表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
その刀を下ろして、帯刀男子さま!  作者: 月見七春
第九十九章 おはように撃たれて眠れ!
1842/2984

第千八百四十二話

 



 なにもないところから生まれるものって、なーんだ?

 そもそもあるの? そんなもの。

 家電は電気がなきゃあ動かない。電気は発電して送電してもらわなきゃない。発電も送電も、なにもないままじゃあできない。

 手弁当は要注意トークをしておいてなんだけど、なにもないところからお金は出てこない。不景気で商品や労働の価値が下がるばかりだと、ますますなくなっていくばかりだ。そんなときに投資したり、挑戦したりするお金は出てこない。

 民芸品も昔の昔、起源にさかのぼると? 農業やなにか本業をしていて、休息する時期に作って売っていた、なんて話も聞いたことがある。

 昭和元禄落語心中だと? 菊比古は喫茶店で働いていた。重版出来だと? 若手の新人志望者さんが工場で働いていた。

 夢も希望もなくなるような話かもしれないけど、実家の太さがあれば実家を頼り、そうでなければ別に本業を持って働きながら、兼業で行なうことでやっと生計を立てているケースのほうが圧倒的に多いんじゃないかな?

 よしとするか、改善すべき問題だとするかは人による。

 水物の商売をしている作り手や演者と違って、彼らの創作物を用いて商売をする商人たちは月給と社会保障の枠組みの中で、手堅く稼いでいるのもまた事実なのだから。

 これが業界まるごと、みーんな水物! っていうなら?

 ますますえげつない構造になるのか、はたまた? はたまた。

 なかなか世の中、世知辛いね!

 日差しと時折の雨、そして大地の栄養があって植物が育つ。土と、その土地の気候や環境がなければ成り立たない。だから人は農作物に適した土になるよう、お世話をすると聞いたことがある。

 服はどうかな? 木材はどう?

 人の成果物は?

 だれかの挑戦は?

 なにもないところから生まれるのかな?

 いやいやまさか。

 安全ロープなしに山や崖を登るフリークライミングをする人って、私にしてみたら身近じゃぜんぜんない。調べてみると「凄まじい挑戦を成し遂げた!」みたいに紹介されている。私にしてみれば彼らの挑戦も、その成功も、そのための下準備や日頃の生活もなにもかも、観測していない。認識できないから、なにもないようにさえ感じるかもしれない。

 でも、想像してみるだけで浮かぶ。

 彼らにも人生があり、生活があり、彼らの中での意欲と、その動線があることが。

 だれかの挑戦は、なにもないところからは生まれない。

 物質も、いきものの命もそう。

 ぷちたちと出会って前よりもっと調べた、こどもについてもそう。

 受精した卵子が子宮の中で成長し、やがて出てくる。卵子にせよ精子にせよ、元がある。

 観測していないだけ、認識していないだけ、想像していないだけで、世のありとあらゆることは? なにもないところからは生まれない。

 じゃあ、元気はどうだろう。

 意欲は?

 愛情は。

 無償の愛を賛美する文化もある。特に母から子への、とつきやすい。

 けれど真実だろうか。

 そうでないのなら、なにがあれば生まれるのかな?

 それは多様な人生を生きる、すべての人に等しく得られるようなものになっているのかな?

 いや、そんなことはない! って思うときほど考えたい。

 じゃあ、いまの「そんなことないよ!」っていう状態から、等しく得られるようになる状態にいくまでの間に、なにが足りないのかな? どう補えばいいのかな?

 呟きアプリで「世の中おまえの言うとおりじゃねえし!」と、理路整然に、あるいは混沌とした感情的な爆発のように返信したり、何度も呟いている人がいる。

 私に語れるのは私のことまで。私の環境までだし? 私の体験まで。

 なので自分に問いかける。

 ひとつひとつに対する「そんなことない」から、観測した「こうだもの!」の間には、見えない、観測していない、認識できていないなにかがある。

 それはいったい、なんだろう?

 一層、一点の話だろうか。

 いやあ。まさか! そこまで単純じゃあ、ないんじゃない?

 なんなら「むむむ!」とカチンときたり「ぐ、いたたた!」と心が抉れたりするような呟きを見たときの反射的な感情さえ? 刺激への反射から生じたものだ。そういうとき、間に存在する観測できていないことが、いったいどれほどあるだろうか。探ろうとすると心がズキズキしたり、頭がムカムカしたりするようなこともたくさんあるから、しなきゃだめとまでは思わない。痛みが自分の中に生じたのなら、その痛みを和らげることが大事だと想うので。まあ、そのためにだれかを攻撃するようじゃあ、だめだけどさ。

 そうやってあれこれと思いを馳せてみればみるほど、あれ?

 なにもないところから生まれるものって、あるのかな?

 いろいろあるけど学校に通えているときには、通える元気があるんだよね。そして、お布団から出るのが無理、制服に着替えると吐き気がする、移動するときに何度も立ち止まるときは? なくなってる。ないのにあることにはならないから、休む。

 仕事もそうみたい。

 続く人が希少で、去っていくほうが多数派になっている現場、企業、職種なら?

 結局のところ、続けるために必要なものがない。また、ないまま放置されている。だから環境もなかなか変わらない。

 改善する動きが土を育てるように、時計の土台を育てられるようになっていけば?

 続く人が増えていき、去っていくほうが少数派になるかもしれないね?

 でも、この手の問題はそれこそいろんな産業で取り沙汰されてそうだ。農業、漁業からはじまり、町工場や縫製とか、もう数えきれないくらいいろんな場所で問題として顕在化しているのかなって思うわけで。

 品性から他者を貶めることを言わずに避ける人もいれば、苦労している業種を指してあれこれ言う人もいる。それにもやっぱり、無から有じゃなく、言わずに避ける人はそうする文脈があるし? 言わずにいられない人には、そうする文脈がある。

 みんな、自分の事情を抱えている。

 そっくりそのまま把握している人だらけかっていったら? そんなことはない。

 自分の事情からくる不安や不満を把握できず、周囲の問題として捉えて、自分の事情を押しつけて依存する形で抑圧的に暴力的に解決しようとしてしまう側面さえ、人にはある。

 だれかにむっとするとき、自分の中になにかがあるかもよ? って話ね。

 だけど主観的には、むっとしたり、どうにかしてよって思いは、だれかやなにかからの刺激を受けて、反射として生じるものだから、自分の中にはなにもないとして捉えてしまいがち。

 どうでもよかったらスルーしちゃう。

 街中ですれ違う人の顔のように。

 私は高等部に入ってから、たびたび男性を見ると反射的に身構える時期があった。ひとつは教授の襲撃。もうひとつは、会社を出たところでおじさんが詰問してきたとき。

 細かくいえば日常的に身構える機会はあったし、この生きづらさをどうしてくれようと思うことさえある。

 それがなければ?

 スルーしてたんだろう。

 初登校の帰り道にツバキちゃんが待ち構えていた。あれ以来、しばらく帰るときは気になったっけ。

 すれ違いざまにぶつかるクソ野郎とか、電車で妙に寄りかかってくる人とか、気鬱な場面は多い。

 そういうのがなければ?

 スルーしてたんだ。なにごともないのだから。

 そう。

 なにかがある。そうしてなにかをする。

 そこを考えずにだれかのせいにしていたら、そりゃあ簡単だよなあとも思う。

 事態はなーんにも変わらないから、問題はどんどん複雑に、多くの人を巻き込んでいくだけだとしても。

 それじゃだめだろって思うから、逆張りで私は「自分のせいになるのなら、自分にできる領域も広がっているってことなのでは?」と思ったし、背負い込めればいいのかなって思ってた。

 いまじゃ勘違いだとわかる。

 ひとりで済むのなら? 自己責任でなんとかなるのなら、集団も社会もいらないよなー。それで解決できるのなら。

 でも、そんなことはぜんぜんない。欠片もない。微塵もない。

 集団でできること、社会を形成することでできることが増えていくほど、変わっていく。

 いいことばかりじゃないし、時に悲惨なことさえ起こりえるし? きっときついニュースを探せば現在進行形で、膨大な数が見つかるんだろう。

 ひとりで済ませて自己責任だと、怪我をしたり病気をしたら、一から対処しなきゃいけない。できることなんて、たかがしれてる。私は薬を飲んでルナさまをなだめているけど、それもできなくなる。ひとりでそのままなら、だれと出会うこともなく、終わる。

 いやいやそこまで極端じゃねーからって条件を緩めた途端、前提が破綻する。

 それくらい、集団として、社会の中で暮らしている。上も下もない、という明言が大事なポイントでもある。

 ここまで並べると?

 やっぱりどうしたって、なにもないところから生まれるものって、なんなのかわからない。

 肉体があって、刺激を知覚できる力があって、そうして世界を感じる。当たり前すぎて勘定から外されがちだけど、でも、なかったことにはならない。

 病気をしたら? 健康さを思う。

 怪我をしたら? していないときの痛みのなさが恋しくなる。

 他者の刺激で自分はひとりではないことを知る。いいときもあれば、そうじゃないときもある。

 そうした刺激と反射と、そこから生じるものに対応していられないとき、元気がないのかもしれないし?

 たいへん。

 なにもないのはゼロか、はたまた起点か。

 生まれるというのはプラスか、あるいはマイナスか。そうした変動によるものか。それとも変化なのか。

 だけどゼロにせよ、起点にせよ、まったくの無というものがなんなのか。

 光や重力、熱やもろもろの影響を受けず、どんな物質も存在しないってこと?

 感情がフラットな状態を起点としたとき、上述した内容と一致する?

 そんなことはない。

 ってことは、つまり、どういうことだってばよ!

 隔離世での現象は?

 なにもないところから生じるなんてことは、ない。

 なにかがあるんだ。

 感情的なもつれかもしれないし? だれかやなにかに依存することで隠れた、自分の欲求かもしれない。ねじれた気持ちは自分だけだとなかなか気づけない。

 だれかがなにかに反応しているとき、鏡映しに反応する人を浮き彫りにしていることがあると感じる。だからついつい気になる相手に刺激を与えたくなる人もいるのかも。でも、それはやっぱりだめだ。

 攻撃じゃないぞ?

 歌うんだ。


「結局、私らでやるんかい」

「これ面白い素材だね?」


 衣装さんとメイクさんがせっせと整えてくれる。

 気がつけば私はタマちゃんがデザインしてくれた衣装でばっちり仕上がっていた。


「「 よし! いってこい! 」」


 ふたりに背中を押されてステージに向かう。

 マインドセットはばっちりだ。


『なにかがある。それを見つける。この二点だったな?』

『茶々を入れるな。やはりその装いがよいな!』


 タマちゃんは上機嫌。

 めちゃくちゃ久しぶりだ。

 この格好も。ライブも。

 きんぴかを歌うのも。

 ステージも白くて艶のある板が張られていて、なんなら立ち位置を示すテープまで貼ってあった。既にトシさんたちの楽器やマイクが置いてある。天幕はない。三百六十度、全方向を見られるタイプだ。それでも基本、正面は瓦礫の山。

 ステージの四方に柱を立てて、天井を作っている。そこに前のライブで使ったロゴが吊るされていた。他にも照明がズラズラズラと並んでいる。

 壁やシートで囲われて中が見えない舞台袖まで増設されていて中は椅子にテーブル、軽食とペットボトルの山がずらずらと。

 恐らくは増設に関わったであろう刀鍛冶のみんなに案内されるままに袖に入ると、トシさんたちが椅子に座っていた。

 みんな、しゃべらずに待っていたんだ。

 私が入ると一瞥をくれるけど、黙ったまま。

 ピリピリした空気。

 怒っているんだと思って、ことばを探す。

 見つからないし、ひとつしかないと思った。謝る以外にないじゃないかって。

 けど、私の逡巡のケリがつくより先にトシさんが鼻を鳴らす。ふんって。


「一曲だけってのは、なしだろ」

「――……え?」

「お前んとこのちびたちがいて、お前の学校の連中がいるんだろ? けっこうなギャラリーじゃねえか。なあ?」


 トシさんが振ると、カックンさんが「そうだそうだ!」とすぐに乗っかる。


「踊れる曲も作ったし、次のライブの前にがちでやっときたいっしょー!」

「そこまで演出かたまってないけどね。ツバキの仕事がどんなか、あの子に聴いてもらえるのが一番はやい」

「積もる話はあるけどな。やることは結局、いつも同じで全力だ」


 三人がそれぞれに促してくる。

 みんな、いいおとな! さすが!

 だなんて、思えない。

 笑顔だけど、こめかみピキピキしてるもの!

 ぜったいキレてるじゃん……っ!

 冗談なら言ってくれないと泣きそうなんだけど!

 冗談半分、本気半分かな。本気がゼロってことはないよなあ。

 ナチュさんがことばにして教えてくれたから、三人がそれぞれに私の休みや連絡不足でむむってなっているってわかってる。原因がある。

 だけど三人とも、ここで事前に確認するより舞台を選ぶ。

 あるいは――……もしや。

 私の顔みて、ここであれこれ話すのはいいやってなったのか。

 わかんない。

 聞いてみないことにはね。


「それで、いいの?」

「しけた歌はなしだ」


 トシさんはそれだけ断言した。

 ふたりはもう語らない。ただ、私の顔を見つめている。


『身体は冷えておらんか?』


 タマちゃんの呼びかけにはっとした。

 衣装着ちゃったよ! メイクもしちゃったよ!

 迂闊に汗かけないぞ? ウォータープルーフだとしても!

 お口の体操、柔軟、発声だけしとこっか!

 しけた歌はなし! なんでしょ?

 元からそのつもりだ。

 なにもないところから生まれるものって、なーんだ?

 そんなものって、あるのかな?

 答えのわからない問いだ。

 いまのところ、ない。

 もしかしたら今後、見つかるかもしれない。

 それを忘れずにいることにして!

 なにかがあるから生まれるものがあるのなら、そのなにかを探ることにするよ。

 三人が私と同じ舞台に立ってくれる。真壁さんとマロさんも来てくれた。会社の衣装さんにメイクさんもだ。他にもスタッフさんがずらずらと。

 みんなそれぞれに、なにかがあるんだ。

 大事な人たちの、そのなにかを大事にしたいなあ。

 見えないなにかは私とぶつかるものかもしれないけれど。

 私の気づかないなにかと相性が悪いかもしれないけれど。

 大事な人たちのなにかだからさ? 意識しておきたいんだ。

 その繋がりと輪の中に、胃袋さんをお迎えするべく歌うんだ。

 既に輪として繋がるカナタたちも見ていてくれている。


「そろそろお願いしまーす!」


 ナチュさんが呼びかけて来てくださったスタッフさんが声をあげる。

 追っかけて衣装さんもメイクさんも来た。

 隙間時間に袖にはけて直してもらえるし、助かるもの。

 あとは舞台に出て、マイクの前で待つだけだ。

 ぷちたちが、ピザを捧げ。

 幕が上がる、その瞬間を。




 つづく!

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ