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その刀を下ろして、帯刀男子さま!  作者: 月見七春
第二章 二振りの運命と願い

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第十五話

 



 尻尾を胴着に入れてみたけど、これがやたら目立つの。片足がすっごく太い人みたいに見えちゃうよ。

 刀を二振り持って教室に戻ると、みんな疲労困憊という顔で机に伸びていたの。

 時計を見たらお昼休みに入っていました。

 今日は午前授業だから帰ってもいい時間帯なのに、誰一人着替えていないんだよね。

 まあ選択授業過酷だったもん。しょうがないのかも。


「ふう……よい、しょ。あわわ!」


 机に刀を立てかけたら、そのままスライドするように机と共に倒れてしまった。

 疲れて動けない私と違って、みんなは立ち上がって机を戻してくれる。

 みんなだって疲れてるのに。紳士だなあ。心から感謝です。


「おめでとう、青澄(あおすみ)さん」


 シロくんが刀を少し苦労しながらも拾って渡してくれた。

 それから視線を私のお尻に下ろして、固定。


「……そ、その。尻尾が生えているように見えるんだが」

「あ、アクセサリー?」

「そ、そうか」


 メガネのツルをしきりに弄っている。

 理解するべきか悩んでいるっぽい。だから一言いっておこう。


「今はその、尻尾についてはそっとしておいてもらえると助かるかな。私もどう受け止めればいいかわからなくて」


 うつろな視線に乾いた笑いがセットになった私にシロくんがかろうじて頷いてくれた。


「わ、わかった」


 さて、今度は刀をしっかり机の上に置くぞ……よし。


「ありがと、シロく――わっ」


 急に肩を抱かれたと思ったら、カゲくんが「これが青澄さんの刀かー」としげしげ眺めている。

 も、もう。こういう距離感近そうだけども、困ります。


「銘は? 刀の名前はどうすんの?」


 まるで気にしないカゲくんに何か言っても自意識過剰感がひどいよね。

 深呼吸してから……首を傾げた。


「名前、つけるの?」

「そりゃあ、ほら。やっぱり大事だろ、名前って。なんかないの?」

「ううん……」


 トモみたいに、いかにも必殺技です! みたいな刀の名前があったら、そりゃあ格好いい。

 でも私が口にした名前は、どっちも人の名前っぽい。

 あと……あんまり必殺技っぽくないよね。


『失礼な女じゃの』

『まったくだ』

「ふぉあ?!」


 頭の中で響いたおじさんとお姉さんの声にびくんと跳ねた私にカゲくんもシロくんも驚いている。


「ど、どうした?」

「いえ、その。頭の中で声が聞こえて。疲れてるのかな」


 あはは、とごまかし笑いをする私にシロくんもカゲくんもお互い顔を見合わせて首を捻るばかり。

 そんなことよりも、とカゲくんが私から離れて刀に顔を近づける。


「気になるのは名前だよな! なんかさー、中等部の頃に聞いた噂だと手に入れる時に名前がわかるみたいなんだよねー」

「そうなの?」

「おう」

「それってつけるとかそういう次元じゃなくない?」

「確かに!」


 笑いながらカゲくんが私の背中を叩いてきた。もー。ごまかし方が雑なんだから。

 身体を起こして腕を組み合わせる。

 他の男の子達もみんな私を見てくる中、「そうだなあ」と呟いてカゲくんは黒板へと歩いて行った。そして何かを書き始めるの。

 なになに……?


「刀、刀を扱う者、刀に斬られた者……ってなに? なんで三つあるの?」

「刀に宿る魂の話ね。刀そのものなら純粋に刀としての能力は一番強い。扱う者は……侍とか、武将とかが多いね。扱う者の技とかが使えたりして、これも強い」


『俺のことだな』


 おじさんの声が頭の中に響いてくる。

 な、慣れないし慣れそうにもないですけど。


「最後に斬られた者。これはマジで、魂次第。微妙な場合もあるし、ダークホース的なヤツを引き当てることもあるし」


『ふん』


 不機嫌そうなお姉さんの声。

 調べてみればわかるのかな、二人のこと。


「なんでこの三つなのかは、それこそ神さまにでも聞かなきゃわかんねーけど。この学院に入る意識高い系……と言う名の、刀欲しいやつはみんなイメージがあるわけ」


 僕はそうでもないぞ、と呟くシロくんや「当然だ」「強いやつがいいな」と口々に言う男の子達を横目に見てから、カゲくんに尋ねる。


「カゲくんはどういうのがいいの?」

「んー……秘密」


 人差し指を立てるカゲくん。なんかずるい。

 気になるじゃない、そういうこと言われたら。むー……。


「なんだお前達。まだ着替えてなかったのか」


 その時だった。ライオン先生が顔を出してくれたのは。


「……む、青澄。すまんな、大丈夫か?」


 私の姿に気づいて真っ先に心配してくれたの、優しいからいい。


「大丈夫です。こう見えて頑丈なので」


 こう見えては背伸び発言なのでスルーして欲しい所存。


「そうか……ああ、その。こんな話の後で申し訳ないんだが」


 後頭部に手を当てて、豊かな髪を撫でつける。

 それはまるで言い出しにくいことをどうやって伝えようか悩む仕草みたいだった。

 迫力ある顔に似合わず仕草が小さくてちょっと可愛いぞ、ライオン先生!


「寮の部屋を移動してもらう」

「わっと?」


 なぜに?


「刀持ちの生徒は学費などのサポートが出る反面、外出が制限される。寮も、学外から学内に変わる。設備はほぼ同じだから安心してもらいたい。一応、入学案内にも記載があったんだが」


 そうなの? と周囲をみたら、みんなして真顔で頷くから困る。

 先に説明しておいてよ、と思う反面、見逃したの私だし言われても覚えられそうにないから別にいい……かな。別にいいや。


「荷物は既に専任のスタッフにより輸送されてある」

「え」

「女子生徒に対しては輸送もすべて女性スタッフがあたるから、安心して欲しい」


 そ、そういう問題なんだろうか。


「それから」

「まだあるんですか」

「その、なんだ……尻尾、似合っているぞ」


 お、おう。

 照れながら言われますと非常に困るのです。

 ちょろいので。きゅんときちゃうので。

 赤面しながら言わないで!


「青澄。尻尾がぱたぱたしてる」

「はっ」


 シロくんに言われてあわてて両手で尻尾の根元をおさえる。

 胴着に穴なんてあいてない……はずだよね。大丈夫かな。

 でも尻尾出てるし。


「それから結城と青澄は選択変わらず。八葉は改めて選択授業を今週中に申告するように」


 では解散、と音頭を取るライオン先生に手を叩かれて、私たちはぞろぞろと着替えることにする。

 トイレに移動しようとする男の子達の中で、カゲくんが俯いていた。

 けれど私が声を掛けるよりも早く教室を出ていってしまった。

 戻ってきたカゲくんはもう、いつもの調子で笑っていたから……つい忘れてしまったんだ。


 ◆


 正面玄関に行くとトモが背中に一振りの大きな刀を背負って待っていてくれたみたい。

 私を見るなり駆け寄ってきて抱き締めてくれる。


「ハル-! はるはるはる!」

「お、おおお」


 小中の頃ではありえないスキンシップに戸惑う私です。


「やった。やったよ、やった! アンタも!」


 二の腕をぎゅっと握られて離される。

 そうなんです。アンタも、と仰る通り、私の腕の中には二振りの刀があるのです。


「腰にさげたりしないの?」

「実は――」


 試したんです。みんなが是非やるべきだっていうから。

 カゲくんがベルトを貸してくれたから、早速使ってみたの。

 そしたら……スカート脱げたよね。あまりの重さに。


「あまり思い出したくないかな」


 はは……。

 女子力皆無なパンツを晒し、男子の赤面どころか憐れみを誘った私を笑えばいい。

「スカート履けよ、青澄」って言われて「はい」って頷くことしか出来なかったよ。

 いっそ笑ってくれた方がよかったよ……。


「それにしても尻尾まで生やしてなんなのもー! 獣耳とか生えないの?」


 頭を撫でられて、私の尻尾が揺れる。

 これもね。シロくんが顔を背けながら「スカートだから気をつけた方が良い」って言ってくれました。

 私の防御力はゼロだ。まいったか。まいりました。


「耳まで生えたらいよいよ私、人外なんですけど」

「獅子王先生みたいになって可愛くなるじゃん」

「や、やめてよ。フラグ立つ気がするよ!」


 半泣きだ。マジでお外歩けなくなるじゃないか。

 私の場合リア充に一切繋がらない気がするよ!

 なんてこった! 元のスペックがこれだから……


「ハル、目が死んでるよ」

「……ちょっとネガティブスパイラルにはまりまして」

「なんでよー! 刀持ちの生徒用の特別寮に入るんだし、元気だしていこうぜー。あたしも一緒だ」


 明るく笑うトモを見ていると、くさくさしててもしょうがない気になってきた。

 ポジティブいただいていこう。よし、元気出せ! 私!


「がんばる!」

「おう! それじゃ行こ。アンタと二人で行きたくて待ってたのだ」

「トモー」


 泣きついてもいいですか。

 そんな私の手を取って、トモは脳天気に歩き出した。

 これが私とトモにとっての、まさにデスロードになるとも知らずに。




 つづく!

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