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その刀を下ろして、帯刀男子さま!  作者: 月見七春
第九十九章 おはように撃たれて眠れ!
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第千八百二十八話

 



 みんなの要求に応じて、いろいろと試してみた。

 誰の得になるかはわからないけど、白粉にお歯黒まで再現できたし?

 メイクのバリエーションは豊富で、ハリウッドばりの特殊メイクまでできた。

 ただし私の願う気持ちがすこしでも弱まると? 途端に消えてしまう儚いもの。

 それは衣装においても、靴においてもそう。

 ふたりによれば匿名希望の元教授から渡された触媒となる宝石を軸に、八雲さん一門や教団の技術も、ファリンちゃんの組織や一年生の錬金術師さんたちの技術も取り入れて作った一品なのだという。

 八雲さん一門ということは理華ちゃんが緊張関係にあるマオちゃんや、お騒がせ男のウィザードことマドカのお兄さんまでも含まれる。匿名希望の元教授に至っては、もうね。

 かつて敵だった存在や、現状ではどんな人たちなの? っていう存在まで、みんな含めて一心になって作りあげられた新技術。

 宝石スーツ? これだと直球すぎるし、宝石は触媒でしかないし、なによりださいので、仮の名称だ。あくまでも。

 お試しでシャチの着ぐるみを出してみたり、右手にドリルを装着してみたりしたけど、ひと笑いし終わったらすぐに消えてしまった。それほど私は望んでないみたいだ。

 制服にしてみたら、ジャージと一緒で維持できた。

 みんなは大いに不服そう。ライブのときの衣装とか、ゲリラライブのときの格好とか、もっといろいろあるじゃんと言われてしまう。

 んー。なんだろ。

 いまはこれが一番しっくり来るし、これを望んでるんだけど。

 なかなかうまく伝えられない。

 言葉が見つからなくて。それを伝えるべきかどうかもわからなくて。

 曖昧に笑ってごまかして、ユメや、衣装遊びにつられて出てきてはしゃいでいたぷちたちを尻尾にのっけて、ビルの外に出る。

 釣り竿作戦は中止。私の金色を使って作ったワイヤーはなくなっていた。釣り竿をつけた車は横転していて、見るも無惨な有様だ。ミラーは取れて、ガラスはヒビが入っていたり、割れていたり。車体も至るところが凹んでしまっている。

 ビルの瓦礫の山に向かって、コマチちゃんたち水神系の御霊を宿した人たちが刀から水を放出していた。そばにずらりと並んだ刀鍛冶のみんなが、水に手をかざしていた。みんなが水の軌道を操り、瓦礫の山にふたをしている。いまは小康状態なのか、放水はわずかに、ちょろちょろと。水のふたに変化があるようには見えない。

 霊子を吸うなにかがある。直感的に私は胃袋のように感じたけど、それは瓦礫の山の底にある空間についての話。瓦礫の山は、胃袋に霊子を送り込むために吸いまくる掃除機のよう。あるいはこうも言えるかもしれない。口のようだと。

 水は水神系の御霊を宿す侍候補生のみんなの霊子でできている。だから必然的に口は水を吸うものだとばかり思っていたけれど、そのわりに減りがあまりにも少ない。どうしてだろう?

 わかんない。

 ただ、あんまりいい循環がない。

 そこに自分を重ねる。

 たとえ疲れることさえ含めるとしてもさ?

 好きになれること、元気になれることの足し算をしてかないと、好きにはなれないし、元気にもなれない。身体の状況を踏まえるのは大前提としても、ほどよく運動すると? くたびれるけど、ちょっと元気でる。

 体重計や社員食堂が話題の企業のホームページに健康のつくりかた、カロリーの解説がある。そこにはさ? カロリーはエネルギーの単位であること、脂肪一キロを消費するにはどれだけのカロリーが必要であるかが説明されている。

 そこの説明によると?

 脂肪一グラムは九キロカロリー。なので、一キロの脂肪を消費するには九千キロカロリーが必要になる――……かといえば、そうじゃないらしいよ?

 人間の脂肪はすべてが純粋な脂肪というわけじゃなくて、八割は脂質だけど二割は水分や、細胞を形成するいろんな物質で構成されているのだそう。

 なので、それを踏まえて計算すると、脂肪一キロを消費するために必要なカロリーは約七千二百キロカロリーほどになるそうだ。

 一ヵ月で一キロを落とすなら? 必要なカロリーは一日あたり、二百四十キロカロリー。

 毎日二百四十キロカロリー分、多く消費するか。はたまた、摂取を抑えれば? 一ヵ月で一キロの脂肪が減る計算になる。

 いまの一日の営みに足すか、減らすか。

 よく食事を我慢したり、食べないことで摂取カロリーを減らしてダイエットしようとしがちだけど、運動して消費カロリーを増やすのと違って運動を足さない分、栄養不足に陥りがち。飢餓感は身体に毒。かといって短絡的に運動すればいいっていうのも雑。

 運動不足だと、急に無茶な運動をしたら? 怪我をするかもしれないし、身体を壊してしまいかねない。

 ゆっくりゆっくり、徐々にね? こつこつ積み重ねていくのがいい。

 けどそれも簡単な話じゃない。

 生活習慣は、心身のみならず環境にも強く依存する。

 学校や会社で心身ともにズタボロになるか、帰った家が地獄か、あるいは両方だったら? とてもじゃないけど、足してはいられない。減らしてもいられない。でしょ?

 サイトの記述によれば運動だとウォーキング約五十分、ジョギング約二十七分程度が、一日二百四十キロカロリーに相当する。なお、三十から四十代の身長一七一センチ、七十キロの男性の場合だ。

 そのまま想定してみると?

 朝、二駅から三駅ほど歩き、そこから電車に乗るようなイメージかな。

 どう? 毎日できる? 心が折れずに続けられそう?

 私は無理。

 あるいは帰りに二駅ほど手前で降りて、ダッシュでうちまで帰るとか?

 それもやっぱり無理。

 まず街中でジョギングしながら帰っている人を見ない。

 皇居ランナーが増えていると聞くけど、休み時間とかお昼休みにさくっと走る?

 うーん。昼食はしっかり取らないと午後、頭が働かなくてぼーっとしちゃわない?

 それはまずくない? ね。

 なので実は一ヵ月に一キロ減らすのってきつい。

 生活習慣と、生活環境の土台がしっかりしてなきゃ、そうとうしんどい。

 尚且つ、学校か仕事でなにがあっても続けられるくらいのタフさが欲しいくらい、ハードルが高いものだ。

 いまじゃ貧者が太りやすく、格差が生じて富める者が健康志向な印象があるけれど。ハイカロリーで安い食べものが増えたという話も聞くけれど?

 貧困や孤独は強烈なストレスを与える。抑圧されて、心が参るとき、食事に影響が出る。めちゃめちゃ食べるか、ぜんぜん食べないか。前者とハイカロリーがタッグを組んだらどうなるか、結果は想像するまでもない。

 そういう状況下でこつこつやれだの自己責任だの、まさか言えるはずもない。

 いきなり無茶はできない。

 ほんとに、ちびちびと。

 クリミナル・マインドで見た崩壊した家庭環境だの、あまりに冷徹な状況に囚われていたりだのする、きつすぎる人生のパターンは多様で、数えきれない。

 みんなそれぞれに、なにかしら、あるよなあ。あるかもなんだよなあ。

 だから、やっぱり言えない。

 あの瓦礫の山の下にある空間のなにかもそう。

 きついことは言えない。言えるはずがない。

 それぞれにまったくちがう前提と文脈の中で、多様な天国と地獄と、その狭間を眺め、ときに行き来している。

 私自身もそう。ぷちたちも。カナタも。シュウさんだって。キラリにマドカ、トモやノンちゃん、みんなもそう。教授にウィザードも。罪と罰は別にして、そう。

 循環のえぐさもね。たいへん。

 私は足せている?

 自信はない。自分を好きになれてない。なにをやっても、どこかで一歩を踏み切れない。

 すっごく単純な話、好きだわーって思えることをすればいい。

 でもそれってなに?

 さっぱりわからない。

 ところで一キロを一ヵ月かけて落とすとき、運動だと? ゆるぅく運動習慣を身につける。初心者レベルで。あるいは超初心者レベルもいいね? いっそ超々初心者レベルからかも? 焦らず身体を動かす。最初は週に二回でもいい。毎日やりたいなら、ほんとに軽めから。

 食事を減らすとお腹が減るし気持ちも滅入るけど、運動習慣の経験値あげなら? 代謝があがったり、体力や筋力がほんのりあがったりする。

 こつこつ続けられて、モチベがあがるやり方は様々。

 かといって万人に等しくいいやり方っていうのは、なかなかねー。

 いいことなんだからやれよーって言って済むのなら、いまごろみんなすごい勉強してて、かなりのお金持ちになってるんじゃない? でも、そうはならないわけでさ。

 無理なのよ。それじゃ。ちっとも具体的じゃないのよ。祈るというか、呪うようなものなのよ。意味なく呪う。刺激されて怒る人がいるかもしれないし、やめとけって話。

 それでも呪う瞬間がある。

 ひどい目に遭うと。

 こんなはずじゃなかったって。

 むしろいい体験をしてから突き落とされると、余計にね?

 呪ってしまう。

 自発的にそれを止めるのは、かなりむずかしい。

 振り切れない。呪いのベクトルのままに、騒ぎ荒ぶるイマジナリーモンスターと一緒に感情的になってしまうことのほうが多い。

 それはだいたい、自分に溶け込んでいる。自分そのものとして振る舞う。

 感情かもしれないし、心に生じる刺激かもしれない。認知かもしれないし、認識なのかもしれない。

 私を好きになれないのも、私が自信を持てないのも、結局は私次第。

 けど足場となる習慣や環境としての土台を立て直せなきゃあ、だいぶきつい。

 おまけにそれらは私ひとりじゃどうにもならない。そりゃ、遊動民時代で孤高の旅人だったらちがうかもしれないけど、もう何千年も前からそういう時代じゃないんだよね。

 ただ呪いは私の目についたウロコ。シナプスがやべえのに繋がってる感じ? 知らないけど。まあ、ほら。とにかく歪んじゃう感じ。

 呪いがあると認めて、受け入れて、それでも自分を許せてはじめて、見えてくることがある。みたいな? ハリウッド映画の教会の神父さまみたいなこと言うとしたらさ?

 呪いを探り、自覚的になろうとするパートが一番きつい。

 負荷がかかっていたり、抑うつされている環境にいたら? やめとけ! ってなる。

 潰れてしまいかねない。

 安心できる安全な環境があればいいけれど、それが一番の難題ということもある。

 時代によっちゃ、地域に住む人の大半が得られないものにさえなり得る。集合して国をっていうなら、その利点は少数の利益のための大勢の犠牲ではなく、みんなが安心できる安全な環境作りじゃない? とさえ。

 このあたりにも?

 呪いはある。叶えたほうがいい面があるとしてもね。

 切り離してさ。自分でできることはないか、こつこつふわっと自分のペースでやりたいことはないか考えてさ? 行動できたらいいけど。

 むずかしいんだよねー。

 自分のことなんだ。どれも。

 だけど感じ方を変えるのも、考え方を変えるのも一朝一夕じゃむり。

 高等部に入る前の私の体重、サバを読んで四十キロ! そのぶんだけ、いまの私に脂肪としてひっついたとしてさ? カロリーを消費して減らそうとしたら、どうよ。一ヵ月に一キロ減らすので毎日ジョギング二十七分程度。それを四十ヵ月も続けられるかな?

 だから無理だって!

 それくらいのレベルの難易度なんだ。

 つまり、どえらい時間がかかるってこと。

 冷暖自知。

 冷たいか暖かいかは、触れてみなけりゃわからない。

 体験しなきゃわからない。

 冷暖、おのずから知る。

 やる前に考えてもわからない。やってみなけりゃ、ね。

 恋愛とは相性の悪そうなことばだね! 特に片思い!

 どえらい時間がかかるとして。

 さあ、超々初心者レベルの私にできることは?

 あるいは、私並みに超々初心者レベルかもしれないし、もっとやばい初心者かもしれないし、それか仮に私よりましな初心者レベルかもしれない、瓦礫の山の下にあるものにできることは?

 なんだろう。

 思いつく?

 さっぱりだ。

 決まり切ったもの。当たり前だと思っていること。

 それさえ現実はいくらでも揺さぶってくる。なくても当たり前だと感じる状況さえある。

 かくあるべしよりもっと、こうあるべきよりもっと、こんなのひどいって状況のほうが多くない? 共通項に貧困や孤独の割合が多いとしてもさ。

 いまの仕事の状況だと、とか。なにかが起きて失ったら、とか。前に体験した孤独な時期に戻ることになったらいまより呪いが強くなるぞ、とか。そういう不安があってもさ。

 それもやっぱり、自分のことなんだ。

 ああ。

 どれだけながいこと、私は自分のことだけで精いっぱいになってたんだろ。

 ずっとかな? あり得る。

 マジでそれくらいの初心者レベルだとみておこう。

 あなどるなよ? 私のだめっぷりを!

 シュウさんのそばに侍隊の人たちが集まっていた。無線機を利用して連絡を取り合っている人も目立つ。マドカたちも、学校の先生たちも別に集まって話しあっている。

 軸はふたつ。倒せるなら、その方法は? 倒せないなら、どうすればいい?

 でも、もっとずっと根源的な話なんじゃないかな?


「まだ、お腹すいたって聞こえる?」


 尻尾にひっついているぷちたちへとふり返ると?


「まずいのはもうやだって」

「くさいのもー!」

「おいしいものが食べたいって!」

「じゃなきゃお祭り気分にはほど遠いって言ってるよ?」

「さっきよりもつらそう……」


 だってさ。

 いろいろあったけど、共感してる。

 なんとかできないかなって顔して私を見てる。

 まっずいお水を飲ませちゃったしなあ? 吐かせちゃったしさ。

 やっぱりここは、お詫びも兼ねて?


「真っ当にご飯をつくるか! 腹ぺこさんがいるみたいだし?」


 制服を叩いてエプロンを出す。

 両手を擦りながら、岡島くんたちを探す。

 料理をしよう。

 おいしくて、お腹いっぱいになれる料理をめいっぱい用意しよう。

 みんなで食べる。仲間はずれはなしだ。

 神水もいっぱい用意してもらえたらラッキーだ!

 歌うにせよ、躍るにせよ、お腹が満たしてからにしよう。

 気づけなくてごめんね。

 気づこうとしなくてごめん。

 飛び込む前にぷちたちが答えを教えてくれていたのに、受けとめられなくてごめん。

 優しさよりも易しさを選んでごめん。

 ご飯を食べよう。

 これから作るからさ。

 きついとは思うけど、お願い。

 もうちょっとだけ、待っていて。いまから仕掛けるから。




 つづく!

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