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その刀を下ろして、帯刀男子さま!  作者: 月見七春
第九十九章 おはように撃たれて眠れ!
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第千七百十八話

 



 公式に存在しない施設。

 仮にそんなものがあったら?

 目立つ。

 好事家の目を引く。

 噂になるし、注目を集める。

 ロズウェル事件のエリア51のように。

 それでは困る施設というものがある。

 憲法上の問題があるが、改善するための予算もなければ、問題意識を喚起するための注目も集まりにくく、問題が起きて、それを調べようとする団体が出てきたとしても、現状維持のまま推移している類いの施設。日本だと、たとえば出入国在留管理庁における収容施設は、やり玉にあげられる。

 他にもある。

 日本の精神医療における問題。

 精神病者監護法と、私宅における監置。専門の病院、病棟における不当な扱いだ。人権侵害事件が起きた。

 元来、人は利便性となる手段を開発し、それを利用することによって、多くを可能にしてきた。それは農耕であり、建築であり、開拓であり、掃除であり、遊戯であった。

 先天的なものであろうと、後天的なものであろうと、人は手段を得て、利用することで、多くを可能にしていく。その前提に変わりはない。

 たとえば転んで足を怪我して泣いている者の治療に「では足を切ろう。そうすれば、もう二度と転ぶこともない」などという者がいたら? もちろん反対する。理由はやまほどあるが「治療ではない」し「適切ではない」からだ。だが、それを治療と称して、許諾を得ることなく行なうケースが精神医療にはあった。かつて精神外科と呼ばれた手術がそれだ。

 いまでは精神外科も、私宅での監置も禁じられている。が、いまもなお監置を行なっている者がいる。私宅に留まらず、それが病室となったケースもまた存在する。

 背景はある。

 病床に患者がいれば、安定した入金が見込める。病院が利益を求め、患者と家族を狙う。加えて、患者は休息と治療とケアを強く求める中で、患者も、また患者の家族も、症状について学ぶ機会がないまま、衝突を繰り返し、関係が悪化しているケースも存在する。

 これに五十八十問題にみる引きこもりの高齢化と、自宅からの連れだし及び社会復帰をうたう機関が組み合わさると? 自宅から連れ出して利益を求める病院に運び、監置。本人の意思など関係ないし、治療もケアもしない。強力な薬物を投与し、ますます症状を悪化させるといったケースさえ存在する。

 それでも、まだ、なくならない。

 問題があるとしてもまだ、なくならずに残ってしまう。

 だから、現状を改善しようと努める人々やグループが存在するが、認知を広める仕組みがあまねくすべての病院や行政にあるかというと、悩ましい――……。

 といった話を相棒の柊に伝えると、ハンドルを握る彼女は「だいたいよし」と短く評価した。


「いまから向かうのは、そういう場所です」

「――……は? いや。仮にも警察が話を聞きに行くっていうのに、問題がある場所って? なに。検挙でもするの?」

「仮に右から左へ流れるように裁判所命令が出て調べられたとしても、しません」


 佐藤さん、と。

 仕事中、車でふたりきりにも関わらず他人行儀で呼ばれて、助手席で身を強ばらせた。

 勤務時間中はお堅い彼女だが、いつになく声が暗い。

 よくない兆候だ。


「事情があると?」

「邪が出る。霊子が世界に満ちあふれて、隔離世の変化が現世に出るようになる。だけど、その前にも青澄春灯のような獣憑きがいた。わかりませんか?」


 いやな話だということしかわからない。

 首都高は東北自動車道へと向かう外苑そばの分岐点がいつものように異様に混んでいて、ろくに進まない。それもまた、いやな兆候だ。


「明るみに出ていないだけで、差別を受けている人たちがいて。家庭で監置されていた人もいたし、それが病室に変わった人もいるんです。加えて、侍隊で対処しきれないほど邪が育って、どうすることもできない人も」

「――……そういう状態になると、黒い御珠ってのができて、侍隊はそいつをぶっ壊して救うんじゃあなかったっけ?」

「その手前で踏みとどまったら?」


 彼女の切り返しに黙る。

 だいたい、想像できる。


「黒い御珠を破壊して救えるとも限らない。さらに、士道誠心にいる雷のように早く走れる子みたいな特殊な力を持っていたり、鬼のように角が生えて暴れる怪力の持ち主になったり、獣憑きとなって獣のように振る舞う人がいたら?」

「まあ……そりゃあ」


 ろくなことにはならないだろうなあ。

 本人も。その家族も。対応できる窓口がまず浮かばない。

 それに正直、いまの部署に転属になるまで、この手の話はずっとオカルトか、滅多に見ないことだと思っていた。実際、そうだった。

 立沢理華をはじめ、仕事柄、渋谷で荒れてる未成年の保護だの、揉めごとだの、接する機会があったけれど、オカルト的なものはなかった。今回の事件さえ、無気味で異様で常軌を逸しているが、それにしたって「やべえドラマか映画の見過ぎかよ」とうんざりする類い。

 ぶっ飛んじゃいるし、気が滅入るが、方向性がちがう。


「排除、されてるんです。排除デザインで整備される都市のように」

「……まあ、身近じゃないわなあ」


 いなかった。見なかった。滅多には。

 交番にいる警官に、たまに斬れない刀を持っていて、絶対に抜かないと有名で。そいつらがいったいなんのためにいるのか、知ろうとも思わなかった。

 神職かなにか、宗教かなにかの影響が残ってるーみたいな。そういう時代錯誤と、気持ちのわるい権力の関わりみたいなものしかイメージしなかったし?

 そんなものに進んで理解しようとする奴も、そうそういないだろう。

 そう思っているから、意外と侍隊の人数が多いことや、士道誠心とやらに学生が思ったよりも多くいることに驚いた。

 けど、あらゆる学校法人が集まってる学校過密都市でもある東京でさえ、たったの一校だけ。それも二十三区内ではなく、東京都西部の山のそばにあるような学校だ。偏屈の集まりくらいに思っていたし、それで済ませていた。

 地方に行けば、案外あるもんだ。山の中の全寮制の学校が。まあ、案外あるくらいの印象なのだが。

 見たくないもの、知る必要のないもの。

 そう区切ったときの人の無関心さと、それゆえの冷酷さみたいなものは、わかる。

 座れない、落ち着けないベンチ。公園。駅のホームの滞在のしにくさ。

 街中にのんびりできる場所がいかに少ないか。

 店に入れば。お金があれば。そのハードルが低い者ほど、意識の外に出る。

 そうして排除されるものが、東京にはある。明らかに、存在する。

 というか、学校も、職場も、どこにもあるだろう。

 あまりにありふれすぎていて、身近すぎて、空気のようにある。

 根源的に、身近にいたいもの以外は排除か放置を選びがちだ。

 ヒーローだの、つらい人を助けるだの、そういうフィクションが多いわりに、現実でそういう人がいても、俺たちはなにもしない。

 無関心だけが理由じゃない。

 助けを求める振りをしておびき寄せる古典的な手口で悲惨な目に遭うケースも存在するからだ。警戒する。それは自衛のためだけでなく、無関心さ、冷酷さにさえ、理由を与える。

 ま、だから警察だの、行政だのがいるのだろう。

 専門を分け、拾い上げていく。そのための仕組みが行き届けば行き届くほど、育てば育つほど、対処のハードルが下がるし、自衛のクオリティも上がる。

 理想的に進めば。

 そうなるとは限らない。

 仕事ならばと、人は思考停止して惨たらしいことさえするのだから。

 ホームレスがいる公園で、撤去をする。けれどホームレスとなった人たちの困窮に対しては、なんのアプローチもしない。撤去が仕事。だから、それだけをする。これがたとえば区役所の人間が行なうとき、同じ役所の中に生活保護だの、それが現時点でむずかしい場合のケースだの、経験している部署があるなり、それを行える人との伝手があるなりしても? 撤去までしかしない、とかな。

 ただ、これで済ませるには雑な例もあるかもしれない。

 行政側が提案しても、たとえば生活保護にはいくつかのハードルが存在する。そのひとつに、近親者への連絡があるという。なんの事情も、なんの問題もなしに家を失って路頭に迷うようなら、そりゃもう露骨に教育だのなんだのに問題ありすぎだろ? で、いますぐ解決できる類いでない問題で、路上で生活をするとき、だれもかれもが円満か? それを話せるか? 恥ずかしいと思うなっていうのは、それを言うやつの感覚でしかない。そのとき、提案する立場でいったいなにをどこまで提案し続けられる? その仕組みは? 手段は。

 仮に近親者からひどい虐待を受けて出てきたとして、その受け皿さえなかったら。

 そもそも信用できなかったら? ひどい体験ばかりして、頼るべきじゃないという認識が強固になっていたら? 俺たちは、それでも粘りを見せられるか? 昇給しない。出世も望めない。評価されない。しかも相手に「してあげてる」感を抱いているときほど裏切られるし、反発されるし、負荷がたまる。

 そりゃあ「してあげてる」感ほど厄介で邪魔で取り扱いのむずかしい感情もまた、ないのだが。なかなかな。そうは言っても、人間いきなりそこまで悟れないわけだ。

 だから、ままならない。

 そんなこともまあ、あり得るわけだ。

 なるべく排除する。

 たまにキャンペーンのように「気をつけなきゃいけないよね」「ちゃんと配慮しなきゃね」とテレビの特番を見たりして。それがどういうことなのか、据わりが悪くなったりする。

 どういう立場で、どういう捉え方をするのがいいかもわからずに、考えないようにして、済ませてしまう。だれか、なんとかしてやってくれよと。

 そういう感情に押し出されたり、刺激されたり、壁を作られたりした人間も、まあまあ見てきた。けれど、そんな自分はというと、まだまだろくに整理をつけられてない。

 だれかの気に障る自分のまま、過ごしている。

 いい大人なのに。

 俺みたいな連中の態度が無遠慮に垂れ流しで触れてくるから、こどもたちは繊細で、敏感で、ときに強く激しく、ときに恐ろしいほど静かに反応する。

 そのまま大人になることもあるのだろう。ざらに。

 どうすることもできずに、俺は年を取る――……。

 煙草が吸いたくなったが、我慢。彼女は嫌うのだ。喫煙するというだけで世界中から嫌われている気がする。禁煙、禁煙と。渋々、変わりのガムを噛む。その前に、


「犯人候補か、類似事件の関係者でもいるのか?」


 尋ねておこう。

 たとえばXメンのプロフェッサーだったか?

 彼みたいに世界中の人を感知する超能力者みたいなのがいてくれたら、捜査もずいぶん楽になるのだが。

 言えない。これまでの話の流れからして、言うべきジョークじゃない。


「まあ、そんなところです」


 情報すくなっ。


「妖怪か、動物の尻尾が生えてるのか?」


 もっとちょうだいよ、と求めて彼女の横顔を見た。

 合流を果たすも、池袋を通りすぎる前の道はまだまだ交通量が多く、渋滞し続けている。

 それがいたくお気に召さないらしい。

 仮にも現職の警察官が交通違反なんて、洒落にならないんだからやめて欲しいのだが。たぶんいま、彼女はアクセルをぐっと踏みこみたい気分なのだろう。


「課長はなんにも言ってなかったように思うんだが。今回は現世の範囲内の犯行って話じゃなかったか?」


 むすっとして、鼻を大きく膨らませる。

 ちょっと黙ってろとでも言いたげに一瞥されたが、ラジオなしで助手席にいて、煙草も吸えないとあっちゃあ退屈すぎる。スマホを弄るのもな。


「念のためですよ」

「……だからその、念のために会うのがどういう人か、教えてくれない?」

「会ってのお楽しみです」

「けち」

「へへ」


 ええ……。

 なにその笑い。


「まだ、匂いが残ってません?」


 ああ。なるほど。

 そりゃあたしかに引きずる光景だった。

 自分はこれが最初じゃない。あの署名を見るのは、実のところ初めてじゃない。

 それでも今週は肉を見たくないし、いっそ香りが強くてがつんとくるものを食べたい。

 麺でいい。麺で。

 いっそ彼女のほうが、隔離世のえぐい化け物退治でえぐい光景に見慣れているかと思ったのだが、そうでもないようだ。

 慣れないか。慣れないよな。慣れないわ。自分は少なくとも、慣れる気配がない。


「――……」


 思いきり深いため息を吐く。

 言いたいことがあるんだろうに、消化できないようだ。

 正直にいえば、今日みたすべてがでっちあげだったらいい。

 被害者の数なんてゼロであればいいし、そうでなくても少なければ少ないほうがいい。

 今回は、こどもが大勢いた。赤ん坊だ。よりにもよって。しかも、大勢。

 妙な力で、でっちあげてるほうが、まだいい。悪意は露骨だけど、それでも被害者がいないほうがいい。そうとしか考えられないくらい、参っている。

 言葉に出さないだけで、彼女も同じことを思っているのかもしれない。

 もちろん新婚のふたりが殺された可能性が高いことも悲劇だ。

 やるせない。

 ただただ、たまらない。たまったもんじゃない。

 それでも、あるにはある。

 渋谷警察署にいた頃にも、見かけた。

 意図せず、学びを得る機会もなく、妊娠した子たち。

 彼女たちを襲ったり、生でヤりゃあできるのに考えなしだったりする野郎たち。

 ひどく繊細な話になるのだが。

 中絶、堕胎には制限時間がある。

 妊娠二十二週未満。つまり、妊娠して二十一週と、六日。それが、手術ができる時期の制限。母体保護法という法律に基づいて処置できる限界。

 限界手前にもラインはある。

 日本においては十二週を過ぎて手術を行なう場合、死産の届け出が必要になる。

 親にだまって。周囲に隠しておきたくて。

 そんなのは、知らなきゃ手遅れになるわけだ。当然のことだが。

 加えて、そもそも中絶手術を行なうのなら、手術を受ける条件を満たすことと、書類と手続きが必要になる。おまけに、そもそも手術なのだ。未成年なら親の同意が必要になるのは、言うまでもない。ちなみに条件においては「妊娠の継続または分娩が身体的または経済的理由により母体の健康を著しく害するおそれのあるもの」あるいは「暴行若しくは脅迫によってまたは抵抗若しくは拒絶することができない間に姦淫されて妊娠したもの」だ。経済的理由により、を選び同意書にサインすることもできるだろうが。そういう話じゃあ、ないよな。ないんだけど、状況としては「ある」のだ。

 念のため。手術を行なう場合、医師にも条件がある。各都道府県の医師会が認めた、指定医師のみが行えるという。

 男にとっちゃあ、思いがけずできた、産んでほしくても周囲が認めず、そもそも育てられる保証も見込みもないとなりゃあ、手術を求める。済んだら終わる。てめえの身体が手術されるわけじゃあない。同行したら? サインをしたら。それでもう、自分の役目は果たしたと、満足する奴さえいるだろう。厄介ごとが終わった。なんなら、持ち込んでくるなと迷惑がる奴もいた。

 けど、女性にとってはもちろん話がちがう。

 手術はどうしたって負担がかかる。痛みだけじゃない。精神的にもかなりのダメージを受ける。そのケアも必要不可欠だ。なにより、こどもができて、それをおろすことの意味に苛まれるケースがある。身体の変化と、手術によって行なわれることの意味を恐れたり、傷ついたり。

 男は知らない。わからないし、気づかない。なんなら気にせず触れようとするだろうし、抱こうとさえするかもしれない。デリケートな、その時期に。相手のことさえ、頭にないままに。

 加えて母体保護法の範囲外にて堕胎を行なうと、刑法の堕胎罪により禁止された中絶を行なったとされる。

 あまりにむごい。

 また、女性の負担と、刑罰的な前提があまりにも強固に過ぎる。

 正直どうかしてる。

 暴力だとさえ、いっていい。

 ろくに教育に労力も割かずに。よくもぬけぬけと。

 そう思わずにいられないくらい、思いがけないことは起こりえる。

 そうした赤子たちかと、あの現場で、ひと目見て想像した。

 仮に、あの赤子たちが誘拐されたのなら? 届け出が出ていると考えたほうが、よほど自然だ。しかし、それにしたって、あの人数。

 どう考えても、異常だ。

 しかし、あの現場は存在した。

 唯一のこされた俺の願望的妄想は? でっちあげであってくれ、だ。

 なんて情けない。

 昔、男たちの無知だの甘えだの、欲望任せだのに傷つく羽目になった子たちを前にして感じた無力感とやるせなさを思い出した。今日は、そういう日だ。

 どうだろう。

 人によっては破滅を想像する。人によっては理想を求める。そして、男に求める。周囲に求める。

 だが、現実は彼女たちに手を差し伸べない。

 どうして。なんで。そう責めるだろう。終わりを早く求め、暴力を選ぶ可能性さえ。

 父親に腹を殴られて泣いている子がいた。母親が守ってくれなくて、執拗にひどい言葉をぶつけられて手首を切っている子がいた。土壇場で怖くなって男が逃げ出して、帰る家も住む場所もなくなっている子さえいた。

 手術を受けて、その内容のあまりの惨さに家を出て放浪している子もいた。あちこちを泊まり歩いて、捨て鉢になっている子も。

 国連は残酷で懲罰的だとして、直ちにやめるよう訴えている方法がある。スプーンのような器具で、子宮内部で生きて、育っている子をかき出すのだ。どう気をつけても子宮を傷つけるケースがあるし、なにより、追いつめられ続けた子たちにする施術法として、あまりにも。

 吸引法と呼ばれる、吸引器で子宮内部を吸いあげるんだか、そういう方法が主流となってきている。が、日本ではまだ、かき出す方法を選ぶことがある。

 ひとり漏らさず教育を。ひとり漏らさず選択肢を。ひとり漏らさず、行き届いた治療とケアを。そうまでして、はじめて妊娠についての議論に至れるとして。

 ない。なにもかもが、ない。足りなすぎる。

 だから、吐き気がするし、反吐が出るのだが、もし自分が捜査一課の人間として捜査に関われるのだとしたら、犯人の探し方に心当たりがないでもないのだ。

 あまりに胸くそ悪くて、自分で必死に否定している。そうであってくれるなよ、と。

 妊娠中絶薬や緊急避妊薬が薬局やコンビニで気軽に買えるように。

 そう訴える人たちがいる。

 俺も諸手を挙げて賛成する。

 それに対する反論はさまざまだ。授かり物だの、むごいだの、自業自得だの。冷酷にも程があるし、前提が違いすぎる。

 足りないのだ。いま。大勢の人生に待ち受ける状況の、ありとあらゆる手段が。


「――……俺は今回、現世で終わると思うが」

「これから行く場所で過ごしている人たちみんな、ずっと病室にいるとは限らないでしょ?」


 彼女は今日、ずっと辟易としている。

 隔離世とやらの化け物はみな、おしゃべりなのだとか。

 てめえの欲望だだもれで、叫びっぱなしなやつもいるんだという。

 だから、想像できることもあるのかもしれない。

 スマホを確認すると、立沢からメッセージが来ていた。

 殊勝なことを言うあいつは、嘘しか伝えてこない。わかりやすい奴だ。

 調べようとしているに違いない。

 知人を殺された。そのショックは、長い時間をかけて癒やす類いのものだ。

 けれどいまは、ショックを和らげるべく、調べずにはいられないのだろう。

 それもわかる。

 それでも止める。

 いま、ひとつだけ明らかなことがある。

 あの現場がでっちあげだろうと、そうでなかろうと。

 いずれにせよ、クソッタレの最低な世界で息をしている奴の犯行に違いない。

 どこまでも救いがないから、事件はいつだって憂うつで、ずっとゼロがいい。

 それには世の中、足りないことが多すぎる。




 つづく!

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