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その刀を下ろして、帯刀男子さま!  作者: 月見七春
第十二章 妖刀京都怪奇譚

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第百四十三話

 



 駅を出て地上へ上がってすぐ目にしたのは、鬼だ。

 鬼の背中がすぐ目の前にあった。そのそばにもまた、鬼。鬼がいる。

 みんなを背に、八つの刀をすべて展開しているのがタツくん。寄り添うようにユリカちゃんもいる。

 南先輩とシオリ先輩は傷つき倒れている。そばにいるコナちゃん先輩を庇うように、周囲から攻め寄る邪をたった二人で退けているのはメイ先輩と北野先輩だ。

 でも、おかしい。羽村くんたちがいない。うちのクラスメイトを探して――……見つけてしまう。

 タツくんが庇う背、地面に突き刺した刀に身を預ける羽村くんを。じゃあ、岡島くんは? 茨くんは?


『わかっておるのじゃろ?』


 嘘だ。


『鬼じゃ』


 私たちの登場に気づいたのか、やっと鬼たちがふり返った。

 腰まで伸びる赤い髪の鬼は茨くん。青く短い髪に涼しげな顔をしているのは岡島くんだった。

 その目は赤く染まっていて、浮かべた笑みの凄絶さは二人ではあり得ないものに違いなく。


「逃げろ――!」


 羽村くんの叫ぶ声とほぼ同時だった。

 目の前に迫る、鬼の赤。咄嗟に金の膜を張れたのは僥倖でしかなかった。


「――、」


 思い切り蹴られた。

 膜ごと飛ばされて家々を破壊しながら転がっていく。

 十兵衞の経験とタマちゃんの身体能力でなんとか空中で体勢を立て直し、刀を抜く。

 けれど眼前に更に迫る赤。

 咄嗟にかち上げた刀を掴まれる。

 にたり、と笑う鬼は茨くんであって、茨くんでないもの。その正体を見抜く暇なんてない。

 こぶしだ。こぶしを振るわれる。彼の刀はどこへいったのか。胸に刺さる柄がそうなのか。

 だとしても言葉を発する余裕さえない。

 一年生の誰よりも鋭く鈍い連打をさばくのに必死だ。

 十兵衞の見切りは使っている。既に大神狐モード発動中。にもかかわらず、なぜ。


『ええい――』


 大振りなのに連打できるそのこぶしの軌跡は無限を描く。


「飛んでけ!」


 一歩下がってタマちゃんが霊子を叩きつけて吹き飛ばした。

 遠目に見えるユウジンくんは岡島くんの連打に防戦一方になっている。

 タツくんも加勢したいんだろうけど、あまりに危うい糸の上にある攻防ゆえに手を出せない。

 そんな中でも構わずあちこちから、邪がやってくる。

 その姿はすべてが妖怪変化。何かが疼く。疼いて叫ぶ。


「なに、これ……ユウジンくんを見たときのそれとも違う、これは」


 思わず口にした言葉に私の魂が囁いた。


『呼んでおるわ。茨木童子……そして、』


 大地を弾く踏み込み、次いで跳躍。

 振り下ろす刀はしかし、人差し指で止められる。

 岡島くん。

 青き髪の冷たい鬼。


「酒呑童子がな!」

「――誰だっけ」


 声は岡島くんのもの。

 なのに発する響きは別人のものに違いない。

 だって岡島くんは誰かをバカにするような笑顔を浮かべない。

 指を振るっただけではじき飛ばされてしまうけれど、タマちゃんが簡単に土を舐める無様なんて晒すはずがない。

 四肢で着地して、すぐに刀を構える。

 ユウジンくんが、タツくんや羽村くんが、私が刀を向けるのに……茨くんと肩を並べて退屈そうに肩を竦めると、二人揃って天高く飛んで行ってしまった。

 妖怪たちも後を追うように走って行く。

 追い掛けるべきか悩む、けれど。


「く、そが……」

「ちい……」


 崩れ落ちるタツくんと羽村くんを放っておけるはずもない。


「大江山……は、さすがに遠すぎやね」


 息を吐いて鞘におさめた刀を肩に置くユウジンくんに、誰も何も言えなかった。

 荒い呼吸を繰り返しながら、


「はあ、はあ……えっと」


 どこ、そこって尋ねましたよ。

 みんなが揃って呆れる顔するの、なんでなの。


 ◆


「まずは態勢を立て直します。いいですね?」


 コナちゃん先輩の言葉に誰もが頷いた。

 ユウジンくんの提案で星蘭へと向かおうとしたのだが、まるで意図的に集められたかのように学校への道へは山ほどの妖怪たちが壁を作っていて、とてもじゃないけれど近づけそうにありませんでした。


「せんせの仕業か。目的果たすまで帰さん気やね」


 さすがのユウジンくんもこれには参った様子です。

 それもしょうがないかも。星蘭には御珠があるから、現世に戻れるはずなの。

 だけど乗り越えるにはいくらなんでも敵の物量がありすぎる。


「メイ先輩……は、だめですか?」

「ちょっとさっきのでばてたから、しばらく無理。サユは?」

「右に同じく」


 タツくんが無言で刀を手に前に出ようとするけれど、泣きそうなユリカちゃんが止めるので断念してる。でもしょうがない。見れば羽村くんと揃って傷だらけだ。


「わりい……」


 私に肩を借りていることを恥じるように俯く羽村くんに、気にしないでと言いつつも悩む。

 いくらなんでも八方ふさがり過ぎる。

 もしこれがシュウさんの、警察からの課題だとするのなら、達成方法が見えなさすぎて無理ゲー過ぎる。


「ハル、何を暗い顔をしているの」

「え――」


 間抜けな声を出してしまった。

 みんながうちひしがれた顔をしている中で、コナちゃん先輩だけはシオリ先輩に寄り添いながら生きた目で何かを見つめていた。


「あの白ウサギが大人のいいようにやられてばかりでいるもんですか。それに安倍以外の星蘭の生徒や北斗、山都の生徒もどこかにいるはず。やられっぱなしで終わり? そんなのこの私が許さない!」


 燃えている……! コナちゃん先輩は変わらず燃えている……!

 こんな状況だからこそ、これほど頼もしい人はいない。


「どこかで状況を整理しましょう。安倍、いい場所はない?」

「呼び捨てしんどいわ……言うてる場合やあらへんね」


 スマホを操作し終えたユウジンくんが空を指差す。

 瞬間、光が瞬いて彼の前に現われたよ。鹿野さんが。

 そうだ。彼女は雷神の化身みたいな人だった。

 味方に回るとこれほど頼もしい人も……ってユウジンくんの時にも思ったっけ。

 星蘭すごいな……。


「うちの連中がみんな妖怪どもになって、暴れ回るから遅うなったわ。ユウジン、堪忍な」

「ええよ。他は、じゃあ?」

「せや、倒してきたわ。警察の人らが現世に連行していったしな。残りは立浪だけや。けど山都のぼんが暴れてるから対処してる。三条いけば会えるよ」

「めんどくさそやね……なあ! 士道誠心はどないするんか知らんけど、行くならホテル探すとええよ」


 どうして、という顔をする私たち一同にユウジンくんは笑って言うの。


「連戦だらけで消耗させるだけが課題の狙いなら、とっくの昔に全滅しとるわ。休憩所は休憩所として機能してると思うよ。一応言うとくと、長居するんはオススメせんけどね」


 ほな、と言って鹿野さんの肩に手を置く。

 ばちばちと言い始める鹿野さんの身体に、ユウジンくんの尻尾がどんどん膨らんでいく。


「ちょ、ちょっと待ちなさい! あなたたちは何処へ行くの!」

「三条まで、うちの侍を助けに」


 誰かが止めるよりも早く光が炸裂した。

 次の瞬間にはもう二人ともいなかった。

 ああもう、トモかシロくんがいてくれたら追い掛けられたのに。


「切り替えていきましょう」


 おお、コナちゃん先輩は揺るがない!


「来る時に見かけたホテルへ行く。ついてきなさい!」

「いや、コナちゃん。刀鍛冶が先行とかやめて。危ないでしょ」


 メイ先輩がやんわりと止めなかったら、きっと矢面に立っていたに違いないね。やっぱりパワフル。そこが好き。


 ◆


 ホテルの入り口の前に女の子が座り込んでいた。

 雪のように白い肌、青白い髪、とびきり長い刀。

 私たちに気づいても、胡座を掻いたまま動き出そうとしない。


「私たちは士道誠心の学生……そちらのあなた、どこの人?」


 コナちゃん先輩の呼びかけに応えず。


「ちょっと、あなた!」


 前に出ようとしたコナちゃん先輩の背中を掴んで、メイ先輩がぐいっと引っ張った。

 ほとんど同時に、女の子を中心に炎が噴き出て燃え上がる。

 眼前を吹き上げた火の壁にコナちゃん先輩が固まった。けど、無理もない。

 声を掛けたら突然攻撃なんて、あまりにも物騒すぎる。


「白地にVラインの黒セーターと白ブラウス。控えめチェックのスカートで刀とくれば、北斗の子だよ、コナちゃん」


 コナちゃん先輩を庇うように背中に回して、メイ先輩が刀を抜く。


「士道誠心高等部三年生、真中メイ。アマテラス……ただ休憩所を求めてやってきた」


 構えるメイ先輩を見て、女の子が目を伏せた。長い吐息にみんなの意識が集中する中、彼女は立ち上がって鞘に入ったままの刀を地面に置いた。

 そして立ちふさがる。


「北斗一年、雪村コマキ……イレスカムイ。誰であろうとこの先へ行くことは許さない」


 足下から炎が噴き出て彼女の衣服を焼き払う。

 代わりに現われるのは甲冑だ。燃える炎の模様が生えるそれは彼女の戦装束か。

 っていうか、あんなことできるの?


『霊子の使い方は人それぞれよ』


 タマちゃんにもできる?


『無論、楽勝じゃぞ』


 おお……いつかやってもらおう、というのはさておいて。


「北斗に手を出さないと誓う。この刀に賭けて」

「本土の連中は信用ならない。呼ばれて長旅を経て来てみれば襲われて、こちらは参っている。コマキはみなの剣だ。ここから先へは行かせない」

「……参ったな。この子、本気だよ。どうする? コナちゃん」


 にらみ合いの果てにあっさりと根負けするメイ先輩。

 でもしょうがない。ここで無理に勝ってまでホテルに入る理由がないのだから。


「代表者と話をさせて。私たちはここから先へは進まない。代わりにそちらも譲歩を」

「……従う理由がない」

「同じ侍候補生のよしみとして。どうか、どうか……お願いします」


 深々と頭を下げるコナちゃん先輩を見て、雪村コマキと名乗った女の子は目を伏せた。苦悩している。

 だからこそ、なのか。互いに先へ進めず後にも退けぬ状況で、不意に彼女の影から手が生える。

 ひょっこりと顔を出した丸顔の女の子がぴょんと飛び出てきた。雪村さんがさっき着ていた服と同じ服を着ているが、何より目を惹くのは頭の上から生えたまるい獣耳とふんわりとした尻尾。


「昔に聞いた声だと思ったら、真中さんじゃん」

「金長レン。そっか、あんたが北斗だったか」


 人なつこい笑顔の女の子にメイ先輩が肩を竦める。

 知り合いなのか、二人の間にはどこか和やかな空気が――


「狸娘、よければそっちのきかん坊を説得してくれない? こっちは満身創痍でくたびれてんの」

「や」


 あれ? 流れないの?


「化かし合いが信条なのに化かされて、生徒がもうレンとコマキとあと一人だけ。ここは北斗だけの安全地帯だからぁ、士道誠心は出てけ-!」

「ちっ……相変わらず苛つかせるなあ」


 つま先でたんたんたんと地面を叩くメイ先輩の肩に、コナちゃん先輩はそっと手を置いてから狸の女の子に呼びかけた。


「質問があります。学校からの要請でこちらへ?」

「そーだよー。北斗は京都旅行のつもりできたよ」

「では、どのようにして隔離世へ?」

「駅で御珠の光を浴びて、気がつけば妖怪の姿をした邪に襲われてご覧の有様だよ!」


 こちらと同じね、という呟きを私の獣耳が確かに捉えた。

 それは狸の女の子にとっても同じだったみたい。

 いやらしさを隠そうともしない笑顔には一目でわかるくらいの欲が滲み出ている。


「今みたいな呟きは有益。もっと聞かせてくれるんなら、中に入れてあげてもいいよ?」

「結構です」

「コマキー、振られちゃったー」


 よよよ、と泣くのは芝居だ。私でもわかるよ。


「じゃあさっさといなくなれよ」


 懐から取り出したのは刀――……ではなく葉っぱの山。

 空へとほうり投げた途端にそれらは刀へと姿を変えて、一斉に私たちへと降り注ぐ。

 そんな手はとうの昔に見抜いている、と言わんばかりにメイ先輩が刀を振るった。

 瞬間、刀は葉っぱへと姿を戻して燃えて灰に変わる。


「ご挨拶じゃない。金長狸さん」

「神さまのあなたに言われるなんて、光栄。でも嬉しくないから消えちゃえば? うざい」


 笑顔の応酬が怖い。


「――……むかつく狐の匂いがするからなあ。今すぐどっか消えないと、本気だしちゃうよ?」


 細められた視線の殺気の密度は、メイ先輩に勝るとも劣らないものだった。


「コナちゃん?」

「行きましょう」


 頷いて歩き出すコナちゃん先輩に慌ててついていく。

 ふり返ると、狸の女の子は三日月のように歪めた瞳で私を見つめていた。


 ◆


 もう少し頑張って歩いた先のホテルの部屋にみんなで集まる。

 コナちゃん先輩の指示で現在地をユウジンくんに連絡し終えた私は憂鬱だった。

 南先輩とシオリ先輩は傷だらけで、今も目覚める気配がない。

 唯一の刀鍛冶であるコナちゃん先輩が傷の手当てをして、一区切りついた時には夜になっていた。

 タツくんだけじゃなくみんなの世話を甲斐甲斐しくしてくれるユリカちゃんの煎れてくれたお茶を飲んで、みんなで顔を見合わせる。といっても風早先輩はいない。さっきの雪村さんのようにホテルの前に立って警戒してくれているのだ。


「今回の旅行、すべては警察による高校生の侍候補生の育成が目的とみています」


 告げられた言葉の意味を理解しようと頭を働かせる。


「つまり……どういうことなんです?」


 心の中でタマちゃんの呆れた声が聞こえてくる。


『お主は緋迎シュウから聞いておったじゃろ』


 そうだっけ? えっと……。


「私たちの強化が目的?」


 私の言葉にコナちゃん先輩は頷いた。


「四校同時に声を掛けて招集。京都に限定というのが解せないけど、それは後。ひとまず、侍候補生を集める動機も手段も手にしているのは、しかるべき組織でしかあり得ない」

「警察ですか」

「ええ、羽村。その通り。シオリに調べてもらったから、まあ議論するよりも事実を受け止めて、その先を話しましょうか」


 息を吸いこんだコナちゃん先輩は、南先輩とシオリ先輩を見た。


「星蘭は鹿野が言っていた、倒した生徒を警察が迎えに来た……という事実を照らし合わせてみると、危なくなったら介入されて現世に連れ戻される。つまり、私たちはまだ危険でないと判断されている」

「……言ってくれる」


 タツくんの笑顔の迫力がやばい。すっごく怒ってそうだ。


「もう一度言うわ。課題は明白。この都で私たちが強くなることが目的。それがなんのためかはまだわからないから保留するとして……メイ先輩はじめ三年生やシオリにはその必要がないと思うから……どちらかといえば、対象は誰か、場所についてはそこに答えがありそうね。つまり、」

「岡島と、茨かよ」


 苦しげに羽村くんが呻いた。


「そうね。うちの学校の対象はその二人と……キーマンは、私の見立てでは」


 なぜかタツくんと羽村くんを見たコナちゃん先輩は頭を振って、言葉を途中で止めてしまった。


「とにかく、私たちはあの二人を取り戻さなければならない。たとえ試されているとしても、手のひらの上で踊らされているとしても……仲間が暴走しているのなら、止めるのは私たち以外にあり得ない」

「茨木童子に酒呑童子。どっちも破格の鬼二人。殺していいならやれるけど、正気に戻せというのは無理があるよね」

「やめてください」


 物騒なことをさらっと言うメイ先輩にさすがのコナちゃん先輩もツッコミを入れたよね。


「その二人の鬼って有名なんですか?」


 私の問い掛けに口を大きく開いて、それからコナちゃん先輩は首を振った。

 意外にも、あの、と口を開いたのはユリカちゃんだった。


「酒呑童子は鬼の頭領、茨木童子はその家来です。どちらも北西にあります大江山を居城に、京都の若い姫君を攫ったそうです。やがては京から派遣された侍たちのだまし討ちに遭って毒の酒を飲まされ、ついには首を落とされて退治されてしまうのです」

「ふうん……じゃあ倒せるんだ」


 私が何気なく言うと、みんな呆れた顔して私を見るの。


「あのなあ……青澄さ。あいつらの強さを見ただろ。今までクラスでのほほんとしていた二人と段違いだ」

「ふむ……倒すには伝承通りにだまし討ちか?」

「駄目よ、未成年にお酒は呑ませられない」


 ぼやく羽村くんにタツくんが続くけれど、コナちゃん先輩がばっさり。


「正攻法で倒すしかない」

「あのね、コナちゃん。それはさっき見たとおり、無理だよ。どういう理屈かしらないけど、山ほど妖怪が相手についているんだよ? 私が全力を出していいなら一瞬で片付けるけど」

「それは駄目なんですって」


 力が強すぎるのも考え物かもしれない。

 ううん。考え込んだ時だった。コナちゃん先輩がスカートからスマホを出して確認すると、突然両手を掲げたのは。


「……なにしてんの?」


 メイ先輩の容赦ないツッコミ!


「えー、こほん。さっきの安倍を習ってみます。さん、にい、いち」


 こい! とコナちゃん先輩が右手を振るった時でした。

 壁の向こうから人が吐き出されてきたのは。

 その人は――……


「いったたたた。ちょ、重い……シロ、どこさわってんの!」

「す、すまない! 待て、いま僕のお尻を触ったのは誰だ」

「くっそおもてえ……ケツがどれで誰のかなんてわかるかよ!」

「ひゃあ! とかいってノンのお尻を触らないでください!」

「待って……ギンじゃないが、真面目に重すぎるかもしれない」

「まあまあ、コマくん! みんなくっついて楽しいかもしれないよ」


 トモたちだ! 山吹さんもいる!

 後から続いて優雅に歩いてきたのはレオくんであり、金髪の優雅なお嬢さまであり、ラビ先輩とユリア先輩であり――


「すまない、ハル。遅くなった。兄さんからは無理だと諦めて、ラビとユリアと三人がかりで警官から御珠を奪ってきた」


 カナタだった!

 それだけじゃない。

 扉を開けた風早先輩が連れてきたのは、


「なんや、随分賑やかやね」

「うっわ、雷切二本そろい踏み」

「……ふ」


 星蘭の三人組であり、おどおどしながら入ってきた見知らぬぽやっとした男の子だった。


「な、なんか……落ち着かんわ。なんでついてこなきゃいかんかったんかのう?」


 その腰に下げた刀を目にした瞬間、タツくんだけがすっと立ち上がった。

 顔に浮かぶ笑顔の迫力は増すばかり。


「自己紹介しいや」


 ユウジンくんの呼びかけに男の子は自分の身体を抱きながら寒そうに肩を震わせて言う。


「円行寺トラ。一応、刀は……坂本龍馬ですけど。身に余るくらい俺には立派すぎる過分な刀に振り回されて、星蘭の人らに迷惑かけたばっかです」


 そう話した男の子の首根っこを問答無用でタツくんが掴んだ。


「え、え、え、なに? なに?」

「――……並木先輩、悪いが俺は外れる。ユリカ、ついてこい」


 そう言って、タツくんは行っちゃった。

 ついていっちゃうユリカちゃんも……愛してるなあ。

 どうしてだろう。刀の因縁か。タツとトラだからか。わからない。わからないけれど……タツくんにとっては大事なことなのかもしれない。

 だから誰も何も言わなかった。星蘭の三人ですら意味ありげに見送るだけ。

 こほん、とラビ先輩が咳払いをしてコナちゃん先輩が我に返った。


「メイ先輩。北斗の人たちに連絡とれますか?」

「いいよ。攻め込むから手を貸せっていうんでしょ?」

「そうです」


 頷くコナちゃん先輩は既に戦闘モードに入っている。

 でも待って。


「あの、敵の居場所はわかるのでしょーか?」


 私の問い掛けにびしっと人差し指を突きつけるコナちゃん先輩、視線をノンちゃんに向けるの。


「それについては考えがあるわ。佳村、力を貸しなさい!」

「はいです!」

「緋迎くんもお願い」

「構わないが……何をするつもりなんだ?」

「ふふふ……」


 カナタの問い掛けに、コナちゃん先輩は不敵に笑いながら一人の男の子を見つめました。


「きみに決めた!」

「……え? 俺?」


 自分を指差して問い掛ける声をあげたのは、他の誰でもない。

 羽村くんなのです。

 でもいったい、コナちゃん先輩は何をする気なんだろう?




 つづく。

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