第千八百二十六話
決意を。
選択を。
ぷちたちが抜け出そうとしている。空間に金色が削がれていく。そばに見えるワイヤーの千切れた繊維の割合が増えていく。
マイクでどんなに歌ってみせても、逼迫した状況に心は怖がり、そのたびに狐火は消え、金色は減る。心がくたびれるほどに「どうしよう」と頭の中がいっぱいになっていく。
私が愚かなのは、別にいまに始まったことじゃない。
ストレスがかかると人はいくらでも頭がいっぱいになるよ?
ある軍人さんが言っていた。
『戦場は退役軍人にとって麻薬のようなものだ』
負荷に見舞われると、それは生半可なことじゃ治せない。
戦場を体験した人が飲酒や薬物に、あるいは戦場に戻ることに依存する傾向があるという。
日本はどうだったんだろうね? 国がどうこうじゃなくて人としてみるのだし、そこに国のちがいなんてないのだから、やっぱりすごく大変だったんだろうなあ。
私は。いま、頭が「やばい」で埋めつくされてきているのに、笑ってる。
ハッピーだからじゃない。四の五の考えずにいられるからでもない。
誘惑されているから。
歪んでる。
選択の根っこに、拭いがたい引力を見つける。
どれほどたいへんであろうとも、易しさではなく優しさを選ぼうとしつづけてきた。その文脈の根本にある、易しく済まして、済まされて、傷ついたときの痛みから生じる「くそったれ!」っていう苛立ちが訴える。
本当は自分を脅かし、自分に優しくないものすべてを攻撃して、支配したいんだろ? って。
対話なんかくそったれ! 私をモノ扱いしたすべてを屈服させて、思いどおりにしたいはずさ。
そう、訴える。
甘美な提案だ。
なぜなら、あまりに易しいからだ。
否定する感情も、選ぶべきではない理由も、知識も、感覚も、それに技術に歴史も。
学んできた。易しさが人の心をどれだけ破壊するのかも。
それでもなお、訴える。
私の心は陰陽太極図ほどデザインできない。できるはずもないけど、それにしたっていまは真っ暗だ。引きずられてる。
とっくの昔にいかれちゃってるのかもしれない。
ぷちたちをこの場に出すなんて!
みんなならなにかを見せてくれるんじゃないか、なんて。
どうかしてる。
どうかしてる!
主に、情緒が!
ぷちたちが盛りあがる理由なんかないぞ? 私の歌で? それだけじゃ説明つかなくない?
変だ。
私もだいぶヘンテコな自覚はあるんだけどさ?
それにしたって、ね?
ビビりすぎて、だいぶ無理してない?
撤退のタイミングをとち狂って見逃してない?
「出てきちゃだめ!」
「「「 えええええ!? 」」」
尻尾ケースを引き上げる。
みんながブーイングの声をあげるけど、いまは無理。
やまほど出した狐火を消す。反応は得られなかった。すくなくとも現状では。
ワイヤーの先にまだつかない。
なんとおばかなことか! 狐火だなんだとがんばった結果、気持ちがだいぶめげてる。
いますぐにでも戻るべきだ。
我に返って尻尾ケースの先に続いているはずのワイヤーを見た。
左右に揺れている。途中で千切れたワイヤーが見える。
そばにある極太なワイヤーでさえ傷ついていたのに、私のワイヤーが無事でいるはずもなかった。さっきここにいると粘った時点で切れたのかもしれない。キラリたちをとお願いした伝言は無事に届いただろうか。極太ワイヤーから千切れて飛び出た小さなワイヤーの数々を見ていると正直、疑わしい。
まだ手はある。
グローブ越しに金色を出して卵に化かして、それを触媒に転化する。
そばにある極太ワイヤーをくくる輪っかに。それには降りてきたほうへと戻れるよう、輪っかには縦に回転するちっちゃなドーナツをずらっと並べておく。あとは、ドーナツをごろごろ回せば? 上に戻れるって寸法!
持ち手をつけて、それを握りしめる。あとは稼働させるだけだと思ったら、見る見るうちに溶けて、ぐずぐずになって消えてしまった。
ピノキオの例えを出したの、いま思えばフラグかも。
「あ、あは、あはははは……こ、ここって、もしや胃袋の中なのでは?」
吸引力の先には胃袋空間が広がっていました、とか?
金色の膜がだいぶ薄くなっている。急いで補充を試みるものの、いままでと比べて明らかに輝きが弱く儚い。なにより脆そうだ。
詰んだ!
さっきまでの無茶が露骨に響いてる!
いや、でも待て!
まだ手はある!
輪っかを金色で包めば、すこしはもつんだ。
どれだけ落下してきたかもわからないのに? いつまで金色がもつかもわからないのに!?
なんで私ってば、あんなことを!
やばい状況に陥ったら? 身を守る術として、つぼみでいるってこともあるんじゃないの!?
ど、どうどう!
粘りを見せろ、私!
まだ手はある!
無垢刀を胸から引っこ抜いた。だれかの力を借りるのだ!
トモの力を借りて、超速ダッシュか、超速よじ登りで逃げる? その間、溶けずにいられる?
わからん!
キラリの星を出して、それに乗っかって飛んでいく?
いやだから、バリアが欲しいんだ。いまはまず。
「これじゃいままでと一緒じゃん!」
「ママ、やだよ! こんなの!」
「出して! だせええええええええええ!」
尻尾のもこもこケースの内側で、みんなが叫ぶ。怒鳴る。
だけど私はびびり散らかしている。おかげで余計に焦る。
わかってる。たしかにこれじゃ、いままでと一緒だ。
やってみたら、だめだった。だからやめる。
窮地だ。ここに留まったらなにが起こるかわからない。怪我するだけで済むとも思えない。だから逃げるのは選択肢として、大いに検討するべきものだ。
ああ、それだけど。いきなり逃げの一手に方針転換していいものか。
みんなはNOだと叫んでる。
閉じ込めようとする私に。やってみてだめで、とっととやめちゃう私に。
「ええい!」
無垢刀を額に当てて、深呼吸。
腹をくくれ!
「カンガルーさんじゃないから、ママはみんなが尻尾にいてくれないと怖いの! でも、みんなのお願いがあるのなら、できるだけ聞きたいの!」
ただ。
「あんまり長くはいられない! ここは危ないんだ!」
「「「 だから出して! 」」」
「いやいや!」
え。ん!?
「はい!?」
「ママにはぷちたちがいるよ!?」
「おそとにみんないるよ!?」
「ママだけじゃわからないんだよ!」
な、ええ!? なにぃ!?
どういうことぉ!?
頭がバグりそうになるけど、必死でかみ砕く。
「つまりどういうこと!?」
これが限界だなんて! 私の余裕なし!
「ぷぁ!」
尻尾の付け根がもぞぞっと蠢いてむず痒い。
だれかが抜け出た。あわてて片手で押し込もうとするけど、抜け出た子は器用に私の背中をよじ登って、首裏から後頭部にがしっと抱きついてくる。それで、だれが出てきたのかわかった。
「ユメ、戻って!」
「だめ! まずはママが聞いて!」
獣耳のすぐそばで叫ばれるときくぜ……!
「ゲームでみたって。鏡をいくつかだして、そこに光をだすの」
「きらきらがぶつかると、反対にのびてくんだよ?」
「ママひとりでも明かりが増やせるよ?」
お、おぅ!?
「キャンプのアニメでみたって。木をいっぱいだしてもやすの」
「狐火いっぱいださなくても、火がめいっぱい燃えるよ?」
「ワイヤーから枝をいっぱいのばして、そこを燃やしたら?」
「でっかいキャンプファイヤー!」
「ぜったい明るくなるよ!」
な、な、なんですと!?
「太陽のお姉ちゃんの御霊を借りたら、アマテラスさまの太陽をつくれる」
「でもぜったいママくたびれちゃう」
「つくるのにも時間かかっちゃう」
「ほら、いっぱい手があるよ?」
みんなが口々にアイディアをぶつけてくる。
「それよりいいのがあるよ。ママ、お歌を歌って、みんなの願う明日を鏡に映してた」
ユメが訴えてくる。
去年の生徒会長選挙で、ノンちゃんたちとやったことだ。
全校生徒を相手に実現するのだから、情報を集めまくり、大量の鏡を霊子で作ってもらって、そこに願いを映し出した。ひとりじゃできないことだった。
「ここには、いっぱい霊子が溢れてる。ママの金色で手を伸ばして。握手できる霊子から、願いを形にするの! ユメが、みんながしてほしいことなんだよ?」
「いや、それはお話ちゃんとしてもらうことじゃない?」
「目を見て、だいすきーって気持ちでしなきゃだめなんだよ?」
「いえてるー」
「ママまだびびってるよね」
「そんなのぷちたちのほうがこわいよ!」
「でもママもぷちたちにしてもらいたいことなんじゃね?」
「ぷちたちこどもだもん! ぷちたち優先でしょ! おとなってそういうものじゃない?」
「でもママ明らかにガキじゃん」
うぉい! ちょいちょいちょい!
みんなが口々に訴えてくる。
なにもこんな窮地に言わんでも、じゃないぞ?
堰を切ったように出てくる言葉の先に、みんなの我慢や、私が小さな大人にしてしまった状況をいくらでも読み取れてしまう。
環境の整備に着目しても? ぜんぜん! 足りてない!
まさにいま、今日のこの場所でしていることが、ここ最近の私の集大成だ。
よくも、わるくも。ぜんぶ一緒くたにまとめて、凝縮されてる。
「はぐしてよ」
ユメがささやく。
ハグは、でも、勝手にすることじゃない。押しつけることでもない。
握手に似てる。
触れあうコミュニケーションは、物理的な接触だから、わかりやすい。
でも精神的な接触だって同じだ。
お互いの気持ちで手を伸ばして、繋ぐ。抱きあう。触れあう。
痛ければ離れるし、つらければなんでと悩んだりするし。もっとやまほどのパターンがあるよね?
「これくらいのピンチ、ママなららくしょーでしょ?」
「「「 ぜったいそう! 」」」
「そんなことより、ぷちたちへの愛が足りなくない?」
「「「 足りない足りない! 」」」
「具体的にはお昼のお菓子が足りないよ?」
「いやそこはさー。ゲーム機じゃない?」
「さすがに高いからママ正気になっちゃうって。わがままいうならおもちゃくらいにしとかないと」
「写真がいっぱいのご本がいい」
「えー。やっすいのでもいいから専用のスマホかタブレットがいい」
き、きみたち欲に素直すぎない? ねえ!
「ママならできる!」
「ぜったいいける!」
「ぷちたちにゲーム機かえる!」
ん?
「なのに、なんで逃げちゃうの!?」
「ワイヤーより金色のほうがいっぱい吸われてるってことは、大好物か、求められてるってことじゃないの?」
「なにいってんの! ママの霊子はぷちたちのものでしょ! ぜんぜん足りないんだもん、あげないよ!?」
いやいや。ママの霊子はまずママのものやぞ?
そういうことじゃあ、ないんだぞ? あとこれからもっと気をつけるぞ? ごめんなさいなんだぞ?
みんなの声を聞いて、ぐっと気持ちが楽になったようであり、ぐっと肩の荷が重たくなったようでもあり。複雑だ。ははん。
あとやっぱりゲームが欲しいのか。無理だ。
業者かな? っていうくらいの台数になる。
将来のことを踏まえると、いきなりそんなにドドンと緩められる貯金はない。ゲーム機買ったらゲームがいるやん?
無理やて。きみたち何人いるのかわかってる?
無理やて。バブル期か、昭和の日本映画全盛期の銀幕スタァでもなきゃ無理やて。そこまでの銭ないて。
どうにかしなきゃ……っ!
具体的には? 私は稼ぐ。ぷちたちにはしばし別の遊びをご提案。ゲーム一本槍から、いろんな遊びに娯楽の依存先を増やす。稼ぐにしてもそう。
そう。依存は当たり前にするもの。
問題があるときほど、増やすんだ。
ひとつずつやっていこう。
「わかった! そんじゃいっちょう、気合い入れていくよ!」
「「「 ケース外してくれるの!? 」」」
「それはもうちょい待って!」
「「「 じゃあせめて! 」」」
「ゲームかって!」
「おこづかいでいいよ!?」
「ケーキ食べたい!」
「今夜いっぱいお話して!」
わあわあとおねだりが続く。
なのになんでか、金色の出が回復する。
なにやってんだかなあ!
やる気が出てきた!
「検討します!」
「「「 ええええええええええええ!? 」」」
大不評だ。
けどさ。見誤っちゃあだめなことがあるからね。
「まず、目を見て、だいすきーって気持ちで一緒にいることからね」
「それは、まあ」
「……大事だよね」
「ママにできる?」
「ぷちたちみんなまだできないよ?」
すがすがしいなあ!
「ママも自信ない」
それでついつい、できないやり方を繰り返しちゃうんだ。
余裕がないほど、自分の怖さをどうにもできないほど「言うよりやれよ」と声を荒げる。言うことを塞いだり、価値がないようにしようとしてしまう。手が足りないから協力してほしい、だけならわかる。けど、協力しないで好き勝手いうなという感情の根っこを自分でたどらずに「言うよりやれよ。言うのは価値ねえよ」は、ただの暴力だ。
まず言うことからしか始められないこと、わからないこと、伝えられないこと、いっぱいある。
それがうまく組み込めない、そういうことができないか知らない人だらけ。そういう環境や状況が、ざらにあるだけ。でも、それしかないわけでもないよね。
極端さや結論に縋るな。その易しさに身も心も委ねると、先がどんどんなくなって、先細りに陥る。解像度も落ちまくって、気がついた頃には取り返しのつかない状況になりかねない。
この世に生まれついて最初に覚えることだもんね。
自分の意志を訴えること。
現状のマジョリティは音になるかもしれない。けど、もちろん、それだけじゃない。
私たちは多くの振る舞いで言語を扱い、感情を示す。
そういういきものでしょ?
思いこみや偏見の枠内に留まり、視野を狭めるなかれ。ことばを、手を、減らすなかれ。
刀を得たら、それを振るうことにばかり執着するな。
宗矩さんが書いていたことだ。
「いっしょに、やってくれないかな?」
私だけでなんとかしようとするんじゃなくて。
「「「 えー 」」」
みんなが焦らすように伸ばすけど。
「「「 いいよ! 」」」
しょうがないなあという感情をめいっぱいこめながら、返してくれた。
いまでさえ、強いている。わかっている。自覚を経験値に変えて、めいっぱい大好きって伝えて安心してもらえなけりゃ、あまりに情けない。けど、自分のしたいこと、ぷちたちのしたいこと、そのふたつで握手して目指したい目標をいまは見つめていたい。
めげるのは後回し!
「そんじゃあ改めまして! もっかい挑戦するよ?」
「なんか声がげんきになったね?」
「だいじょぶそだし、ゲームしない?」
「いーねー!」
「「「 じゃ! そゆことで! 」」」
すんって消えるの。尻尾の中に。
「ゆ、ユメは残るよ? が、がんばれー」
泣いてない。
ちっとも泣いてない。
みじんも効いてない。さみしいなんて思ってないもんね!
「じゃ、じゃあ。やるだけやってみるんで」
断じて! 弱腰じゃ! ないから! ね!?
無垢刀に改めて願い奉る。
ぷちたちは私の狐火歌唱作戦を見ていた。
ユメは私の思い出を覚えていた。
いずれもいい手だ。けど、現状を鑑みると、もうちょっとわがままを言いたい。
たくさんの人と出会い、たくさんの縁を得た。
ちゃんと覚えているっていうことを思い出すためにも、いろんな力を借りよう。
「まずは、心の海を出してみよう」
最初は中瀬古コマチ。彼女の海の力を借りよう。
無垢刀を掲げる。思いきり、恐らく底へと切っ先を振り下ろした。
一気に水を放出する。時折、私の見たことのあるお魚やヒトデなど、海のいきものたちが出ていく。たまに映画で見かけたどえらいいきものも。クラーケンでしょ? モササウルスでしょ? リヴァイアサン! このくらいにしとかないと困るから、やめるけど。
コマチちゃんの海ではなくて、彼女の力を借りて私の海を出す感じ。
ボトルネックのネック部分がどんどん広がっていって、放出量が増していく。イルカにシャチ、イワシの大軍だの、タコだのなんだの、なんでもござれ。
放出した水やいきものたちが、ずっと下方に貯まる見ずに着水する音がする。途切れずに聞こえる音が、ゆっくりとだけど、近づいてくる。
「な、なんで海なの?」
「金色で守るより、大量の霊子の海の中にいるほうが食べられずに済むかもしれないじゃない?」
「おー」
ユメの問いかけに答えながらも、漂うのではなく下降を選ぶ。
放出は続けるよ? もちろんですとも。
その合間に尻尾ケースを元の着ぐるみスーツに戻していく。
ユメがすっぽり入れるよう、頭のスペースも広めにデザインし直す。加えてタンクやレギュレーター類を一式くっつけておいた。水中に入ったら、拡張して小さな泡の空間でも作ればいい。現世じゃ無理でも隔離世ならいける、なんて謎屁理屈をいまは真っ向から信じてやる。
夢に本気になれずしてどうするんじゃい!
本気でやるから夢は輝くし楽しいんだろうが!
落ちていく。どこまでも。
ワイヤーの損傷が激しくなっていく。それでもちゃんと続いている。
触れてみたい衝動に駆られたけど、手がズタズタになるとわかるほど、落下速度が増していく。金色バリアをもっと強固に張っておいたほうがよさそうだ。
水がぶつかる轟音がみるみるうちに近づいてきた。無垢刀の放出を中断する。
「ユメ、捕まって!」
「あいっ!」
「ダイナミック、エントリィいいいいいいいいいいいいいい!」
両足を開こうとして失敗!
着ぐるみの中に入っていたんだった!
あ、と呟く前に強烈な衝撃。身体にぐっと重力を感じる。けど無我夢中でバリアを泡へと変えた。見た目をそうしただけで、実際には物理的なバリアみたいなものだ。
ということは、つまり?
「う――……っぷす!」
顔面でバリアの底に突っ込んだ。鼻が曲がっちゃった。戻らなかったらどうしよう。
ゆるやかに落ちていく。
シャチの着ぐるみスーツを再び尻尾ケースに戻して、両手で顔を覆って「ふんんんんんん!」と身悶えする。めっちゃ痛い。けど、不幸中の幸いか、鼻血は出さずに済んだ。それっていいことなのかな。わからないくらい、痛い。
めげそう。
うそ。
もうだいぶめげてる。
それでも身体を起こして「ユメ、だいじょうぶ?」と尋ねた。
返事がなくて焦る。
「ユメ?」
「――……ママ、やばいかも」
声がしてほっとした。けど意味が遅れて頭に入ってきて「ん?」と眉間に皺を寄せる。
「あ、あれ。やばばば、じゃないかな?」
ビビり散らかしているのか、私の後頭部にくっついているユメの身体が震えていた。
なにをそんなにビビる必要が、と私も大層怯えまくりながら、恐る恐る周囲に視線を向ける。
泡の向こう側には、特になにも見当たらない。
時折、魚の群れやイルカが泳いでいくくらい。
「し、した! しただって!」
べろの話? なんてボケたかった。
つまらなくていいから言っちゃいたかった。
けど、勇気を出すよりも見おろしてしまった。
金色に淡く発光する泡のそば、ワイヤーの向かうずっと先。
私の海水を受けとめる空間の底が薄らと見えた。
赤く淡く光を放っている。見渡せる限り、広がっている。
「い、痛がってるよ? あと、まずいーって聞こえる!」
うそでしょ? 私、ユメの声以外、ろくに聞こえないんだけど。
緩やかに、発色が鮮やかに、強くなっていく。
海水がお気に召さないようだ。御珠と同じで、どこかドリアンっぽくえげつない状態になっているのかも?
あり得るー!
笑っている場合じゃねえんだってばよ。
海水は無事だ。泡も。狙い通り、金色を出し続けなきゃいけない状況からは脱した。
底が赤く輝くほど、広大な空間の全景を把握しやすくなる。
ただ、なぜか徐々に濁ってきて、フックの先まで見えそうにない。
さあ、次はどうする!
つづく!




