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その刀を下ろして、帯刀男子さま!  作者: 月見七春
第九十六章 期待外れのメンバーシップ?
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第千二百三話

 



 理華は仕事で不在。師匠も警察に協力中。殊勝なことだ。

 そうなると、やることがない。ないわけじゃないのだけど、義務はないのと同じ。

 退屈は数えない主義だ。意義が見つけられればいいが、屈したようで腹が立つし、腹が立つこと自体が未熟の証拠のように思えてならず、さらに腹が立つ。

 八葉カゲロウがピアノバーの中を眺め、そんな彼の視線の先には青澄春灯と清川未来とテレビスタッフ、それに店舗に集まった客や店員らの姿があり。

 忍びがいる。

 手出しはしない。中を黒宮マオの魔法で覗いてもよい。

 マオなら余裕。そして忍びが気づくことは容易。そこらへんの忍びならいざ知らず、名前を偽装してそこそこの芸人として紛れて生活する、あの頭領にはごまかしが効かない。

 山吹マドカの采配か。はたまた理華の提案か。

 いずれにせよ釘を刺されてしまった。余計な手出しは無用だと。

 現世がダメなら隔離世を眺めればよい。

 巨大駐車場の最上階の縁に腰掛けて覗き見をしてみたが、兄弟子は妙なものを作ったようだ。

 彼の魔力には癖がある。魔法使いというだけでは察知できない。師匠が同じ弟子だからこそわかるもの。

 警察に協力している師匠から伝達は受けた。

 警察や吸血鬼に対して隠しごとをしつつ、おおよその見当をつけて私に知らせてきたのだ。

 兄弟子が作ったもの。

 簡素な五大要素の魔力発射装置。そして対象者の邪となる霊子の増幅器。

 前者は作成にコツが必要で、しかも現世で活用するのなら増幅器や霊子の吸入器など、必要な機器がやまほどあり、それらの機器をバランスよく構成しなければならないため、私は作らない。そもそも魔法使いならば作る必要性がない。だから魔法使いであればあるほどやらない。

 武器密売人にでもなりたいのかもしれない。

 価値があるとも思えない。

 遠距離にいる標的に攻撃するのならば、銃がある。日本においては銃砲刀剣類所持等取締法があり、そもそも所持自体が原則として禁止されている。

 所持には許可が必要であり、隔離世の侍たちは刀の所持にあたり、都道府県公安委員会の許可を受けなければならない。士道誠心在学中においては一定の基準を設けており、学校関係者の監督が行き届く地域、許諾を得た敷地内および隔離世での所持に関しては許可されるが、卒業時や校外への所持に関しては許可証を取得しなければならない。

 ちなみにその許可証に関しても、現世の刀剣の所持に関する許可は得られない。答えは単純で、十八歳未満であるからだ。隔離世の刀に関しては十四歳未満でいると問答無用で所持が禁止される。基本的には、元来の取締法の枠組みに準拠している。

 言わずもがな、現世の刀剣と拳銃などはより厳しい制約の下で管理される。そのため許諾を得ていない所持は見つかり次第、逮捕される要件になる。

 しかし杖を手にして、火だの水だの発射するよりも、よほど確かな手段だ。銃器類を取り扱う業者のフィールドに杖で商売拡大というのは、世界中に展開する超巨大食品チェーンに新製品を開発したと意気込む個人店舗が利益で勝つのと同じくらい、無茶な話である。

 前から思っていたことだけれど、兄弟子はやっぱり馬鹿者なのではないか。

 杖だけなら、そう思っていたところだ。

 よって本命は、邪となる霊子、あるいは魔力の増幅器。

 現世にて大暴れした妖怪たちを思えば、兄弟子の増幅器はつまるところ、人造御珠とでもいったところか。

 御霊となる存在との契約を結び、象徴となるアイテムを授ける御珠。日本に存在する特別なアイテムであり、青澄春灯が宿すもの以外はすべて、侍の資質がある者に刀を授ける。逆に青澄春灯は現状、刀ではなく指輪を与えている。現状で指輪を手に入れたのは、一年九組の面々が主だ。その中にはマオの最愛こと理華がいる。

 契約には一定の条件や基準が存在しており、契約が破棄されるような状態になるとアイテムは朽ちて、やがては失われる。概ね契約は良心によって成立し、悪意や願望が損なわれたときに破棄される傾向が一般的だ。そのあたりはビジネスとの差異を感じるが。

 いずれにせよ、契約する要素のない者は己の霊力を感じとることができない。隔離世に行くこともできない。そしてマオや師匠、兄弟子が扱う魔法は使えないし、青澄春灯や天使キラリ、山吹マドカらのように獣憑きや、鬼を宿した者たちのように角を生やすこともない。ただのホモ・サピエンスでしかないのである。

 霊力を感じとるきっかけが得られない限り、霊子、あるいは魔力は毒となりかねず、実際に兄弟子のアイテムを介して無理矢理霊子を増幅された者たちはすべて妖怪に変えられて、自我を失い、暴走した。人に戻った者たちはみな、現在は心神喪失状態にあるはずだ。

 教団と名乗り世界の治安維持活動に勤しんでいた連中には、その手の手段に対するアプローチがいくつか存在しており、今ごろ警察は協力を要請していることだろう。もっとも、妖怪になった者たちがどうなろうと、マオの知ったことではない。

 人造御珠。あるいは邪増幅器とでも言うべき兄弟子の創造物は、自分に言わせれば出来の悪い代物だ。

 兵士を強化したいのであれば自我の喪失はまずい。不安定な道具を頼る必要性はない。現時点で科学技術が生み出した産物に取って代わるほどのコストパフォーマンスを決して約束しない。それに兵士がどう変わるか法則性がない。ランダム要素を、ときに極めて精密な任務を担わなければならない軍事組織はよしとするまい。

 反面、テロリズムとは相性がよさそうだ。しかし日本で言えば警察の侍隊、アメリカやヨーロッパでいえば教団が対処するだろう。そもそも教団以外にもあらゆる組織が存在している。魔術師が集まる協会もあれば、ワン・ファリンの所属する組織もある。対処が不可能というわけではない。政治的主張のための暴力や恐怖を与える手段としてなら、ありかもしれないが。

 ただ、速攻で足がつきそうな道具だ。

 爆発物よりも安価かつ大量に作れない限りは、どうか。

 兄弟子のみならず、そもそも師匠の知識にある道具だし、御珠ほどの上等な道具にまでは作り込めなかった。いままで流通したことがないわけではないし、その都度制圧されてきた。いたちごっこを繰り返す形ではあるし、注目を集めすぎるからこそ師匠は知識として教えはするものの、作るなと命じたはずだ。

 命じられたことに対する反骨心から作るほどのメリットがない。そんな道具を、いまさら兄弟子は作成した。

 きっと兄弟子ならではの改良がなされているのだろう。

 事実、現世と乖離した邪が隔離世に発生した。

 牛男とでも言おうか。

 なにかしらの原典をモチーフにしたというよりも、出来損ないのでっちあげのような怪異だった。

 現世であの手の化け物が出たなら? アイテムを利用して、人を媒介に出現したのなら、それはアイテムの設計どおりの効果が発揮されただけに過ぎない。

 しかし、どうも様子が異なる。

 かなりの欲望を抱えた人物がいて、その人物の霊子が邪に育つのなら、それは自然の理だ。だが、青澄春灯が清川未来といるあのバーに、それほどの欲望を抱えた人物はいない。強いていうなら清川未来くらいのものだ。しかし彼女の霊子体に変化はない。彼女の霊子から生まれた邪ではない。

 発生源となる人物がいないのに生まれた邪なんて、近年では聞いたことがない。大昔には類似例が見つかるだろう。師匠の寝物語に聞かせてもらったことがある気はするが、ぱっと思い出せない。そして兄弟子が作った機能とも思えない。

 気になることは他にもある。

 隔離世において、バーから発生した霊子をのきなみ邪の力になるものへと変えて、ぐいぐい吸いこんで己の強化に利用していた。

 ぼやけたモヤ越しに見る隔離世のバー店内には、霊子体がぞろぞろと集まっていた。現世で青澄春灯を筆頭に盛りあがっている人間たちの霊子体だ。その証拠に、ぼやけた青い像の霊子体に混じってひとりだけ、金色に煌めく九尾の輪郭を生やした霊子体がいた。言うまでもなく、金色の霊子体こそ青澄春灯その人である。

 彼女からたまに溢れる金色の霊子は周囲に溶けるか、集まる人々の霊子体に当たって霊子を増やして消えていく。師匠曰く、高校進学時点で相当に資質が高く、生徒会長選挙あたりから兆候はあったのだが、今年に入ってからは霊力の成長が著しいとのことだ。正直、マオでも自信がなくなるくらいの光景だ。

 だが、どうか。

 もしかしたら、雄牛が集め、変質させた霊子には彼女の金色すら混じっていたのではないか?

 だからこそ、発生源となる人間の欲望の霊子供給がないにも関わらず、尾張シオリの強固な防壁をいともたやすく破壊できるほどの力を有していたのではないか。

 周囲の霊子を集めて邪を発生させる。それだけの機能を有した、別の道具が存在する。あるいは、偶発的にたまに発生する。

 黒い御珠だ。まるで清川未来のピアスはいまやすでに、黒い御珠のような機能を有していないか?

 御珠が人に、この世ならざる存在と契約を結び、縁を授ける道具だ。

 ならば黒い御珠はどうか。

 そもそも黒いそれは御珠になる前段階か、なり損ねたか、特定の霊力を有した人物の邪が育ちすぎて生じるものだ。

 邪の発生を刺激して隔離世を邪まみれにして、現世の人々の心を乱す災害を象徴するものである。黒い御珠による災害を収めるには、黒い御珠そのものをどうにかしなければならない。

 与えるか、奪うか。どちらも影響を与えるが、黒い御珠は致命的な混乱を招くもの。警察の侍隊がなによりも警戒し、全力で対処することになるほどのもの。カテゴリー最大の自然災害のようなもので、しかし侍隊ならばかろうじて対処が可能なもの。

 拳銃などとは比べものにならないほどの脅威を、兄弟子が作って売りさばく?

 もしそこまでしたら、もはや彼は馬鹿者どころではない。愚者そのものだ。

 さすがにそこまでのプランはあるまい。もっと馬鹿者の範ちゅうで収まることを、政治的立場があり、混乱によって利益を得られる立場の人間を誘惑して売りさばく程度のプランじゃなかろうか。それだってやはり馬鹿者の愚行でしかなく、教団などを相手に兄弟子が逃げ切れるとは思えないが。

 黒い御珠レベルのアイテム。周囲に与える影響は甚大で、そばに青澄春灯のような霊力が高い者がいるほど脅威が増すもの。

 そこまでの道具を兄弟子が作れるとは断じて思えない。そこまでの能力があるのなら、ユニス・スチュワート相手に苦戦して退けられる情けない目には遭うまい。

 兄弟子を上回る誰かしらの関与は? まあ、ない。兄弟子はプライドが異様に高く、肉体関係のある惚れた人物の言うことさえまともに聞かない。猜疑心が強い兄弟子が自分の作品に誰か上位者の関与を認めるはずもない。師匠の関与ですらいやがるから。

 なので、危険なアイテムにした要素があるとしたら、考えられるのはもうひとつだけ。

 より正確に述べるならば、ひとりだけ。


「思いのほか、繊細な状況じゃない? 占うのが怖いくらい」


 モヤを消して深呼吸をした。

 タロットを収納しているポーチを撫でながら、足を組む。

 清川未来。

 彼女が兄弟子の道具を変えた。

 士道誠心に落ちたという。御珠は彼女を選ばなかった。

 いや、こう言い換えてもいいな。

 天国や地獄の存在は、誰も彼女と契約したがらなかった。

 理華の話を聞く限り、彼女に隔離世絡みの知識は一切ない。

 霊子を知覚することも、霊力を意識することもあるまい。

 なのに彼女は兄弟子の道具を変えた。

 変えてしまった。

 その異質さこそが、彼女の内に隠れる脅威ではないか。

 誰も気づいていない。

 兄弟子さえ、彼女と関わったなら飲みこまれるだろう。

 理華を弄り、私の好みに誘導し、曇らせ、輝かせ、傷をつけ、治し、私のための存在にしたい。それなのに、清川未来を弄ると計画が崩れかねない。

 アイテムを引きはがしてなにが起きるかわからない。

 自発的に渡してもらわなければ困る。

 不安定な爆弾のついたベストを着て、なのに爆弾の存在を知らない少女がいる。

 下手に刺激をしたら?

 即、爆発。

 どれほどの影響が出るか、想像もつかない。

 師匠も教団さえも、この手の異変には覚えがあるまい。

 侍たち――……特にうちの学校の生徒たち、なによりも青澄春灯は霊子を二種類に分けてイメージしている。

 霊力から生じる霊子には、欲望と夢のふたつがある。

 欲望は刀をサビさせ、曇らせ、やがては折らせかねない危険なもの。夢は反対に輝かせるのだ。だから夢を軸に霊力を鍛えて、御霊となった契約相手と一緒に己を磨くことこそ王道なのだと。

 魔法使いは違う。

 侍たちが霊子と呼ぶものはすべからく魔力と呼ぶ。

 魔力は魔力でしかない。善と悪などないのだ。力は力でしかなく、それをどのように使うかが肝要である。

 師匠の青澄春灯ウォッチ報告によれば、九尾の彼女もまた性善説と善悪論から、次の段階を模索している最中のようだけれど、だとしたら危険だ。

 清川未来のピアスが洗練されるほど、彼女の霊子は発生源が夢だろうが欲だろうが、清川未来の暴走を手助けすることしかできない。爆発の規模を増す燃料成分にしかならず、彼女の崩壊を手伝うことしかできないのである。

 皮肉な存在。皮肉な利用方法。

 清川未来は青澄春灯になにかを求めている。青澄春灯はそれを察して、手を差し伸べようとしている。なのに、それが救いになるわけではない。

 ことはそう単純にはいかない。

 清川未来を叩こうと、ピアスを奪おうと、爆発するだろう。

 間違いなく。

 尾張シオリは兄弟子の関与と信じて疑っていないが、妹弟子の私はもっと冷静に捉えている。兄弟子による陰謀論で理解を止めちゃあいけない。

 境遇については同情はしよう。

 だがそれで誰かが救われるか?

 頭を撫でて、つらかったねと抱き締めて終わるか?

 笑えもしない。

 それでも彼女たちは手を差し伸べるだろう。

 やらぬ善よりやる偽善。

 完走できぬと諦めるより、一歩でも前に進んでこそなし得ることがある。

 偉業を成すのも小さな一歩から――……いや、これは師匠から聞かされた言葉だった。ゲームかなにかの言葉らしい。もっと身近なのだと、小さなことからコツコツと……これもなんかあれだな。趣旨にはこれ以上なく、どちらも添っているのだが。

 行動が変化をもたらす。時間を置くよりも刺激を与えやすい。それは明確だ。

 きちんと体感で知っているから、失敗さえ経験値にできると知っていて、彼女たちは行動し続けるだろう。

 ただし今度ばかりは、対処をより繊細に行なう必要がありそうだ。

 下手な刺激は起爆のきっかけになりかねない。

 理華に言うべきなのは間違いない。

 恐らく自分よりも過去の類似例や対処法ふくめ事情通のワン・ファリンがいれば、滅多なことも起こるまい。青澄春灯も無理矢理、清川未来から奪うような人間ではない。

 急いでこの場を離れよう。

 理華にどう告げるか考えないと。

 下手な刺激を与えすぎたか、頑なになっているところがある。

 全面的に自分が遊びすぎたせいだが、余計な介入が発生しないうちに解決したい。

 理華と遊びたいのだ。自分は。なのに大事件が発生しかねない危険物があって、兄弟子や、兄弟子を用いてなにかを企てたい連中がいたら? 清川未来は格好の標的だ。爆発させる可能性がうんと増す。気づかれないうちに、対処を済ませたい。

 清川未来を刺激せずに、できるだけ穏便にピアスを調査し、無効化できればいい。

 話はすべて、そこから。

 なのに正直、理華以外に興味がなさすぎて手段が浮かばない。

 奪えば済むような安易な代物でもあるまい。

 だから尾張シオリが八葉カゲロウに与えた指示に間違いはない。

 奪うな。しかし警戒せよ。

 現状で現場にいる人間に、他にできようはずもなし。

 ワン・ファリンがどうにもできなければ、お手上げだ。

 人材が必要だ。

 ただ強いだけではむしろ、爆発の規模を大きくしかねない。

 だから吸血鬼たちに頼るのも、緋迎シュウや青澄冬音のような人物に頼るだけでも、どうにもなるまい。

 いままで窮地を飛び越えて事態を解決してきた士道誠心、なにより青澄春灯でも、今回は厳しすぎる。

 御珠を宿している青澄春灯だからこそ、清川未来の欲望のピアスを強く刺激しすぎてしまうのだから、これほど皮肉なカップリングもあるまい。

 さて、どうする?

 マオは正直、お手上げだ。

 理華はなにかを思いつくだろうか?

 だとしたら、その瞬間を誰よりもすぐそばで見つめたい。

 そのためにも、彼女にどう話すか考えよう。

 あとは、そうだな。

 厄介なものを放流した兄弟子へのお仕置きを考えておくべきだな。

 師匠は兄弟子の手のひらでちょろめに転がされているから、頼りにならない。

 頼る依頼心が強まるほど、思いどおりにならないときに怒りを生む。

 それは幼さだと個人的には思うところだが、師匠や兄弟子相手だと自分もガキに戻される。

 苛々させられてばかりだ。

 ああ、もう、ほんと。

 理華に触れなきゃ、私という魔法使いの気持ちは収まりがつかない。

 これじゃあ魔法を使うどころじゃないのである――……。




 つづく!

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