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その刀を下ろして、帯刀男子さま!  作者: 月見七春
第十一章 青き勝利を掴み取れ、体育祭

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第百二十八話

 



 それは結婚式のあった翌日の朝のこと。

 学校の朝礼でニナ先生の名字が獅子王になった報告があってみんなで大拍手! ……したのはいいんだけども。


「吉報の後ですが、先日、我が校を揺るがした事件の知らせがあったので、これより説明いたします」


 バーコードはげ頭の教頭先生が神経質そうにみんなの顔を見渡して言いました。


「校長先生、お願いいたします」


 ふっくらお腹の人の良さそうな校長先生がいそいそと壇上にあがって口を開いた。


「えー……本来であれば、学院長より……あー……お話するべきかもしれませんが」


 ああ、やばい。これ絶対話が長くなるやつだ。

 早くも後ろの列から欠伸が聞こえる。けれど振り返れない。だって私最前列だし。


『偉いもんがだらだら喋って、情けないと思わんのか』

『まあそういうな、狐よ。慣習というのは時に厄介なもの』

『みんな早く終わらないかなって思ってる。あの人も含め』


 ヒノカは人の願いがわかるみたい。邪を生み出せる、ということは人の欲望を知るアンテナがあるってことなのかな。にしても困ったなあ。

 誰も得してないよね、それ。思っちゃみるけど言えないし。


『そういえば、のう。ハルや。ずいぶん前から疑問があったのじゃが』


 タマちゃん、なあに?


『ここに集まるみなの刀の御霊の声は聞こえんのか?』


 え、なんで?


『カナタの刀であるミツヨの声にしても、そなたが知覚するタイミングはそうそうないように思えてな。妾たちみたいに御霊がおるのなら、それはちとおかしくないかのーと思って』


 あー、確かに。

 言われてみるとクラスにいてもみんなの刀の声を聞いたことないかも。

 なんでかな?


『耳を澄ませていなければ聞こえないのではないか?』


 十兵衞、それはなんで?


『そも、刀は心というのならば。心というのは、そう易々とわかるものでもあるまい』


 ううん……言い得て妙かも。

 となると不思議なのはライオン先生だよ。


『なぜじゃ?』


 タマちゃんは覚えてないかな。

 ライオン先生の刀に斬られるとね? しばらくの間はなんでもしゃべっちゃうんだよ。

 あれは不思議な力だよ。

 それにもっといえばさ。ユリア先輩は刀の声を聞いているみたいだったし、色々と気になることはあるよ?


『よほど刀の力が強いだけではないか? あの娘には、ハルほど刀の声が聞こえているようには見えぬ』


 そうなのかなあ。

 考えてみればみるほど不思議。


『まだ何かあるのかの?』


 んっとね? 前の……交流戦の時。五月の病事件でもそうなんだけどさ。

 メイ先輩たちが刀の姿を必殺技みたいに変えてたの、覚えてる?

 真打ち! って言ってたあれ。


『ああ、あったのう。そういえば』


 あれってなんなんだろう。


『妾の大神狐モードみたいなものじゃないのかの』


 そうなのかな。


『ハル、気をつけて。あそこのバーコードがハルのことを見てる。注意したがってる』


 え。

 そっと見たらなるほど確かに、教頭先生が集中しろーって顔してこっちを睨んでる。

 危ない危ない。そっと背筋を正して壇上を見た。


「警察の方が……ええ、その……」


 汗だくになって一生懸命話しているんだけど、なんだろう。

 学院長先生の強さが百ならきっと校長先生は1くらいなんだろうなあ。

 頑張って話してるからちゃんと聞かないとだね。


「気をつけて、生活するように。ということです。以上」


 結びどうしてそうなった!? くらいの話の飛び方なんだけど、校長先生が言い終えてほっとした顔をしている。すごい安心してる顔を見るとつられてほっとしちゃう感。みんなもよかった、終わった、って感じに息を吐いていた。

 教頭先生が目を光らせながらプログラムを進行させていく中で、生徒会からのお知らせになった。

 ラビ先輩とカナタがユリア先輩とコナちゃん先輩と四人で壇上に上がる。


「さあみんな、生徒会からのお知らせの時間だよ」


 ラビ先輩の煌めきっぷりがおかしい。

 マイクを通して聞く先輩の声ってなんだろう。高いし甘い。あと妙に振り切れてる感。語尾に星を付けたら銀河を股に掛けそうな美少年っぷりです。

 そんな美少年を両手で押しのけて、コナちゃん先輩がマイクを握りました。


「今月は体育祭があります。実行委員からの案内が逐次流れますので、協力して楽しい体育祭にしましょう」


 人を巻き込み燃え上がる劇場モードがあるとはいえ、そうでない時のコナちゃん先輩は良識があって安定感があるなあ。


「なお、生徒会長より……甚だ不本意ですが、部活動をしているみなさんに提案があります」


 あれ? コナちゃん先輩の眉間に皺が。


「今年の部活対抗リレーで一位を取った部活には、部費アップを認めることをここに宣言します」


 と言った瞬間の周囲の熱狂といったらなかった。

 え、え、待って。ついていけない。そう思っているのは、私だけじゃなかった。一年生の多くがきょどっている。けれど二年生と三年生たちの歓声はやまない。

 だからラビ先輩が手を叩いた。それだけでみんなが一斉に静まりかえる。


「もっとも一部の部活には難しい挑戦になるだろう。そこで僕は実行委員長と二人で考えたね。例年、部活対抗リレーは部を代表するアイテムを持って走ることになっていたんだけど、」


 山ほど喋るぞう! というラビ先輩を再びコナちゃん先輩が押しのけた。


「割愛して簡潔に。今回は二人三脚の百メートル走とします」


 歓声と怒声が入り混じるけれど、まあまあ落ち着けよとばかりにコナちゃん先輩が両手を広げた。


「その代わり、そのうち一人は助っ人を取ることを認めます。部外の人間でも構いません」


 一人が早くなってももう一人が遅かったら意味ないじゃないか! とか。

 結局陸上部が強いんじゃないか? とか。

 喧噪がさらに増していく。けれどコナちゃん先輩は表情を崩さない。


「衣服は一律で学校指定の体操服とします。剣道部は胴着を着なくていいし、テニス部も短いスカートで走る必要はありません。けれど! ……これだけじゃ、結局大差がつきそう。ですよね?」


 少しだけ喧噪が和らいだ。


「どうやっても平等にはなり得ません。ですが事前にタイムを計り、そのタイムを持ってハンデを設定して、近づけることを考えています」


 みんなが気づけば黙ってコナちゃん先輩の言葉を聞いていた。


「その事前レースはどの部活も参加必須とします。原則としてそのレースに出た二人で当日のレースを走ってもらいます。当日の怪我や欠席を除きますよ?」


 みんなの静寂に満足そうに頷いて。


「なお、アイテムについては二人で触れている状態で走り続けてもらいます。ちょっと大変だけど頑張ってください」


 にこっとコナちゃん先輩が微笑んで、一歩後ろに下がった。

 すかさずマイクに手を伸ばすラビ先輩だけど、そうはさせぬとカナタが前に出る。


「今年の騎馬戦は女子限定、棒倒しは男子限定とします。三色に分かれて競う今回の体育祭、他の競技も実行委員が頑張っていますのでどうぞお楽しみに。応援合戦の練習など、怪我には気をつけてください。それでは次の報告です」


 そこまで言ってから退く。笑顔なんだけどラビ先輩が少しだけ恨めしそうな顔をした。


「やれやれ。一時間くらいは体育祭の話をしたいんだけど、諦めるとするか。次の話題は……なんだっけ?」

「試験、文化祭の準備、それから部活動の近況報告」

「ああ、そうだったそうだった」


 ふり返るラビ先輩にそっと応えるユリア先輩すき。


「来月には期末試験があるので頑張って。赤点の人は補習が入るからね」


 うう。中間が終わったと思ったらもう期末の話だよ!


「体育祭が終わったら本格的に文化祭の準備を始めていきます。意識しておいて」


 なんだか目まぐるしいなあ、と思いつつ。

 でもそれだけ早くやるなら、士道誠心の文化祭は結構派手なのかも。

 学校案内とかもっともっとよく見ておけばよかった。

 お母さんに呆れられそうだから今更聞けないけどね。


「最後、部活動の近況報告だ。成果のある部活の部長さんは壇上へ」


 ラビ先輩の呼びかけに何人かが壇上に上がって、自分たちの部活が何をしてどんな成果を残したのか、次に繋がるのかを話していく。その中にはメイ先輩がいて、ライオン先生の結婚式のサプライズをしたことを報告してた。

 こういう機会がないと伝わらないこともあるのかな、なんてふと思ったの。普段、関わりのない部活動のことは見えないもんね。

 それにしても……体育祭かあ。


『なんじゃ、憂鬱そうじゃのう』


 十兵衞とタマちゃんに出会ってからの私と比べると嘘みたいだろうけど。

 刀を抜くまでの私は悲しいくらい運動音痴だったので、正直不安なんです。


『大丈夫じゃ。今のおぬしはかなり動けるようになったのじゃから!』

『うむ……そもそも、俺は元よりお主の能力は低くなかったと見ている。ハルには理想が見えていなかったのだろう』


 十兵衞……理想って、どういうこと?


『どう動くべきか、どう動きたいのか。その答えよ』

『『 あー 』』


 タマちゃんとヒノカが揃って納得した声をあげてる。げせない。


『早い話、案ずるより産むが易しだということだ』


 心配するより楽しみにしろってことかなあ。


『うむ』


 十兵衞の満足そうな念にほっとしていたら朝礼が終わっていたよ。

 教室に戻る道すがら、聞こえてくる会話といえば試験やだーとか、体育祭の話題だったの。

 みんなもその話題で盛り上がっていたから、教室に戻って実行委員のカゲくんが黒板の前に立ってその話を始めるのも自然かなあくらいの気持ちでいたんだけど。


「放課後バトンの練習とかあるから、選手になった人は意識しといてくれな」


 そういえばどんな競技があって誰がどれに出るんだっけ。


「一応、競技と誰がどれに出るのか書いてまとめたプリントコピーしてもらったから、今から配るな」


 そう言ってカゲくんから渡されたプリントを一枚もらって後ろに回してから、紙を見て思わず立ち上がりました。


「ど、どうした、ハル」

「え、え、え、」


 ま、まって。まってくだしあ。


「ぜ、全種目に私の名前があるのですが」

「ああ、そうだな」


 五十メートル、百メートル、障害物走からリレーに応援団まで。

 さすがに男子限定の棒倒しは関係ないけども。

 クラス対抗リレーとか、四人五脚とか……これ全部やったら私しんでしまうのでは?


「な、なぜに?」

「いや……出たいかって聞いたら、んーって頷くから」

「嘘でしょ」

「いやいや。ほんとに。何度も確認したぞ?」


 結婚式のサプライズで色々考えたりしてて生返事しすぎてた?

 えー、やらかしすぎだよ私……。


「きょ、挙手はしていなかったのでは?」

「ああ。でも、他に出たいやついないの? って聞いたらお前が、んーっていうから。出る? って聞いたら、んーっていうから。よほど出たいのかと思って」


 うっ。


「い、いまからキャンセルは?」

「無理です」


 笑顔で言われました。ですよねー。

 ううん。諦めるしかないかあ……。

 と、なると。


「ち、ちなみに色分けってどうなってるの?」


 一緒に走る人や仲間次第で負担は変わるのでは? なんて思いついたのですが。


「三色に分かれるぞ。うちのクラスはハルの名字にもある青だ」

「青組……」

「ちなみに一、四、七が白組だ。二、五、八が赤で、三の倍数が青組になっている」


 シロくんの説明になるほど、と納得する私です。

 ふり返ってみるとみんなそれぞれに考えるところがあるのかプリントをじっと見ていた。


「えーっと。応援団のハルと羽村は時間のやりくり大変かもしれないから、悩んだら相談してくれよ」

「う、うん」


 そっか。プリント見たらそれぞれで一緒になるクラスメイトがいた。

 応援団は羽村くんと一緒みたい。ならそんなに不安がらなくても大丈夫かもしれない。


「応援合戦は一年全員参加で、朝昼放課後練習やるぞ。刀持ちは寮が近い分、さぼったらすげえ目立つから気をつけてくれな。何か質問ある奴はいるか?」


 カゲくんの質問にみんなが「特にはー」と答える。

 じゃあ頼むわ、と笑うカゲくんを見ながら、私は考えていました。

 ちゃんとどの競技もがんばれるかなあ。

 同じ青組の人って誰がいるんだろう。

 応援団かあ。どんなことするのかな。考えたらだんだんわくわくしてきた。


『ふふ』


 あれ? タマちゃん、なんで笑うの?


『いや、なに。存外、楽しそうでほっとしておるのじゃ』


 ……あ。


『めいっぱい楽しんでやろうではないか』


 ん!

 青澄春灯、名字と名前の一文字目を足して合わせると青春ですし。

 ここはいっちょう、頑張ってみましょうかね!




 つづく。

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