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その刀を下ろして、帯刀男子さま!  作者: 月見七春
第九十九章 おはように撃たれて眠れ!
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第千八百四十一話

 



 ライブじゃないなら、ステージに出てリハをすればいい。

 ライブじゃないから、みんなが見ていようと気にせず準備をすればいい。

 打ち合わせて、セトリを確認して、機材を用意して、あれこれ動作のチェックをすれば?

 もうそれでいい、と私ひとりなら思っていた。

 けどトシさんたちが合流したら?

 そんな雑なことを許してくれるはずがない。

 真壁さんと綾小路さんも「だれも連れてこれなかったわ、がはははは!」って笑っていたけど、なんだかんだ映りがいい場所を確保して、照明だなんだとチェックしてくれる。

 ナチュさんは音響さんだのなんだの、人手を集めてきてくれた。

 おかげで脳裏を過ぎったよね。

 え。と。その方たちの今日の日当って、どうなりますかね? 会社が持ってくれるんですかね!? って。出してくれるはずもないかー。完全にオフだもんなー! あはは!

 真壁さんと綾小路さんの映像で一稼ぎするしかないのでは!?

 って、どういうやる気の出し方なんだ。

 事件現場で撮影したライブ映像、初公開! ドドン! って字面を考えてみて?

 一発で大炎上するって!

 ふきんしんだー! ビルの気持ちを考えたことがあるのかー! そんなことより仕事やる気あんのかー! 炎上ネタしか浮かばなくなったらもうだいぶ切羽詰まっていて、どんどんきつくなるぞー!

 ってね!

 なるね。なる。

 タイトルをつけるのなら、せめて「青澄春灯が事件現場に留まる幽霊を救ってみた!」かな。

 滑る未来しか思い描けないんだけど。

 映像を流したら、私がずっと歌っているわけでしょ? そばにいるファリンちゃんが転化をするのだし。ぷちたちがピザを捧げるわけでしょ。

 なにがなんだかわからないよ? 一般の人は。

 ただただ事件現場でわちゃわちゃしてるこどもたちと、学生たちと、いい大人たちが映っているくらいだよ?

 サメ映画のほうがよっぽど、何倍もかっこいいよ?

 空飛ぶサメをおじさんがチェーンソーでぶった切るんだよ? 意味わかんないけど、すごいでしょ! そっちのほうが!

 だめだ。

 配信で儲けるのはなし。

 ああでも終わったあとに、なにかこう、振る舞えるものがないと!

 やばい気がして仕方ないのは私だけ?

 え、でも待って? その場合、学校のみんなには? 侍隊の人たちは? あ、公務員だとだめなのかな? だとしても、いやでも、ほら。なんにもなしでいいわけ?

 おおう。

 ナチュさんにそれとなーくお伺いを立てたら「今度おしえるから、今日は心配せずに任せて。ちゃんと手配してあるよ。内訳は今日が無事に終わってからね」と言われた。か、稼いでいる人の発言やで……! あと手弁当でよろしくってことにはしてないんだとわかって、ほっとした。

 あ、手弁当っていうのは、報酬でないし、なんなら自費でいろいろまかないながら働くことみたいだよ? ただ、面白い意味と出会えるかもしれないから、念のため辞書を調べてみよっか!

 まずは新明解から。


『自分で弁当を持って働きに行くこと。〔他人(公共)の仕事のために、無報酬で働く意にも用いられる〕』


 括弧書きで記された公共の仕事のため、ってところがポイントかな?

 ボランティアって話。

 だけど日本じゃボランティアって無報酬でも、海外だと重要な業務ほどボランティアだろうとがっつりしっかりお給料が出るんだってね?

 お次は三省堂国語辞典より!


『自分で弁当を用意すること。また、その弁当』

『自分の経費は自分で負担すること』


 経費の自己負担かあ。パソコン仕事ならパソコン端末、必要なソフト。交通費とか?

 具体的になるのは助かる。経費は負担するけど、お給料がもらえそうだと期待するね? 無報酬とは書いてないからさ。これってなんだかバイトに似てるね?

 それじゃあ今度は、広辞苑!


『自身で弁当を持参すること。また、弁当代を自弁すること。また、報酬を当てにせず法師すること。手弁』


 おっと! 新明解よりも働く人にきびしい!

 報酬がなきゃ、働いた価値はどうなるの? なんだかきついなあ。

 最後に大辞林!


『自前の弁当を持参すること。また、その弁当』

『費用などを自分で負担して働くこと』


 穏当!

 だからいい、とは思わないけど。でもほっとする。さすが私の推し!

 逆に広辞苑だと「手弁当で頼むよ」って言われたときに身構えるための知識になるね?

 報酬を出さないけど、奴隷のように働いてくれるよね? って感じだもんね。

 仕事の内容によるかなあ。

 災害が発生したときの救助活動や手伝い、だれもが首が回らない状況での行動。利益に繋がらない公共性が高く、けれど国の動きが鈍いか、ぜんぜんアプローチできていない領域での福祉活動。

 いや。国側が福祉でやるのが本道なんだけど。大きな予算をもって動くんだけど。だからこそ公共性を優先するし、なんなら利益は求めないのだろうけど。

 間に合わない状況下で、いまできることはないかっていう、そういう話に限るのかも。

 これが公共とは関係ないお仕事だと?

 断固、NG。断るのがいい。

 仕事として買いたたかれると、同じ仕事をしている他の人もまた買いたたかれてしまう。

 それは悲劇だし、暴力だ。

 青天を衝けで、栄一たち血洗島の百姓たちの大事な大事な銭を、その地のお偉いさんが「集めよ! そして差し出せ!」と無茶を言う。栄一は一度は反発したけれど、結局は差し出すことに。忸怩たる思いで渡したけれど、やりきれなさに嘆願した。しかし、頭を垂れて訴えたことばは、ひとつたりとも聞かれちゃいなかった。

 みんなが幸せになるのがいいって、栄一のお母さんは教えてくれていた。

 だけどまつりごとは、自分たちさえよければいいみたいな振る舞いをしているようにしか見えなかったんだろうなあ。

 どんなにささやかな労働であっても、しっかりとした報酬を。

 それを実現するのは簡単じゃあないけれど、でも、忘れちゃだめだ。

 たとえば、いまこの場に十人を軽く超える人数のおとなが駆けつけてくれた。

 彼らに支払う報酬に見合う額って、おいくら?

 おとながひとり、がっつり働く。技術を活用してもらうことになる。

 今日一日で、一万円と考えると?

 人数かける一万円で、けっこうほくほくな収入を得ることができてる私でも「う、は、吐きそう!」ってなるような出費になる。

 でもね? 一日、人が働くのなら? それも専門性の高い技術だときちんと認める器量を私が持てるのなら? 一万円でも、だいぶ買いたたいちゃっている。

 最低賃金ひくすぎ問題が社会にはあるそう。だけど、そもそも物価が下がっている状況で最低賃金をあげると「もう雇えないっす!」となるくらい、きつい企業もあるとか、ないとか。

 働くつもりになれないくらいの低賃金で、だけど働き手が必要で、海外から技術習得に人を集めては、そういう現場に回しているなんて話も聞く。

 勉強になるから。

 経験になるから。

 箔がつくから。

 そういうの全部、方便だ。

 代わりがいる。これくらいできなきゃだめ。みんな、こういう時期を乗り越えている。

 こういうのだって、結局やっぱり、方便だ。

 いくらでもあるよ、この手の文句は。

 人を分けて、下げる。こうあるべきだと抑圧して、買いたたく。

 そもそもが買いたたくのだから、育てるとか、教育も含めて環境をよくしようとか、もうそういう段階じゃない。目の前のことでもう、いっぱいいっぱいだ。

 末端で買いたたいているだけでも悲劇だけど、全体が末端に向かってどんどん買いたたく構造になっていたら? もはやそこは地獄だ。

 価値で語った文脈だけど、でもお金だけに留まらない話でもある。

 いろんな軸で捉えていかなきゃってこと。

 お金はたくさんあるうちのひとつだ。

 ひとつに過ぎないとはいわない。どの軸もみんな大事だ。

 困らなければ言えるのかも。お金が大事じゃないとか、一番じゃないとか。

 それは愛だの恋だのでもそうだし、人恋しさでも、自己承認でも同じじゃないかな?

 生きるときにほしい土台。

 巻き時計の台座なのかもしれないね?

 台座がすかすかじゃ、どんなに歯車を足しても、巻こうとする時点でばらばらになっちゃうかも。歯車を止める軸とか、柱とか、そういう骨組みにさえ関係しそうだ。

 ちなみに私ね?

 すっかすか!

 ナチュさんがいてくれて、ほんとに助かった!

 まあ、みんなを呼んだのもナチュさんだけども! それはそれ。

 しっかりしたクオリティの高いステージにできそうだ。

 ルルコ先輩が会社を興したけど、最初から台座がしっかりしてるわけじゃないよなあ。

 苦労してるもの。

 自分自身をふり返ってみても? やっぱりそう。

 孔子の論語、第二の為政。二の四より。

 子曰く、吾れ十有五にして学に志す。三十にして立つ。四十にして惑わず。五十にして天命を知る。六十にして耳順う。七十にして心の欲する所に従って、矩をこえず。

 孔子によれば十五歳になったときに学問をする決意をした。三十歳になって、学問的に自立した。四十歳になって迷わなくなり、囚われなくなり、五十歳になって己の使命を悟った。六十歳になって、異なる意見を聞いても反発せずに聞くことができるようになり、七十歳になって心の求めるままに振る舞っても規範から外れないようになった、のだとか。

 いやいや待ってよ。

 そんなにかかるのぉ!?

 孔子の生きた時代といまとじゃ多くのことがちがうだろうけど、それでもいろんなことが同じだろう。

 ただ、途方もなくない?

 トシさんもナチュさんも、高城さんにカックンさんも、真壁さんに綾小路さんだって、メイクさんや衣装さんさえも「いやいや。人間そんなにできてないから!」って、だめなところを自覚して生きてる人たちばかりだ。

 ただ、そうじゃない大人もけっこういる。

 自分ですか? ええ、ええ。問題なく、しっかりやってますよ? なにかありました? 自分には関係ないと思いますが!

 みたいなの。

 私もそっちに向かってるとこある。

 折に触れて、いろんな場面、いろんな状況が「いやいや! そんなもんじゃねえぞ?」と教えてくる。私たちにはできないことがざらにあって、ひとりじゃ無理なことばかりで、土台だってしっかりしているように思わせてくるときほど、そんなことないぞって備えて動いたほうがいいんだってさ。そう痛感することのほうが増えてきている。悲しいけど。

 なので大事なたくさんの軸にしたって、ね?

 たとえば、お金。

 稼ごうと思ってやったらできないことって、ざらにある。投資や新規開拓のための挑戦という筋道もあれば? 実際、ただただ搾取されてるっていう構図もあるから、一概に言えないだけ。その曖昧さが「勉強になるから」や「いい経験になるよ」に、信ぴょう性を感じさせる、ような気がするだけ。

 状況を見て行動を。

 昭和元禄落語心中のアニメ版で、私は菊比古が助六に誘われてやった舞台の場面がすごく好きだ。若手を集めてやるお芝居。菊比古が一皮剥けた、あの一幕に喜びが詰まっていて。

 私たちがあれをやるのなら?

 お客さんの入る小さな場所を借りる。お金を払って。

 座席を埋めたい。高いと厳しい。けど安くしすぎるのも厳しい。せめて場所代くらいは稼がなきゃ、もっともきつい意味での手弁当になる。集まった演者や舞台裏の黒子、お手伝いの食事代が出るとうれしい。ギャラまで稼げたらラッキーだ。

 そこから始めるのなら? 自分たちで負担する額が増える。赤字が当たり前。

 行なうために自分たちが失う。

 そういう状態なのだしてだれかが買いたたいてくるのと、自分たちで決意して積み立てていくのじゃまったくの別物だ。

 おまけに報酬にせよ代金にせよ、安売りかつかつせかせかよりも、きちんと値をつけてしっかりのほうが気持ちよく働けるという話のほうがよく聞くよ?

 尊重しあえるラインを見誤ると、どんどん苦しくなる。

 だからこそ買いたたいたり、支配的に感情を搾取してくる相手には関わるなって話になるんだけど。

 そう。

 お金の話をしたけど、それだけで留まる話ではない。

 気持ちの面でも一緒。

 仕事だから、とか。こういう立場だから、とか。

 そういうことばで言い訳をして、ふたをすることで気持ちを麻痺させて。

 仕方ないと区切るのは、なしだ。

 ライブをする。いろんな人たちと。

 私ひとりじゃできないことをする。

 ずっと前から、そうしてきた。

 はじめてのゲリラライブでさえ、そうだった。

 それでもライブは不思議だ。

 やる側だけじゃあ、まだ足りないんだ。

 たくさんの依存の糸が繋がっていくほど、華やいでいく。活気づく。

 人の営みって、だいたいそうじゃない?

 糸が少ないほど、減ってしまうほど、きつくなる。それじゃ時計も回らない。時計そのものの数が減るばかりだし。回せなくなっていく。

 ライブはみんなとたくさんの時計を回すイベントだ。

 いろんなものが動いていく。

 ぷちたちとの生活にしたって一緒だ。

 なんにせよ、土台を育てていくターンって、あるよなあ。

 土台を育てる栄養の軸となるものは、あればあるほど、回していく。そのほうが循環していくからさ。

 ミコさんはルルコ先輩を手伝ってくれている。社長は私を雇って、あれこれ仕掛けてるし? トシさんたちと引きあわせてくれた。

 そうして土台が育つほど、大きくなるほど、増えるほど?

 時計が確かな時を刻みだす。

 画面の中のおじさんたちは自分、そして関わると利益が得られる人たちと手を組んで、ダシに使える人の利益をごっそり持っていくのが王道みたいに言うけどさ。

 いや、そうじゃないでしょ。

 みんなでうれしいのが王道じゃない?

 だから仲間はずれはなし。

 協力しあうぞ?

 わかってんのか! 私!

 開き直って真壁さんたちの元へと駆けていく。

 あまり事情も把握せずに、なにか面白いものが撮れると見込んできたみたいだから説明して、尋ねてみた。どうしようって。


「そんなもん。キミから見たら困ってるこどもがいるってことだろ?」

「いや真壁さんさあ、こどもじゃあないんじゃないのかい?」

「でも、てめえでどうにもできないで困ってるからって、なんにもできねえのはこどもだろうよ。そこに青澄春灯が歌うっつうんだろう?」

「こどもたちがピザ持ってってね」

「しかも持ち歌で! どうか呼びかけて、なにかできることがあったら教えてって! そんなもんはさ? 引っ張り出して、泣いてたらよしよしするし、腹すかしてんなら飯を食べてもらえばいいし? とにかく寂しいんだってんなら、抱き締めるなりすりゃあいいんじゃないの?」

「雑じゃないのかい?」

「知らないもの。奇妙な場所がうんたらかんたらって、さっぱりわかんねえよ。マロさんわかるのかい?」

「――……そうこられたら、わからないって言うしかないけどもぉ」

「じゃあ、やりたいようにしてみようよ。わけわかんないけど、なんかやるってんだから! 俺たちはそれを撮る! 使えるか使えないかはあとで悩むさ。だれもよくわかってないから、警察の連中だって動けないんだろ? で、その警察が我らが青澄春灯に歌わせるってんなら? 俺らはそれを撮る!」


 空中にゆっくりとチョップをお見舞いしながら、真壁さんは断言するんだ。


「ぐちゃぐちゃ考えてないで、いいライブ見せてよ。それだけが俺らに唯一わかってる見せ場だ」

「あーそれは言えてるね。迷うんならもう、精いっぱい迷いまくればいいんじゃない? それをこれまで撮ってきたんだし。なんとかなるでしょ」


 綾小路さん、あだ名はマロさんまでもがしれっと乗っかる。

 私よりもやることをばちっと決めてる。

 呼び出した人たちみんな、なにかが出てきても守れるようにうちの学校の人たちや侍隊が見ていてくれている。


「春灯ちゃん、こっちこっち!」

「そろそろ準備させて!?」


 メイクさんと衣装さんが呼びかけてきた。

 いまはスーツを身につけているから、衣装さんとはどんな格好にするか相談する。

 注文があったら、衣装さんの指示に合わせて変えていく予定だ。

 メイクだってそう。だけど私がやるより、ふたりに頼ったほうが仕上がりが抜群なのは言うまでもない。

 しみじみ思う。

 ひとりじゃできないことをするんだ。

 話していかなきゃ進まないなあ!

 世界が閉じちゃうばかりだ。

 よく聞いて、よく見ていこう。

 自分が自分がでも、相手が相手がでも、ままならないばかりだ。

 ひとりじゃできないことってさ?

 自分だけじゃない。相手にとってもそうだ。

 そりゃあ、言うわけだよ。

 みんなうれしいのが大事だって。

 自分やだれかにできることが増えると、みんなでうれしくなることが増える。

 正直に白状するとさ?

 歌うようになって、仕事に繋がって、アルバムが出て、大きな場所でライブまでやって、かなり有頂天だった。心がどこか追いつかなかったけど、それでもやっぱり思ってた。

 これってすごくない? 私やばくない?

 言うには自信がなかった。信じられないところもあった。

 それでも私なりに、浮かれてた。

 だけどいまならわかる。

 私が実力だと思っていたものってさ?

 運のうちだ。

 たくさんの人たちと出会ってさ? 一緒にやれてるこの縁と巡り会う運が、私にいろんな体験と出会わせてくれた。

 それを私の実力と思うだなんて!

 待て待て!

 私のものじゃないんだぞ?

 みんなのものだぞ?

 それってさ。

 つまり、もっともっと広げていけるってことじゃない?

 みんなの輪を、どんどん大きくできるってことじゃないのかな?

 なら、繋いでいくぞ。

 胃袋さんが相手でも迷わずやるぞ?

 待っててね。

 一度だけ瓦礫の山に目線を送ってから、急いで身支度に向かう。




 つづく!

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