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その刀を下ろして、帯刀男子さま!  作者: 月見七春
第十二章 妖刀京都怪奇譚

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第百三十九話

 



 通されたお部屋を見て私はどう挨拶すればいいのかわからなくなりました。

 だって、シュウさんがいる。

 それだけでも驚きなのに、向かい側にはユウジンくんがいる。

 二人とも宿に借りられる着物姿なの。

 畳の広々とした一間に窓枠沿いの小部屋があって、二人はそこに置かれた座布団に腰掛けてお茶を啜っているの。

 やばい。

 ツボにハマるくらいに似合いすぎていて、どうしよう。笑わずにはいられない。


『に、似合いすぎじゃろ!』

『……何がおかしいんだ? 風流ではないか』


 憮然としている十兵衞には申し訳ないんだけど、私とタマちゃんは身悶えしそうです。


「なんや、きみは相変わらずやな。挨拶もせん内から随分なご挨拶やわ」

「あ、う、す、すみません。あんまり似合っていたから、つい」

「褒めるならもっと褒めてや」

「かっこいい! 素敵! さすがです!」

「せやろ?」


 扇子をばっと広げて口元を隠すユウジンくんはその身で雅を体現しているかのようです。

 向かい側のシュウさんは静かに微笑んでいたよ。


「兄さん」

「よく来てくれた」


 微笑むシュウさんに歩み寄るカナタに遅れてお部屋に入ろうとしたんだけど、待って。

 四人でこの部屋に泊まるの? 私もこの部屋なのかな? すごいメンバーだよ? どう過ごせばいいのかもまるでわからないんだけど。


「青澄くん。きみには隣に部屋を用意した。まずは荷物を置いてきなさい」

「あ、はい」


 ですよね。ほっとしたような、残念なような。

 荷物を置いたカナタがそっと私の荷物を持ってくれた。

 なので案内に待っていてくれていた係の人についていって、いそいそと隣のお部屋に移動します。移ってみるとひたすら恐縮。一人で三人と同じ規模のお部屋を独占するの豪勢すぎるなあ。ちょっと寂しいくらいですよ。私も一緒に、なんて考えた瞬間には脳裏にコナちゃん先輩が現われて「このおばか、年頃なのにはしたない!」とお叱りの声が! わ、わかってますよう。ちょっと考えただけですってば。

 カナタと二人でお部屋に戻ると、二人とも畳の部屋に戻ってテーブルに向き合っていた。

 シュウさんの隣にカナタが腰掛けるので、私はユウジンくんの隣に腰掛ける。

 するとユウジンくんがお茶菓子のおまんじゅうとお茶をセットで出してくれたの。地味に嬉しいのでありがたくいただいて――


「さて、今回きみに来てもらったのは他でもない」


 後にしよう。


「な、なんでしょうか」

「安倍くんをはじめとする星蘭、青澄くんやカナタのいる士道誠心、そして北斗と山都に招集をかけたのは……来たるべき時に向けて、その力を強化することが狙いだ。特に――青澄くんと安倍くんには、西と東の中心に立ってもらいたいと考えている」


 な、なんだか大事になってきたぞ。おまんじゅう食べられる空気なんて微塵もないよ!


「来たるべき時ってなんなん? せんせ、いい加減言うてくれんと、そろそろ堪忍袋の緒が切れるで」

「……今はまだ、言えない」

「そうは言うてもね。あんた、それでまた面倒かけられても……うち、困るよ?」

「無論、そのための機会を設ける。それゆえの……今日だ」

「またそれか……なんか言うてよ」


 相変わらず笑顔で楽しそうで、その心の内が見えない。とらえどころのないユウジンくんに視線を向けられて戸惑う。

 おまんじゅう食べたいんだけどなあ。


『いい加減にせんか』

『……ハル、あのう』


 タマちゃんのお叱りはもちろんだけど、そうだった。

 ヒノカの声に気づいて、急いで留め具のボタンを外して鞘を手に、テーブルへと差し出す。


「まず、話す前に……こちらをお返しします」


 すす、とヒノカを……禍津日神を差し出した。

 シュウさんの反応が怖い。まだその時じゃないとか言われたらどうしよう。初手で振られなかったことを意識してしまう私なのですが。


「ありがとう」


 困ったように笑いながら、シュウさんはヒノカを受け取ってくれた。

 鞘から刀身を抜いて掲げる。元々、長身のシュウさんに見合う長い刀身のヒノカはその半分で寸断されていた。それを成し遂げたライオン先生の腕はやっぱり凄い。


「随分と痛々しい見た目やね」

「私の不徳の致すところだ。この姿を忘れないように、目に焼き付けておかなければね」


 じっと見つめるシュウさんだけど、不意に自ら鞘にしまう。


「禍津日神。それは国を揺るがす力なり。されど……青澄くん。きみは彼女を預かっている間に、何をどう感じただろうか」

「え、ええと」


 どうしよう。ヒノカに思うところは山ほどある。最初に目にした時、様子のおかしいシュウさんに持たされた時、そして……シュウさんが道を違えている時と、その後あずかっている時。

 みんな違って……けれど私の中で、ヒノカに対する思いは単純だ。


「人の願いがわかる、いい刀だと思います」


 私の言葉に万感の思いで鞘を見つめるシュウさん。するとユウジンくんが急に立ち上がったの。


「ど、どうしたの?」

「あほらし。要するに、せんせはその言葉が聞きたくて預けたんやろ?」


 あんまり言い方だと思ったのか、カナタがむっとする。


「その言い方は――」

「うっさいわ。耳も目もいい彼女がいて、実の兄さんの思いもわからんようではあかんよ」


 けれど、


「あんまりあほらしいから、大人のせんせには酒でも飲んですっきりしてもらわんと」

「あ……」


 頼んでくるわ、と中座するユウジンくんを見送って、カナタは息を吐く。


「……わからない奴だな、あいつは」

「ただ者じゃないよね」

「兄さんの気持ち、か」


 あ、カナタが落ち込んでる。


「気にするな。距離が近ければ見えないものもある。私はお前に素直になるほど、気楽な性分でもない」


 すぐにシュウさんがフォローしてたし、それは事実だと思うなあ。

 のらりくらりと出て行ったユウジンくんはただ者ではないのはもう、私の中での確定事項だけど。そうじゃなくても……例えばトウヤの友達と私とでは、トウヤの見え方違うし……わかっていることも違うと思うので。


「兄さんは、ハルの言葉が聞きたかったのか?」

「もちろん理由はあった。遠ざける理由は……しかし、恥ずかしながら安倍くんの言葉もまた真実だ」


 とても長いため息だった。


「誰か……いや、彼女に認めて欲しかったんだ。カナタ、お前が惚れた少女の素直な目に、私の刀がどう映るのかをね」


 きっとユウジンくんの言葉は的を射るものだったんだと思う。


「そうか。私の心は、その刀は……誰かの願いを聞き届けるためにあったのだね」


 シュウさんはずっと……飽きずにヒノカを見つめていたんだもの。

 それからのシュウさんは凄く上機嫌で、カナタが止めるくらいにお酒を呑んでいた。けれど乱れないところはさすがというべきか。ただ酔うと雄弁になるのか、カナタが昔どうやってシュウさんに張り合おうとしてきたのかをたくさん話してくれたよ。

 私はほくほくです。一番好きなエピソードはね。


「コバトが私にあまりに懐くから、コバトが好きなテレビアニメの衣装を自作してね。私に挑んできたことがある」

「へえ……それで、どないしたん?」

「返り討ちさ」

「あっはっははは! そらしょうもないわ」


 笑い声をあげるユウジンくん。そして耳まで真っ赤になって「兄さん!」と慌てるカナタの姿は眼福でした。ごちそうさまです。

 夜も更けた折、まだまだいくらでも話せるんだけど「ふう」とひと息ついた頃でした。

 上気した肌が妙に色っぽいシュウさんがふと立ち上がるんです。


「さて、カナタ。安倍くん……そして、青澄くん。ちょいと……涼みに付き合ってもらえるかな。まずは最初の旅の目的を果たそうじゃないか」


 微笑みを浮かべるけれど、赤みがかった顔なのにその双眸には決して鈍らない光りが宿っていた。なぜだか……シュウさんの意志の強さを感じてしまう。今日出会ってから随分経ったのに、いま? なんで? きょとんとしていたのは、私だけだった。


「随分と待たされてくたびれたわ。さっさと行きましょか」

「携帯用の御珠は持ってきている」


 眼鏡に手をかざして御珠へと変えるカナタに、刀を手にして立ち上がるユウジンくん。

 二人ともわかった感じです! あれ!? 私だけ置いてきぼりですか!?


「なんでお前が鳩が豆鉄砲を食ったような顔をしているんだ」


 あ、呆れられている! カナタに呆れられている!


「行くぞ」

「ど、どこへ?」

「決まっているだろう? 玉藻の前の強化に――」


 大典田光世を手に立ち上がるカナタはね。


「ちょっとそこまで。殺生石の吐き出す邪霊を退治して、すっきりしようじゃないか」


 とびきり痺れる言葉を言うんです。

 ずるい。好き!

 あとこの面子で退治とかずるすぎ! 敵なんてないに違いないよ!




 つづく。

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