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その刀を下ろして、帯刀男子さま!  作者: 月見七春
第九十九章 おはように撃たれて眠れ!
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第千七百六十六話

 



 具体的なイメージが浮かんできたところで、金色を化かして出したガスマスクを装着。

 同じ要領でビニール袋を出して、口を縛る。

 その中に金色を放出して、私の御珠に変える。

 恐る恐る息を吸うけれど、匂いは感じない。息を止めて、マスクを消した。

 ビビりながら匂いを嗅ぐ。ひとまず、無臭!


「あっ」


 うそ、激臭!

 急いでビニール袋を何枚も出して、何重にも覆っては口を縛って密封を試みる。

 幸い、匂いが落ちついた。それでも消臭剤をめっちゃ使うし、窓を開ける。うちわで扇いで、匂いを必死で外に追い出した。

 座布団のうえに御珠入りビニール袋を置いて、距離を取る。

 袋はコンビニでもらえる袋のいちばん小さいサイズ。それを、人間がすっぽり入るくらい巨大な袋に変える。イメージは一番おおきなゴミ箱に使えるサイズの二枚分か三枚分?


「さてと」


 準備はできた。

 御珠。それを私の心の分身として捉えてみる。

 あの激臭は、言うなれば心の傷から出血した液体が固まったもの。みたいな? あるいはかさぶた? そういう類いのもの。

 正直、かさぶたが激臭になるイメージもないけど。

 両手を擦り合わせる。

 御珠を私の分身と捉え、そのとおりに化かすとしたら?

 分身は刀がえらい数だけ刺さっている、というイメージを私は持っている。

 その通りになるか。それとも、それ以外になるか。

 ぷちたちの暮らす空間だけで済むのなら、それはそれでよし。

 ただし、結論にする前に、まずは御珠そのものの状態がどうなっているのか確かめておきたい。


「さん、にい、いち――……」


 どろん、と。御珠を化かす。

 袋の中で一瞬にして、球体が膨らみ、人型になった。

 のみならず、人型から生えていく。数多の刀が刺さる、私の姿になっていく。

 映画スリーハンドレッドで、ペルシア軍勢が放つ矢の雨がレオニダスたちを襲う場面を思い出した。空が黒に染まって見えるほどの矢が、スパルタの勇者たちを狙う。しかし彼らは立派な盾を掲げ、屈み、笑った。盾に突き刺さった矢のすべてを、自慢の槍でへし折り、進軍した。

 レオニダスは宣言する。今日、スパルタはひとりも死なぬと。

 ひたすらに痺れる映画だ。

 けど、目の前に化かしてみせた私の分身はちがう。

 服は着ていない。裸だ。だからこそ、どういう状態になっているのかがよく見えた。

 さびついた刀もあれば、鈍い輝きを放ち貫いた刃先から血を滴らせている刀もある。けれど刃先からこぼれ落ちるであろうはずの血は、先端にて赤黒い塊となっていた。液体は固体に吸収されていく。すぐ下にある刃先を巻き込んで、ゆっくりと育っている。

 青緑に錆びた一振りも見える。

 刺された箇所が化膿していたり、腐っていたり。


「うええ」


 モザイク必須だ。

 イメージしていたえぐいかさぶたになっている場所もあるけど、それだけじゃなかった。

 そりゃそっか。

 ご丁寧に頭も無惨な状態だ。無事なところがひとつもないでやんの。

 獣耳には、耳穴に刺すように。尻尾は霊子体の穴をそのままなぞるように、刀が両端から串刺しにしていた。

 むしろ、こんなんなってるのに、御珠が割れずにいるのが奇跡じゃない?

 それとも私が恣意的にこんな状態に化かしてるだけ? それもあり得る。

 あり得るけど、いやでも、それにしちゃあディテールがえぐい。

 ハリウッド映画の特殊模型みたいだ。よくできてんなあ、まである。

 私の心の分身だというのならさ?


「いや、死んじゃわない? ねえ」


 独白だ。あくまでも。

 マドカたちを呼んで、これをやっていたら騒ぎになっていたはず。

 ひとりで試してみてよかった。

 みんなが騒ぐと、私もだんだんその気になってきて、気絶していたかもしれない。

 実際に私は、なにかと迷っているし? だれかが聞いていたら「長すぎるわ!」ってハリセンで後頭部に一撃をお見舞いすること、何十、いや何百回にもなりそうなくらい悩んでるし?

 迷走してる。

 いやでも、さすがにここまでじゃあないぞ?

 無事な箇所がひとつもないもの。貫いた刀たちが支えとなっていて倒れようがない朽ちた身体は、千本の刀が刺さっているのでは? と疑いたくなる状態。数えないけど。グロすぎて、あんまり眺めていたくない。

 一本いっぽんが、私をきらう私の無意識の一振り。自分を責めるもの。強迫性の象徴。


「さてと?」


 こりゃ抜けばどうにかなる類いのものじゃないぞと認識を改める。

 朽ちた刀は、下手に抜いたら欠片が体内に残りません? 骨に引っかかったりしそうだ。

 古い刀、比較的あたらしそうな刀がある。ありふれた刀もあれば、ギンの村正や狛火野くんの村雨みたいに妖しい刀もありそうだ。

 密封されたビニール袋の中で、私の分身は動かない。息もしていない。

 汚い話、排泄物で汚れてるみたいなことはない。出ているのは、妖しい刀の傷口から漏れ出る血くらいだ。

 そういうところが、作り物めいている。

 だからだいじょうぶ。そう自分をなだめて、考える。

 化け術は私のイメージありきだ。絵を描くようなノリ。あくまでも、お絵かきスキルがゼロな私のイメージだけどね?

 具体例を思い浮かべて、そのとおりに変える。

 だいたいは、想像通りになる。

 レンちゃんほどの化け術じゃない。ユウジンくんが活用しているイメージもない。もしかしたら、どこかに化け術の達人がいるのかもしれない。

 考えたこともない。先行として存在する知見を、いま拾えるかぎり探ることを。

 それはたとえば正義論に関してもいえるところだよね。

 文脈の一部に触れて「これはこうなのでは!」ってドヤると? そりゃあ事故る。自分に都合よく扱っておしまいになる。よく学びたいものだ。

 その土台がないものだから、目の前の似姿は作り物に?

 レンちゃんがやったら、分身は呼吸しているのだろうか。ドラマ版のハンニバルの想像シーンみたいなグロさになりそうだから、見たくはないけれど。

 よくわかってない力でよくわかってない現象をよくわからない形で再現した、つもり。

 ざっくりいうと、そんな感じだ。

 精度をあげられる方法があるならしたほうがいいし、よくわからなさをすこしずつでもいいから理解していきたいけれど、太古の人々が「よくわからんが太陽あかるい」みたいなノリでしか、いまの私にできることはない。

 ままならねー!

 ま、わからんけどさ?

 そんなのは今日に始まったことじゃない。

 心の映像化なんて、聞いたことないし。指標として、土台の構造を提案するだけでも紆余曲折ありそうだ。

 なので、こつこつマイペースにやっていくとして。

 化け術についても今度、師匠にあたる人がいないか探してみるとして。

 問題は、あくまでも仮として、現状を目前の状態としたとき、ここからどうするのか。なにができて、なにをしたら危うくなって、どうなったら楽になるのか、かな。

 心臓を貫く一振りの柄に指先を近づける。

 こいつを転化したら、どうなるだろう。

 抜くかどうかで考えるから抜けないのであって、別のなにかに変えてみるっていうのはどうか。ほら。どうせ物理で刺さってるものじゃなくて。あくまで概念みたいな話だし?

 ざっくり金色に変えてみるとか?


「……どや?」


 指先で触れて、変える。

 凝縮された金色に変わって、散らばるかと思いきや、すぐさま刀に戻ってしまった。

 新たな出血はなし。傷口に変化も見当たらない。ざっと見える限りでは、だけど。


「だめか」


 刀でいたいみたいだ。

 私を責めたい形は、それがなんなのかを理解して、そんなの必要ないという許しを得られない限り、変わる気になれないみたい。

 とはいえ!

 一日のうちに「はあ」ってへこんでも、わりとすぐに吹っ切れることもあるじゃない?

 なんでもかんでも、いまの刀みたいに、ずうっと引きずることばかりでもないのなら、変えたら散らばって消えるものもあるのでは?

 そう思いついたので、さっそく試してみる。

 結果は予想どおりというか、期待外れで、漏れなく刀に戻ってしまった。

 根深い自責の刀が私を殺し続けている。

 転化するにしても、こちらの意図を相手がよしとするかは別。

 刀たちは拒む。

 彼らの意図がわからなければ、転化が成功することはない。

 逆に、これらが私の心持ち次第だとするのなら?

 たっぷり休み、たっぷり遊び、いろんな挑戦をして、いろんな体験をしたら、増える刀もあれば減る刀もあるだろう。閉じこもってうんうんうなって、屏風に描く私の悩みを前に考えているより、ずっと変化しそうだ。

 隔離世について知らず、士道誠心に入学せずにいたら?

 たぶん、そういうアプローチで解決に向かっていた。

 加えていえば隔離世の力があっても、やることはたいして変わらないんだよね。

 気晴らしをして、ちがう環境に身を置いて過ごせば変わる。たっぷり休むのも、くどいけど大事。遊ぶのもね?

 自分について思考し、世界について学ぶ。勉学の手段はなにも座学だけに限らない。フィールドワークもある。その中のひとつに、思考と挑戦もあるという話でさ?

 いっちゃえば。ほら。絵を描いたり、像を彫ったりする、古からつづく表現にて自己を探究するようなものだからさ。いまやってるのって。

 だからわりと、泥臭いっちゃあ、泥臭い。地道といえば、地道だ。

 金色以外にも、水にならないか、血になったりしないかと試す。いっそ絆創膏はどうだ、とか。消毒液みたいにならないかーとか。試してみたけど、どれも空振り。

 刀について学び、理解し、私を穿つ怒りと責めを許す。

 いまのところ、思いつくのはそこまで。

 いろんな怒りがあるだろうし、いろんな姿形があり得るだろうけど、仮に、もし本当に私がここまで自分をきらいでいたいのなら、そりゃあ刺激されるだけで私はイライラしたり、あれこれやまほど考えて、入力を拒んで出力するのに必死になったりするだろう。

 これは歌っても、おいしいものを食べても、響かない。

 そういう類いのことじゃない。わかっていたけど、改めて認識する。


「そんなにつらいかあ」


 前に座り込んで、息を吐く。

 長く。深く。

 獣耳だけじゃない。目も、耳も、穿たれている。

 薄い本とか、えっちな漫画とか、エログロな映画とかに着想うけてるのか、下半身もえぐいことに。

 逆に私は自分のなにを許せているのか。

 ぱっと見、許されている箇所がひとつもないでやんの。

 そりゃあ自信もないわけだ、と妙に納得しちゃう。

 あんまりひどいものだから、逆に「いやいやこれじゃ終われないでしょ」と意欲も湧くのだけど、ショックのほうが強い。

 転化でしくじるんだから、無理矢理どれか一本を引き抜いてみせたところで、その刀はひとりでに元の位置へと戻ろうとするだろう。すると、よりひどく傷つくのだ。

 やっかいー。

 根深いな? どうやら、どれも。

 いっそ刀に名前をつけて、愛着に繋げる?

 いやいや。意味わからんし。


「それか、ぷちたちみたいに式神に……なんて」


 ないない。

 まさか。あははは! ないって。

 だって、現時点でたくさんいるぷちたちに心身ともに限界だっつってんのに、このうえさらに私を許せない刀たちをぷちにするって?

 刀に戻してきなさい! って、私が私に言うよ? さすがに言うよ。面倒みきれないもの。


「ううっ」


 かといって面倒みきれないんじゃあ、自責も変わらない。

 逆に邪にする?

 いっそ。

 で、対峙して終わり?

 少年漫画的悪役に変えてさ。悪役邪は私を否定し、戦う私は私を肯定し、勝てば私の肯定が残る! みたいな。

 いやいや。そうはならんやろ。

 なったら楽なんだけどなー。

 ならんよなー。ならんかー。

 なれぇ! って思うけど、ならないもんなあ。

 倒すのを目的にしなければいいんじゃないか、というのはどう?

 聖歌ちゃんラインを試すのだ。

 私を否定する邪を、私は抱き締められるように挑む……みたいな。

 や。

 待って!?

 いちいち暴力的な相手を肯定しろっていうだけだと、それは筋がちがう。

 じゃなくて、なんだろ。

 否定の根っこをたどって、なんでそうなっちゃったのかをケアしにいく旅、みたいな?

 そっちかな。どっちかっていうと。

 そうして御珠を、私の心を傷つける刀を下ろして、許して、溶けあっていく。

 意識と無意識どちらも混ざりあって、氷上に愛を示すみたいに、求めるほうへと一心に向かっていく。剣禅一如の構えで。


「でもなあ!」


 ぜったい、どの一振りも大波だぞ?

 乗るのに苦労しそうだぞ?

 怯むわあ。

 ひとりでやろうとするから怯んじゃうんだ。

 しつこく思い出せ。みんなに話してみればいい。

 けど、これを見せるかどうかは別。

 あまりにも赤裸々すぎる。全裸だし。のわりにエロは一切なくて、ただただグロすぎるし。

 キラリはキラキラだしちゃいそう。マドカも無理かも。

 ぱっと思い浮かんだのは小楠ちゃん先輩か、ユリア先輩なんだけど、三年生はまだ来てない。なのでカナタもいない。

 お母さんに――……は、見せられない。

 高等部で何度か病院のお世話になって、そのたびに心配かけてきた。お母さんの青ざめた顔は思い出したくないし、もう二度と見ないで済むならそっちのほうがいい。

 じゃあ、どうする?

 男子はもちろん論外。高橋先生よりも、先生に女性のお医者さんを紹介してもらって診てもらいたい。けど、現世のお医者さんに作品を見せるようなもので、なんというか発想からしてずれてる気がする。

 かといって、百聞は一見にしかず。

 私の説明で、どれだけ千本刀に刺された似姿を語れるだろう。

 微妙だ。

 説明できる気がしないぞ?


「んー」


 唸りながらも、まずは御珠の状態に戻す。

 袋もまとめて金色に変えて、身体へと押し込んだ。

 ま。いいや。

 言ってみよ。悩んでるのにも飽きたし。いや。ずっと前から飽きちゃいるんだけど。

 形にしてみたら、悩んでる場合じゃないのがよくわかったからさ。

 痛さを想像すると? 自責の勢いを想像すると、悩まずにいられないくらいの状況なのもわかったから、話しちゃおう。

 自分を祟る刀が祈り祓う力になったらいいのだけど。

 いまのところ祝いじゃなくて、呪いだ。

 これまでまともに御珠のこと活用してこなかったけど、あれじゃ無理だわ。扱う以前の問題だ。私の心はそんな状態か。

 いろいろあったもんなあ。よくがんばってきたよ。

 そう自分を認めて許せることって、ふり返るとあんまりなかったなあ。

 ライブだって、達成感に満ち満ちていたけれど、自分を認め許す材料にしたかっていったら、それはまた別の話だし。なんなら、そのつもりもなかったのかも。

 むしろ自分を認め許すことって、どうやるの? と疑問を抱くまである。


「いけないいけない」


 ついつい考え込んじゃうから、さっさと扉を開けよう。

 風が通り抜ける。廊下から窓へ。消臭剤の香りをつれていく。

 イチゴたちがぷちを遊びに連れていった。私がいないことでそわそわしている子、不安げな子もいたけれど、今ごろどうしているだろう。

 なにかあったら連絡をとお願いしておいたけれど、スマホは知らせてこない。

 帰ってきたら武勇伝を聞くことになるのか、めいっぱい甘えてくるのか。いろいろなんだろうなあ。それとも、飛び出していくことになるかも?

 そこまで考えて、しみじみ思う。

 自分を許せないと、だれかを受け入れるなんてとてもじゃないけどむずかしい。

 いまとなっては、受け入れたい人が増えていくばかりだ。

 その中に、ちゃんと自分を加えよう。

 忘れずに! 前向きにね!


「うっし」


 さて、まずはマドカたちに報告だ!




 つづく!

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