第千百九十一話
極楽気分を地獄で味わっている。
緋迎カナタ、ただいま絶頂期! もうね。間違いない。
これまでの人生を踏まえると、いまが常に最高。逆に言うと、過去はあまり思いだしたくないレベルだ。出会いがすべてと歌う歌に「はいはい」と笑っていた過去の俺をぶん殴りたいくらい、春灯がやまほどのきっかけをくれる。
逆に言えば? きっかけをお返しできないようじゃあ、足りないのである。
もらってばかりじゃな。だからって、もらえないのも、それはそれでな?
そうは言ってもだ。
これだけしたんだから、これくらいしてよっていう欲は大概、片思いで終わる。そういうものだ。そういうものだから、そこでケチるようだと与えることを自然にできる人が相手だと余計に自分に刺さる。たとえば、春灯にお返しできないようだと、春灯に与えられる人が出てきたら、俺はあっさりと捨てられてしまうのではないか、といったような不安が生まれるのだ。
俺個人の思いで、きつい言い方をするなら俺の独りよがりな感情なんだけど、ここで身勝手が過ぎると「なんで俺がこんなに悩んでるのに!」って前置きつきの不満を俺に抱き、その解消を春灯に頼りたがったりする。こうなると、もうまさに地獄。揉めるばかり。それこそ三行半をつきつけられるまで秒読み段階に入るのである。
それくらいは学んだ。なんで学んだかって、機会があるからだ。
機会というのはたとえば、そう。
「ああああああああああああ!」
「いやいやいやいやいやいやいや!」
「もう無理! 無理だからああああ!」
足つぼに効くマット製の坂道の上下に妖狐、それも美女が並び手招きをする。
ただの手招きだが、しかし妖狐の力が加わっているせいなのか、ぼろきれ一枚だけの男たちが涙を流しながら坂道を上下に移動している。痛いのだろう。足つぼが刺激されて。不摂生してそうな連中だらけだし。
男たちの歩みが鈍ると、着物姿の妖狐たちが裾を捲って膝下を露出してみせたり、胸元をくつろがせてみせたりする。それだけで男たちの歩みが復活する。強制的にだ。
「いやあ。色欲ってのは、怖いですねえ? カナタさん」
「……寝ている最中に、魂を引き抜いて地獄で修行する時間だろ? なぜにこの光景を?」
「だってカナタさん、最近発情期なのかなあ。今夜、生中したんでしょ」
「――……な、んの、ことかなあ」
「バレますよー? 私、鬼の中でも一二を争う偉さですから。白状したら懺悔に変えてあげますけど?」
「……私がやりました」
「それ、彼女に謝らなきゃ意味ないですよ」
お前なあ! 言うとおりだよっ!
「知ってますぅ? 洗い流す道具で、爆睡中のあなたをよそに、彼女はシャワー室でキレイキレイしてるんですよ? 男は出せば済むと思ってる人が多いそうですがねえ? どれほど大変か、ご存じです?」
「……すみませんって明日の朝すぐに謝ります」
「でも隙あらばやりたいんですよね?」
「シガラキぃ! なにをいわせたいのかなあ!?」
「私も若い頃はそうでしたけどね。如何せん、妖怪の綺麗どころも天国の綺麗どころも大層魅力的なので」
お前ね。
「まー、これが気持ちいい。実に気持ちいい。受け入れてくれる感覚というんでしょうか。迎えいれてくれているときの、肯定されているような感覚がね。最高なんですよねえ?」
「――……否定はできません」
「でしょうねえ」
涼しい顔で坂道をひいこら上り下りする男たちを眺める鬼は、俺にいったいなにを白状させたいのか。
「嘘偽りがないと探りたくて相手の霊力に己の糸を繋ぐ――……臆病者が選ぶ手段は時に姑息で卑怯ですよねえ」
いきなり超弩級の指摘を食らって呻くことさえできなかった。
「そうでもしないと信じられないというのは、誰にとっての悲劇なのでしょうか。いまのカナタさんは素直に彼女の言葉を信じられる。けれど、出会った頃はいかがでしたか?」
返事のしようもないまま、シガラキの視線の先を見る。
俺たちいま、すんごく真面目な話をしている。
なんなら、俺の罪の話でもある。
鬼は裁く。
特に彼は。
いつかはバレる。あるいは、いつかは指摘されるかもしれない。けれど言われずに済むのなら、ことさら語らずに済ませたいこと。
あるよ。俺には。やまほどある。
生きていればひとつやふたつ、あるのかもしれない。そうならずに済むのなら、それに越したことはない。だが、視線の先にいる罪人たちはどうか。彼らを誘うことを仕事として、誘惑する妖狐たちは。もっといえば、シガラキは。
俺より長命なのだ。あってもおかしくはない。
踏みこんで言えば地獄で裁かれるに至る人々を、こうして眺められるのだ。
死して必ず裁定される。
ならば隠しても無駄。
身に染みている鬼の言葉と思って聞いて然るべきではないのか。
「ま、年を重ねるかどうかじゃあなくてね。経験を重ねるかどうかの差ですがね」
「俺の考えを読まないでもらえます?」
「ダダ漏れですし、探るまでもないです。年の功ですね。それにあなたは――……許されている。もっとも、今後もあなたが怠惰に彼女を抱くのなら、あそこで足つぼの餌食になるでしょうね」
「健康になるだけなのでは?」
「二千年くらいやりましょうか」
「――……剣山の樹木の上り下りより楽そうだなんて思ってすみません」
あまりにも長い期間すぎて退屈さに殺されそうです。
「多いですよ? 好き同士でも。己の、あるいは相手の感情はいったいどう推し量るのか。いったいなにが正しいのか。相手の言葉は本心か。わからずに揉めて、地獄送りになるような罪を犯したり、惨い仕打ちをされたりっていうのはね」
「それで全員、足つぼの刑になるのか?」
「いいええ。剣山もありますよ? 刑罰のバリエーション研究の一環でやってるだけです」
「そ、そうですか」
やだなあ。地獄のバリエーション研究。
「正しいかどうかなんていうのはね、試験でマルバツつけるんじゃあるまいし。ないですね。言葉も感情もいっときのもの。なら、それをどう伝えるか、どう受けとめるかもお互いの気持ち次第だし、やはりいっときのもの――……」
坂道を滑り落ちた男が減速しようと手を伸ばすも、的確にツボを攻められて喘いでいる。
あああああ、と叫びながら悶絶する男たちの坂道運動は、さながらバラエティ番組の罰ゲームのよう。テレビなら放送にもつ映像であればよく、尺も稼げればそれで終わる。けれどここは地獄なので、果てがない。延々とお姉さんたちによってツボを刺激され続ける男たちの阿鼻叫喚。
間抜けには違いなく、だからこそ妙に恐ろしく。なによりここでのMVPは男たちを上に下にと動かす妖狐のお姉さまがたなのではないか。俺にはそう思えてならないのだが。
「記憶を足かせとするかどうかもその人次第ですが。すべての可能性が自分にとって加虐的に思えてしまう、というのは苦しい。環境が人の心をそこまで追いつめるのならば――……その人が起こした罪とは、いったいなんと表現します?」
いきなり振られて困る。
「罰を与える場所だろ? 地獄は。なら……追いつめられてもするべきでなかったことをした罪になるんじゃないか?」
「他に手段を知らず、あるいはあるかもしれないと発想できず、連想する手間にも至らず、今夜は大ハッスルだったカナタさんの答えは生中で、それは罪だということですか」
「ひどいなあ!?」
俺も、お前の言いようも! けっこうなもんじゃないかなあ!?
い、言い分はあるぞ!? 俺にだって一応は!
春灯はお薬飲んでるし、ふたりでシャワーでひと息ついてのキレイキレイはちゃんとしたし! 体調的にも問題なかったわけだし?
――……ああでも、俺の言い分でしかないんだよなあ。
シガラキに言われてもふたりの問題だしって突っぱねられるし、余計なお世話で一刀両断もできるけど、でも、そういうことじゃあない。
「……お前から見て、やばそう?」
「そりゃあ、ねえ? カナタさんが精気を吸い取られて地獄に来たので」
あああああ……。
シガラキの指摘に今夜のことを反芻して、瞼を手で覆う。
思い当たる節があった。
いや、よかったんだよ。本当に。今夜は。いつにも増して最高だったんだけど。
それで俺だけハッスルしすぎた、と?
たとえば、回数的に新記録樹立を狙いそうな気配を察せられた、みたいな?
「あまり赤裸々な思考は控えていただけると助かるんですがね?」
すみません!
「彼女、あまりあなたに対する不満や愚痴をぶつけないですよね? 今夜解禁してハッスルするっていうのは、カナタさんの欲する気持ちはわかりますけども。彼女の気持ちからは離れますよね。なので、老婆心です」
「――……おお」
あ、あれ!?
具体的な指摘に青ざめる。
思ったよりやばい感じじゃないかな!?
手順は踏んだと思うんだけど!
たしかにシガラキの言うとおり、ずうっと警戒して、きちんとしてきたからこそ、春灯は不安だったのでは? いや、むしろ現在進行形で不安なのでは!?
「フォローとか、いろいろ考えられることをありったけ試してみては」
「……そうします」
なにかすればそれでおっけー! じゃあなくて。
今後のためにも、できること、思いつくことはなんでもしろと。
それを探ろうとすることを放棄することが、罪なのだろうか。
俺の場合は、たしかに配慮が欠けた。そりゃあもう、大失態だ。でも大失態よりなにより、春灯を不安にさせてしまっている。それが問題だ。問題なのだが。
いやでも、俺の問題と切り離して考えると、それって難しくないか?
可能性を探る努力を放棄する。
世の中あんがい、そういう感じで済ませちゃうことたくさんないか?
なにせ人生、やることがたくさんある。
すべてについて、精密に分析しながら行動するほどの余力が、多くの人々にあるのだろうか。
たとえば生活に困窮していたり、心身に問題を抱えていたら? 社会的情勢が不穏な土地だったなら? それどころじゃないんじゃないか?
それどころじゃないからこそ考えるべきだ。行動するべきだ。そりゃあ正論には違いない。違いないが、生きるので精いっぱいになっちゃいがちじゃないか。だから、働けど働けど猶わが生活楽にならざりぢっと手を見る、なんて歌を歌人が残したのではないか。ちなみに石川啄木の歌だが。
貧しいのはお前が悪いからだ。それは罪だ! なんて、そんな無茶な話がまかり通るなら? それはもう戦争で死ぬのはお前が悪いからだ! みたいな極論と大差がない。
それに対して罰を与えていたら、きりがないんじゃないか?
たとえば金銭的な話で言うなら、ビリオネアが資産の一部を用いて一千万ドルを稼ぐのと、路上生活者が一千万ドルを稼ぐのとではかかる労力に天と地ほどの差がある。だからこそ、貧富の格差が拡大している現状自体、世界的に問題視されているという構造だ。
そこに地獄が介入して罪だの罰だの言いだしたら、もうきりがない。それこそ貧富という題材で宗教戦争に発展しかねない。もう、とっくの昔になっているのかもしれない。
やっぱりきりがないよなあ……。
「きりはないですが、概ね罪っていうのは、もうそれしかないっていう緊張の段階で犯すか、或いは自然だ、面倒だ、手間が省けるからと気を緩めて起こすものではないんですかねえ」
「ねえって言われても……なあ?」
「なあって言われても、ねえ? って堂々巡りをしてもしょうがありませんがね」
膝に手を突いて立ち上がると、シガラキは扇子で肩を叩いた。
「全体の底上げしかないんですよね。自分に留まらず、自分に利のあるコミュニティに留まらず。全体の底上げを図ることでしか、罪を遠ざける術はないのだと思いますよ」
「なら……罰ってなんのためにあるんだよ。繰り返さないためか? 冬音が現世に勉強に出されたのは、地獄でパワハラを繰り返さないようにするための修行をするのが罰になるからか?」
無言のまま、シガラキが歩きだすから後ろをついていく。
最後のは踏みこみすぎたかもしれない。
蝶よ花よと育てられた冬音が、プレッシャーを自分に、そして周囲の者たちすべてに振りかざしていた。周囲の者たちへと振りかざした圧はすべて、自分の背に乗る。
地獄は言うまでもなく大所帯だ。閻魔率いる組織自体もそう。当然、冬音がひとりで背負えるほど生半可なものじゃない。もともと、ひとりで背負える類いのものじゃないのだから。
敢えてツッコミをいれるなら、そのプレッシャーは誰のためになるのかってところか。実際、あいつを孤独にした。そりゃあひとりで努力もしたろうけど、もっと巧みに関われる存在の大勢が冬音に絡んでこそのいまなのだと思う。
地獄の閻魔のお姫さまでさえ、ひとりでは育たない。
関わりは、そりゃあ面倒なことも多いし、うまくやれないことも多い。シガラキの言葉を借りるのなら、正解はないのだろう。けれど、なんのためにするのかを考えること自体はとても大事で、どこまで苦心しながら生き抜けるかが、結局は自分と、自分の身の回りの人くらいはマシになる生き方のひとつなんじゃないのか――……ということなんだろうな。
鬼の説教だ。今夜は。語りで終わるのだろうか。ううん。今夜はなにを言われても刺さるぞ? その自信がある!
俺はころっと欲にやられた。
どこかにあるんだよなあ……。
女性には断固として言えない本音だが、なんの隔たりもなく繋がりたいのだ。
そりゃあ単純に粘膜同士の接触が快感として気持ちいいからというのもある。あるが、それよりなにより、もうまるごと裸でふれあえることがありがたくて、奇跡みたいに思えて。
知りたいという欲もある。
けどそれ以上に、春灯と直に繋がれたら。それは春灯をさらに知ることができるし、春灯の熱をもっと体感できて、幸せなんじゃないかなって思うこと。
もちろんそれは俺の欲だ。男の欲でもあるんだろう。でもダイレクトに反応がわかるほうが、春灯をもっと強く感じられるし。やっぱり、それって最高なのだと思わずにはいられない。
そこいくと、邪魔されているような気がしてしまうのだ。
お前にはその権利はないのだと避妊具に、そして避妊具越しに春灯に言われているような気がする。すべてを取り払って触れあうほどの愛情はない! みたいな感じにさ。
違うんだよ? もちろん。
わかってる。わかってるんだけど。わかってるから、ずうっと気をつけてきたんだけど。
結局、欲していたんだ。
ここから先が大事。まさにそう。だからシガラキにお説教を食らう前に気づければよかった。
春灯のほうが俺の何倍、いや何十倍、いやいや何百倍もセンシティブに感じとってるはずだって。
話しあうべきだ。べきだったし。実際話しあって、OKだからした。でも、なあ。でも、だ。それで終わりってことにはならないのだ。
ならないけど、俺はもう「あああああああああああ!」と。やったという喜びにすっかりハイになって、それこそ今夜はオールナイトだぜ! みたいなノリになった。もちろん春灯は気づいた。よりにもよって、ある意味お初な夜に、いきなり!? という気持ちがあったとしても不思議はない。
そりゃあ精気も吸い取られるよなあ。
至らないけど。そこで終わりにするつもりなんて一切ないから、シガラキの言うとおり実際にちゃんと考えるよ。模索し続けるよ。
そこまで考えても、シガラキは無言で歩き続ける。
いつもなら俺をおちょくるか、怒ったときなら鉄の棍棒を出してぶん殴るくらい余裕でやるヤツなのに。無言が一番きつい罰だった。失言だったのだろう。冬音の件は。
「……ごめん。冬音のこと、言い過ぎて」
「黙るとね。罪悪感があればあるほど、人はよくしゃべる生き物です。覚えておくと得ですよ?」
「――……はい」
お前ねえ! と一瞬ツッコミかけたけど、堪えた。
実際、言い過ぎだった。ふり返るとそう思う。
シガラキたちがなにも思わずに冬音と付きあっていたかって、そんなわけはないのだから。
俺より考えているし、多くを感じているはずだ。
実際、シガラキは息抜きをさせるために冬音をからかったり、遊びに誘ったりとガス抜きさせるべく熱心に誘導していたのだから。
「尖った部分を叩くのが罰ではありません。凹んだ部分をさらに凹ませるのが罰でもありません。弱さを挫くのが罰でもなし、強きを折るのが罰でもなし」
罪と罰。語るには難しい。ひとことで済むような内容でもない。
決まり切った罪の基準を適用したら、人は遵守しきれずに退化していくのだろう。
完璧な人間も社会も存在し得ないのだから。
「抑制のための枷が罰なら、人はいつまで家畜のまま生きるのでしょうね?」
毒気と諦観、憤怒と哀切。
シガラキの口から初めて、人に対する感情を生で浴びせられた。
「動物なのです。同時に文明を築いて底上げをしていらっしゃるのでしょう? ならば地獄に頼らず、現世の罪と罰に頼らずに、そんなものから解放されてくだされば助かるのですが」
如何せん、とシガラキが扇子で示す先に、刑罰を受けに行く罪人の行列が見えた。
「減ってくれたら仕事が楽になって助かるんですよ。大勢の救済を求めるなら、まずは身近なひとりから。大勢が強くなりたいのなら、まずは弱い人たちから。救う力が、現世には不足しすぎていやしませんか?」
そのお勉強にいきますよ、と。
鬼の引率を受けることになるから、いやな予感はした。
実際、シガラキはこれでもかと死んだ年がわりと直近の、シモの事情が情けなかったり、パートナーへの配慮のなさが罪に繋がるような罪人が集まる場所を巡る。
ついでに刑罰を終えて地獄に残った幽霊だの、逆に罪に誘っちゃうほどの妖怪たちだの会わせてもくれた。
とどめは玉藻印のいつもの居酒屋だ。
雪女のゆきさんと女郎蜘蛛のミクモさんにさんざん弄られたね。春灯とのことを。ダメ出しもされた。女性のダメ出しは本当に心を抉るので、反芻を避ける意味で割愛するけども。ちょっとだけ、涙が出ました。いまごろ現世の俺は枕を濡らしているかもしれません。
ようやくお許しが出た頃、ゆきさんがくれた冷たい神水をちびちび飲みながら思うのだ。
愉快な一面を見せてはくれるが、しかし刑罰が行なわれる場所もある。
送られてきた人々の面倒を見る、というと簡単だが、実際には管理しなければならないことがやまほどあって、とんでもなく忙しいのだろう。人出も足りてなさそうだ。
シガラキが今日はじめて俺に見せた本心の欠片は、切実なもの。
果てのない業務に疲れ果てていてなお修行の面倒を見てくれる程度には、俺に期待してくれているのかもしれない。
でも、それだけじゃない。
冬音に対して、気づいてほしい思いが言葉のずっと奥の方に眠っていそうな気がした。
悪いことをしたら叱る。叩く。それが罰か。本当にそれだけの浅はかな考えでよいのか。なら、悪いことを決める立場にとっては罰を与え放題ではないか。
時の権力者たちがどれほど惨い罰を弱者に与えてきたか、ようく学び考えるべきだ。その程度のことで済むのが閻魔に求める資質なのか? 違う。ぜったいに。
冬音を宿した。それには絶対に意味がある。
春灯が天国で修行を積むのなら、俺が地獄で修行を積むことにだって、もちろん意味がある。
俺にとって罪と罰がなんなのか、自分なりの意志と選択が見えたら?
きっと冬音にだって届く。
シガラキはそこになにより期待しているのかもしれない。
神水が染みた。春灯の吸い取った精気のぶんだけ。
俺の不足の味だ。
不足は叩くものか?
シガラキの問いかけに思いを馳せる。
ふわっと生きていたら、きっと逃す。シガラキに指摘されなかったら、春灯の精気を吸った意味さえ気づかなかったように。
気づけるようになりたいな。
気づいたとき、なにを選べるか。まず考えることさえ選べないようじゃ、やはり逃がしてしまう。
それはいやだ。
多くのものを掴めずに、苦しんできた。
春灯と会う前の俺はずっとそうだった。
あの日、春灯の手を取れたからだ。
春灯が差し伸べてくれた手だって取った。
いつだって、繋がって始まるんだ。
どのように手を伸ばし、なにを求めているのかを探る。
一見するとかけ離れているようだけど、案外罪と罰を考えるために大事なアプローチになるかもしれない。
つづく!




