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その刀を下ろして、帯刀男子さま!  作者: 月見七春
第九十九章 おはように撃たれて眠れ!
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第千七百五十話

 



 むすんでひらいて手を打ってむすんで。またひらいて、手を打って。その手を、うえに。

 なぜ?

 ミユウに問われて「知らんし」と答えた。

 有名な童話は調べてみると、意外にも変遷していることがわかる。

 ミユウが問うなぞの答えはわからないけど、歌いながら上にのところで手をあげてみせる。二番、三番と進んでいくたびに、うえがしたになったり、よこになったりするそうだ。うろ覚え。まあ、その手の遊びをして、こどもにきゃっきゃとしてもらうためなのではーくらいの緩い着地しかできないよね。

 調べたときに運用に耐えうる情報へのアクセスが確保されているか。

 考えてみると、微妙だ。

 辞書を調べるのと、ネットで言葉の意味を調べるのだと、内容に差が出る。というか辞書もものによって解説が違う。

 情報のように解説のボリュームが増すと? その差はより鮮明になる。

 同じテーマも語る人によって内容に違いが生じやすいもの。なので本でもネットの記事でも違いはある。テレビでもそうだし? たとえば学校で受ける授業も先生によってちがったり、通院するときもお医者さんによってちがったりする。

 バイト先の先輩たちによれば免許をとるべく通う自動車学校でもそう。

 歴史も負けじと同じ。

 勝者の語る内容が歴史として扱われる。敗者の情報を処分したり、語る機会を与えなかったり。あるいは敗者が勝者に蹂躙されたり弱味を握らせまいと処分したりする。

 企業の内部告発者の保護をと言う声はあれど、実際にはまだまだ足りない。

 マジョリティ、多数派、権威的ポジションと、そうでない者との差も似てる。

 繰り返す。

 調べたときに運用に耐えうる情報へのアクセスが確保されているか。

 調べやすいかどうかだけじゃない。そもそも情報がきちんと発信され、残されているかも含まれる。一次情報として信頼できるように保存できるかどうか。

 でなければ?

 わからない。確かさが担保できない。なにも学べなくなってしまう。それだけではなく、デモや偏見を生む温床にさえなる。

 当たり前や、不都合なことほど残っている価値があると思うことも多い。失敗や恥おおきできごとを丁寧に記録し、それがどのように改善されていったのか負けじと丁寧に記録されて初めて運用できる情報に育つこともある。

 なにげないことでさえもね。

 私にとって、それは母親の情報だ。

 青澄春灯でいうのなら、彼女の双子の姉の情報かな。

 ノノカに教えてもらったけれど、いま現在、彼女と九組で一緒に学んでいる青澄冬音はここ最近になって現世にやってきた、元は地獄のお姫さまなのだという。双子で生まれるはずだった冬音は、出産時の事故で母体の中にて他界。地獄に転生したというか、そこで赤子として迎えいれられたというか。そのまま育てられたという。地獄でやらかして、物見遊山ついでに現世に学びに来たのだとか。

 なにそれ!

 わけがわからないけど、とにかく春灯は冬音のことを教えられずに育ったそうだ。

 親も人。不都合なことだけじゃなく、面倒なことも含め、こどもにいちいちすべてを語らない場合がある。

 私もそうだ。

 母の名前さえ知らない。

 榛名ホノカが私の母なのではないかという疑念を抱いているが、そんなことなくても、そもそもだれかが教えてくれてもいいのではないか。

 そう思ったところで、尋ねたところで、だれも教えてくれず、いまに至る。

 母子手帳とか、お父さんの婚姻届や離婚届なんかは見つからないし。お父さんの葬式も、その後の手続きもぜんぶ、親戚の人たちがやってくれた。逆にいえば、私が手を出したり口を出したりする暇がなかった。未成年だから。こどもだから。まだ早いから。わからないだろうから。なにより、いまはつらくて泣きたいだろうから。

 いや。私は知りたいんだが。教えてくれない。だれも。頑ななまでに。

 自分のルーツが目に見える形でわかることって、私にはない。

 だからぴんとこないことも多い。

 お父さんによく似てる、というわけでなし。実はもらわれて育っているのでは、という疑念もゼロじゃない。

 出生届を調べればわかるのでは、というところまではきた。

 けど、たとえば托卵状態で出産し、記載をごまかして提出したらどうなる? あくまで申告ベースで、出産時にだれもがみな遺伝子を検査するわけでもないのだから可能ではある。

 おまけに役所、どこ?

 私の戸籍の本籍、どこ?

 それさえも、なぞなんですけど。

 親が欲しい? そりゃあ、でも。お父さんがいなくなって、高校二年生でいまさらという気もする。お父さんの親戚筋で、別に居心地に不便はない。どこか他人。だけど、そんなの物心ついてからずっとそうだし、いまさらすぎて。

 それに関係は築き育てるもの。榛名ホノカであろうと、存命の人物であろうと、自分から離れて過ごしている人は望むだろうか。もしも亡くなっていたら、打つ手もなくなる。縋る重さは増せば増すほど遠ざける。

 だからやっぱり、わからない。

 知っても知らなくても私自身に変化はない。

 もし影響を与えるのだとしたら、それはだれかとの関係性や、私の孤独や脆さの出方くらいなものだろうし?

 いいことないよなー。

 将来的に無視できない形で、私の孤独は私を苛むかもしれない。

 それを補おうとだれかを当てはめようとしたところで、そのだれかにはそのだれかにとっての人生があって、罪悪感で無理にハマろうとしてもハマるものではない。

 私が欲し求めて押しつけても、お互いにとってろくなことにはならない。

 それが目に見えている。

 と、私は思わずにはいられない。

 たとえば私みたいな境遇の人たちは、どういう対応をしてきたのだろうか。そんな情報にだって、アクセスしにくい。仮に検索して辿りついた内容が一次情報になっているかどうかさえわからない。九割九分はちがうつもりで見るよ? なにせ本当かどうか確認のしようがないのだから。

 残しにくい。残りにくい。そういう情報でも、記録ができにくいし? 記録されたくなかったり、したくなかったりするだろうし?

 その結果が、私が見つけられるところに一切ないお母さんの情報なのだろうし。

 参考にしたくても、参考になる前例にたどりつけないのは問題あるんじゃないか。

 ふくれてもどうにかなるわけでもなし。

 この雨は長く付きあう必要がある。

 放課後にいつものメンバー六人で現世に戻り、電車に乗った。もしかしたら外泊になるかもしれず、念のため届けも出しておく。臨時職員室の担任教師の机のうえに、こっそりと。

 やがて気づいた先生が、あわてて連絡してくるだろうけど、いまはなし。

 みんなで電車に乗って移動している。

 徐々にだけど。アリの一匹でもいい。ユーラシア大陸を横断できるまでにかかる時間くらい、徐々にだけど。獣憑きになって外を出歩くときの居心地がマシになっていく。

 マシであって快適ではない。

 いつものメンバー六人だと獣憑き比率たかめなので、わりと注目されがちだ。狸に猫にネズミ。一年で一番快適なのは、ハロウィンの日かも。渋谷に向かうときが楽。

 そういうの気にしないもの勝ち?

 そうもいかない。

 容姿イジリはけっこう深刻な問題。

 テレビや劇場で芸人さんが笑いをとるときの手段として活用するもの。それだけじゃない。日常的に奇異な視線で見たり、からかったり、中傷したりするときに用いられることがある。ここにはかなりの溝が生じている。当たり前だけど。

 なので獣憑きになったり妖怪になったりして身体に変化が生じた子の中には、学校の敷地外に出られなくなっちゃったりする。そういう子の対応はうちの学校の卒業生で教師になってる人じゃないと、なかなかむずかしい。

 私みたいに化け術が使える獣憑きになってる子ならいい。でも、そういう子ばかりじゃない。

 青澄春灯は狐憑き。金色に煌めく、いかにも華やかな毛並み。容姿もいかにもそれっぽい。なのでお年寄りに雑に拝まれて一緒に笑って済ませられるという。

 じゃあ、他の獣憑きはそういく?

 いかない。

 妖怪たちは? もちろんむり。

 彼女のせいではない。もちろんちがう。

 うらやましーとかうらめしーとか、言いだしたらきりないけど。それじゃなにも変わらないだけ。そうはいっても、それじゃうらやましさ、うらめしさもどうにもならないだけ。袋小路。

 仮に利を見いだすのなら?

 環境を変えるなにかを作っていく。そのための発明がほしい。でも発明だけじゃ意味がない。広がっていかなきゃね。浸透していかなきゃだめ。一過性だと終わってしまう。

 その段階を想像すればするほど、雨から身を守る方法には果てがない。

 一次情報の保存は方法作りのための第一歩であり、最低限のひとつ。

 なんだけどなあ。

 足りない。

 マジョリティに向けたこと。マジョリティとして選択されていること。推奨されていること。

 これらは望まずとも見ることができる。当たり前にやったり、常識として捉えてしまう。そこに負荷があってもだ。だれかへの暴力になっていてもだ。

 だからやっぱり、足りない。

 みんなで話してもみる。顔合わせについて。青澄春灯について。

 彼女には立派で目立つともだちが大勢いて、いちいち私たちが出しゃばる意味とは? と、

アヤネにしつこく突っ込まれる。それは概ねノノカがいなしてくれるんだけど、コトネがスマホで明日の予習をしながら言うのだ。


「ヒヨリって変でしょお?」

「は?」


 すこし浅めに座った椅子で、斜めに足を組んでしかめ面。

 いや。待て待て。お前。待てって。


「なんて?」

「ヒヨリって変だしさあ。青澄さんも変でしょお?」

「は?」


 解せん。

 解せないけど、他のみんなも同意しているのか、見ると必ずうなずく。

 それはおかしいでしょ。さすがに。


「もう付きあい長いから予想ついてるんだけどぉ。あの子と、あの子の式神ちゃんたち? 連れ出して、一緒に過ごすーみたいな展開になるんじゃないかなーって予想してるわけ」

「あー。十中八九なるな。コトネの見立ては外れたことないし。テストの山以外ではぁん!?」


 ドヤるアヤネの油断したつま先をコトネのかかとが踏む。だん、と。強めの音がした。

 こういうときの力加減でアヤネが容赦したことは一度もない。

 だからアヤネ以外、だれもコトネを弄らない。

 でも、だからこそ私は強く思っている。

 お前もじゅうぶん変だからな!?

 自分の変さもわかる。ただ、青澄春灯とはベクトルがちがうはず。

 そういうところをちゃんと話してもらわなきゃ困る。

 あと、これは言わなきゃ。


「それ、もらっていい?」

「そんなことまでしなくてもよくなぁい?」

「や。遊び甲斐があると思うの。ほっとく手はないって」

「じゃあやればぁ?」


 コトネは心底どうでもよさそうだ。

 アヤネのつま先を踏むのをやめて、足を組む。それっきり黙る。

 ぷらぷらと揺らしながら、スマホを眺めているだけ。

 対して待ったをかける奴もいる。イチゴだ。


「えー。こどもの世話ぁ?」

「イチゴ好きじゃん。懐かれやすいし」

「ミユウは苦手だから反対しとけ?」

「イチゴに押しつければいいし、どーでもいいかなあ」

「ヒヨリぃ」


 ダウナーに雑に流すミユウに構われるけど、イチゴの思うとおりにはいかない。

 あとコトネの提案に乗っかる私に助けを求めるあたり、イチゴはいろいろとポンコツだ。

 無理だって。私はもうその気なんだから。


「いちばん体力あるんだし頼んだ」

「いやいや。待て待て。まだ好かれるとは決まってない」

「きらわれたいの?」

「そこはさあ! 無理だろう!」

「なにが」

「好かれたいかきらわれたいかでいったら、そりゃあ好かれたくないか?」

「任せた」


 よし。

 あとはほっとけばいいや。そんなあと抗議しても、イチゴは放っておけない。

 押せば落ちるタイプだ。

 ミユウもゆるく乗っかる予定みたいだし、問題ない。

 もちろん、青澄春灯の出方次第なところはある。けど、やるだけやってみよう。

 雨を楽しみたいとき、雨宿りできる場所、安らげる環境が確保できているかいないかで気持ちの余裕に差が出る。

 けど彼女は気を張っていて、彼女の恋人も仲間たちも彼女さえも、それぞれお互いに気を遣っているかもしれない。

 こういうときにスタートするっていうのも、ひとつの手ではないか。

 答えは聞いてない。

 聞くなら彼女と式神たち。

 さあ。

 ひとまずやってみようか!


 ◆


 青澄春灯、そろそろ限界かもしれないってよ。

 カナタが仕事終わりにうちに来ようかっていうんだけど、バイク移動してるって聞いちゃうと心配。なのでまっすぐ帰ってと辞退する。それはキラリやマドカ、高城さんたちが相手でも一緒。

 幸か不幸か自宅でできる作業で済むことが多い。

 タイミングが合ったからかな。撮影の仕事はしばらくない。

 歌手って本来、それでいいような気もする。

 けどさ。やっぱり元気盛りなぷちたち大勢を相手になにかをしようっていうのは無茶が過ぎる。

 もはや常時、頭の中が「わー」って感じ。

 みんなの声が頭に響くようになってきて、わりと末期。

 そして果てはない。

 わー。

 助けはほしいけど、いやいや私がやらなきゃあかんことだらけやろと思うといえない。あと、いってどうにかなる類いの状況じゃない。

 やらなきゃ。がんばらなきゃ。それじゃ間に合わない。一緒に手伝ってもらったり、お願いしたり。それもちっとも追いつかない。

 みんなが求めることって、これまで私がしてこなかったこと、気づかなかったことによって切実さが増しているわ痛いわしんどいわってことばかりでさ。

 ありとあらゆる機会に私は失格、赤点、だめ、最低って痛感する。

 気分は台風中継で必死にレポートしようとしてるにも関わらず、強風と雨がひどすぎて音は入らないわ、動かず立っていることができないわ、傘はとうに吹っ飛んでいてカッパはめくれ放題で悲惨だわ、化粧は崩れて服はずぶ濡れでもう散々だわって感じ。なのに現場で延々とレポートし続けなきゃいけないような状況なんだ。

 わー。

 お父さんが早めに帰ってくる。台所で料理に勤しむ。私やトウヤがこども時代好きだったコンポタスープとか、お姉ちゃんが地獄のお母さんに作ってもらっていたという半熟卵のせのつくねハンバーグとか、お父さんはせっせと作る。

 お母さんは仕事で頭が回らず、私はぷちたちと過ごすので頭が回らず、ぷちたちは遊んだりお腹すいたりやることなかったりで頭が回らず。なんかもうしっちゃかめっちゃかだ。

 連絡がくる。返信できていない内容が溜まっていく。

 なんとかしなきゃと思うのに、身体が重たい。

 睡眠は足りてる。わりとよく眠れてる。

 熱があるわけじゃない。関節が痛むわけでもない。

 ただ、なんかもう、無理。

 口を半開きにして、ぼけーっとしていた。気づくと。いつからそうしていたのか思い出せないレベル。けど、ふと現実に引き戻される。

 ユメがお腹をべしべしと叩いてくるのだ。


「ママ! 鳴ってるよ!」

「え」


 でんわ?

 はっと我に返ると、チャイムが鳴っていた。

 お父さんが「春灯ー、ごめん出てー」とアラートを発している。

 あわてて立ち上がると、待て待てとばかりにぷちたちが尻尾に飛びついてくるし、ユメはお腹にへばりついたまま。もう慣れた。ただ、日に日に増していくみんなの体重にはまだ慣れてない。


「はあい」


 声をあげて、扉を開ける。

 そこで「いや事前にインターホンのカメラで確認しないの不用心すぎるだろ」と気づくけど、開けちゃったあとだと遅い。

 玄関の扉越しにノノカが見えた。後ろに五人の女の子も。


「うわ、いきなり開いた」

「不用心ー」

「意外とたいしたことないんじゃね?」


 わりと容赦ない指摘をする後ろの子たちに苦笑いしつつ、ノノカが「来ちゃった」とかいうのだ。なにその重めの片思い女子みたいなセリフ。

 土日にって話していたはずだけど、私はなにかを見落としたのかな。

 そろそろ夕暮れどきで、ご飯も作っている最中で。

 わー。

 思考停止しながら、ぷちたちをひっつけたままで門扉に近づく。

 獣憑きの子がいる。よくよくみれば御霊別授業で見かけた子が多い。


「おー! すっご」

「はじめまして」

「ちょいちょい。いきなり話さないで。春灯、とつぜん来ちゃってごめん。ぶしつけで申し訳ないんだけど、あがってもいいかな」

「「「 ぶしつけにもほどがある 」」」

「うっせえ」


 ノノカと気楽に語り合う残りの五人はみんな、ノノカのともだちなのかな。

 人数からして、ノノカが招待してくれたグループの子たちなのかも。

 思い至るけれど、そこから先に頭が働かない。


「わー」

「どうぞー! 入っちゃってー!」


 ろくに返事できないで立ちつくす私の代わりに、二階の窓を開けてお母さんがみんなに呼びかける。ならばとノノカが扉を開けて、ぞろぞろと入ってくる。

 最後に入った子が門扉を閉めた。

 レンちゃんの獣耳と尻尾によく似た獣憑き。狸。それで、グループでメッセージをやりとりした人の名前を一生懸命おもいだそうとするけど、出てこない。


「ああああ、のお」

「こんなところで立ち話もなんだし」

「え?」

「中に入らない?」


 押しが強い。面食らう私に構わず、彼女は私にひっついて人見知りを発動するぷちたちに「はじめまして! あとでみんなのお名前、教えてもらってもいい?」と笑顔で明るく語りかける。

 ますます恥ずかしさを刺激されて、ぷちたちが私にしがみついたり、飛び退いてうちにダッシュで逃げたりする。


「ほら。いこ?」

「う、うん」


 あれ?

 ここ、うちなのに私が主導権にぎられてるんですけど!

 そう感じはするものの、そこから先に思考が進まない。

 なんで? どうして?

 疑問ばかりが浮かぶのに、彼女に促されてとぼとぼうちに入っていく。

 なにが始まるんですかね?

 ああ、ちがう。そうじゃなくて。ご飯どうするの? いっそなにか頼んじゃうとか?

 でもそれだと、お父さんの料理は?


「お邪魔しまあす」

「「「 してまーす! 」」」


 勝手知ったるなんとやら。

 ノノカが連れてきた人たちみんな、あがっていく。

 二階から下りてきたお母さんが「春灯、なんで教えてくれないの」と私にちくりと言いつつ、すぐにリビングにみんなを案内する。そんなお母さんにくっついているぷちもいる。


「みんな、ご飯は?」

「「「 まだでーす! 」」」

「そっか。おとうさん、ピザたのんじゃうー?」

「それがいいかもねー」

「「「 さすがにそれはご迷惑になるんで、お弁当買ってありまーす! 」」」

「あ、そう?」

「「「 でも自前で頼んでいいですかー? 」」」

「構わないけど。どうせ頼むんなら、うちも頼んじゃおっか。いい? お父さん」

「うんうん、それがいいねー」


 ふたりとも動じない。これくらい、なんてことない。

 ぷちたちが「ピザだ!」と盛りあがる。

 どんどん話が進んでいく。

 お腹にくっついているユメを抱き上げながら、ぽかーんとするしかない私。

 なに。え? なにがどうしてこうなってるの?


「あらためて自己紹介したいからさ。いこう?」


 ノノカでも、他の子でもなく、狸の子が私に手を差し伸べてくる。


「雨が降ったら傘を差す。けど、あなたは濡れっぱなしみたいだから」


 傘になるべく押しかけたの、と。

 彼女は「さあほら」と手をさらに伸ばしてきた。

 こんなに押されたの、いつぶりだろう。

 思い浮かべたのは、それくらい。

 本の知識もなにかの妄想もする余裕がないくらい、私ってば限界ってよ?

 戸惑う私の腕を彼女は取って、引っ張るのだ。

 リビングへ向かいながら、ようやく思い浮かんだのは、彼女の名前。

 満月日和。私に不思議なメッセージをくれた人。

 私は濡れっぱなし。

 刺激される感情がなにかもわからない。

 ただ、なんとなく思ったのだ。

 ここに来ると決めたのはノノカでも他のだれでもなく、この子なんじゃないかって。




 つづく!

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