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その刀を下ろして、帯刀男子さま!  作者: 月見七春
第九十九章 おはように撃たれて眠れ!
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第千八百五話

 



 ぷちたちみんな、ハミガキの仕方がまばら。

 うがいをすると歯垢が赤く染まる液体を歯医者さんでもらってきて、試すし? チェック後のハミガキが変わる子もいれば、むしろ勢い任せになる子もいる。

 ハミガキトレーニング。自分がどんなだったか、正直もうどうでもいい。

 お膝にのせて、ぷちの手に手を重ねて、ハミガキの仕方を教えていく。綺麗にしたら、また次の子へ。何度でも、何度でも繰り返す。

 ユメを筆頭に、ユメにライバル心を燃やす子たちも含めて、慣れるのが早い。けど、なかには力一杯みがいちゃう子がいるから、そんなに力を入れると歯茎がいたいよー? ってなだめていく。

 そんなだから、全員のハミガキが終わる頃には思ったよりも時間が経っている。

 それも、でもいまだけの特別で貴重な思い出づくりと思えれば気が楽。

 わーってなっているときは、そうもいかないんだ。

 心の怪物が吠えまくる。なんで学校に行けないの、なんで尻尾にいてくれないの? なんで私はここでくすぶってるの! と。怪物の声が頭の中をいっぱいにすると、私はとうとう耐えきれずに癇癪を起こすように荒ぶる。

 もう我慢させないで、と悲鳴をあげている。

 だからって、それで暴力を振るっていいはずもない。

 黙らせようとしたり、我慢させようとすると? 怪物はますます暴れる。

 怯えて生きるのに必死で、吠えるし歯を剥き出しにするし、おしっこだってもらしちゃうくらい限界なんだ。怪物は、ほんとはとびきり怖がっている。

 手を出せば噛みつかれるだろう。噛みちぎられるかもしれない。生きるために、居るために必死なんだもの。感情は伝播する。とびきりの恐怖だってそう。

 そんな自分の心で怯える怪物を抱き締めて、なだめられたらいい。

 キラリと結ちゃんと一緒だった中学時代は不可能だった。怪物が吠えると、もうそれだけで私はいてもたってもいられなくなり、いま思えば恥ずかしいことをさんざんやらかした。

 私に吠えるイマジナリーモンスターは、実のところ、ぼっちで、理解者が欲しくて、モンスターになるきっかけとなったできごとをやり直したくて、きっかけとなった人にやってほしいことがあって、さらには私に猛烈な安心感を与えてもらいたがっている。

 オープンダイアローグの話を前にしたよね。

 開かれた対話。その手法として、未来型ダイアローグというやり方があるらしい。

 対話をする際、すべてが解決した未来の自分たちになって、対話をするみんなそれぞれに「ああ、こういうことをしたのがよかったなー」とか「ああ、あの人がこうしてくれたのがよかったなー」とか、話していくんだって。対話に臨むみんなと、専門家のスタッフさんたちとでね。

 わかるよ?

 たとえば揉めている家族や、トラブル発生中のともだちたちで集まって、そんな対話が成立するのかな? って、思ったんじゃないかな。

 そうした記述を本で読んだとき、浮かんだんだ。

 お作法がちゃんとあってね? 相手の発言を遮らない、否定しないとか。あとは、アドバイスをしてはいけないとかが新鮮なポイントかな! ネガティヴ・ケイパビリティを一時的に利用する場面もあるみたい。

 だから、不安な予想についてはお作法を守りながら、慣れていく形になるのかな? って想像してる。現場を見るには、あまりにプライバシーに直結したセンシティブな領域をテーマにしているからなー。むずかしそうだ。現場の経験者が患者や参加者許諾のもと、書籍で例を書くか、あるいはフィクションの出番なのでは?

 いまのところモデルケースを見ていないものの、でもそれほど奇妙にも感じない自分がいるの。というのも、対話はそもそも人に備わっている一面だという記述が「わかるー」って思うことも経験しているから。意図的に対話をしようとしてきたわけじゃないぶん、私の体験と感覚はふわっとしてるけどね。

 イマジナリーモンスターはそれどころじゃないので私にアドバイスをする。解決を求める。急かすんだ。とにかく、もう、一刻も早く、このつらさをどうにかして! 助けてよ! って。

 同化して、私はキラリに裏腹な言葉ばかりぶつけて、ひどい態度で接し続けて「助けてよ! はやくさあ!」って圧をかけてばかりいた。

 そりゃあ?

 無理な相談だ。

 モンスターになる前に、かわいいかわいいぬいぐるみみたいな「大事にしてほしいな~」とか「大事にしたいな~」っていう感情を、うまーく解決していく力を育てたい。

 それを、ぷちたちとどうしたらいいのかわからないまま、ハミガキはトイレやお着替えのように、トレーニングを続行中。まだまだなかなか時間がかかる。

 できればいい、じゃない。できるようになればもう構わない、でもない。

 褒めるし驚くし、それは心からできるほどいい。そりゃあもう!

 私がわーってなってると、そんなの無理だ。イマジナリーモンスターが大暴れしているときの私にやれっていうのも無茶な話。そういう私を見ていると、ぷちたちがどれほどこわい思いをするのかっていう話もあるけれど、それはモンスターが暴れる理由や怖がる理由になりこそすれ、具体的にどうすればいいかの解決策はくれない。

 モンスターが大暴れしているときの私と、こわがっているぷちたちとで未来型ダイアローグをしたら? 私は未来をどう思い描くのだろう。

 正直かなり、おそろしい。

 専門家がいないのにやったら? それこそ薬のつもりで毒を飲んでしまいそうだ。

 落ちつきたいなあ。

 モンスターとは和解して仲良くいたいぞ?

 どんな私になるかは、幸せな気持ちで思い描きたいもの。

 ぷちたちにとっての完璧万能無敵なママになる、なんて目標はやめよ?

 どれだけやっても不可能だ。

 答えがわからないものは、なりようがない。達成しようもない。矛盾する項目も増える。相互性はないまま、アイテムみたいになっていくのが理想かって?

 まさか!

 なんでもかんでも、ぷちたちの求めに応じてやっちゃう私はきっと、ぷちたちのことより、自分のことで夢中になっていくばかりだろう。モンスターはより怖がるはずだ。

 できなきゃだめになるほど、できなかったらどうしようとモンスターは恐れる。私の中でより存在感を増していく。それじゃ和解なんてできないからね?


「ママにしてもらうの、すきー」


 でれでれしながら、綺麗に赤い色が落ちた歯を見てはしゃぐ子までいるのだから。どんなやらかした状態でも和解できるくらい、ゆるくふわっとタフにらしくいたい。

 そんな私の気持ちはことばにして声に出さないからね。

 知らずに私の膝に座って、うれしそうに足をばたばたと振って言うのだ。


「らくちんなのがいいね?」


 この正直者め!

 甘やかしていいのかな。このままでだいじょうぶかな?

 モンスターは声を変え、角度を変えて私の中で怯える。


「今日は甘えん坊さん?」

「あまえたいときは、あまえるんだよ?」


 当たり前みたいに言うんだから!


「カナタみたいにしょんぼりしちゃうもん。そんなの、や!」


 両手で私の膝を押して、飛び出していく。

 リビングですでにゲームをし始めている子たちがいて、混ざりたいのだろう。

 それにしても「カナタみたいにしょんぼりしちゃう」だって!

 カナタはとっくに和室でオモチャ遊びをする子たちに揉まれている。いまの発言は聞こえていないと信じたい。

 いじられてるやん!

 笑っちゃうって、そんなの。

 さっさと立ち上がって、私もハミガキ。

 未来の自分になって、逆算する形で思い描いてみる。これがあったから助けられた、ありがとうっていえるようなものって、いったいなんだろう。

 中学時代の私に、いまの私がありがとうって伝えられることってなんだろう?

 あの頃の私の中で暴れるイマジナリーモンスターがやらかしてしまったこと。いまの私だからわかる、あの頃のイマジナリーモンスターの訴えとはいったいなんなのか。

 時間がもしもできたら、カナタと話してみよう。

 伸びた犬歯にブラシをぴったり当てて、しゃかしゃかと鉛筆を持つように構えて磨く。力はいらない。ブラシの形状はそのままに、しっかりあてて汚れを落とせればいい。歯磨き粉が泡立つ。歯と歯肉の隙間にご注意を。強めに磨いたら、削れちゃう。

 磨きながら考える。

 昨日か一昨日に考えた、ブラックジャックの話。

 もしも彼なら、幼い自分にどんな言葉をかけるのだろう。

 完璧超人、弱さも隙もな万能な人だから魅力を感じるんじゃない。彼の弱さや人間味、脆さや儚さに魅力を感じる。少なくとも、私の場合は。

 壊れそうな一面を持ち、よくも悪くもそれを補うほど足掻いて彼が得たものは母親を、自分を治せたはずだという証明なのか。それとも、別のものなのか。

 読む人それぞれの中に、いろんなブラックジャック像があるんだろう。

 お父さんがOVAを絶賛してて、ちっちゃい頃に見たけど結構こわかった。

 ブッダ、火の鳥、ベートーヴェンに、アトム。奇子のような作品もある。いろんな作品の妖しさ、艶めかしさみたいなものが、ブラックジャックの患者さんに出ている回もあって、不思議な体験もけっこうしてなかったっけ。

 特に印象に残っているのは火山の大きな岩を掴んで手が抜けないおじさん――……じゃなくて。

 人面瘡!

 これが宇宙から飛来したやべえ生きもの由来になると寄生獣になるのかな? 自分の身体に自分の意志とは別の存在が寄生して、語りかけ、ときに自分を操りさえする。

 自分の身体に自分以外の住民が居ついたら、どうなるか。

 愛すべき隣人になるのか。どうだろ。

 寄生という点にずらしていくと、同じくブラックジャックのOVAに化学兵器として改良されたエキノコックス症で拒食に陥った女優さんの治療回があった。

 とびきり危険な寄生虫で、狐憑きの私が言うのもなんだけど狐をはじめ、イヌ科をはじめとする生きもののうんちを通じて媒介するという。日本だと北海道のキタキツネが主な感染源だとして、厚生労働省のホームページで説明されているよ?

 山菜や野菜、果物などは食べる前に水で流してよく洗うけど、あれは大事な工程だ。日常のなにげない手順にも、大事な対策が眠ってる。

 ぷちたちにも、動物との触れあいについてはちゃんと教える機会をもたなきゃ。触れたら、その手で食べずに、しっかり手洗いを。また、野生の動物には触れない、近寄らないのが無難。エサをあげない、近づけないっていうのもね? 実のところ、感染対策の一種みたい。野山に行ったときの手洗いも、生水しかないときは煮沸してから飲むのも、とても大事。

 そうしたトレーニングは、地道にやっていこう。

 動物園に行くときに伝えるのもいいね?

 宝島に遊びに行くと、わりと野生の動物がたくさん見かけるからなあ。そこも要注意だ。

 どんな状況でもブラックジャックは自分のできることを見失わずに、できるかぎりのことをしている。人面瘡が相手のときでさえ、そう。

 痺れるなあ。

 お父さんの持ってるマンガだとブラックジャックは治療に失敗したり、ドクターキリコに先んじて安楽死させられてしまっていたりしていた。彼はそのつどひどくうろたえるし、ショックを受けるし、しばらく塞ぎ込んだりもする。愛する助手のピノコがいて救われる場面、たくさんあるよ?

 あらゆる手を尽くして臓器だけの存在だったピノコを少女にした。はじめて見たとき、それは奇跡のようだった。とてもすごいことで、素晴らしいことのようにさえ思えた。

 けど、本当にそうなのかな。

 彼は自分を救った恩師に諭されていなかったっけ。

 進歩する医療で人を切り刻み、機械のようにツギハギして、治したこととして、それがどれほどのことか、みたいに。

 実際、何度となく彼は苦悩した。懊悩し、そしてまた立ち上がる。その繰り返しの中で、何度となく自問したろうし、何度となく挫折してきたろう。

 そういうの、たまらなく痺れる。

 青臭いかな。

 いっか。それでも。

 なんにもはできないから。できることからね。

 失敗するよ? やらかすよ。これからも。

 モンスターが静かになる日はきっと、永遠じゃない。

 いま静かになって、明日さわいで、明後日おおさわぎして、その翌日に疲れて静かになって。そういう繰り返しだ。

 そのままでいいから、幸せな気持ちを総動員して思い描いてみて?

 いまある、解決したほうがいい問題すべてまるっと解決した未来の自分になって、欲しかったことはなにか。モンスターがふっと穏やかな顔になるような、そんなぬくもりの象徴はなにか。

 ゆっくりと知っていく。モンスターはいなくならない。なら、まずはキミのことをよく知りたい。

 地球のどこかで必ず風が吹き、海には波が立つ。さざ波でしょう? 風浪に育ち、やがて砕けて白波になっていく。どんどん遠くに広がっていく、うねり。陸地に近づいて、磯波に。

 ネットで見たの。

 実際に海の波をぼーっと眺めていると、水深が浅くなっていくにつれて、波と波の間の距離が開いていき、波の高さは低くなっていく。

 ほんとはもっと手前で波は高く険しくなるそうだけど、カナタと一緒に行った鎌倉の浜辺で見た波は低かった。もしかすると地形の問題かな? それほど波は立っていなかった。

 波のエネルギーが弱くて、波の上に流れる水が落ちていく。

 じゃぶーん。ざぱーん。

 泡立ちながら引いていく。

 海の泡はなかなか消えない。潮が引いて、次の波に流されてなくなったように見えて、また泡が残る。ふつふつと弾けて、砂に染みていく。

 ぶくぶく膨らんで残る泡っていうほどじゃない。植物性プランクトンの粘液だ、みたいな説明ができるみたいだけど、そこまでじゃない。

 心は星と海だ。モンスターの存在を波音と、その名残に見て取る。

 なくならない。

 波打ち際の浜辺の砂は、波にさらわれて削られていく。

 山の川のように。水の力、恐るべしだね。

 ぐれーとなざぶーんモンスターだ。

 マイペースにいこう。前向きにね?

 どうか教えて、モンスター。

 五月雨の空もとどろにほととぎす。なにをうしとか夜ただ鳴くらん。

 紀貫之のもの。古今和歌集に収録されてるやつだ。

 吠えるモンスターに問いかけたくなるとき、思い出す。

 続けて。

 ほととぎすなく声きけば別れにしふるさとさへぞ恋しかりける。

 よみびとしらずだったかなー。これは。同じ古今和歌集のものなんだけど。

 案外、モンスターは心安らぐ人のいるふるさとを求めているのかもしれない。

 そこに思い至ると、言葉を失ってしまう。

 しかし、安らぎの地も、人も、知らないのだ。

 それが自分を救い、心穏やかに眠れる居場所なのだという希望だけを縋る柱に、モンスターは吠えている。

 こんなはずじゃなかった。

 きっとあるはずなんだ。

 それがないからずっと怖くて怖くてたまらないんだ。

 助けて!

 私にそう、吠えている。

 ごめんね、モンスター。

 私はまだ、ふるさとも、そこで待つ人になる術も、よくわからないの。

 学んでいる最中なの。


 ◆


 縦割り社会にようこそ?

 立沢理華でぇす! いぇあ! ふぅっ!

 組織って大変だと体感したことのある人に、ご報告。

 私はいままさに、その弊害で個人的捜査活動を妨害されています。

 警察は殺人事件を捜査しているけれど、捜査本部を立てて刑事部ががっつり情報封鎖中。

 佐藤さんのいる部署には情報が回ってこない!

 隔離世絡みの事件を捜査する佐藤さんたちが身動きが取れず、侍隊は侍隊で隔離世での情報が空振りときている。おまけに刑事部の邪魔をするなと、事件現場から締め出されてしまう。隔離世でこっそり調べ物なんて、正規の組織ができるわけもなく?

 連携が取れない組織間のいさかい、政治的配慮のもとに捜査は進展せず。

 ならばと非合法に忍びや教団の手を借りようとしているが、これも進展せず!


「あ、あの。いつまで走ればいいんすか?」

「理華の閃きが浮かんでくるまでですよ。ほら、走る!」

「なんの罰ゲームなんすか!」


 宝島の道を、瑠衣に背負ってもらって走ってもらう。

 縦揺れがなにか新たな刺激になるのではないかと期待しているのだけど、いまのところうまくいっていない。


「忍びの情報は」

「進展なしっす!」

「ワトソンくんは」

「そっちも同じ!」


 どちらも現世、隔離世ともにアンテナを張り、情報を収集する技術が高いはず。

 なのに、成果はない。

 シオリ先輩に協力依頼を済ませたけれど、まだ次の情報は出てこない。

 敵が手強い。

 あるいは、これまでとはちがう視点が必要なのかもしれない。

 現世は警察に任せるのが一番いいだろう。法的に捜査権限を執行できるのなら? これほど便利なものもない。

 隔離世がらみでいうのなら、忍びに教団、侍隊が満足に動けるほど任せておくに越したことはない。

 情報技術でいうのなら、シオリ先輩を超える人材を私は知らない。

 となれば? これらのアプローチをかいくぐるような盲点についての検討が必要不可欠だ。

 それはなんだ。

 イレギュラーケースから想定するのはどうだ?

 どれほど邪が育ちきってみせようとも、現世で邪を生み出した人が受ける影響といったら暴力沙汰を起こすという、現世の枠組みにおいて常識的に収まる範囲だった。もちろん問題だが警察が、なによりも侍隊が対応できていた。

 しかし現世に妖怪が現われた。東京湾に巨人まで出た。

 そういう異様さ、異質さから当たれないか。

 無理だ。当たりをつけるための材料がない。

 偏見を持ち、その筋から当たるにしても情報が足りなすぎる。手として否定はしないが、まだ早い。というより、手のつけようがない。

 犯行現場はなるべく足を運び、こっそり勝手に足のつかないように調べたが、情報なし。

 ウィザードか、それともあいつから道具を受けとった清川未来先輩か。それともあの頃から流通し始めたという黒いカプセル剤か。

 ウィザードは解放された。記憶を食らい、集める蜂の被害者だった。あいつが私たちの学校に向けて解き放った赤い髪の狼少女たちも、黒いカプセル剤についても、ろくに覚えていないそうだ。

 まず仮定、一。嘘っぱちであるとしたら? 彼を調べた緋迎シュウたちが揃ってだまされた、とは正直思えない。そこまで達者な人物だったら、私たちはもうちょっと手こずっていた。

 まあ、感触で判断するのは早計だが。実際に憑きものが落ちて、むかつく大金持ちに収まった魔術師を見て、指輪の魔力もこっそり使って調べた限り、悔しいけど白だ。

 忍びに教団。それに明坂ミコまで出張ってきて、あいつの心を探ったはずだ。となれば、いよいよ嘘をついているとは思えない。

 となると?

 仮定、二。真実であるとしたら。

 いったいどんな状況が想定される?

 もっとも、あいつの過去の振る舞いが今回の一件に関わっているという確かな証拠もないのだけど。縦にそびえて横には滅多に繋がらないか、それをなるべく避けたがるみっつの頼みの綱の進展を待つ間、私は暇なわけで。

 瑠衣の背中に身を寄せて尋ねる。


「黒いカプセル剤の情報は? 仮にウィザードが流通源だとして、あいつが過去を忘れたのなら、供給が途絶えているかもしれない」

「前ほど噂にならなくなったんすけどねえ」


 健脚の瑠衣は姿勢が乱れることなく、軽快に走る。

 鍛え方がちがうのだろうか。忍びってやつは。


「既存の薬物に比べて気軽にぶっ飛べる。セックスドラッグとして抜群の評判。おまけに簡単には手が入らなくなった――……となれば?」

「むしろ噂になりそうなもの」

「里のみんなはそう見てて。遊園地絡みの情報収集に合わせて、時雨が探ってくれてるんすけど。続報がどうにもね」

「ふうん」


 ないのか。

 なんだ? いったいなにが起きている。

 このままじゃ次の事件が起きてしまうのではないか。

 犯行が途絶えない。続いているのが報道をますます加熱させていく。

 私の出くわした一件でさえ、異様だというのに。

 あれだけ遺体を並べた犯行で、なぜ先に進まない。

 私たちはいったいなにに振り回されている?

 直感がある。これは私向きの案件だ。関わり方からしても、私はこれを断じて放ってなどおけない。

 にも関わらず、なんだ。魔法を使いこなせる魂をもった指輪があって、忍びの集団だの、隠れてこそこそ活動している教団だの、帯刀してる警察官たちだの、そっちの世界じゃ名の知れた凄腕ハッカーだの、そういうのが揃いも揃って「わけわからん」となるこの状況は。

 逆算して。

 むしろ、どういう存在なら、この状況を可能にする。

 この筋で考える。いまはそれしかできることがない。そんなことはわかっているのだが。


「ところでぇ。理華? いつまで走ればいいんすか?」

「理華がなにか閃くまで。それか飽きるまで」

「だ、だったらいっそ、そこらへんのお店でのんびりするっていうのは」

「採用」

「さてはずっと前から飽きてるな!?」


 言わないけどね。

 春灯ちゃんの言葉を借りるのなら、余白がない。

 そういうときは意図して遊びを取り入れるのがいい。だれかと一緒に過ごして、自分だけでは感じ取れない刺激を得るのがいい。

 それでも情報が増えるわけではないけれど。

 気晴らしは大事ですよ? 立沢理華でした。

 さ。諦めずに粘りを見せるとしましょう。ときに休み、ときに悩んでね。




 つづく!

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