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その刀を下ろして、帯刀男子さま!  作者: 月見七春
第九十九章 おはように撃たれて眠れ!
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第千七百十話

 



 ぷちたちの射的に混ざったし、私はとにかく大外れの連続!

 出店のご飯をこれでもかーっと、片っ端から食べたし? 型抜きに、綿菓子作りの挑戦に、踊ってみたりもして、めいっぱい楽しんだ。

 金魚すくいもあったけれど、これは事前に茨ちゃんと岡島くんにお願いして回避を試みたし、悲しいかな失敗! ただね? 型抜きもだけど、金魚すくいも渋すぎた。どちらも金長狸の金長ちゃん印のチェーン店。貢げ、さすれば与えられるかもしれん! というスタイル。

 型抜きの難易度よろしく、金魚すくいも網にグレードがあったのだ。どんなあこぎなスタイルだよ! と内心でツッコミはしたものの、みんな標準のグレードを選択。それはつまり、一番下のグレードというわけ。なので、成果はゼロ! なぜなら、金魚の面構えからして違った。サービスするかのように、ぷちのひとりが近づけた網が水面につく前に飛び出してきて、網を貫通して着水した。

 やめて!? トラウマになるから!

 案の定、あまりの事態にびっくりして、ワンテンポ遅れて泣いちゃった。射的で茨ちゃんたちと一緒に取った大きな大きなクマのぬいぐるみを使って腹話術を試みて、なんとかなだめようとした。べらぼうに時間がかかりましたよ? 気がついたら、花火があがっちゃうくらいに。

 泣き疲れて眠っちゃった子を抱き締めるし、その頃にはみんなして乗り物から下りて私にひっついていた。うとうとしている子もいる。

 わあ、と。宝島の人々や、トモやキラリたちと一緒になって、みんなで歓声をあげつづける。

 その合間に!

 ぷちの安全基地について、考えてみよっかな?

 そう考えたところで、ユメがほっぺをぐにっと押してきた。かくんと傾く頭でふり返ると、


「はなび、すごいねえ!」


 肩に乗っかったユメが、目を輝かせていた。

 そうだねえ! と元気いっぱいに答えて、後にした。

 普通に宿に泊まれば休めるのだ。すくなくとも。

 この子たちにとって、いまのほうが大事だ。

 そりゃあ、世の親のみなさん、時間がねえ時間がねえってなるわ!

 働きながら、おうちのことしながらでしょー?

 無理だわ!

 私もへそ曲げてたわ! 自分が楽しんでるとき、お母さんやお父さんが上の空だったら!

 なにかをするのなら、寝かせてから。かな!? ひとまずいまはだめ!

 覚えてるものなんだよね。

 特別よかったこと、あーあって思ったこと。うれしかったこと、いやだったこと。

 それは、なくならないんだ。

 だから行なうときには、丁寧に。繊細に感じとろうと身構える。とはいえ余裕あふれる人生とはいかない。失敗をすることも多く、今度はそれを恐れて挑戦しなくなりかけたりしてさ?

 すべて、続いていく。繋がっていく。

 なので、それでも挑戦を選び、努める。

 良心だけでも、思慮深さだけでも足りない。恥ずかしさや情けなさ、苛立ちや怨みごとも生じるものだ。あらゆる自分と一緒に、努めていく。

 好まぬ感情による苦悩からの解放を求めて悟りを求めた人たちがたくさんいるというけれど、釈迦は「待て」と言うんだよね? 悟りはそんなもんじゃねえぞ、と。悟った人でも好まぬ感情が生じるし、うううんって苦悩もするぞ、と。

 ううん。わからん! わからなさが再燃。


「みてるー!?」

「みっ、みてます!」


 べちべちユメにはたかれる。痛い。

 ユメにつられて、何人かが私の浴衣を掴み、全身を使って揺さぶってくる。

 おかげで脱げそうだよ!


「ちゃんと花火みてるからあ!」


 焦るんだけど、なかなか響かない。花火に盛りあがる人たちの中では特にね!

 揺さぶるのが楽しくなっちゃってる子と花火を静かに見たい子との間で言い合いが始まっては、特大の花火があがって、全員でびくぅっとしつつ見あげちゃう。

 星の光が霞みそうなくらい、強く光り輝く大輪の花火。

 散って、散って。落ちて消えていく。

 すこしの間、余韻。後に、どどどどど、と。一回り小さい花火がこれでもかと、何十発もあがっていくから、みんなで「おおおお」と見入った。

 そして、花火が打ち終わってアナウンスが流れる頃にはもう、すっかりみんな寝入っていた。

 タイミングよすぎ! お見事すぎません!?


 ◆


 スマホにメッセージが届いていた。

 お母さんからで、集合場所は今日きたお宿だという。

 金色を集めた、なんちゃってキントウンをこしらえて、それに乗っかる。

 みんなが離れない。トモやキラリに手伝ってもらったんだけど、だめ。毎朝のことなので、わりとすぐに諦められた。

 通りに大勢が集まっていたから、移動には時間がかかった。夏休みに行きたい花火大会の予行練習にはなったかも。とにかく終わってからが大変だ。花火大会のテンションの頂点は、大会の最中。終わってからも楽しく過ごすのなら? 花火が見える位置のお店を予約して過ごすか、そういう場所に住むか、住んでいる人の家に集まるかじゃない? それか開き直って、ずっとその場でだらだらして、人が帰っていくのをのんびり待つか。この場合、帰る手段に要注意。電車だと、終電までに帰れなきゃあ困ることになる。

 今夜はどうかって? 人の波の中で、ゆっくり移動。

 たまに先を急ぐ人か、人たちが通り抜けていく。中には乱暴な人もいる。

 宝島じゃあ、さすがにそこまで悪さできないだろうけど、現世じゃスリもいそうだ。あと、押されて怪我をしちゃうかも。これはここでも起きている。

 なにかが、明らかにこうなる、ということはない。

 この島でもトラブルは起きる。

 だれもがほにゃららで、そこではほにゃららみたいなことは一切ない、ということがない。

 そういう意味では、現世で聞く天国と、アマテラスさまに呼ばれていく天国とはかなりちがう。じゃなきゃあ、ほら。なんだっけ。スサノオが困らせる? みたいなこともないわけでさ。

 あ。やば。古事記をちゃんと読んでないのがばれたね!

 こりゃもう、まんが古事記みたいなの探して読むか! いっそ!


「それいいな。仙人の術かなんかか?」


 キラリに意外なことを聞かれて驚く。


「あ、いや、金色を集めてそれっぽく見せてるだけなんだけど」

「なんだ。じゃあ仙術は使えないのか?」

「まあ……タマちゃんから教わってるわけでなし」

「教わらないのか?」

「ん~」

「本物のきんとうん、使えるかもしれないだろ?」

「たしかにぃ?」


 神通力。仙人が使う、あらゆる術。

 日本よりも、どちらかというと中国の大作映画のアクションで見られる類いじゃない?

 水面の直上をすいーって移動したり、ふわあああって浮遊感たっぷりにジャンプする。あとは……ネタが足りない! 私の知識が足りなくてすまん!


「いまそれ乗れるんなら、いいんじゃない?」

「たしかに――……って、おい」


 キラリの向こうでマドカもちゃっかりしっかり、私の力をコピーして乗ってたよ? なんちゃってきんとうんに。


「ずるいだろ。それは」

「星でも出して、空を飛んで先に帰ったらぁ?」

「お前さあ! ここは一緒にいたいだろうが!」

「これは失礼。じゃ、乗る?」

「そういうことを最初に提案するんだよ!」


 マドカとのやりとりが激しいピンポンみたいになってきた。

 ふたりとも、今夜はちょっと疲れたのかもしれない。

 すこし先を岡島くんと茨ちゃんが歩いている。

 ぷちたちは寝ちゃったし、恋人たちの語らいを邪魔するのも野暮。

 そう考えると、マドカとキラリはよかったんだろうか。トモはいいのかな?

 ちなみについでにいうと、私のなんちゃってキントウンにはすでに搭乗者がいまして。ぷちたちだけじゃなくて、トモも一緒に乗っかっている。私の尻尾に抱きつくようにして、完全に寝ちゃってた。珍しく。

 私の知らない一日を、みんなは過ごしている。

 なんて考えると、エモさを感じそうな気がするけど?

 落ち着け。当たり前なんだってばよ。

 ふわふわ浮かびながら先へ、先へ。

 街の中心から、山側の宿場区画へと近づくごとに流れる人が減っていく。

 それでも大勢の人がいる。だいたいが同じ学校のだれかだ。あるいはだれかの家族なんだ。

 けっこう大勢いるなあ!

 ご家庭によっては、程よきところで鳥居を通って、みんなそれぞれ帰る。

 宝島に滞在するのは? けっこう、代価がかかるのです。

 来週からどうするの? 尻尾の穴を含めて精密検査の結果待ちで、ミコさんからは夏休みまでゆっくり休んではどうかと提案されたじゃない?

 いまじゃすっかりその気だ。

 ぷちたちの保育施設はまだ見つかってないし? ミコさんの施設を頼るのなら、まだ時間がかかるし。尻尾の中に、ぷちたちの安全基地をしっかり作ってこなかったし? 作るのなら、時間がかかりそうだもの。

 一緒に過ごすよ。

 学校のカリキュラムについては相談してるのだし。検査の結果待ちでもあるし。

 あとはタマちゃんが術をいろいろ教えてくれると助かるんだけどなあ?


『明日な』


 ええええ!?


『夜更かしはせん』


 さ、さようで。

 ま、まあとにかく、宿が見えてきた。

 愛生先輩とルルコ先輩が玄関口の壁にもたれかかって話し込んでいる。

 私たちが近づくと「おつかれー」と声をかけてくれた。ただ、忙しいみたいで「ハルちゃん、明日通話していい? 午後! それか、夜ちかく」とルルコ先輩に詰められ、うなずいたら、もうそれで「なにかなくても言うんだよ!?」と怒濤の勢いで約束して、それで話が終わっちゃった。

 みんなも通るしで、やむなく中へ。

 ともだちや恋人や家族の帰りを待つ人がけっこう集まっていて、中はかなり賑やか。


「ひとまず佳村さんとこ、顔だそ」

「春灯はどうする?」

「あ、う、えっと。お母さんたちと合流、かなあ」

「そっか。ぷちたち寝てるもんな」

「なにか進展があったら、ちゃんとまとめたうえで動画おくるよ」


 マドカとキラリともお別れ。先に戻っていた岡島くんと茨ちゃんにトモを預ける。シロくんたちと集まるみたいだ。かなり後ろ髪を引かれる思いだった。お姉ちゃんたちとも会えてない。

 スマホを確認すると、二階の一室で待っているそう。

 飛んでいってみると、私がさっきまでカナタと一緒にぷちたちを見守っていた部屋だった。

 中を覗くと、お姉ちゃんがトウヤと一緒になって、お母さんとお父さんといた。みんなして畳の上に寝そべりたそうな疲れた顔をしてるし、お姉ちゃんはそもそも寝てたよ。お母さんの膝枕で。私と顔を合わせたときのお母さんをみて「私もいま、こんな顔してんのかなあ」って思った。

 あ。変わらずエモさとか関係なく。

 つかれた! ねみい! と、全面に出た顔ね。

 こないだ帰ってきたし、トウヤも特に目新しい話もなし。

 お姉ちゃんを連れて、生徒が泊まる場所につれていくそう。

 なので、私はお母さんとお父さんをキントウンに乗せて、島に来たときの鳥居を目指した。

 カナタに挨拶できればいいんだけど、時間もなく。

 ソウイチさんとサクラさんが島に泊まるから、一緒に休むってメッセージが来ていたからさ?

 まっすぐ帰ったよ。

 家に帰って、ぷちたちをきちんとお布団に寝かせる。

 交代でお風呂に入って、手早く着替えを済ませたら? 今度は怒濤の連絡ラッシュ。

 軽いあいさつはまとめてグループへ。個別に、安心が揺らぎそうな人を対象に返信を送る。小楠ちゃん先輩が「進展なくてごめん」と気にしていたけど、私はいい息抜きになったし、いろいろ整理できたから大感謝と返事する。具体的な内訳なしじゃ心配するだろうから、そこもきちんとカバーするよ?

 カナタともお話した。けど、家族水入らず。あまり邪魔しないうちに、おやすみのご挨拶。

 たくさんの連絡をこなすのは、それだけで大変だ。

 愛生先輩とルルコ先輩からふたりで連絡が来ていたから、今日の感謝と明日の約束を。

 最後の最後に、マドカから送られてきていた動画を再生する。


『よし。いいよー。テイクスリー』


 三度目の正直!

 ベッドが並ぶ和室で、マドカの呼びかけに応じて、ノンちゃんがテーブルになにかを置いた。

 捕まえた水生生物を入れられそうなガラスケースだ。

 水が七割ほどまで入っている。

 そばでノンちゃんがカメラ目線で語りかけてくる。

 目がすこし泳いだ。まるでカンペでも読むかのように。


『え、と。転化スーツと変身については後日おくります! 今日はこちらの実験!』


 画面の右下から左上に向かって、たくさんの星が飛ぶ。

 キラリだ。画面エフェクトのつもりか!

 星がめっちゃ流れている間に、がたんだの、ごとんだのと音が鳴る。

 スマホ移動してんな!? さては! しかもなんかの台に固定してたでしょ!

 星を出すのをやめたのか、画面に景色が戻ったときにはテーブルのすぐそばに置かれていた。


『では次の動画で、実験編です』

「んっ?」


 リビングで見ていたんだけど、思わず画面を覗き込んじゃった。

 遅れて次の動画が送られてきた。

 あ。そういう? テイクスリーで撮ったのを、一度に送ってくるのでなく?

 それともぶつ切りで、ちょこちょこ撮ってたの?

 遊んでんなあ! おい!


「先ねるわー」

「おやすみー」


 お母さんとお父さんが欠伸をかみ殺しながらリビングを去る。

 ふたりの背中に「おやすみー」と声をかけてから、スマホを操作。

 続きの動画を再生してみると?


『それでは実験です』

「それでは問題ですみたいに言うな!」


 思わず突っ込んじゃった。


『ある意味、問題です』

「先読みされている、だと!?」


 ついつい「貴様、みているな」まで言いたくなっちゃう。

 そういう時間じゃないんだよ?

 マドカが透明小型水槽に、袋を近づけて、中身を投入した。

 まんべんなく広がるように流し込まれたものは、砂や砂利。水の中を舞いながら、ゆっくりと沈んでいく。沈む速度がちがう。他にも、いろんなものが混じっているのか、しばらく水の中がごちゃごちゃして見えた。


『これは、放っておけば水槽の底に沈みきりますよね』


 たしかに。


『そこで春灯に聞きたいことがあるわけ』


 マドカがカメラの外で突っ込んでくる。

 おみごと、大正解! それよりも繋がる話が気になる。

 あるよね? 次が。

 なんだろ、聞きたいことって。


『川のお水、綺麗かばっちいか問題』

「あああ」


 そのあたりまで、私のこと探ってたのか。

 抜け目ないなあ、マドカは。


『川はたえず流れている。ものも流れる。基本的には重さに応じて沈むよね?』


 まあ、そうだよなあ。

 実際、マドカが投入したものが、それぞれの速度で水槽の底へと沈んでいく。

 ばしゃばしゃっと流し込まれて発生した水の流れに巻かれるものもあれば、構わず落ちていくものも。それぞれ、具体的にどういう力が発生して、どういう理屈でそうなるか。

 わからないや!

 化学で習ったっけ? ぜんぜん、ぴんとこない。

 高橋先生が作ってくれた、ダム装置のちっちゃい模型の話を思い出すけど、ちがう話だ。


『水だってそうだけど』

「えっ」


 あ。そっか。染み込んでいくんだ。底へ、底へ。

 砂や石や岩、土や泥に受けとめられて、それらがお皿のように下に行くのを阻んで、川になって流れるイメージを持っていた。けど。日差しを浴びてるしさ? 雨水が降り注ぐ先って、どこもかしこも水を相手に隙間なく、吸いこむことなく、ただただ流していくってわけじゃないよね。そもそも流すって、なんだ。

 川の流れを探る模型なら、お父さんに教えてもらって動画を見せてもらったことがある。

 傾けられる大きな箱に、実験用の地形を作る土砂を敷いて、そこに水を流すんだ。

 たとえば柔らかい砂なら? 水の流れがどんどん削っていく。川はどんどん深くなっていく。崩れた砂が、やがて落ちる。さらさらの砂場で、ろくに固めず作るお城のように。

 仮に粒が大きいのなら? 水は粒と粒の間を通っていく。だから深さが増すのかも。

 流しつづければ、当然のように侵食されていく。

 現実には、地層にいろんなものが堆積している。

 砂はたしか、貝類の死骸が砕けたり、魚介類の骨が壊れたりしてできたものだったかな? 岩石が壊れてできた粒も混じっていたっけ。ぶらぶら歩くおじさんの素敵な番組だと、このあたり、おじさんが専門家の問いにずばっと一言で、淡々と答えてくれそうだ。けど、私は勉強不足で思い当たらない。

 まあ、それでもさ? 海生生物の名残として捉えたとき、砂が堆積している場所って、つまりは昔、海だった場所でさ? 分厚い岩盤や、プレートだった層とは異なるわけじゃない? それもいろんな種類があるそうだけど。

 で、雨が降ったときに、崩れやすい地層と、そうじゃない地層がある。

 雨が降り、川ができたら? 削れていくのは、柔らかくて粒子にばらけやすいところなのかなーって。

 おまけにさ? 川の中でも、いろんなものがあって。それもやっぱり、流れていく。

 それはたとえば、山や森の葉っぱもそう。目黒川なら、桜の花びらまである。

 流れ流れていく過程で、産卵を終えて命尽きる鮭たちのように、葉も花びらも朽ちていく。

 日曜日夜七時の番組に出ている先生たちなら、それがどういう連鎖を生むのか説明してくれそうだし、そういう場面を何度か見ているはずなんだけど、うろ覚え……おのれっ!

 ただ、前に、アクアリウムの自浄作用みたいなの、調べた気がする。

 水族館の巨大な水槽もだけど、おうちで趣味でやるアクアリウムも、もちろん汚れる。不慣れで清掃も雑にしてたら? タニシが沸いたりして。お前どこからきたん!? ってびびらされる。藻が増えて、水槽が緑色に濁って、なんかもう「触るべからず」ってムードがぷんぷんでてくる。

 フィルターがあるし、酸素を循環させるものもあるけれど、やっぱり掃除は必須? いえいえ、回避するための仕組みがあるかもよ?

 ということで出てくるのが、ろ過装置。

 重力を利用して、水をろ過装置に通す。ろ過された水を水槽に戻す。このとき、ろ過装置の内訳は?

 ざっくりいくよー!

 大きなゴミをキャッチする層、葉っぱや小石など! 小さなゴミをキャッチする層、ここは砂! そして雑菌対策に炭、炭、炭! そんでもって、砂利、小石! とどめにガーゼ!

 もちろん、いろいろアレンジレシピがあるよ?

 これを使って、ろ過する。

 その水を循環させれば? ゴミは取り除かれ、ある程度の菌の繁殖も抑えられて、水槽の中の環境が、なにもしないよりは保たれる――……のでは? っていう話みたいだ。

 やるならちゃんと調べるぞ? なにせこれ、未経験者の思い出しトークだもの。

 ただ、川はその場所ごとに、いろんなものがたまっていて、さすがに炭ばかりは燃えた木が流れてない限りは人工的に入れなきゃいけない木がするけど、それ以外はだいたいあるじゃない?

 水槽と違って、川の場合、藻は水生生物の大事な栄養源。それを食べる生きものを狙う生きものもいる。川の上から鳥が狙うこともある。

 だけど人が水槽を放置する状況は、川とはちがう。

 だから藻が繁殖するし? 生態系のバランス以前に、そもそもなにもかもが足りてない。再現をしようとするのなら、ね。


『この水槽に穴をあけるとする。位置によって、流れ出るものは変わるはず。じゃあ、霊子体はどうなのかな? 謎じゃない?』

「ふむ……」

『綺麗かばっちいか問題を春灯が考えている間、私はむしろ霊子体が傷ついたら、血管から血が出るように、霊子がこぼれでるんじゃないかと気になった』


 わかる。言われてみればマドカの言うとおりだ。

 けどホノカさんも、私も、そういう変化はない。すくなくとも、私が知っている範囲では。


『じゃあ、なにがなにを押しとどめているの? 仮にそこからなにかが流れ出たとき、それってどういう性質のもの?』


 綺麗かばっちいか、じゃあない。

 心から溢れた気持ちは、どういうものなのか。

 そう考えてみると、たしかに謎だ。

 それに、痛みだけに限定するのは早計に過ぎる。


『以上!』

『いやいや、マドカさん。いま沈めたものそれぞれ、転化して、どういう変化をするか試すって話を――……』

『変身の話は春灯に持ち込むにはまだ早いって。まとまってないんだもの。続きはテキストで』


 問答無用でマドカがノンちゃんの発言をぶったぎって、動画が止まる。

 タップして画面を切りかえると、マドカからテキストメッセージが届いていた。


『ぷちたちの安全基地。春灯の心の川。穏やかな居場所が寒くなった理由。なにか思いつかない?』

『私はむり』

『今夜はこれが限界』

『じゃ、おやすみ!』


 歩みはのんびり。そりゃそうだ。

 トントン拍子に早くいくなら、世界中のあらゆる研究が楽ちんだ。

 そういうもんじゃないよね。

 マドカなりにアシストしてくれた。実際、今日のあれこれを思い返すと、まだ実験をするには早すぎる。

 ぷちたちが寒さを感じた理由を捉えてみて、私という心の中に、ぷちたちが穏やかにいるための理由を見つけだす。それを実現するための解釈を思い描き、金色を使って試す。ぷちたちが大丈夫なら、次は私の霊子体で試す。

 尻尾の穴があっても、私はまだ、その意味を知らない。当て推量、偏見という点を置いて、あれこれと考え、試しの点を置く。相互に作用しあったときの結果から、いろんな点へと続く線が見えたり、点の位置を変えたほうがいいかもしれない負荷を感じる。それを繰り返して、より実態に即しているであろう点を探るための分析を進めている段階だ。

 なんとなくだが、手応えを感じる点はもう、ある程度そろっている気がしている。

 ぷちたちに叱られたこと。

 これまで、あの子たちの親として、自分を捉えなかったこと。

 そうしてできた、あの子たちのさみしい時間。心の距離。

 それに徐々に気づき始めた、私。

 あの子たちの求め、願い。ささやかに歩きだした、私の自覚。

 私という川は、じゃあ、なぜ溢れないのか。

 どこに、どんな穴が空いたんだろう。そこは私のなんなのか。

 尻尾ならこうだ、と思い描いただけじゃなー。

 足りないよなー。


「術だな」


 ノンちゃん方式でいこう。

 うんうん悩むより、あれこれやってみろ、だ。

 尻尾が私にとって、隔離世の象徴なとこ、ある。

 だったらいっそ、キントウンみたいに、あれこれ隔離世っぽいことやってみよう。


「よし」


 椅子から立ち上がって、思いきり伸びをした。

 身体中が痛い。尻尾は穴が空いていても痛くないというのに。

 なんかいろいろありすぎて、頭がぼーっとする。

 ううん。

 なにか、忘れているような、気がする。


「――……あっ」


 急いでスマホをチェック。

 メッセージアプリに、ノノカからメッセージが届いていた。


『明日』

『春灯んとこ』

『行くから』


 三連続で、それだけ。


「ひえっ」


 やっちまった!

 あわてて通話を飛ばしたら、すぐに繋がってさ?

 謝りたおそうとする私の「ごめん」を聞いたら「よし!」と間髪入れずに止められた。

 忙しかったし、疲れてるし、むしろ助かったからって。

 お互い連絡わすれたよねーって、あっけらかんと言われたの。

 それでも、お願いしていたのは私だから、続けて謝ると「じゃあもうこれで終わり! 謝るの終了! それよりごめん、あれこれ先輩に言われて必死にまとめてるんだ。春灯の役にも立つと思うから、今夜は時間ちょうだい?」って申し訳なさそうに言われたの。

 何度でもエンドレスに謝りそうになったけど、ぐっと堪えて、おやすみの挨拶をしたらね?


『明日、穏やかな声で歌いたい一首を教えて。直で聞かせてよ。楽しみにしてるから』


 じゃあねーと、欠伸をかみ殺しながら挨拶をしてすぐに通話が切れた。

 やっちゃったー。

 ほんと、忙しなくて頭が回らない。けど、それは私の都合でしかない。

 気をつけなきゃね。

 こういう失敗を、何度もしそうだ。

 当分の間は。

 自分の部屋に戻って、ぷちたちの寝顔を確かめる。

 ひとりひとり、タオルケットを掛け直したり、髪を撫でたりしていく。

 エモさや愛情が湧いてなにもかもが許される、みたいな話ではなく。

 かわいいんだけど。

 ぜったい明日の朝、いつものように起きるんだと覚悟した。

 大変さをごまかすためにあるんじゃないよね? 愛情も、安心も、安全も。

 尻尾に穴は空いているのだ。

 ごまかすことなく、しっかり努めよう。

 そのためにも、今夜はおやすみなさい。




 つづく!

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