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その刀を下ろして、帯刀男子さま!  作者: 月見七春
第九十九章 おはように撃たれて眠れ!
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第千七百八十七話

 



 しょうじき、お金たくさん、ほしいです。

 青澄春灯、心の俳句。最低か。

 いやでも本音。

 ビジネスは? お金を稼ぐもの。

 映画も小説も漫画もそう。

 稼ぎたい!

 じゃあ、どれくらい? 具体的に、どういう形で? なにをどこまでやっちゃう?

 集団になって起業して、企業になって、多くの企業と取引を。

 そうなるとますます舵取りは複雑化する。

 SUITSだと、なにせ法曹界のメジャーリーガーを自負する人が大活躍するような大手弁護士事務所が舞台になるから、訴訟も特許権や商標権、大規模な医療訴訟なども含む。事務所にとっては大手企業との間に顧問弁護契約を結べると大きい。定期的な収入になるからね。

 抱える弁護士の報酬、超一等地の大型ビルの上層階の家賃、光熱費、設備費だけでも運転資金がべらぼうにかかる。となれば当然、必要とする報酬だってそれなりに大きなものになってくる。

 じゃあしけた土地でひとりぼっちでやっている弁護士なら、報酬は安くていい?

 まあ、そのへんの話をし始めると、ベターコウルソウルや他の弁護士ものを持ち出したくなるし、えぐえぐ&しけしけトークになりそうだから、いったん置いておくとして。

 資産があるとしても、契約先の弁護士がろくでもなかったら? 負ける。がっぽり持っていかれる。

 なので訴訟コンサルタントなんていうのもでてきて、BULLはまさにドンピシャの作品。

 陪審員制度がある。逆転裁判でも比較的あたらしめのナンバリングタイトルで採用されていたっけ。栽培員裁判という制度で。

 BULLは弁護士同士で裁判に臨む民事か、検察と弁護士で裁判に臨む刑事か、いずれにせよ集められた陪審員を忌避する権利を用いて、事前に陪審員を調べ上げ、裁判を有効に進めるための人選を行ない、事実を基軸に勝ち得る最大効果を狙ったストーリーで戦略を立てる。

 ブルの会社のメンバーは凄腕ばかり。設備もビルもお高い。なので、大口契約先がいつだって欲しいし、SUITSの弁護士事務所とちがって経営はけっこう苦戦してる。

 医療保険会社と顧客の訴訟においては板挟みに遭っていた。

 保険会社は毎月の契約料が主な収入源になるのかな? 契約者さんたちがみんな健康で、なるべく払わずに済ませられるほど? でていくお金が減る。けど、保険会社が契約者向けに「こちらが健康によいとされる生活プランですよ」なんてやりだした、みたいな話は聞いたことがないなあ。だって、それをやるにもお金がかかるもの。

 というわけで、なんでもかんでも請求に従って支払っていたら、保険会社は途端に赤字になって潰れる。そして判断は人が行なう。マニュアルが整備されていたり、改善されていたり、あるいはそこでのトラブルなんかもありそうだ。なにせ、ほら。人がやることだから。

 契約者にとってはね。病気になって、多額の費用負担が生じるときの転ばぬ先の杖として、高い保険料を毎月せっせと支払って、保険会社の支払いを期待する。だから「無理っす」なんて結果になろうものなら「ちょっと待ったぁ!」と行動を起こす。

 裁判では症状、罹患経緯、契約状況、適用条件などなど、ひとつひとつの要件を確かめていく流れで進行してたかなー。さすがにうろ覚え!

 病が進行している患者さんが起こしている裁判だったかな。だから、一縷の望みを抱いた生々しい切実さがあって、ブルは保険会社側の依頼で関わっているから揺さぶられる場面が何度もあった。

 裁判は前例に則る場面がとても多い。あ、訂正。私の見たドラマのフィクションにおける裁判では、前例や慣例に則る傾向が非常に強い。

 そのため、過去にあった類似する裁判を膨大な判例から探し出して、今回の訴訟に有利なもの、不利なものを洗い出す場面を採用している作品が多い。弁護士になるとき、だいたいは事務所の新米やお手伝いさんであるアソシエイトとして働くところがスタート。大手ほど研修期間があって、繰り上げ競争も激しい。そんな彼らが担う膨大な仕事に採用されがち。

 そして、だからこそ、前例や慣例を見直すきっかけをドラマチックに演出する回もある。時が流れて、なにかが変化していく。昨日の非常識、今日の常識、明日の非常識、なんてね。

 稼ぐ。ビジネス。利益をあげてなんぼ。赤字をおさえてなんぼ。

 主義主張とは別にして、取引として利益が見込めないのなら、儲けが出る前のアクションのハードルは上がる。赤字を抑えるために、次の就職先もないような人だって解雇する。やりたい放題じゃ困るから制度ができていく。いたちごっこをする企業、人。そうじゃなく渋い状況でなんとかやりくりする企業、人。いろいろあって、いろいろたいへん。

 でもまあ、ひとまず、みんな食べていけるように、真っ当にやりなさいよっていうのが制度の目指す先で、うまく育てあいながらやってちょうだいよって求めたとして、それといまほしい利益が噛みあうかどうかは別の話。今月の資金繰りが死にそうなんだわ! って企業に明日に向かって投資をなんて持ちかけても「舐めてんの?」って返されるのが関の山じゃないかな。

 なんていうことをね?

 眠ったあとにアマテラスさまにお呼ばれして、ぷちさいずになった私は女神のお膝にのっかって、犯罪都市という韓国の映画を観ながら思ってる。

 すこし未来に上映される作品みたいだ。そういうずる、いいのかなあ。いっか。

 むちゃする街の厄介者たちと、彼らをなだめる警察。主人公のおっちゃん刑事が強いの、優しいのなんのって! あと、厄介者には容赦しない。自分たちの詰め所で犯人がろくでもないとき、監視カメラにダンボール箱で覆いをして、暴力だって振るう。

 フルフェイスのヘルメットをかぶせて、ばしばし殴ってみせたり。弁護士を要求するヤツにはスタンガンを取りだして「紹介しよう。弁護士のスタンさんだ」と迷わず使用する。

 後者はヤクザの幹部の四肢を切断した凶悪犯トリオのひとりだから、容赦しない。トリオは中国の公安に追われる指名手配犯で、韓国に逃れて残虐な犯行を重ねるやべえ奴らで、なんとかバランスを保っている悪党たちが一触即発状態になるほど刺激した。となれば、警察は直ちに捕まえたいからね。


「うーっ! いまのは痛そう!」


 仮にも女神さまがなんちゅう映画をと思わないでもないけれど、でも面白い!

 主演のおっちゃんは韓国の映画界で有名な人で、ぽっちゃりどっしりタイプ。

 対する悪党のトップは細身で優男が似合いそうな、だけど今作だと危険で怖くて狂気を感じるくらいばっちり仕上がってるお兄さん。長髪がやたら似合う! 髪の毛を縛っていてさ? ほどくところがすっごい色気たっぷり!

 このふたりがラスト、しばきあう。

 作品によっては冒頭の四肢切断、猟奇殺人を軸にするくらい大きく描きそうだし? 韓国警察の実情とか、街の治安状況とかに着目してもよさそう。

 なんだけど!

 そこじゃない。

 最後におっちゃんの一撃が炸裂!

 無事に逮捕。破壊された現場の損害賠償のために、現場の責任者さんが上司をがっつり捕まえて離さない。それに暴力を辞さない悪党たちほど当たり前に破滅に向かっていく。そういう点では娯楽っぽさが感じられてさ? 気持ちのいい幕引きで終了。

 すっごく面白い!

 スタッフロールが流れる間、ぽけーっと見守っちゃう。


「いやあ! よかったねえ!」

「面白かったですけど、なぜにこれを私に?」

「おたまときたら、考えていたじゃない? あれこれ」

「まあ」


 あれこれっていう四文字に集約されちゃうと敵わないけど!


「あの三人みたいなのを相手にしなきゃいけなかったら、どうするの?」

「そりゃあ……」


 現地の悪党たちを相手に物怖じせず、残虐な犯行を含めて好き勝手して、暴れ回り、たかり、ゆすり、脅して、お金をまきあげまくる。

 殴る蹴るどころじゃ済まない。むかつく相手の親の祝祭に乗り込んでいって、消化器を噴射。そこへ武器を持参して、斬りつけまくる。

 正気の沙汰じゃない。

 悪党たちもびびる。先手を取られる。ケンカは最初の勢いを取ったら強い。終始、そんなノリ。

 賢く稼ぐタイプには脆くて弱い。お金にはもっと弱い。彼らが手段を選ばずになによりも求めるものにほど脆い。だから常識なんかお構いなしに暴力に一点突破。恐怖で圧迫して、自分たちの思いどおりにする。そのためにも示威行為は徹底的に、残酷に。

 ざつぅに言うところの覇道だ。

 ところでこれはなんてことない話なんだけどね?

 彼らは三人。だけど、他にいる大勢の人たちが生きて、暮らしている。大勢の人たちにとっての利益は、彼らをNOと拒絶する。その先陣に主人公たち警察がいる。

 ざつぅに言うところの覇道として、三人の暴虐は住民たちと、彼らを守る法と番人と、彼らと共にいる悪党たちによって排除される。

 三人は捕まった。中国の公安に引き渡されることになりそうだ。劇中で言及されているけど、中国内部で指名手配されていて、引き渡されれば死刑は免れないとされている。だからこそ彼らは手段を選ばず金を荒稼ぎして、次の人生を求めたのかもしれないし? だからって、やらかしたことがあまりにもひどすぎる。

 彼らを止めるには、捕まえるしか。

 となればだよ?

 もしもそういう人たちが私の相手になったら?


「おっちゃんみたいにやるしかないかなあ、と」

「戦闘も辞さない構え?」

「そうなりますよね」


 さすがにそこまで寝ぼけてない。

 シンゴジラのゴジラにせよ、最初のゴジラにせよ、あるいはシムシティの怪獣にせよ、放っておいたらひどいことになる。現状取り得る手段で、まずは痛みが広がらないようにする。


「それがおたまの最後の手段?」

「んー」


 例外処理としての手段。

 むずかしい話だ。渋さやえぐみ、青臭さが出るところでもある。

 私はこのところ、ずっとやりたい方向性を評価して、それに反する、あるいは異なる方向性を腐してる。その自覚はある。それは渋さやえぐみ、青臭さ。

 犯罪都市においては致命傷になる。それかそもそも出番がないか、警察で働いていたとして、よくて重傷を負って退場かも? それくらいかみ合わせの悪い状況が存在する。

 実際、何度か経験した戦闘でどうこう言っていられない状況をふり返るとね?


「あの三人組が暴力を振るおうというのなら、通報する余裕があるなら通報するし、なければまずは制圧かなあ」


 ぷちたちとの生活において、うまくいかなかったときの手段に取り入れることは絶対にない。

 そういう話をするときには? カナタや、キラリたちや、高城さんたちと過ごす時間における、人と人の話をするのなら? 取り入れはしない。評価もしない。

 けど、暴力を用いて好き放題する連中と遭遇したら? あるいは、そういう状況に陥ったときには、どうするの?

 万全でも完璧でもなく、他に手段がないとき、それを選ぶかどうかは別の話。

 その例外処理は、どういう前提を、どれほどの段階まで対応できなかったら発動するの?

 シオリ先輩に教えてもらったプログラムの概念でね?

 たとえば、駅の改札。

 ICカードかスマホでタッチして通るじゃない?

 残高がありませんとか、タッチし損なってますとかってときには、止められる。

 逆に条件をクリアしているときには人を通す。

 どちらの処理も必要だけど、たとえば「この人は通してもいいかチェック」を行い「読み取れる情報がある」なら「残高に問題はないか」探り「通してよし!」となる流れだと、仮にね? 想定したらさ。

 情報がないときには通さない。残高に問題があるなら通さない。クレカがだめなら通さない、みたいな? いろんな条件がありそうじゃん。

 で、待ったをかけるときの処理は? 改札の停止バーを出すのだとして。

 犯罪都市のおっちゃんたちだと、どうかな?

 取り調べで「荒っぽいことをする」のは、書き起こしたら、どういう流れになるのかな?

 あるいはさ。

 やべえトリオの「金を取るために暴力を振るう」内訳って、どれほど危険な形になってるのかな。悪党たちも「お前らどうかしてる!」と拒否反応を示していた。実際、ほんとにおかしい。

 それにやっぱりトリオは捕まった。彼らが主演サイドになったとしても、まあ、ろくな死に方せずに終わるんじゃないかなあ。舞台を途上国に移したら、あるいは。けど、なんだろ。既に組織が根づいている地域に彼らがいっても、割と早々に処刑されて終わる気がしちゃうかな。

 ただ。

 被害はでる。

 戦闘が発生したらね。どうしたって被害がでる。

 おっちゃんたちの最後の戦闘だと? おっちゃんはまあまあ負傷した。やべえ人はおっちゃんに指の骨を折られていた。殴られたときに吹っ飛んで、後頭部をもろにぶつけていたから、あれはたんこぶになってそう。鼻が無事かも謎。

 あと、ふたりが戦った場所がいろいろ壊された。修理には時間と費用が発生する。けっこうお高そうだ。

 加えて心理的な影響は甚大だ。

 フィクションだと、そういう部分を主題にしない限り、なるべく描かないか、演出の味つけとして採用したとき誇張されがちなのは、だって、もう、地味で長くて、ひたすらしんどいからなのかなーって。見ていて楽しいものじゃないし。

 アメスナの戦場での活躍だけを描いているほうが、フィクションとしては見やすそうだし、わかりやすそうだし、話がしやすそうだし、売りやすそうだし、ってことはお金にしやすそう。

 現実のつらさとリンクさせることもない。

 お酒や煙草、嗜好品のように接種できればいい。


「こら」

「あうち!」


 つむじにチョップを食らいましたよ!?


「私のお膝に乗ってごろごろしていながら、なんですか。考えがひねくれていますよ?」

「うー」


 頭の中がつつぬけだ!

 女神さまには隠せない。

 あと、ひねくれてるかー。ひねくれてるなー。

 ちょいとこじらせたいお年頃なんです。だめか。


「そんなにうつうつしているのなら、身体を動かしてきなさいな。切った張ったがお望みなら、戦国時代の合戦にでも飛ばしてあげましょうか?」

「ひえっ」


 あ、あの! 下手こかなくてもひどい目に遭うのですが!?


「けっ、けっこうです!」

「よろし。じゃあ犯罪都市ですこし出てきた役者さんが出演している、イカゲームというドラマを見ましょう!」

「いかげえむ?」

「昨日、使いの者が噂を聞いて確かめてみたら、思いのほか面白かったそうで。あなたと見るため、準備をしておきました」

「はあ」


 それで、あの。イカゲームとは?


「朝までのんびり眺めるとしましょう」

「……はあ」


 わあい! 朝まで意識は覚醒状態だぞう!

 寝たい。

 けど無理みたい。

 毎度のことなので、今夜は諦めるとして。

 アマテラスさまが操作して、テレビの画面が切りかわる。

 これもやっぱり、いまよりすこし未来の作品なのかな?

 天国はなんでもありかな?

 私もよく使っているアプリの名前が出てきて、次に韓国の文字。

 侮りがたし。恋愛ものだけじゃないね、韓国の作品。

 謎の名前は、こどものゲームだとわかる。

 タイトルになっているゲームだ。これ絶対、伏線じゃん。

 字幕じゃなくて吹き替えだ。地面に描いた不思議な図形を用いた遊び。イカゲーム。

 冴えない中年。野菜売りをする、くたびれたお母さん。

 お金は、ない。

 きっと、うまくいくという映画だと、インドの自殺率を取り扱っていた。時事問題ね?

 韓国だと? 就職難、貧富の格差あたりかな?

 どちらも韓国に限らないけどね。日本も、インドだって、というか世界中さえ悩ませる問題のひとつだ。雇用を生み、求める職に就けるか、就けない状態に陥ってもちゃんと過ごせて、今後の自分に投資して復帰を助ける制度はないかーっていう話題ね。それに対して、たとえばベーシックインカムあたりが最近だと注目されてる。あるいは問題の象徴として、経済回りの話も含まれる。

 ところで仕事がろくになくて、さらにろくな仕事しかなくて、それさえまともになくて、おまけにお金がいるときってさ。稼がなきゃという圧迫が強まるよね。たぶん。そういうときほど、一定の割合で賭け事にばく進する人が出てきません?

 主人公が、まさにそれだ。

 歩いて野菜を売るお母さんから雀の涙のお小遣いをもらう。別れた、もとい、捨てられた元奥さんとの間の娘さんの誕生日用に。たぶんお母さんが爪に火をともす思いで稼いだお金を、馬にぶっ込み、大勝ち。しかし盗まれて、借金取りに全身を好きにしていいですよという、身体放棄の契約というおっかないものに署名する。腎臓か目玉をひとつ、奪われる。

 ろくでもない。

 どん詰まり。

 とことん、先がない。

 そんな主人公に拒否反応を示す人もいるかも。

 韓国でどん詰まり。そこから脱する手順って、あるのかな。そんなの、どんな国のどんな場所でもそうだろうなあ。上を見あげるほどきりはなく、下はろくでもなく、手段がないまま追いつめられていく人たちばかりだとしたら?

 抜け出す経路がなければ、先はない――……。


「「 ――…… 」」


 気がつくと、ふたりして見入っちゃった。

 富裕層が声高に叫ぶ公平さ。ルール。規範。

 彼らの娯楽のために、過ごしやすさのために、簡単に変えられる決まりごと。

 風刺も皮肉もたっぷり。

 エモさも毒も、欲も願いも。

 最後まで見終わって、欠伸をする。

 寝るわー、そろそろ起きなさーいと私を追いだして、そそくさと布団に戻る女神さまに「自由だなあ!」と声に出して言っちゃう。どうせ筒抜けなんだもの。

 だったら言っちゃう。

 すると「お金がほしい。だけど自由はもっと欲しい、なんてねー」と冗談で返されてしまった。なにかを言い返そうと考えながらまばたきをしたら? 宿の布団で目が覚めた。

 もう!

 勝手に連れ出して、勝手に帰して!

 ほんとさあ!

 でもイカゲームは面白かった!

 これが私たちの現世で見られる頃、みんなはどういう反応をするんだろう。

 言えない、語れない、それをネタにお仕事できない、そういう枷がかかる。ミコさんが海外に気軽に行けないのと同じたぐいの、呪いにも似た制限。

 それは別にいいとして。

 ほしいものって、そこがゴールじゃないよね。


「んんっ! ふぁああ――……」


 あくびをかみ殺す。

 私の尻尾を両足で挟み込んで、カナタが背中から抱き締めてる。

 お互いに素肌を重ねていて、昨夜はたっぷり楽しんで、そのまま寝たことを思い出す。

 そのわりに、頭は疲れてる。

 もっと寝たい。

 けど、つい見ちゃった。最後まで。

 止めどきがなくて!

 見る人によって、いろいろ変わるんだろうなあ。これは。

 たとえば。

 お父さんがね? えちちなゲームで、えっぐいエイリアンたちに侵略される地球で、ロボットに乗って戦う作品が好きでさ。

 最初は、いわゆる学園恋愛もの。

 ヒロイン攻略を全員済ませると?

 今度はえっぐいエイリアンたちが地球を侵略している世界線に飛ばされる。

 いろんな体験を経て、仲間たちを失いながら、主人公は軍の中でなんとか地球を取り返そうとするのだけど、果たせず。ノアの方舟みたいな宇宙船に乗って地球を脱出する、その作戦の補助をする。

 そして、ふたたび世界線も時間も超えて、エイリアンが侵略する世界にやってきたときくらいに戻る。つよくてニューゲームでは? と信じて、反撃開始。

 なにもかもが無理に思えるほど圧倒的な敵を相手に、生存闘争。

 多くの被害を出しながら主人公がたどりつく未来とは!? という話みたい。

 ちっともえっちくないぞ? と思ってお父さんに聞いたら、そのエイリアンが人類を研究するためのシーンがぐろくてえっちなのだとか。血相を変えたお母さんに「なんて話をしてんの!」と怒られて、おしまい。検索したらすぐにわかっちゃうご時世、ストーリーラインを読んで納得。たしかにぐろい。

 イカゲームも、なんならプライベートライアンでもそうだけど、人が無惨に死んだ場面を描く。そのぐろさがある。

 お父さんが話してた作品はマブラヴっていうらしい。オルタネイティヴ。進撃の巨人。

 んーっ! 系譜があるとかいうね?

 その話はさておき。

 ひとつのものに対して、どう接するかは人によって異なる。どんな刺激を感じとるかも。

 ゲームを観戦する人たちに見る残酷さ、生々しい他人事感が私には一番猟奇的に見えた。詳細は語らないけどね。彼らに雇われ、彼らの言うとおりに従い、彼らの顔も知らずにひどく痛い目に遭うか、ひどく痛い目に遭わせるかして、結局はろくでもない終わりを迎える。

 それでいいのか、という切実な訴えを、自分の心の内に見つける。

 どんなものを見つけるかは、人による。

 お金もそうだよなー。

 イカゲームは、大金を獲得するためにゲームをする、と認識させて、実はモルモット扱いされてる人々を、死ぬことを前提としたプログラムに参加させる悪辣な観察に過ぎないと私は見る。借金で首が回らない人たちを、それとおぼしき言葉を並べて追いつめ、逃げられない大金と悲惨な現実で二重に拘束し、挑ませ続ける。一度やってしまうと、今度はその慣性になかなか立ち止まれなくなる。プログラムとプログラムの合間にある休みが、人々の楽観的な予測を促して、冷静な思考を奪う。プログラムに向けて、学ばせる。現実で無力に諦め続けて、さらに足掻いて負債を貯めこんだ人々だ。彼らほど利用しやすいものはない、と見ている視点が、まず最低。

 で。そんなプログラムで必死になっていく人々にとってのお金って、なんだろなー。

 私がお金を得たいのは、豪邸が欲しいとか、なにかが常に最新か豪華か、その両方じゃなきゃやだとか、そういうんじゃなく。なりたい自分になるためにお金がいるし、生きるのもそうだし、好ましい取引の栄養源になると思うからなんだけどなー。

 他より優れて愉快な姿に生きること、そしてお金を。そうでなければ貧しさのぶんだけ痛みを感じて死ね、と。そういう露骨さ、生々しさ、時代に感じる暴力性が、これでもかーって出ているところがね。すごいし、えぐい。

 韓国は貧富の格差と、住宅事情が特に社会問題になってるんだったかな。

 どちらも正直、普遍性のあるテーマになってるよなー。

 医療保険や老後の問題も関わる。これはアメリカにも受けそう。

 多いなー。

 多いぞー?

 お金ひとつとってもこれだぞ?

 なんかね?

 朝に思うわけ。

 進んできたぶんだけ、学んでいくことが後戻りを求める。

 できたと思っていたはずのことが、実は思いこみに過ぎないのではという疑いと結びつく。

 結び目をたどり、ほどくには、進んできたぶんだけ戻る。

 そのたびに、くたびれる。

 偽りの、仮初めの自己肯定感がひとつ、またひとつずつ破壊されていく。

 かつていいなと思っていたことが、幼い思いこみに過ぎないんじゃないかってうんざりする。

 そのたびに私はなにかを腐し、攻撃的になっていく。

 それじゃぷちたちと一緒にはいられないから、なだめて、落ちつかせる。

 それだけでくたびれる。

 いまはひとまず諦めて、いまはひとまず無力だと受け入れて。

 そのたびに自分のちっぽけさ、惨めさを増やしていく。

 心がいっぱいになっていく。

 元気が入る容量が、どんどん減っていく。

 そんな気がしているの。

 カナタの腕の中で寝返りを打って、久しぶりに胸に耳を当てる。

 ついでに獣耳も。どこまでできてるかはわからないけど、ほら。気分だ。こういうのは。

 鼓動を聞く。

 まぶたを伏せて、カナタの生きている音を聞く。

 名案はなくても。

 たとえ無力でも。

 諦めることが多いなーと思っても。

 そんなのは別にしてね?

 この音に集中して、これ以外の音はひとまず自分から遠ざけて、いまできることからこつこつやっていくしかないときって、多いよね。

 そう思うと、実は案外、責めるのってむずかしい。

 意識してできることのほうが、ずっとずっとすくないもの。

 ピーマンみたいだ。

 アレルギーがあるってわけじゃない。苦さがね。苦手。

 食べられなかったものも、いつかは食べれるようになるかもしれない。

 焦るな。

 急ぐな。

 終わらせるために付きあうことが華ってわけじゃないぞ?

 ずっと一緒に。そう願う人の鼓動の音を確かめて。

 自分の脈を確かめて。

 過ごしていく。生きていく。

 頭の中で増やしていることは、別のベクトルで圧を逃がす。

 行動でもいいし、音でもいいしさ? 分散させていくんだ。

 いまやりたいこと、いまやめられないこともそう。

 だれかと手合わせするか、烏天狗の館で思いきり暴れてきたほうがいいかも。そういう圧の逃がし方もある。手は多いほどいいぞ?

 ぷちたちは? 全然たりてない。イチゴを筆頭に、チャンネルが増えたのは助かる。けど、やっぱりまず私っていうことが多くて、私ができたらいいなーっていうことも多くて、これは付きあい方がまだまだ見えてない。

 くどいくらいに確認してる?

 いいじゃん。

 それくらい、大事なんだよ。

 安心して、なんでもいえる状態でいよう。愛してるって、あの子たちが無条件に当たり前に信じる私になりたいぞ?

 ハードルたけー。

 それを自分に対してできてるかな?

 わかんないときほど、素直でいたいな。

 よーし、よくできたぞー! って思えることをしよう。こつこつと。自分に対しても。だれかに対しても。

 カナタの鼓動を聞いているとね? さっそく見つける。

 こういう朝を迎えられて、最高じゃんね?

 よくやった! すごい!

 どえらいドラマも見ちゃった! すごい!

 起きれてえらい!

 って、なんかこれじゃあ私、狐っていうよりとあるペンギンのキャラクターになってません? ねえ!




 つづく!

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