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その刀を下ろして、帯刀男子さま!  作者: 月見七春
第九十九章 おはように撃たれて眠れ!
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第千七百九十二話

 



 ぷちたちに呼ばれて、そばに行くまでに時間がかかった。

 どうしても脳裏を過ぎる。眼前に迫る石。

 あれは絶対、死んだ。

 あのあと、夢でなっただれかの亡骸がどうなったか。

 祭り。乱交。いまのご時世ならアウトな禁忌だらけのあの場で、あれがいつ行なわれたことかはわからないとしても、土器か木材だけ。金属はなかった。せいぜい、鉱石を削って作った包丁ぐらいだ。火を使っていた。お酒もあった。木の実のお酒。

 見かけたのは、みんなアジア系。日本かも。土器は見かけたことのあるデザインっぽかったし。

 じゃあ縄文時代や弥生時代あたりのことかっていうと? それはそれで微妙。

 室町時代とか、安土桃山時代とかに怪しい怪しいお祭りに熱をあげてた集団がいました、みたいなことだとしても、別に驚かない。

 いま持っている私の知識がどれだけ偏っているのか、どれほど的外れなのかもわからない。昔にさかのぼって生きることはできないもの。

 なので、当て推量でしかない前提を踏まえて考える。

 大量の鶏肉。焼いて食べるもの。たくさんの稲穂。実りの象徴。そして少女を供物に。

 顔を向かい合わせていた男女はなんだろう。みんな若かった。これから結婚するふたり組とか? 湖に沈んでいた土器に入っているのは、お酒だろう。果実酒のたぐいかな。それが日本にあったかどうかはさておき、実際に果実酒だとして、あの場に集まる全員が一口飲むくらいの量はあった。お酒を呑んで、やることやって、その先は?

 わからないけど、ろくなことにはならないだろう。

 生け贄。

 その先は?

 わからない。

 肉と脂、そしてお酒。殺す前に、食事を。

 意味なんか求めなくていい。前後不覚に陥りそうなものを、これでもかと食わせる前に、もしかして、たぶん、ろくに食べてなかった。自由を奪われていたかどうかは謎。わからない。当て推量しかできない。そしてその当て推量では、最後をどう捉えればいいかわからない。

 殺された。

 それで、終わりだ。

 ただの夢? そうは思えない。

 じゃあ、ひどい夢はこれで終わり? そうも思えない。

 次があるかもしれない。

 そう思うと気が重い。

 重いけど、でも、たぶん次はくる。

 もうちょっと状況を見てみよう。同じ場面かもしれない。ちがう場面かもしれない。共通項があるかもしれないし? ないかもしれない。夢だとして、なにか変えられるのか。変えられないのか。それもわからない。

 怖いからどうなるかわからないし、なにをどこまでできるかもわからないけど、私の望む望まないを別として寝てみる夢は勝手なものだからね。

 ぷちたちの元へ。一緒に遊ぶし、いろいろ張り切って挑むとあっという間にくたびれるし? ぷちたちはぷちたちで眠たくなるしで、付きあってごろ寝をしたら?

 そりゃあ、私だって昼寝しちゃうってわけ!


 ◆


 で、夢を見るってわけ。

 みんなで私の部屋に敷いた布団で、タオルケットにくるまって居眠りするんだ。

 そりゃあもう! 眠りの導入としては最高ってなもんでしょ?

 それなら夢見もよくなきゃね? そう思うんだけどさ。

 寝て見る夢を変えられるかどうかって、絶対じゃなくない?

 今回もそうだった。

 目が開く。視界が揺さぶられる。すぐそばに、目!

 間近にいるだれかが頬を叩いている。明るい。瞳に反射して見えるのは、幼い男の子の顔。

 こちらが目覚めたことに気づいて、だれかは離れた。

 お互いに裸だ。またしても!

 だれかは若いお兄さんだった。

 口を開いて、なにかをしゃべっている。けど、聞き取れない。

 夢だからか、それとも別の理由でなのか。手首を掴まれて引っ張られる。

 畳の上だ。裸の男の子たちが寝転がっていて、みんなだいたい寝てた。あとは――……詳しい描写は差し控えるけど、宴の主催者っぽいおじさんが刀を手に寝ていた。お腹の上に男の子を抱き締めたままで。

 お兄さんと一緒に部屋を出る。

 板敷きの廊下にでてすぐに庭が見える。先ほどの部屋は男一色だったのが、様子が変わって男女入り交じる。年齢ももうすこしあげて、疎らに。脱ぎ散らかされた着物の布地が散乱していて、そこら中に盃だの器だのが散らばっていた。

 朝露に濡れたヨモギやノビルの草葉が見える。高いびきの人たち。みんなして居眠り中。バッタやカエルがのんきに人の上に乗っかっている。

 お兄さんは私が夢に見ている少年を連れて、きょろきょろと見渡しながら先を急ぐ。

 なにかを探しているみたいだ。急にぐっと引っ張って、先を急ぐ。奥の間に入り、屈んで、畳を撫でる。こんこんと叩いてから、端の布を掴んだ。どういう仕組みか、紐が出てきた。それを引いて、畳を持ちあげる。敷かれた板と板の間に隙間があった。迷わずお兄さんは両手を伸ばして、桐で作られた箱をそっと取り出した。

 上面のフタを開けて、手招きをする。少年が覗き込むと、そこには壺が入っていた。

 これがさっきの夢で見た土器ならわかりやすいけど、そうもいかないようだ。

 ただし、壺はいかにも値打ちモノの家宝かなにかのようだ。

 お兄さんが笑う。すぐさまフタをして、小脇に抱えた。そして少年の手を引いて先を急ぐ。

 泥棒だ。要するに。


「――……」


 背中しか見えないけど、お兄さんはなにかを上機嫌にしゃべっていた。

 それほど大きな声じゃないだろう。庭に出て、適当な布を掴んで羽織り、私にも続くよう促す。急いで適当な服を着るけれど、大人の着物じゃ丈がね。お兄さんが急いで裾を縛ってまとめてくれた。面倒見がいい。

 兄弟というには似てない。暮らしの兄弟ってやつなのかもしれない。

 壺を売って稼いだお金で、ちょいとマシな生活水準へ。目指せ、脱貧困! ってところかな。

 親がいるとも思えない。集められた少年たち。あれは露骨にどうかしてた。

 壁に掛け軸、丁寧に整備された庭。刀に弓。ヤリも見かけた。散らばっている器もけっこういいものとみる。漆器もあるし? 酒池肉林。主催者は、恐らくは少年たちの中で寝ていたおじさんだ。侍か、武家なのか。それにしちゃあ、羽目を外しすぎている。壺の隠し方にしても、ね?

 考えごとをしている間に、ふたりして屋敷を抜け出した。塀を目指す。その先にでて、あとは遠ざかれば遠ざかるほどいい。けれど、果たせなかった。

 がくん、と。膝から先の頼りがなくなって、砂利が視界に迫ってくる。

 倒れた。転んだ? ちがう。

 ふり返ると、ふくらはぎに矢が刺さっていた。

 お兄さんが血相を変えて、手を伸ばす。けど、ぎくりと身を強ばらせて止まった。

 恐怖に怯えた顔をするけれど、私の視線に気づいて、なんとか、かろうじて、口角をあげる。

 彼の名前を呼ぼうとしたのかもしれない。が、視界が一瞬で真っ暗になった。

 まばたきをするような感覚で、次に見えたのは暗闇を照らす炎。

 さっきの夢と重なる既視感。でも、そこは洞穴の中だった。

 先ほど見かけた屋敷の主であろうおじさんが座っている。座布団の上で。下には畳。柱を立てて、簾をかけている。将軍さま気取りかよ、と内心で呆れる。

 けど、私が主観を借りている少年はちがった。胡座を掻くおじさんのすぐそばで、ひざまずいて頭を垂れている背中が見える。髪がないが、さっきまで手を引いてくれていたお兄さんだった。努めて表情にでないよう顔を強ばらせた女性が、ひざまずいているお兄さんの頭にかつらをかぶせる。身体を起こさせて、着付けていく。

 女の子の格好に。お兄さんは立てない。膝立ちしかできない。みると足首に傷痕があった。既に癒えている。

 まばたきの間に、けっこうな時間が流れたのか。答えはわからない。

 ただ、お兄さんは抵抗しない。おじさんが手招きすると、這ってそばへ。しかし、手首から先の動きが変だった。ぷらんぷらんだ。おじさんに抱えられて、足を開かされて。そのとき、彼が口を開いた。あったはずの歯がすべてなくなっていた。

 別の女性が――……もしかしたら男性かもしれないが、器を運んでくる。

 肉だ。その肉がなんであるかはわからない。

 ただ、おじさんは嬉々として掴み、噛みついて、咀嚼し、口移しでお兄さんに食わせる。

 涙を流してお兄さんが、それを食う。

 それを見ている私はどうなっているのか。

 顔は動かない。身体の感覚はない。それが夢だからなのか、それとも別の意味でかは判別がつかない。

 おじさんがこちらに顔を向けて、なにかを言う。

 すぐに視界に人が見えた。垢で黒く汚れたすりきれの服で、手に肉切り包丁を持った男だった。それをみて、お兄さんの顔が歪む。たぶん、叫んだ。それを聞いて、おじさんはますます嬉しそうに破顔して、お兄さんの頬を撫でる。

 それから雑に手を振った。男は包丁を置いて、離れていく。代わりに、お兄さんを着付けていた女性が近づいてきた。私を抱き上げて、離れていく。

 洞穴を進む。途中途中に松明がおかれていたけれど、一本道だ。それにそれほど深くもない。

 遠ざかっていくお兄さんの顔を、私は、少年は、ずっと見つめていた。

 不意に道を曲がって、呆気なく別れがきた。

 ほどなくして、お姉さんが私を持ちあげる。高い高いをするように。

 顔は端正。だが腕は男のものだった。


「――……」


 なにかを言った。

 謝ったのだと思う。

 不意に、落ちた。

 水の中へ。

 もがく。視界に、手も、足もなくなった身体が見えた。

 浮き上がることなどない。

 くるくると回る。水底に、同じような亡骸がいくつもあった。骨も。

 泡を吹きだす。叫んだのかもしれない。しかし、助ける者などいない。

 ただ、死んでいくだけ。

 視野が徐々に狭まっていく。

 水面を見あげる格好で底についた。泡がのぼっていく。水面の向こうで、松明の明かりが遠ざかっていく。少年を連れ出した女性が離れていったのだ。末期を見届けることなく。

 まぶたを閉じた。諦めたかのように。

 浮かぶのかと思った。しかし、そうはならなかった。

 ただ、沈んで、終わっていく。

 それだけ。


 ◆


 思わず空気を求めて、目覚めてすぐに息を吸った。


「――……」


 ユメが顔にがしっと抱きついていることもなく。

 起き上がれた。普通に。

 みんな私のすぐそばにいたけれど、すやすやと寝ている。

 じゃあ、私は?

 脂汗でびっしょり。胸に手を当てる。

 ろくでもない夢見だった。今回も。

 ええねんて。和製ハンニバルみたいなことするやべえヤツとか、殺しも伴う怪奇的な風習とか。ええねんて。やめてくれよぉ! って、もう既にお腹いっぱいだ。

 昨日まで普通に眠れてた。たしかに最近の私はけっこう参っていたけど、快眠してた。

 だから二度の悪夢連続チャレンジはほんとにしんどい。

 これがもしも私の神通力だとしたら? 勘弁してほしい。

 癒やしのつもりで。あるいは確認のつもりで、金色を出した。手のひらから。

 思ったよりも出た。

 それはすぐさま、さっき見たお兄さんと少年の姿を取る。そして私を恨めしそうに見るのだ。

 ぞっとしたし、しすぎて声さえろくに出なかった。

 ふたりの姿を取る金色が拡散して、収縮すると? 今度はひとつ前の悪夢で見た裸の女の子になった。三人とも、無事な姿で助かる。じゃなければ叫んでいたはずだ。

 女の子の姿を取った金色がふっと散らばって、消えていく。

 意味ありげに。

 私、操ってない。そんな風になれなんて思ってない。

 額に手を当てる。濡れてた。最悪だ。

 もうひとつ最悪な出来事が。

 本日、三度目のぉおおお!


「もぉおお」


 極力、ぷちたちを起こさないようにうなる。

 あれか。

 たいへんってか。

 お狐ちゃんライフは。

 そう易々といかねえってか。

 上等だぁ! このやろお!

 自分を鼓舞する。意識して。

 共感して、引き受けようとするほど、沈んでしまう。

 過去は変えられないし、変わらない。

 思い出も似てる。

 思い出に浸るまでで止まるならまだしも、思い出の沼にはまって抜け出せなくなると困る。

 ネガティブもそう。ポジティブも一緒。

 ハマって動けなくなるようだと困る。

 動けなくなるぞ? 下手こくと。焦るほど。急ぐほど。

 じっくりいこう。


「――……うし」


 こんなこともあろうかとぉお!

 対策はぁ! してあるぅ!

 どどん!

 と、あえておばかに構えてから、深呼吸。

 両手を前に伸ばしてぇ、金色を出してみる!

 さっきの現象を、今度は自分で再現できないか確かめるために。

 勝手にでてくるのなら、自分で作るの楽ちんそうな気がしたけど、実際はちがった。

 人の姿にはならない。ただただふわふわ浮いて、すぅっと消えていくだけ。

 金色が私の思いの珪砂なのだとしたら、だれかが私の珪砂を利用して訴えてきてる、みたいなことぉ?


「黒いの、ねえ」


 小声でこそっと呼びかけてみるけど、反応なし。

 だめかー。

 秘宝絡みかな? じゃない?

 御珠みたいに、霊力や霊子と直結する形で生み出されるもの。

 基本的には隔離世でしか役立たない。黒いのが活躍中の頃は世界中の霊子をめいっぱい独占してたから、薄くて効果が弱まっていた頃は特にそうだった。

 じゃあ、いまは?

 黒いのがいなくなって、霊子が世界にあふれたいまなら事情が変わってくるのでは?

 なら、私の見た夢も、さっきの姿も、どちらも秘宝からのメッセージ?

 考え過ぎかもしれないし、そうじゃないかもしれない。

 鳥居を抜ける途中で私を引きずり込んだ、あの空間と関係があるかもしれないし、ないかもしれない。

 あるとしたら?

 ありありパターンの場合は、なにが想定されるかな?

 わかんない。

 ちょおっとばかり、時間がほしい。みんなと相談したい。

 ただし、もしも秘宝絡みの夢だとしたら?

 それは悲惨な体験から生まれることもあるかもしれない。

 いや、私が夢に見た子たちの願いとは限らない。食い物にしていた人たちによって生み出されたものかもしれないよ?

 決定打はない。

 いまできることは?

 ないぞー?

 もう一度ねたら、また悪夢が見れるかも。


「みたくねえ……っ!」


 できれば今後は控えさせていただけると!

 せめて、見るぞと決めたときにだけにしてもらえると!

 さすがに無理かー。

 いまのところ二連続だしなあ。引きずり込まれてからの悪夢率百パーセントだ。

 だれかが来てくれたとき、もしも共有できるのなら?

 もうちょっとくわしく調べられるかもしれない。

 だから、どうか。落ち着け、鼓動。

 無理だ。

 深呼吸を繰り返す。大げさなくらいでいいし? おどけるくらいがちょうどいい。

 二回つづけて、最後は死。

 最初は生け贄っぽくて、二度目は供物か食物かって感じ。

 未練か、怨念か。憤怒か、憎悪か。それとも?

 わからない。

 決め手にかける。夢に見ただれかの人柄がわからない。

 二度目の場合は、じっくりたっぷり時間をかけて体感したら、処理しようのない感情に苛まれること間違いなしだ。

 申し訳ないけれど、いますぐそこまで深く潜れはしない。

 私にできるところから、関わらせて。弔いが必要なら、私はそれをするよ。


「――……あ」


 なるほど?

 弔いね?

 あー。ね!?

 ありだね!? そういう方向性!

 でも待って!? マドカたちが見ていた目録、どえらい量あったんですけど!

 隔離世がある以上、邪も生まれるし、なにかと起きるから御珠は残すし、同じくらい大事なものもあるかもしれないけど!?

 囚われている人がいる、魂が絡む秘宝を見つけて、お祓いする感じ?


「おー」


 秘宝の否定っていうんじゃなく。

 なんだろな。

 秘宝に絡めて生じた怨念がおんねん状態のものへの対応?

 リラックスするべく、できるだけ冗談をいれようとした途端のしょうもないギャグにめげそう。でも続ける!

 浄化、解放。いろいろと浮かぶ単語はあれど、問題は?

 できっかなー。

 やったことないぞ?

 ただ、私の御珠のえっぐい汚れのように、洗い清めるみたいなこと? が、必要なのかも。

 あの三人がまず私の元に来た、のかどうかはわからないけど。あの三人に対してできること、ないかな?

 推測があっているかどうかもわからないんだよ?

 わかるわけないよ。

 わからないから、お祈りしとこ。

 ひとまず! 見た! 私、見たよ! ちゃんと!

 手を合わせて、三人のことを思い浮かべる。届いたよ、と。

 それが素っ頓狂な受け答えかもしれないし、いやいやそもそも届かないでしょと思いもするけどね。勝手に思っておくのだよ。こういうのは!

 私、思った! 以上、終了! ってやつなのだよ。ただそれだけのことだ。

 でも、なんか区切りがついた。

 勝手だよね?

 知ってる!

 でも、これくらいでいいの! いまはね。ゆっくりやってくの。

 さてと!


「何度でも入るさ、シャワーを浴びにな!」


 寝れば寝るほどおもらしするまであるからな!

 ふはは!

 さすがにそろそろ泣いちゃうぞ!




 つづく!

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