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その刀を下ろして、帯刀男子さま!  作者: 月見七春
第九十九章 おはように撃たれて眠れ!
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第千八百十話

 



 粘りを見せているカナタはミコさんにいなされ続けている。

 そもそもミコさんは話に聞く限りじゃ、超絶巨大なコミュニティの主だ。

 そのコミュニティで、共助の共同体作りを参加している人たちとゆるくのろく、持続させながら続けていると聞く。ミコさんサイド、それもミコさんに近い人ほど「なんにもなしに、これやってよ」と求めるばかりの態度はNGだと口を揃えて言う。

 それが、ただ、いまのカナタには抜けている。カナタの立場でミコさんに求めるとき、たぶん私もすぐにすっぽ抜けちゃう。

 一緒にっていうその点が抜けたままだと? ミコさんの心にシャッターが降りて、締め出されてしまう。入店が不可能なまま、シャッターをがんがん叩いても先はない。

 フォローに入る余裕もなかった。

 それぞれに聞いて回っていたら、みんなの後ろに隠れてめそめそしている子がいたから。

 縦横無尽に歪んだ糸は、もにょもにょとうごめいていた。それがどんな形を意味するのか、ちーっともわからない! そんな状態がいやなのか、恥ずかしいのか、私が気づくと涙をあふれさせながら、背中を向けるのだ。

 へんてこな形でも自慢げに見せてくる子もいたし? これは気に入らないの! と怒っている子もいた。

 できてることを前提に私がインタビューするよと振ったものだから、ドヤって次はぜったいすごいの作りますなんて言えちゃう子もいれば? 絶対に見つかりたくない、知られたくないっていう子もいる。

 ミユさんがその子のそばについた。私もさっそく一緒にフォローに回る。ふたりで弄っちゃうのはむしろ逆効果なのでは? という不安も拭いきれないままだけど。いやな気持ちで作ったんじゃないのなら教えてほしいし、なんにも思いつかなくて不思議な形になっちゃうんだったら、それはそれですごく素敵なことだと思うから伝えたい。

 あやとりはふたりでやることもできるじゃない? しかもミユさんは、ミコさんの提案で霊子を使って糸に変化を与えるやり方を教えてくれているみたいだ。ぷちたちそれぞれにできているみたい。ミユさんに教えてもらいながら、不思議な不思議な形の糸に私も参加させてもらう。その子のオッケーもらってからね? もちろんですとも!

 ひとりやれば、他のみんなも「やるー! やってー!」となる。それぞれにやってみて、で進む子もいれば、私待ちな子もいる。焦らずのんびりと。そう私が心に決めても「ねえ、はやく!」って急かしてくるわけで。

 まぁじぃで。

 たいへん。

 ただ、不思議と「ゲームがいい」とか「アニメみるー」とか「お外いきたいー!」とかって言いだす子がいない。合間にミユさんが、ぷちたちに語りかけるように言うんだ。霊子を使うの、式神にとっては心地のいいことなのだとか。

 そうなのぉ!?

 だれからも教えてもらってないんですけどぉ!

 かといって「式神にまつわる教本」なんてないので、識者に口頭で尋ねるしかなく、尋ねられるミコさんは超がつくほどの激務。こうしてうちに来てくれること自体、レア。その割には足を運んでくれてるけども。いいのかな、仕事。気にしてくれてるんだろうなあ。忙しいなりに。ありがたやー。

 カナタも参加してくれたらいいのになー、と思うのだけど、ミコさんに尋ねる内容が進路にも直結することだから口だししにくい。将来設計にも関わることだ。

 ミコさんにしても、本意じゃないだろうなー。

 好きなことで稼ぐっていうのは、どんな業界であろうと大変だ。下火の業種や後継者不足に悩まされ、消費者の需要も落ち込んでいるところだと、ますますたいへん。

 いいものつくる、だけじゃね。

 宣伝ばっかりがんばる、だけでもね。

 いまのは作って売るときの話だけど。他にもいっぱい、いろんな仕事がある。いろんな立場がある。がんばる、だけでも。粘りを見せる、だけでもね。

 ほんとたいへんだよね……。

 一年ごとに大勢がぶわーっと参入して、十年いつづける人ってそうそういない。淘汰されるみたいな文脈で語る人が多いけどね? ミコさんの言葉を借りるのなら「そもそも参加した人が働ける環境のある業界なんて、そうそうない」っていう文脈でも語れる。

 分母は決まり切っていて、変動せず、分子ばかり増えるのなら? 分母を増やすか、別の分母を作って分子を分散させるようなアプローチもあっていいはず。だけど、ぶっちゃけちゃえば、新しく分母を作って業界を作っていくよりも、いまある業界で四苦八苦するほうが楽ちんまである。いまある分母で狭い座席競争で競うよりも、飛び出して別の分母を作って「おーい、こっちこっち!」っていうやり方すればいいじゃんって言うのは、楽だ。けど、実際にやるとなると怖いし、どれだけの人が乗っかってくれるかどうかも謎。

 いまある分母の中でひしめきあう人たちの三角形の頂点にいきたいの! と固執すると、もうそれだけで身動きとれなくなっちゃうし。カナタがミコさんに持ちかける話題は、そういう筋。対話っていうより、ミコさんを相手にいまの自分の不安を独白しているような感じになっちゃっている。

 傍目八目。だから私はいま「まずいモノローグになっちゃってるよ! カナタさん!」って思えるだけで、いざ自分が話すとなると? もっとひどくモノローグになっちゃいそう。

 だって、いまがまさにそうでしょ?

 ね!

 それでも心の中から自由にしていくよ?

 むずかしいけどね~。カナタがしてる話はさ。

 先立つものがないから、そこで無茶ができない。先立つものは労基法とか、真っ当な商売だとかで本当なら入ってくるはずじゃない? という。いやいや、商売はそこまで万能じゃない。単純にお金を稼ぐだけとして、世界に目を向けるほど目を剥くようなアウトな事例がごろごろ出てくる。

 非合法な商品の取引を通常ではアクセスできないネットの深いところで行なうマーケットサイトとか。里親制度を悪用したり、シンプルに融解しての人身売買や臓器密売。世界の動画サービスで取り扱ってビューを集める、南米の麻薬ビジネス。ボッシュで取り扱っていた、ハームリダクションとして選択されるオピオイドの処方箋と薬物依存症患者間で行なわれる違法売買など。

 最後については補足すると医療側で調節しつつ、他のあらゆる社会保障と連携しながら依存症の緩和をしつつ治療に向かう、という筋だった気がする。でも、たとえば日本で自費診療科目で荒稼ぎしてひどい治療をする歯科医がいるように? 不心得者もいるし。根深い問題でもあるんじゃないかな。幼い頃、物心ついてからという人生の文脈で、ようやく生きるために必要な依存先が見つかった人の薬物への強烈な依存を、どうやって分散させていくか、なんて。専門家と継続的かつ長期的に関わりながら、対応し続けていくやつじゃん。その間の生活の負荷も、社会との結びつきも、収入面の補助も、なにもかもが必要すぎる。そうした窮状に対応するには、社会はなにかと準備不足だ。

 カナタがミコさんに譲らず話し続ける姿に焦りを見るけれど、日本ってなにかとやり直しができるような整備とはほど遠く思えることが多すぎて。切迫された状況下で冷静にことを行なうっていうのは、無理だ。運よくできたらいい。けれど、ほとんど無理じゃない? とても人の責任とは言えないよ。言えるとしたら、ありとあらゆる人が対応できる状況を整えてから。いま、そんなのないもんなあ。足りなすぎるじゃない?

 急がなければ。条件を最初に固く締め切るのではなく、自由に修正しながらよくしていけるのならば? 分母だってやがて作れるかもしれない。

 それに賭けるにはさ。

 制約があまりにも多すぎるんだ。

 わかっていることに対してしか、いまある手段じゃアプローチできない。そういう選択をしていたら? とてもじゃないけど噛みあわない。

 設計図を立てて、計画を立てて、完成図を予想する。そうして施行していく。分母の作り方に、これはマッチするのかな?

 おうちを作るんなら、設計図はほしいよ? どれだけの部品が必要で、どれだけチェックしたほうがよくて、どれだけの人が必要そうで、みたいにスケジュールを立てて管理して、品質に担保を取りたいもの。

 でも、じゃあ、新しい分母作りは?

 新しく開発したり、整備しようとしていることは?

 どうなのかな?

 設計図にお金を組み込むべきなのかな? あ。いきなり詐欺師っぽくなった!

 いやいや。お金は必要なのよ。

 なくて無茶せざるを得ない研究者さんがいま増えているっていうし、切実な問題だよね。

 あればあるに越したことはないのよ。ほんとに。

 じゃなきゃ、たとえば「低予算で大ヒット!」なんてのが出てきたら「あ、じゃあ予算けちってもいいんだ」って思っちゃう発注元が出てきちゃうんだもの!

 いやいや! そういうことじゃねえから! っていうのが届かず「よし! けちろ!」って人がマジでいるんだもの。にんげん、いろいろなんだもの。あーあ。

 なんの愚痴やねん! 知らんけど。

 やり直しの負担が低く、ハードルが下がるほど、挑戦しやすくなる。だから負荷の低減を求めてカナタは粘っているのかも。理華ちゃんよりもえらく顔が広いミコさんの伝手を頼れば、そのへんクリアできるんじゃないかなーって私は見てるんだけどさ。カナタも知っているはずなんだけど、きっといまは頭からすっぽ抜けてる。

 シュウさんと揉めてた頃からずっとそう。話がこじれると持論を軸にしたまま離れるのが苦手なところがある。そんなの私にもあるし、カナタに限った話じゃない。それでもいま、明らかに苦手な部分のせいで足踏み中。

 黙って見ていたわけじゃないよ?

 ぷちたちとのやりとりの合間にフォローしようかと様子を伺うたびに、ミコさんが「黙ってろ」と鋭く睨みを利かせてくる。

 圧が強すぎてなにも言えない。

 私もミコさんには勝てないよ……っ!

 ミコさんが背中に「ドドドドド!」ってごついフォントの文字を背負っているように見えるもの! こわいこわい。こわいから念を送っとこ。カナタ、がんばえー。


『カナタの俸禄、気にならんか』


 俸禄て! 十兵衞!

 んー。なるといえばなるし、ならないといえばならない。

 それは私がこどもだからなのかもしれない。

 あるいは生活には二種類あるからだと、いまふと思ったからかも。

 さっき考えた、設計図どおりの生活か。はたまた自分たちで創造していく生活か。

 人生プランや、十年後の自分はなにしてるかなど予想する思考は前者寄り。自分たちの快不快と解像度の高さを土台に、臨機応変に合わせて対応していくスタイルは後者寄り。

 定住スタイルと遊動スタイルとは、必ずしも一致しない。それに、寄っているだけで、どちらか一方のみになるというわけでもない。どっちも一緒にやれる。両立可能だ。執着さえしなければ。

 固執という点でみるなら? 設計図どおりのほうが囚われやすい気がする。

 けど視点を変えてみるとね?

 常にいまの自分の快不快に合わせて適当にぐだぐだやって済ませちゃうっていうのも、それはそれで囚われやすい。解像度が高いと自分で思っておくことで済ませちゃうのも、かなり危ういし。

 にんげん、ほんとたいへん。あーあ。

 顔が広く、超巨大なコミュニティと繋がるミコさんを相手に対話をするのなら? どういうプランで役者で仕掛けられるか悩んでるんですけど、というところから始めていい気がする。いまの枠組みでやるのならどうしたらいいのかっていう悩みでもいい。

 どちらにせよ、私がミコさんなら? いまの舞台をがんばって、いまの舞台でめいっぱい遊んで、めいっぱい試してみたら? っていうかなあ。素敵な人たちが集まっていて、太鼓持ちタイプにはよりどりみどりな状況だろうけど、カナタはそういうタイプじゃないのだし。まず仕事を通じて自分を出し切ってみてからでもいいと思うの。なんだかんだ、お世話してもらってる感じするし。

 お金は後からついてくる。だから、いまはまずめいっぱいやる! これでいいんじゃないかな。

 爪痕残すとかじゃなくね? めいっぱい成長する、そのためにめいっぱい遊ぶ! そういうとこからでいいんじゃないかな。真面目なんだし、信頼を勝ち取るなら、そういう道筋じゃないかな?

 うん。そう。これだ。

 まずそこからだと思うからさ?

 いますぐ気になるってことはないかなー。


『それくらいの気持ちで、いま、過ごすことは?』


 どうだろ。

 私で完結しないから、と十兵衞に答えようとして気づく。

 そこも怖いんだなあ。私は。

 たとえばこれが式神として私の霊力から私が産みだしたぷちたちじゃなく、私とカナタのこどもだったら? 私がうんうん悩んだりフォローだなんだでテンパってるときに、カナタおまえなにしとんねん、くらいのブチギレはしそうだ。一事が万事こんなノリのまま十年後になって「いやあ、大きくなったなあ。なんかあっという間だなあ」なんて言われたら、ジョーにハイなキックをお見舞いして、ダウンしたところに離婚届を出すくらいのことになりそうで。でも、厄介なことに収入面やこどものメンタル面、ほかにもありすぎて困りすぎる問題がどかんとハードルとなってそびえ立つことになる。

 それは設計図としてってよりも、純粋に「なんで他人事のままほっといて、やった気になってんだよ」とか「こっちの苦労は? 私のことどんだけ大事にしてこなかったかわかってんのか?」とか、怨み節の不快の蓄積がやばい。

 ただ、そもそも、そうした流れについて私が学んでないのに負けじとカナタも知らないこと多すぎるんだろうなーと感じるし。私はいつどこで、いまより具体的に学び、カナタはどういう形でいつからどのように伴走するのか、伴走で足りるのかどうかさえ見通しが立たない。

 えぐくない?

 性教育のカリキュラムのひとつに入ると思うんだけど。これ。小中高でがっつり学ぶ中で、高等教育に入る前には知っててもよさそうな気がするし? 高等教育でより具体的にプランを練るシミュレーションをする段階だと思うんだけど。

 ないじゃん。

 えぐくない?

 なんでなん? ねえ。

 おとなたち、だいじょうぶだったん? ねえ。

 だいじょぶじゃなかったでしょ。ぜったい。それどうしてたん? ねえ。

 これだって整備されてない激やば状況のひとつなのでは? ねえ。

 にんげん、ほんとにやばい。

 いまを末期的な状態にみるほど、心がビビるし、獣たちが騒ぎ出す。

 いったいいま見つけられていない問題に、どんなものがあるのだろう。それはどうやって対応していけばいいんだろう。さっぱりわからんぞ?

 えぐすぎない? ねえ!


『彼女に問うか?』


 カナタよりも長引くぞー。

 自信があるよ?

 それくらい、不安でいっぱいなんだ。

 ぷちたちを通じて、いやでも知っていくことになる。

 シンデレラにさえ訪れたであろう、王子さまと結ばれたあとに待つ人生の過酷さを。恋愛漫画やドラマや映画の結末の先に起きるであろう、生々しくて現実的でうんざりして、場合によっては人が傷ついたり死にかねない未来も。なんとかなったとして、やがてこどもがどんな苦労を背負うか、その可能性も。

 気が滅入っていくんだ。ひとつひとつが魂を削っていく。

 自分の不安をなだめるには、あらゆるものが足りない。

 貧困が加速していたり、社会制度が貧弱だったり、あるいはその両方に向かっていくほど犯罪率が上昇するという。治安が悪化する。そうして生じる負の連鎖は、たとえば厄介なビジネスを育ててしまう。けれど、そういう環境で暮らす人々にしたって、自分の不安をなだめることさえ困難な状況に置かれていることが多いそうだ。三角形の上にいければまだしもね。一割にも満たないごくごく少数の人の安心のために、残りの割合の人たちが不安でいいのかっていうと、そういうことじゃあない。みんなで幸せになろうよーって話だけど、そんなのすっ飛ばして恨み辛みが育っていく。

 いいことなんてひとつもない。だから持続可能な達成目標の最初に貧困がくる。社会保障だってかなり早い項目に挙げられている。

 国ごとに並べて、隣の芝生と比べる的な手法で論じたいんじゃない。

 単純に、足りない。圧倒的に、足りてない。

 おかげで不安は尽きない。

 だから、ついつい私の思い描く解像度よわよわな未来予想図との比較と、その文句や愚痴を並べる形でミコさんにぶつけちゃうだろうし?

 それをしないようにするだけで精いっぱい。ぷちたちの前で、見せないようにするのか、素直に気持ちは伝えたほうがいいのか、それはどういうことば、どういう方向性で伝えるのがいいのか、考えだすと?

 もう。頭が、わー! ってなる。

 そんな私よりも狼狽する親御さんもいたろうし? より手つかずな親御さんもいたろうし。

 いろんな人に私はフォローしてもらっているけれど、そういうのがまるっきりないままの親御さんもいたろうし。そもそも、彼氏がばっくれて、自分ひとりでいきなり袋小路って子もいたろうし。

 どうなの。

 問題しかないじゃん。

 そんな中で悲惨な事件が、いままさに起きているっていうのに。

 私はぷちたちと生きるので精いっぱい。むしろ足りてないまである。

 ミコさんを相手にどんなテーマでどう対話すればいいのかさえもわからない。

 そういえば、昨夜はツバキちゃんに質問された。

 ぷちたちの思い出を語っている時間が、地味にとびきり癒やしになるかのような。そんな未来予想図を思い描いていた。すべてがまるっと癒やされるというには、日々のわー成分のほうが濃すぎて無理だ。薄めるには足りない。癒やし成分もわー成分も、どちらも水に含まれるものだとしたら? 私という器は既にわー成分で溢れているから、癒やし成分を足そうにも溢れて心に響かない。濃度もろくに変わらない。

 ファリンちゃんが士道誠心に伝えてくれた転化のように、わー成分を癒やし成分に化かせたらいい。その糸口を昨夜は見つけられたような気がした。

 今日のあやとりもそう。

 でも、まだまだわー成分で私は満たされていて、それどころじゃないのだ。

 カナタも、きっとそうなんだろう。

 ぷちたちを見ていると、ついつい自分たちと重ねてみる。危ういなー、私。でもね? 自分の感情で自分がいっぱいになると、人って様子がおかしくなっちゃうじゃん。

 遊園地で楽しく遊ぶときとか、恋人同士の夜にふたりであまあまいちゃついているときみたいな感情ならいい。けど、怯えたり怒ったり、つらくて悲しくて泣けてきたりするときだと? 負荷に「もうやめて! やめてっていってるでしょ!?」って状況になると?

 危ない。休んだほうがいいラインを通り越しちゃって、かなり参ってる。傷の治療と、痛みを和らげることが必要そうだ。

 意外と危うくなっているときほど、自分に振り回されている。しかもそれは自分じゃどうにもならなくて、頭真っ白状態かもしれない。

 幼い頃だけならいざ知らず、高校二年生、三年生になってもこんなだ。

 たぶん大人になって、おじいちゃんおばあちゃんになっても、そのまんま。

 人によってできることを増やしたり、無理をしなくなったり、休み方がうまくなったり、さぼりかたを心得たりして、やり過ごせるようになっていくとして。それはだれかが教えてくれるわけじゃないし? となれば、いろんなやり方をする人もいれば、ひとつのやり方に頼りきる人もいて、いろんなできない人もまた、世の中にたくさんいるのだろう。

 わーお。

 にんげん、つくづくたいへん。

 十兵衞が教えてくれた言葉のノリでいくとさ?

 柳緑花紅。りょうりょくかこうとも、柳は緑、花は紅ともいうそうだ。

 柳の葉は緑に、花は紅に染まる。それが自然の姿。

 己のあるがままの美を学び、知る。

 仮に己を柳としたとき、葉を七色に光らせる、なんてことはできない。それを叶えようとするとき、どれほど柳としての己を狂わせ、乱してしまうのかしれたものじゃない。己の自然の姿を学び、それを育むのを是とする、みたいなの。

 実際にはほんとにいろんな人がいる。みんなが同じことを同じように思い、同じようにできるっていうほうが不自然だ。

 ならば?

 遊戯三昧。ゆげざんまいと読むそうだ。

 囚われることなく、するを楽しむの。

 遊戯はね? 大辞林だと、こう書かれている。


『心にまかせて遊び楽しむこと』

『楽しく思うこと』

『仏、菩薩、また悟りの中にいる修行者が、自由自在にふるまうこと』


 んー! 読み解くことが必要そうだね!? 特に最後! 仏教の知識が深まれば深まるほど、景色の変わりそうな定義!

 遊戯三昧に戻って、ネット検索すると「なにものにもとらわれることなく」という主旨で解説されていることが多いなあ。

 自分からも、自分が育った環境にさえも囚われることなく、かな。

 大事にしたり、傷つけないようにしたり。そうしたことを忘れずにね。だって、それは別に囚われているんじゃないもの。いきなり無法な方向へとスイッチオンしちゃう極端なタイプの方も中にはいるかもしれないけども。

 もちろん、そういうんじゃないからね?

 この手のことばも、読み解くのがたいへん。


『臨機応変にな』


 半笑いで言ったよ? 十兵衞め!

 臨機応変に活用するにしたって、頭が「わー」ってなっちゃってるんだってば。

 シンゴジラで東京が火の海になったあとの矢口さんが「キミが落ち着け」って言われた状態くらい、頭が「わー」なんだってば。

 ああでも、そっか。

 落ちつけばいいのか。

 いま身近でできることしかやれないんだもんなあ。

 いまの自分から遠いことに挑みたいなら近づくし。その道はひとつじゃないし?

 みんなでやることなら、ひとりじゃなくて人を集めてみんなでやればいいのだし。

 道筋を決めて。臨機応変に? 前向きに。

 ミユさんが私をリードしながら「霊子で遊ぼう、天衣無縫あやとり」でぷちたちのできることをせっせと増やしていく。通じて、私にもレクチャーしてくれている。

 いきなり多くの「わー」成分は変えられない。

 だったら、ちびちびでいい。のんびり変えていけばいい。

 転化できる「わー成分」の種類が増えれば、それだけ私の余白も増えていく。

 これまで「わー」ってなる状況に至る文脈があって、それがいやだと思っても、いきなり文脈を無視して変えることはできない。

 囚われてしまうほど、心の獣たちが怖がって荒ぶってしまう。

 ままならないことばかりだ。

 やべえことばかりでもある。

 意識するほどますます怖くて怯えてしまう。

 なので、まずは落ちつこう。

 あーる・いーず・うぇーる!

 やがて、過ぎる。

 きっと、うまくいく!


「できなぁああああい!」


 ああああああああ! とギャン泣きする子に膝をべちべち叩かれた。

 き、きっとね?

 いまはまだ転化の仕方がわからないことばかりだけど。


「ああ、うん、うん、そうだね」


 脂汗がじわっと出るわ、抱き締めて背中を撫でても手足を全力で振るものだから、殴られるわ蹴られるわで、もう大変だ! めっちゃ痛いしな……っ! どうすればいいのかもわからなくて、泣きそうだ! 助けて!

 一瞬で心の獣たちが私の中で吠え始める。みんなして身体をぶるぶると震わせて、尻尾は内股に逃げてきていて、もう悲惨。

 なので自分に唱える。

 だいじょぶ。だいじょぶ。あやとりできなくて泣いちゃうなんて、むしろ可愛いまである!

 できないのが悔しいのかな? 泣いちゃう理由はなんなのかな?

 なにをどう感じるのかを知るチャンス到来! ね?

 だいじょぶ。どうどう。

 落ちついてこ。

 それほど時間はないけど、そういうときこそ深呼吸。

 さあ、準備はいい?

 気持ちがぜんぶ出ていけるように、できることをしよう。

 それがなんなのか、さっぱりわからないけど!

 そんな自分に自己嫌悪スイッチが一瞬で百はONになったけど!

 なので。

 あの。

 やっぱりミコさんに聞くのって、なしかな?




 つづく!

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