第千七百五十五話
愛してる。
口はばったいような、くさいような。
言葉にしたら軽いような?
だけど感じないと、伝えられないと、わりともろもろつんじゃう空気みたいなもの。
でも、あんまり当たり前すぎて、声高に叫ぶとビビるもの。
だって、ほら。「息を吸え!」だの「空気は大事だ!」だの、迫真の勢いで訴えられても「関わらんどこ」ってなりません? 私は危ないぞこいつスイッチがONになります。あと、宇宙船ものの映画で言われたら死亡フラグのあとの超絶ピンチシーンにちがいないのでは? なんちゃって。
だれかにちょうだいちょうだいってねだっても、仮に相手がどうぞどうぞってくれても、お腹ぺこぺこだと、空気を噛むようなもので「ちっともお腹に入らんやんけ!」となりません?
そのせいか、自己責任論を掲げる過ちを犯してしまいがち。
でも、必要なのはたしかだし、じゃあそれってどうすれば、お腹いっぱい食べられるのかな?
まず仮に自分のお腹を満たすには、どうしたらいいのかな?
わかる?
私は正直、わからない。
これだと思っては外れて、その繰り返し。
だからかな。ヒヨリへの感謝は響いてない気がするし、お部屋に戻ってぷちたちの寝顔を見ても私の内側も、この子たちの私への気持ちの中にも見つけられなくて、不安になる。
心にはたしかにあるはず。
なんだけど、頭の中をどれほど探しても見つからない。
だから抱き締めてみたり、髪を撫でてみたり、寝巻きを直してみたりする。
じんわりぬくもる心にあるのが、愛情なのかな?
わからないんだ。
おやすみのあいさつがてらに軽くヒヨリと話したときに「春灯は自分の役割、増やしすぎて、抱え込みすぎてない?」と問われた。
それはあるかもしれない。
この子たちのママだ、なんて意気込んでも、なにせ人数が多くてさ。ひとりのママとして振る舞うことはできない。それをするべきなのかどうかもわからないけど、独占したいみたいな衝動をぷちたちの中に感じる場面はあって、悩む。みんなに八方美人に思いの密度たっぷり最高ママ! みたいなのをやろうとすると、それだけでもう頭パンクする。つま先ほどもできてないのに、できるわけもなく。かといって、やろうともしなきゃあ、ただサボっているだけで。
これまでの高等部の生活でも、ありとあらゆる場面でちょこちょこっと増えてきた。気がつけばそれは私が抱えられないくらい重たくて巨大ななにかに膨れあがってしまった。
小楠ちゃん先輩が打倒するための一撃を教えてくれた。
私は人。ただの女の子。
そうは言うても。そう思っちゃうような状態にあるからこその一撃だし、現状で利用するにはもっと多くの手段が必要。正直ちっとも間に合わない。
ただしヒヨリの話を聞いて、小楠ちゃん先輩の言葉を思い出すのだから、私の中で増え続ける負荷の正体の中には、確実にあるね。
もう私にはできんて! っていう白旗。
学校やめるか、タレントのお仕事ばらして振られなくなるか、歌手やめちゃうか、刀を下ろすのではなく捨てるか、尻尾もぷちたちも全部なかったことにするか。
そうやって減らしていけば、私は楽になるんだろうか。
そりゃ別だってばよ。どれも手放せないっていうか、手放したくないんだってばよ?
じゃなくて、いまのまま、ひとまず抱えてやっていける私になりたいんだってばよ。
休みの取り方をよくする?
抱え込むことの重さをちょっとずつ下ろして、持ち方、タイミングやスケジュールなんかを変えてみる?
ひとりで抱えきれないなら、みんなでシェアする? ううん、ちがう。しぇあはぴみたいな話じゃないんだってば。これは。そうじゃなくて、なんだろ。
コンビニに並ぶ商品に必要な依存みたいな、ああいう感じ?
たくさんの人が関わって初めて挑める類いのタスク、いっぱい抱えてる。
現世で出産した場合だと、病院に、場所によってはサロンに、専門家がいて相談しながらやっていけるのだそう。じゃなきゃ無理だってばよって思うのに、私は頼らずいまにいたる。
頼りにいってみる? いいんだろうか。話、聞いてもらえるのかな? 帝王切開でさえないんですが。集まる親御さんたちに「舐めた奴がきやがったねえ!」って殺伐とした目で睨まれません? このところ、ずっと心底びびってます。
言いだせばきりないや。
去年から続く侍候補生の私に求められる、高すぎてバーがみえねえハードルばかりで。
気にせず尻尾をぎゅいんと回して飛んでっちゃうくらいの開き直りがほしい。
トニーみたいに、やっちゃいたいわけ。
できねー!
できるわけねー!
どーすりゃいいの!?
さっぱりわからないよ!
答えないもの!
どこにもないんだもの!
なんならさ?
だれも知らないまである!
そんなの私にどうしろと!?
って、半ギレしたくっても、ぷちたち相手には絶対NGだから堪えるしかない時間ばかり。学校が休みってのも考えものだね!?
あーっ! わーっ!
だいたいこんな感じ。
最近の時間の過ぎ方に対する負荷のかかり具合、えぐすぎる。
心の中にある私の「だいじなこと」一覧表に、だれかがペンで書いていく。乱暴にメモを貼りつけていく。ばん! ばん! ばん! そのうえにさらにだれかが注釈をつける。
それを眺めた私は「乱入しないで!」って怒るより、さらにうえから付箋を足していくんだ。
世の中にはこういう実例がある、と探すと、どこまでもきりがなくて先がまるで見えない闇が広がっていて~なんて。中学時代までは思ってた。
実際はちがうよ。
見えていく。どこまでも、ため息さえ出ないような実情が。どこまでも、どれほどまでにも。勝手に闇にくるむの、むしろ暴力まである実情なんか、やまほど転がってるよ。
出会い縁が広がっていくほど、見えてくる。
そのたびに私の「だいじなこと」は、世界をひとりで救えるヒーローでも解決できないくらい、答えの見えない、わからないことで埋めつくされていく。たったひとつでひとりが生涯を通して迷走しちゃうレベルのことが、出会う縁の数だけ増えていく。
たまたまね。そういう縁があってさ。
私が知る氷山は、水面下でどんな状態になっているんだろう。
わからないの。
わかってることといったら?
ひとりですべてを解決できるヤツなんていない。自分にできること、したいことをやって、すこしずつ増やしていくことくらいしかできない。できることに価値があって、意味があるんじゃない。それもちがう。ずれてる。
居るだけでいいのよ。そこを達成してから初めて、できること、したいことに集中できるのよ。そこを基準にしたいのに、小学校時代までのしんどさが私に訴える。
だめ!
自分ができなきゃだめ!
できないやつは価値がない! 意味もない! さっさといなくなれ! それか隅っこで黙ってろ!
息を吐いて自分で引くほど疲れが溢れ出てきた。
わからないし、できないよ。
だけど私が居て、しっかり生きてなきゃ、この子たちがひどいことになっちゃうよ。
それはもうとびきり巨大な一撃だ。小楠ちゃん先輩がくれた一撃を、借り物のまま私が使うくらいじゃ太刀打ちできないものだ。
ヒヨリが送ってくれた内容を思い出す。
雨が降ったら傘を差す。
でもね? いまは傘じゃ間に合わない。
それってつまり、私ひとりじゃ追いつかない。濡れることしかできないってことだ。
だっていうのに、どうしたらいいのかもわからずに、雨に打たれている。
なんなら「傘ぁっ!?」なんて、ぶち切れて雄叫びをあげているかもしれない。その声も届かないくらいの豪雨のただ中。
だけど、ぐっと引いてみると、その豪雨は私が勢いを強く激しくさせている側面はない?
そして豪雨を防ぎたくて、ひとまず得られるなにかに縋る。
ゾンビやモンスターから逃げ延びて入った小屋のように。
これは前にも考えたっけ。
要するに「現状、最低限ひつようなことは満たせる手段」だけで「これでいいのだ」としちゃう危うさ。
ゾンビにせよモンスターにせよ、現状を危機的状況に陥れる要因があって、それによって脅かされているときに求めるのはなにか。それから回避できる手段か。それだけか。
悩ましい点だ。
問題を点とするか。水面上に現われた氷山の一角への対処だけにするか。
仮にこれらを是とする場合、理由はある。
たとえば「それだけで精いっぱいだ」から。「それだけで得られる利益で現状は限界だ」から。そこまでに留める。
危うさはいろいろ語れるけど、その中からわかりやすいものをひとつ選ぶと? ものすごく近視になるところが、危うさのひとつ。
前にこの話をしたときの例えはなんだったっけ。
風邪をこじらせる人が風邪を治せればそれでいいのか? 問題か。
たとえばその人が、日常的にお風呂上がりは全裸で、ろくに身体も拭かずに過ごしていたら? 風を浴びるわ、冷房つけっぱにするわ、身体が冷えるままに任せているわ。それじゃあ、いくらでも風邪をひくだろうし? おまけに悪化するかもしれない。
端的にいって身体を冷やすのよくないし、濡れ鼠で放置もいけない。
ご飯がいっつも雑だったら? 若い内はなんとかなるかもしれないけど、その影響は年を重ねるほどにえげつないレベルで出てくるにちがいなく。
すると?
風邪をひく、というのは氷山の一角。
水面下では、その人の生活やライフスタイルへと繋がっていく。
仮にだれかがそういう状態で、自分が相談を受けたときってさ? 相手が「そうしている」と、能動的に振る舞っているものとして評価し、改善を促したり、だめだと注意したり、変えようとするかもしれない。
でもじゃあ、実際はどうだろう。
能動的な場合もあるかもしれないけど、能動的でも受動的でもなく「なんかこうしてる」っていう、もっとあやふやな形で過ごしていることもあり得るかもしれない。
それにもっといえば、そうなるに至る過程があるかもしれない。
お涙頂戴必至の不幸談義に繋がることもあれば、たんにその人と、その人の周囲がそれでよしとしてきただけかもしれない。
いろんな過程があり得る。世界にはゴミ山にしか居場所がない人さえいる。それは世界の話であって日本はちがうという人が見落としている環境に生きる人だって、いる。
医師ものドラマで主人公たち若手が苦しみ、ときに感情移入しすぎるか、防衛のために過剰に反応しすぎる患者さんの中には、いる。
病院では氷山の一角として、海面から顔を覗かせた症状を治療するか、寛解を目指すか、緩和するか、ケアするかだけが目的のように思う。患者はだいたいそう。なんなら、ドラマの若手たちだって、そう。
実際、そこまでしか関われない。お互いに。
患者さんの日常は病院の外にある。入院しない限り。長期に渡って通院しない限り。
でも医療従事者さんたちの仕事のフィールドはだいたい、病院や治療現場の内側にある。
内と外。領域が分かれている。
過剰な例で、ゆえにドラマでもエピソードに採用されていることがあるけれど、意識的に怪我したり、病にかかろうとしたり、治療せずに悪化したり放置して再発したりして、病院の外側で原因を解決せずに病院に戻ってくる患者さんがいる。
それはたとえば人生のかかっている大事な試合に、怪我をしているのに挑むスポーツ学生かもしれない。人生の憂き目があまりに長く深く続きすぎて絶望している長期的治療に疲れ果てた人かもしれない。他にも例は数多ある。
なにかを意識的にするのでも、さりとてだれかになにかを意識的にしてもらうのでもなく。
その狭間の人生の質、いうなればクオリティオブライフにトラブルを抱えていたら?
氷山は育つ。
そして、困ってみなければ、質が低下してみなければわからない苦しみも、抜け出し方のままならなさ、わからなさ、わかってもどうにもできなさも、また数多ある。
それはドラマの中の話じゃあない。
むしろ現実のほうがよほど生々しく、数多く存在しているほどだ。
なにせドラマはわかりやすく作られているもの。なので差別的表現が意図せず、調べきれず、あるいは手落ちがあって含まれることさえある。その結果として、いま苦しんでいるだれかが大勢きずつくことさえ起こりえる。だから、海の向こうで、こうした表現について敏感になっている背景も存在するのだろう。
だけどね。
水面のうえに氷山がぽこっとでたら、それにあわてて、おそれて、おびえて、急いで氷山を沈めて、それで終わりにしたくなる。
こわいから。
ずっと負荷を感じていたくないし?
なんなら、海の中で氷が作られ、それが巨大に育っていく状態、環境そのものへの対処なんて、途方もなさ過ぎて!
自分のするべきことじゃない! やだやだ! むりむり! わかんない! いま自分のやることだけやりたいの! と、駄々をこねちゃう。
それを悪いとは思わない。
たぶんいくつになっても、私たちは駄々をこねちゃうにちがいない。
SNSがあるから可視化されたーなんて、そんな簡単な話じゃない。テレビの中継、やらかし肉声録音、街中で聞こえる会話、あれやこれやで痛感しちゃうし?
そんなのさえもが、氷山の一角。
ドラマじゃ先輩や凄腕たちがみんな、若手たちの感情移入や過剰な反応に対応する。深入りするな、肩入れするな。それは自分を守るためだと反発する若手もいる。実際、そういう場面もある。そして、それだけじゃない場面もまた、ある。
あるいは自分の領域をしっかりと守り、そこでプロフェッショナルとしてこう動くべきだと基準を設けて、徹底しているタイプの人もいる。じゃあそういう人が完璧で強いかっていうと、ちがう。その基準と徹底に依存して、線引きをしているだけに過ぎず、だからしくじると激しく落ち込むし、ぜったいに距離を取る。それはある意味、怯えてさえ見えるほどに。
悪いとは思わない。
ただ、そこに限界を見るだけ。
ここから先へは怖くていけない、という限界を、ただ見るだけ。
それをごまかすのに、こういう氷山はこうすればいい、とか。こういう氷山を作るヤツはこういうところがだめ、とか。それだけ言って済ませたくなる気持ちもわかる。
能動的でも受動的でもない、あやふやな領域でなんとか済ませられる。なんなら気持ちが楽になることさえあるかもしれない。
だけど、やっぱり同じ。
ただただ、そこに限界を見るだけ。
ここから先へは怖くて無理だから、という限界の内側で、自分の膝を抱えて震える振る舞いを、そこに見るだけ。
その先へ行きたい。
なのに、わからない。
能動的か、受動的か。そのどちらかに切りかわるたびに、揺さぶられている。
しかも私はいま、そのどちらかでしか認識できていない。
ちがうの。
ちがうんだけど、できねー!
わっかんねー!
寝転がって、ぽけーっとしていると、寝ぼけたユメが起き上がってきて、私のお腹によじのぼり、そこで寝始める。重たいし遠慮ないし、体重がんがんかけてくるし?
寝息を立て始めてから、ねごとで「ママ」なんてお約束にしてもべたべたなことを言ったりしない。そんなことを考えるのは、言われたいからかな? どうだろう。
いまは言葉より、こうして縋りつかせてしまうユメの中の不安が痛い。
甘えてくれるくらい求められている、と読み取ったとして、私がユメの愛情に値するのかわからないのも痛い。
痛い、痛い。痛くてたまらない。
そこに私の未熟を探す。だめさを見つけて、私を攻撃せずにはいられない。
それはだれの得にもならない。わかっているのにやめられない。
能動的でも受動的でもない、あいまいな領域で私は無意識に私を責める。
なんなら理由だってある。くっちゃい御珠、汚れ放題の尻尾ハウス。ぷちたちの怒りとさみしさ。いくらでも私を責める理由になる。果てはない。
もしもこれが記事かなにかになったら、大炎上しそうだ。
すると今度は私が私を責めずとも、ほかの顔も知らない大勢が私を責め始めるのだろう。
許して、なんていえない。
なにもしない、なんてあり得ない。
この子たちが責めてくることは滅多にない。だからこそ我慢して、それがついに爆発して癇癪を起こさせてしまう。氷山の一角のように。今日の耳にたこができるワードかも。
ああでも、そう。それも動機になる。
この子たちがなにをしていても、だれかと楽しく過ごしていても、私に笑いかけてくれるときでさえも、私は責められている気持ちになる。
その気持ちは、私の内側で、衝動の領域で噴き出るもの。
海底の熱水噴出孔みたいなものかも。
ぼこぼこと、あっついあっつい痛みを出してるんだよ。
予期して、改善しなきゃと焦り、だけど具体的な手段が見つからず、あるいはわからず、それともできずにいると感じては? その都度、私が衝動的に自分を責める。心の領域でも私は私を許せていないし、どうにかしたいと願っているし、ぷちたちが幸せに過ごせる手立てを探したいとも思っている。頭の領域でさえ。
けど、どれもがねじ曲がって、いまのできなさにたやすく「だから私はだめなんだ!」と繋げてしまっては、そのつど私を責めるものへと変えてしまう。
理屈でいえば、これ全部いらない。みっつの領域で、それぞれに「ようし、がんばるぞう!」と意気込む気力に繋げたほうが、よっぽどいい。効率的だし、実際に改善に向けた行動に繋げやすいし、失敗しても改善する意欲にできそうだし。
けれど、それはあくまでも理屈でいえばの話だ。
私にできない、それが氷山の一角だというのなら、氷山はどうやってできた。どうして、それは溶かしてしまえないのか。
こうした類いの悩みは、見つけた氷山の一角状態の問題ひとつで人生ずっと引きずりかねない。高等部に入って、それをたくさん見せられたし、ときにぶつけられもした。助けてと、暴力を振るわれながら求められたことさえあった。
私にも氷山はあるみたいだと気づく。ううん。あったと知っていながら、どうにかできるはずだと流してきた。できることを増やせばどうにかなるさと、トニーが映画でスーツに依存したように、私もまた隔離世の力に依存した。
けど、それじゃだめなんだ。
ユーリのカツ丼みたいに、私も探したい。私の愛ってなんなのか。
トニーのエンジニアとしての遊び心やこれまでの経験値と、やらずにいられないとこみたいに、私もいかしたい。私にできることって、なんなのか。
でもなー!
わかんねー!
みんなして、えっらい問題かかえてんなー!
だからやっぱ、みんなでやってかなきゃなー! そこはわかる!
けど、まず自分が自分を満たし、癒やしちゃうなにかを見つけてみたい。
あるのかな?
ヴィクトルはユーリとユリオに遠慮なく容赦なく「個性なんてさー」とダメ出ししてた。
私もそれだ。ふたりの修練にかけた時間って、えげつないよなあ。フィギュアスケートの選手の練習時間、ちっちゃいこども時代から既にえげつないイメージだもの。
だからこそ、彼らは氷上で愛を語れるのかな。
すごいなー。いいなー。かっこよすぎかよー! ああああああ!
じゃあ、私はどうかな。
いまなくてもいいんだぞ?
見つけて、育てていけばいいんだぞ?
その時間がなくて、余裕もなくて、てんぱり続けていて、能動的でも受動的でもない時間を作れてないか、はちゃめちゃになってっから困ってるんだぞ?
わー。
私ってば、もうずっと情緒が……っ!
幸いまだ、なにもなくとも号泣するほどじゃない。ただ涙がじんわりしてきてない?
危ないなあ。
あああああああ……。
「はあ」
眠れるかなあと気鬱になりながらも目を閉じるし、あっさり眠れたし。
なのに蓮の花が咲く池の世界に来ていた。
アマテラスさまのはからいか、それとも私が意図せず引っ込んだのか。
ただ、どうもそれだけじゃないみたいだ。
尻尾ハウスに向かう金色階段に、全身防護服姿の人がいた。
「よう。遅いじゃないか」
それは私の声にちがいなかった。
訝しげに睨みながら近づくと、昔の宇宙服みたいな全身オレンジ色のスーツのヘルメットのガラス越しに見えた。黒い髪を生やした私の顔が。
「こんな姿ですまんな。ここ臭いからさ」
「ああ……はい……」
実際、ここまだ掃除できていないから、彼女の言うとおり臭いのである。
だが、しかし。
「あのう……じゃあ、その格好って、もしかして?」
「臭いのやなんだ」
彼女は断言した。
しゅこー、しゅー、と。うるさい音がする。
「……左様で」
くそう。マイペースかよ。いやみか! 脱げよぉっ!
「あの。私の夢になにか御用ですか?」
「なんか声が繋がらないから様子を見に来た。赤いのや白いのから噂を聞いちゃいたが、いやあ……ちゃんと掃除しとけよ? ここ、お前の領域だろ?」
そうなんだーとか、掃除しとけよ止まりかーとか、いろいろ複雑な感情が渦巻いてつらい。
寝かせて。お願い。わりと悪夢なんですけど。なんで寝た後なのに気を遣わなければならないのか!
「それよりもな。どうやら黒輪廻がいなくなって、うっとうしい奴らが出ているそうじゃないか。だから、お前に引継ぎしとくよ」
「はい?」
え。なに。いまの。私の聞き間違え?
そうであって!? ねえ!
「情報は、あの間抜けなぬいぐるみの中の家に置いてきた。昔ながらの紙でな。大量にあるから、整理しといてくれ」
「は?」
「じゃ、臭いし眠いし帰るわ」
「はああ!?」
ちょ、待て待て待て! どういうこった!
あわてて彼女に駆け寄ろうとするけれど、間に合わない。
彼女は右手を掲げて黒い霊子を放ち、それを巨大な鍵へと化かすと、それを回した。次の瞬間にはもう、影も形も残っていなかった。
「ああああああ――……」
よろけながら、金色階段のそばへ。
崩れ落ちて、めそめそする。
なんてこった。
「たしかに、くちゃい……」
とてもじゃないけど、彼女が残した大量にある情報とやらを確認する余裕などない。
欠片もない。もちろんあるわけない。
ただでさえ日常でキャパ越えてるのに! あるわけない!
わー。
よし、決めた。
降参しよう。
みんなに頼っちゃおう。それしかないもの!
ああもうほんとさあ!
だめだこりゃ!
つづく!




