸る。

 尻尾の付け根を再び重点的に指圧してきた。

 手のひらがお尻に置かれている。

 どんだけやねん。噴き出しそうになる。呆れもするけどね。


「今日、死にかけたんですけども」

「それでかな。ますます昂ぶっちゃって」


 しょうもな!

 誘い文句の中じゃ最低なほうから数えるほうが早い。

 伸ばした足のふともも部分に座り込んでいるカナタの元気っぷりに、ますます呆れる。

 ふり返ってみたら、鼻の下がわかりやすく伸びていた。

 お預け状態になって、何日だっけ。

 そもそも今夜、あとはもう寝るだけだと思って装備が貧弱なんですが。

 んー。


「おねがい」


 かわいい顔して甘えようとしてもねえ!

 ってツッコミを入れる気もなくなるくらい、縋るような顔をするな!

 しょうがないなあ。


「こんなことなら、ちゃんとブラつけておけばよかった」

「なくても大歓迎」


 嬉々として語るカナタに「情緒ないなあ」ってぼやく。


「でも、春灯が金色で作るっていうのなら、ぜひとも見たい」

「まるで特定のデザインが思いついてそうな発言ですね」


 チベスナフェイスで見つめてやるんだ。


「マッサージ、終わってからだよ?」

「熱が入っちゃうなあ!」


 どれだけやる気まんまんなんだ。

 急に生き生きしすぎじゃない? ねえ。

 なんかすごく激しくなりそうな予感。

 と、なると。


「――……声、でちゃうから。隔離世でね?」

「めいっぱい聞きたいなあ! いますぐ行かない?」


 ほんっと最低!




 つづく!

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