第千八百十六話
ライブツアーの打ち合わせがある。そっちは見慣れた顔ばかり。
なので気負うことはない。
CMの打ち合わせがあって、そっちがね。緊張する。
広告費……っ! スポンサーっ! こいつは、お金の匂いがぷんっぷんしやがるぜ!
そうはいっても事務所のバックアップがなきゃ取れるはずのない仕事だし。狐憑きになってなきゃこなかったお仕事だ。
依頼主は老舗のお豆腐屋さん。地方で流れる宣伝でおあげさんを中心に宣伝するのだそう。
なんなら、ぷちたちと一緒に華やかで賑やかにしてほしいんだって。打ち合わせにいらっしゃった広報のおじさんによると、社長のおばさんは鎌倉の佐助稲荷神社がお好きなのだそう。佐助稲荷神社といえば、白い狐が奉納できるんだけどね? たーっくさん! 飾られているの!
狐の私たちで、こりゃあんめえ! とプッシュしてほしいそう。
お豆腐屋さんが、地方局とはいえ宣伝とな? と思ったら、海外の和食ブーム、ヘルシーブームに合わせてアメリカで起きた豆腐ブームも利用して、海外展開を順調に進めているのだとか。
おー。すげー。お豆腐もワールドワイドですか!
ああでも前アメリカ大統領と人生を共にするファーストレディが広めた、という番組なら聞いたことがあるよ?
世界の潮流って、アンテナを張っておかないと読み切れないよなあ。環境活動と、動物愛護はときに日本にいると「え、そこまで?」っていうくらい過激になったり、圧が強めになったりすることもあるように感じる。
もちろん、活動家にもいろいろいるよね。
なかには過激派がいて、犯罪行為に及んでまで目的を達成しようとして。その手の人たちが被害者になるか、あるいは加害者となって起きる犯罪は、ドラマでも思い出したくらいのペースで取り上げられている。
お肉を食べるのは? という筋の話も、もしかするといずれ鶏も牛も豚も野蛮でNGだ、なんて言いだす流れが出てきそうだ。もうでてきてるのかな? お魚やタコ、甲殻類もだめ! なんてなってさ。
高タンパクで次世代の食糧として注目を集めているらしい、昆虫食もね? 馴染んだ頃か、その前後にバッシングの対象になったりして。
アメリカだと養鶏場をやってみた、なんてドキュメンタリー映画もなかったっけ?
食べるものを選べる層で勝手に押しつけがましく圧をかけているだけではないか、という指摘もある。
畜産にせよ漁業にせよ産業として長く続いているものだ。それで生活している人が大勢いるのだし? 彼らが利用する道具を作り、流通させるいくつかの業界も同じ。人の営みがそこにある。
なのに、いきなり「どうかと思うの!」と旗を掲げて攻撃しても、無理だ。
漁をして生活をしている東南アジアの小さな小さな島に行って、魚を獲って生活している人たちを指して「なんでこんな非生産的で残酷なことを」って紹介している人がいたけれど「いやいやいやいやぁ!?」って引いちゃう。
先進国の技術だ経済だっていうので、あらゆる国の文化をがんがん塗りかえて、固めてしまって、それを土台に旗印の理念の通りに育てばいいっていうのはやばい。ただの暴力だ。
他者性をお互いに重んじながら、みんなでなんとか幸せになっていくっていうのは?
とびきりむずかしい。
他者性を重んじる時点で、みんなの幸せっていうものの曖昧さと付きあうことになる。
曖昧さっていうのは、大事なポイントだ。
言語化しながら、輪郭を確かめられたらいいなー。
なので! 打ち合わせでは、イメージが掴めるように尋ねていく。
お母さんがたまにデパートで買ってくるお惣菜で食べたことがあるお店だったから、味自体は知っている。お土産で持ってきてくださったおあげさんを食べながら「うちできつねうどんを作るときにのせてますー」なんて迂闊に言っちゃう。
やばかったか!? と焦ったけど、幸いにして響いた。実は本店の近くにあるうどん屋さんでも使われていて、大好評なんだって! おかげで緊張がほどほどに緩み、打ち合わせはうまく進んでいく。そこそこに盛りあがるし、実はみんなして気の遣いあいみたいな感じになるし? そのわりに「コラボ商品なんてできたらいいですねえ」なんて気を持たせるようなことを言われたりもして!
高城さんがきちっと営業スマイルで「ぜひその際は」なんて言うんだけどさ。期待しすぎないでね、と私に目線で伝えてくるんだ。打ち合わせが終わってからもね。
タレントさんの顔が「ででん!」とプリントされたおあげさんが売ってたら、どう?
買う?
ううん……。
そこまでの力はない……。
アマテラスさまに「商売繁盛の御利益を渡せるような修行をつけてくれませんか?」って言ったら笑いながらフェードアウトされる。ガン無視されるのが目に見えている……っ!
ないね……。
ないよ……。
スーパーで見かける、次シリーズが始まっちゃって前のシリーズの商品が売れ残っているアニメの商品を思い浮かべちゃうけど、あれの一億倍は売れ残ると思うの。
逆に! 逆にだよ?
高城さんの車に戻って、会社に向かう間に提案してみたわけ。
「ライブツアーで軽食におあげさんやきつねうどんの提供っていうのは、だめなのかな?」
「食べものはなああああ」
あ。高城さんのこの反応は、きついやつなのでは!?
「インスタント麺なら、ぎりぎりかなあ」
きつねな女の子とインスタント麺の組み合わせは、それこそぎりぎりなのでは!?
「その場で食べられる、とすると。どこで食べるか。許可取りと、当日のスタッフや見込み利用客に対する材料の調達、それに万が一なにか起きたときの対策がね」
「食べてきてもらうのならともかく、ツアー主催側で提供して問題が起きるとツアーへの影響が出るってこと?」
「平たく言えばね」
あああ。ねえ。
お父さんを通り越しておじいちゃんまである、超絶ベテラン大先輩バンドのライブだと? 噂によればレトルトカレーをショップで売っているそうだ。
「持ち込みNGな会場だと、持ち込む率が増える可能性もある」
おう……。
「それでもできないわけじゃないよ? だけど、どうしたって割高、少量、味それなりに落ちつきやすくてさ」
微妙な三点セットだ!
「お越しいただくファンのみなさま向けに提供するっていうのなら、店舗レベルを目指したい。それには店舗を展開する企業よりも負荷のかかる努力がいる。だろ? なにせライブツアー向けに飲食っていうんだから」
「ぐ、ぬう」
言い返せない!
怯む私を見かねてか、後部座席からカナタが問いかけた。
「企業と提携してっていうのは、無理なんですか?」
「交渉して許諾が得られたとして、特別に出店していただく費用が発生するね。うちの会社が出すのかな? 費用に見合う効果はあるのかな? じゃないと、そもそも提案のOKさえもらえないかな」
「う」
一撃玉砕!
「それにチェーンと同じ味、よくて春灯の顔プリントの海苔だのおあげさんだのしか出ないんじゃあ、微妙なんじゃない? しかも観光地料金なんだよ?」
「「 ぐふっ 」」
は、ハードルばりたか!
このままやると妥協の産物しか浮かばないまま、提案さえできずに自然消滅しちゃう!
たいへんだぞ!?
たくさんの段階を経て、みなさんやっていらっしゃるんだなあ。
味でバズるほどの品質の食べものが提供できるんなら、そもそもそれで商売やればいいじゃないのって話だもんなあ。
なら出店か、お客さまに各自でお願いしますっていうのが無難なのは確かだ。
お持ち帰りのお菓子っていうのも、考えられるけど。
でも、どうせならおあげさんがいいなあ。
いっそMC中に「なんと、ここでご案内! きつねの私が、おあげさんのプレゼンです!」とし始めたら?
いやなにしとんねん、はよ歌え! って呆れられてしまうのでは?
まずトシさんに叱られそうだしなあ。
MCでうどんをじゅるじゅる啜って、そのあと歌い出しで咽せたらアウトだよなあ……。
「私の手作りっていうのは!?」
「当日はライブに備えてもらえる?」
それはそう!
「おっと。ごめん、途中でガソリン入れるよ」
高城さんに反対する理由はない。
車線をスムーズに変更して、近くに見えたスタンドに入っていく。
レーンは一台の大きなバン以外、車が見当たらなかった。セルフスタンドで、店員さんが停車の案内をするべく声をあげる。けど、特に構うようなこともない。
反動すくなく停車して、給油口を開けると高城さんがシートベルトを外す。
「ふたりとも飲み物やトイレはだいじょうぶ?」
「俺はだいじょぶ。春灯は?」
「あー。だいじょぶ。事務所でいっかな」
尻尾が目立つから、変に絡まれたり弄られたりするのが面倒だ。
「了解。ちょっと待っててね」
さっそく高城さんが車を出て、タッチパネルでメニューを選び、給油を始める。
隙間時間だ。カナタとフードの話でもしようと思ったんだけど、そうはいかなかった。
こんこん、と。窓ガラスがノックされる。
ふり返ると、スーツ姿のおじさんがにこにこ笑いながら手を振っていた。知らない顔だ。
別に変装してるわけでもない私をまじまじと見て、おじさんが「あー、やっぱり! きみ、あれでしょ? 歌う狐の女の子でしょ!」と嬉しそうに言うのだ。高城さんがあっと気づいた頃には遅くて、おじさんが「記念に一枚! 無理ならせめて、握手だけでも!」と言ってくる。
スタンドの店員さんがこっちを見てくるし、おじさんの声は窓越しにはっきり聞こえるくらい大きい。おじさんを見てか、いくつかのレーン越しに停車しているバンのそばから、生え際が後退しかけてるおじさんが「しゃ、社長!」とあわてて駆け寄ってきた。
高城さんが急いで間に入ろうとするから、ドアを開けて「だいじょぶですよー」って笑顔で返しておく。後部座席でカナタが身構えていた。こういうの別に初めてじゃない。ネット番組の撮影でも体験した。
「写真はだめですけど、握手なら」
「じゃあ、それで。いやあ! 運が向いてきたかな!? 湯波くん、うちのこどもたちを呼んであげて。みんな、彼女の大ファンだから」
「は、はあ」
社長と呼ばれたおじさんが、駆けつけてきた生え際おじさんに指示を出す。当たり前のように、湯波おじさんはバンへと戻っていった。上下関係ってこと? 家族には見えない。なら、うちのこどもたちってどういうこと?
複雑なご関係?
「あのう?」
「ああ、すみません! そちらはマネージャーさん? いやはや、申し訳ない! 勝手に興奮しちゃって!」
大仰に腕を振ったり、両手を大きく振って叩いたり。
なにかと忙しないボディランゲージの人だ。
笑顔だけで感情を表現していそうなくらい、ずっと笑顔だ。えくぼに笑い皺が目立つ。高城さんよりもずっと年上に見えた。よく通る大きな声は、この場合ちょっと困るなあ。悪目立ちするのが、おっかないから。
おじさんはおいといて、高城さんに目配せする。だいじょうぶだから、給油を。
「お子さんたちって仰ってましたけど――……」
しゃべりながらバンを見たら、バンのサイドドアを開けて男の子や女の子が六人ほど出てきた。顔立ちが違う。トレーナーにスウェット姿の子もいれば、キッズブランドの値の張りそうな服で固めている子までいた。みんな視点が定まらない。それに、黒いバンからぞろぞろと出てきたこどもたちと、おじさんふたりってどうにも奇妙な組み合わせだ。
ぶしつけなのは自覚する。
けど、どういう集団?
「ああ。お待たせして申し訳ない! おいで、みんな! お行儀良く握手をして」
だれも返事をしない。ただ、急いでそばにきて、私に手を差し出す。
異様だった。妙な圧を感じる。けど、目の前にいるのはこどもたちで、そばにいるのはおじさんだ。そのはずだった。
「あれあれ? みんな疲れてる? すみませぇん! 宿題がたいへんで疲れちゃってるのかな!?」
「い、いえ」
愛想笑いが精いっぱい。
こどもたちに握手をする。ブランドで固めたトウヤやコバトちゃんくらいの年の子だけ、ぎゅっと握り返してきた。けど他の子たちは、肌を重ねる程度で、すぐに離す。
ひとり、またひとり、握手が済んだら来たときよりも早い歩みでバンに戻っていった。
社長と呼ばれたおじさんは満足げにうなずき、両手をぽんと合わせる。
「感激だなあ! じゃあ、失礼しますね! ご活躍を期待しています!」
「あ」
あの、と。呼びかけるかどうかで迷った。
その間に集団は車に戻って、ゆっくりと加速して車道に出ていった。
なんだろ。この奇妙さは。気持ち悪くてたまらないのだと、鳥肌が立っていることに気づいてようやく感じた。警察に通報するには弱い。したほうがいいような気もするけど、でも「おじさんふたりがこどもたち六人をバンに乗せていました」って、なんだ。
「春灯、車に」
高城さんがそばにきて、扉を開けて促してくれる。
おとなしく従って、中へ。すぐに後部座席をふり返る。カナタも落ちつかない私に負けじと気味の悪そうな顔をしていた。
「あ、あの」
「いちおう、兄さんに連絡いれとくよ」
「――……うん」
それで、済めばいい。なんてことないのだとわかれば十分。
そうなのだろうか。
あの人たちを行かせてよかったのだろうか。
この直感を、私は持てあましていた。
「ああいうときは任せてくれたらいいからね」
運転席に戻った高城さんがシートベルトを締めながら言うの。
うん、と。ようやく相づちが打てたけどね?
なんかもう、厄介なファンとか、そういうんじゃない。
もっと危うい次元のなにかだったような気がして仕方なかった。
予定に気持ちを戻さなきゃ。まだ終わりじゃない。
私たちは事務所に寄って、挨拶をしたり、必要な打ち合わせをして、帰る。
ひさしぶりの一日が、それで過ぎるはずだ。
高城さんが車線に流れるように合流する。赤信号から青信号に切りかわった。さっそく加速しようと高城さんがアクセルを踏みこんだ、ちょうどそのときだった。
遠くでなにかが弾けた音がした。すこし遅れて車が揺れる。交差点に向かう車列が止まり、クラクションが鳴る。けれど、動かない。ややあって、サイレンの音が鳴り響く。
何台か前の車から人が出てきた。続々と他の車のドライバーも、窓から後ろをふり返ったり、外に出てきて後方を見るんだ。私たちもつられて後ろを見るけど、よくわからない。ただ、後方の車列に並ぶドライバーさんたちも、同乗者の人たちも、次々と呆気にとられた顔をして車を降りていく。
「なんだ?」
「ふたりとも、出ないで。単車が通ったら危ない」
そう言いながらも高城さんはギアをパーキングに変えて、サイドブレーキを引いて外に出た。ふり返ってすぐに「うそだろ」ってこぼすのだ。
そんなの私たちふたりが我慢して待てるはずもなく、私もカナタも急いでドアを開けた。後方確認をちゃんとしてね! 外に出てふり返る。
直線道路でビルとビルの間は見晴らしがいい。だから、はっきりと見えた。
巨大な土埃があがっていた。
一箇所だけじゃない。どこかで破裂音がする。一度じゃない。何度か連続して。そして、また巨大な土埃があがるんだ。
まだ続く。
およそ五キロ先ほどの建物から爆炎が噴き上がった。立て続けに爆発する音がして、ビルが一気に崩れ去っていく。海外で行なわれているというビル解体方法のひとつ、発破。日本だともっと手間をかけて解体していく工法があるそうだ。なぜって、発破だと緻密さが要求される。密集した環境下でやると、周囲に与える影響として考えるべき要素が多すぎる。ビルの周囲の地面に配管があったら、それも考慮すべきだし? 電線がそばにあったら、それもやっぱり無視できないもの。
だから、あるはずのないことだった。
ビルが崩れ落ちていく。恐らくは、発破によって。
中に人はいるの?
わからない。
破壊は終わった。もう、爆破音は聞こえない。代わりに瓦礫が崩れて落下する音がする。たくさんの人の悲鳴も。
大混乱に陥りかねない状況下で、土煙のあがる空間にスマホを向ける人が続々と出てくる。言葉も出せずに、崩壊したビルの跡地に歩きだそうとする人も。
「ふたりとも、車に!」
高城さんが急いで車を回り込んできて、私とカナタを車に押し込む。
複数のビルが破壊された。なんで。どうして。
尋ねてわかるはずもない。
車に戻った高城さんがすぐにラジオをつけた。
『都内を走行中のドライバーのみなさま、どうか落ちついてください。安全な運転を心がけてください。警察の交通整理が行なわれている地域では、指示に従って安全な――……』
『た、ただいま入りました情報によると、えー、現在、渋谷、上野、新宿、それから池袋などのビルが突如爆発し、崩壊しているとのことです』
努めて聞き取りやすいよう、アナウンスされる。
混乱しているのか、恐らくはあるであろうマニュアルが出てこないのか、情報にせよガイドにせよぐらついていた。
ただ、とにかく事故を起こさないよう、混乱に陥って危険なことにならないよう、警察の指示に従って、安全な運転をという。そばで爆破が見られた場合には直ちに停車して、車の影に隠れてとか、なんとか。わやくちゃだ。
あちこちで、爆発が起きた。ビルが破壊された。特別、有名なビルの名前は出てこない。被害者は不明。消防隊が懸命な救助活動や調査活動を、とか。自衛隊の部隊が出動する必要があるのでは、とか。とにかく錯綜している。
電波のつながりは弱い。幸いにして警察がパトカーで駆けつけて、呼びかけて交通整理に当たってくれた。だから大混雑の中、夜まで足止めを食らうみたいなことにはならなかった。
ただ、捜査のうえではどうなのか。いまごろ警察は大騒ぎなのではないか。
仕事どころじゃなくなった。事務所でするのは打ち合わせくらいだったから、高城さんは会社と連絡をとり、私たちを送ってそのまま直帰することに。それぞれにうちに連絡を取ったけど、三人とも家族はちゃんと無事だと確認が取れた。
ラジオのトーンは興奮気味だけど、徐々に冷静さを取り戻し、ガイドの内容がすぐさま整っていく。こういうときの底力、すごい。
うちに帰った。カナタも一緒にね。すぐさま尻尾からぷちたちが出てきた。人数チェックは習慣にしている。ちゃんと全員いた。待ってましたとばかりに駆け出すみんなに「手を洗ってから!」と言って、手洗いを促した。
道中で何度かスマホで情報を確かめたけれど、それでも、手洗いうがいが済んだぷちたちとリビングに行って、お母さんが釘付けになっているテレビ画面が映す光景に気が遠くなる。
ヘリの空撮で、崩壊したビルの跡地が映し出されていた。消防隊が瓦礫の集まる場所にいるのが見える。
「被害者はいないって?」
ソファにはカナタも先に座っていた。けれど、ふたりして声を出せずにいる。
どの局も今日は報道特番一色になるだろう。お母さんがやっと「通りを歩いていて破片が当たったり、驚いて転んで怪我をした人がいたそう。死者は見つかっていないそうよ」と返す。
それもまた、奇妙だ。
ビルの中に人がいないって? ビルの前の通りはどこも人通りが少なかったってこと?
明らかに作為的じゃないか。いやいや。ちがう。
そんなことが可能なの?
いや。待って。うそだ。作為的だとしたら、これはだれが、いったいなんのためにしたのか。
解体なり工事なりの届けは出ていなかったそうだ。
そもそも許可が出るのか。発破で解体する許可が、日本で。
テレビはそのあたりの情報を集めて、即席で作ったであろうボードで説明を試みている。
テロか、という言葉も飛び交う。みんな、混乱している。
「ねー。ゲームやってもいーい?」
「アニメの続きみたい!」
異様さに飲まれた私たちがどうかしてると思いながらも、そんなことより遊びだって訴えるぷちたちに「わ、和室でね」と答えるので精いっぱいな私たち。
だって、こんなの、おかしいでしょ。
猟奇殺人の次は謝肉祭遊園地。その次が、ビルの爆破?
なにが起きてるの?
答えてくれる人など、いるはずもない。
隔離世で起きたんじゃない。
これは、現世で起きたことだ。
いまは直接の関係がない。なのに、予感がする。
これと無関係ではいられない。
攻殻機動隊ごっこでもして、気を紛らわせてみる?
ぜったいに、これと、関わることになる。そう囁くの。私のゴーストが。
だめだ。紛れないよ。
無理だよ、こんなの。
画面では警察が発破されたビルの一画の周辺道路を封鎖して、通行する車に迂回を促している。ヘリは空撮をして、テレビはどこも生中継。
すくなくとも、ひとりふたりがしでかしたことっていうんじゃない。それを実現する爆弾魔みたいなのがいたら? それはそれで末恐ろしいけれど、でも、ちがう気がしてならない。
複数人、ないし組織的な行動による発破。
瓦礫を分けて、人がいないかを確かめ、手口を突き止めたり、なにか不審なものが見つからないか調べたりする。一口に言っても、なにせ爆発した箇所は複数ある。
これだけの事件ともなれば、捜査はかなりデリケートに進みそうだ。
なぜ。
どうして。
問いばかりが浮かぶ。
それらは漏れなく恐怖を抱いて、私の中で吠える。
イマジナリーモンスターを抱き締めようという考えさえ、うわごとのように思い浮かべるだけで精いっぱい。
これは、なんだ。
つづく!




