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その刀を下ろして、帯刀男子さま!  作者: 月見七春
第二章 二振りの運命と願い

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第十一話

 



 食堂で食券を買って朝ご飯を受け取る。

 寝ぼけ眼でもそもそとコーンフレークを食べていたら、向かい側にトモが座ったの。


「おはよー、ハル」


 背筋がぴんと伸びているし、髪にも一切の乱れなし。

 制服も皺一つなく、完璧な着こなしでした。

 対する私はパジャマ兼部屋着でぼさぼさ頭。


「おはよ……」

「覇気がないぞー」

「寝る前に変なものを見まして」

「変なもの?」


 きょとんとしながらもトーストにバターと苺ジャムを塗る手を止めないトモは、朝からしっかりしているなあ。私のコーンフレークはもうほとんどドロドロです。


「寝ていたらね……天井がパカー、珠がだるーんって。ぴかぴかって」

「ハル。日本語で話して」


 呆れた顔をされちゃいました。

 そりゃそうだよね。いかんいかん。いかんぞ私。

 めちゃめちゃ冷たい牛乳を飲んですっきりしてから、改めて説明にトライ。


「だから、昨夜寝てたらベッドの上の天井が割れて、珠が出てきたの。ぴかぴか光って、だけどすぐに天井の中に戻って。割れたとこも元通りになっちゃった」

「……ふうん」


 面白そう、と目を見開いて笑顔で私を見つめるトモに聞く。「何か知らない?」

 するとトモはトーストをひとかじりして、それから首を捻った。ごくん、と喉を鳴らしてから口を開く。


「いついかなる時も御珠さまが見守っている。ハルの部屋の異変も、そういうことなんじゃない?」

「実は監視されていて、映像が男の人の楽しみに使われているとかないですか」

「ないない。もしそうだとしたら――」


 両目を細めて、沢城くんあたりに似合いそうな凄絶な笑みを浮かべて呟く。「女の敵はあたしが斬るよ」

 それが妙に似合っていて、危うさの中にも迫力と強さが見え隠れしていた。

 その強さが一体なんなのか、昨日出会ったばかりの私にはわからないのが歯がゆい。


「そんなことより、ほらちゃんと食べな。朝食べないと頭動かないよ」


 なのにかいがいしくお世話される私って。う、ううん……ちゃんとしよう。

 でもつい甘えたくなるくらいしっかりしているところが、トモの魅力の一つなのかも。


 ◆


 朝のお手入れ、部屋で着替えて、髪を整えて――リップを塗って。

 全身鏡を眺める。

 肩口までのボブカットは高校デビューを目指したもの。

 大きく垂れた目をはじめ、童顔なのは地味にコンプレックス。

 こじらせていた私はもっと凜々しく気高く強い、たとえばそう……トモみたいな。

 方向性としてはああいう感じになりたかったんだけど、でも無い物ねだりですね。

 背は普通より低め。百五十ギリいかないくらいです。

 筋肉もなく、肉付きもあまりよくないの。

 胸ももう少しあってもいい気はするし……って横道に逸れすぎだ。


「制服におかしいところは――ないよね」


 リボンタイの結びもそれなり。

 膝丈のスカートに皺はないし、ジャケットもちゃんと着れてる。

 なのにどこか冴えないというか、頼りない感じがあるのはなんで?

 中身のせい? 中身のせいなの?


「おーいハル、学校いこ」


 扉の向こうから聞こえた声にあわてて「はーい」と答えて、カバンを手に出た。

 待ってくれたトモが出てきた私を見るなり、腕を組む。「ふむ……」


「へ、変かな? やっぱり冴えない感じです……かね?」

「変わりたい?」

「も、もちろん!」

「ちょっと待ってね。失礼」


 長いスカートを折られる。ふ、太ももが! お見苦しいものがお目見えしてますけど!


「と、トモさん?」

「いいから。ジャケットは大きすぎだね、今日はやめよう」


 だぼついたジャケットは脱がされてしまった。


「羽織れるもの、なにかある?」

「マントがある!」


 ぶは、と吹き出されました。


「あはは。さすがにそれは目立ちすぎるよ、そしたら」


 ついてきて、と言ってトモに部屋に連れて行かれた。


「うちの兄貴どもに押しつけられて、持ってきたのが――あった」


 箪笥をごそごそしていたトモに押しつけられたのは黒のストッキングだった。


「さあ、履いた履いた」


 えええ、と思いつつも言われるまま、伝線しないように気をつけつつ装着。中学時代に全身黒が好きで黒タイツを履いていたのでこれは大丈夫。


「次はこれを――こう」


 半袖の長めなグレイのフードパーカーを着せてもらっちゃう。逆立ちしても買いそうにない服で戸惑いつつも、トモが袖を折ってくれたりするので大人しくされるがまま。


「もしハルが刀を手にして……凜々しくなったらベストでもありかと思うけど、今のハルはどっちかっていうと話しかけやすくて面白かわいい感じなので」


 リボンタイをほどかれて、第二ボタンまで開けられてしまう。


「み、見せすぎじゃないですか」

「なにいってんの。ほら、ほらほら」


 背中を押されてトモの部屋の洗面所へ。

 鏡に映る自分を見てびっくりだ。

 お母さんが大きめを用意してくれたジャケットには申し訳ないけど、活動的で元気なイメージが出てる。この私に! なんてこと! すごい!


「んーどうせだから」


 懐から赤縁フレームのメガネを出すなり、トモが私にかける。


「賢く見せるアピールのためだけの伊達なんだけど、ハルの方が似合うね」

「え――」

「うん、可愛い可愛い!」


 大満足! と言わんばかりに微笑むトモに「こ、これどうしたらいいの? 返す?」と慌てながら聞く私、こういうことに慣れてなさすぎです。


「どれもあげる。ストッキングは安いし、他は着る予定もないから」

「で、でも。さすがに申し訳が」

「どうしてもっていうなら今度、服を買いに行くのに付き合ってくれたらいい」

「トモ……」


 ぐす、と鼻が鳴る。

 こういうのずっと憧れていたので、体験するまでは「押しつけとかマジ勘弁wwww」みたいな感じになるかと思いきや、鏡の私はずっとずっと高校生っぽく、昨日よりも垢抜けているので!

 全部問題なしだ! ありがとうございます! ありがとうございますしかない、ありがとうございます……!


「絶対付き合う!」


 がばっと抱きついたら、背中をとんとんとタップされました。


「ほらほら。遅刻するから急ごう?」

「うんっ」


 二人で寮を飛び出して、学校へ向かう。

 一年の教室がある四階にのぼってトモと別れ、自分の教室へ。

 みんなの反応は正直けっこうドキドキだったんだけど……


「おは、よ、う」


 シロくんが私を見るなり顔を赤らめたし。


「おー! なんだよ! 青澄(あおすみ)さん、いい感じじゃん! 二日目にしていきなりのイメチェンとかやるな! ぶれぶれだけど、そこがいいぜ!」


 親指を立てながらカゲくんが余計な一言とセットで褒めてくれた。うんうん、さすが残念野郎。それでも私は嬉しいぞ!

 他の男の子たちも概ね、私を見て頷いてくれている。

 いいじゃないか。いいじゃないか!

 トモすごい! トモさすが! 私だけではこうはなれなかったよ!

 ……人生の、高校デビューの勉強不足を露呈している。

 ま、まあここから学んでいきますよ!

 そのためにも、具体的にどこがいいか言ってくれそうなカゲくん……はよして、椅子に座ってこそっとシロくんに尋ねてみる。


「ねえシロくん、今の私いい感じ?」

「……ま、まあ、いいんじゃないか?」


 横を向いて言われても困るんですけども。


「どこがいいかな?」


 負けないぞ! 引きつり気味だけどなんとか笑顔で聞いてみた。


「メガネが……似合っている」


 そこかよ。


「はいはいはい! 俺はね、足が生える黒のストッキングがいいね! 青澄さん足細いからすげえ似合ってるし! あとブラウスに隙が出来たし、昨日より短くなったスカートは当然いいだろ? そのスカートの半分以上を隠すパーカーが似合いすぎ! 実にエロ――」

「お、おい! やめないか!」


 何か言おうとしたカゲくんの口をシロくんがあわてて塞いだ。

 ……なんだろう? まあいいや。


「ありがと」

「……お、おう」

「あ、ああ」


 ううん。わからないなあ。

 お礼を言ったら二人はどもっていた。なんで? 昨日はそんな反応じゃなかったよね。

 カゲくんはさておいて、シロくんが私のことをまともに見ようとしない。

 けどホームルームが始まって、ライオン先生の話を聞いていた時のことだ。


「本日は教科書の配布後、座学が始まるわけだが――結城シロ。青澄ばかりちらちら横目で見て、なんだ」

「え、あ!? べ、別に僕はそんな!」

「……まったく」


 眉間に皺を寄せるライオン先生と笑い合う男の子達。

 ……シロくんが私を見てる? なんで?

 ちらちら横目で見るくらい、気になっちゃうの? そんなに変わっちゃったかな。ううん。

 制服の着こなし一つでここまで反応が変わるのか。

 トモほんとすごい。しゅごい……。

 もしシロくんが本当にいいって思っているのなら、悪い気分どころか、すこぶる機嫌がよくなるのでいいんだけどね!

 シロくんは言い慣れてなさそうな真面目な人だと思うから、そんなシロくんからカゲくんみたいに褒めてもらえたら素敵だよね!

 いっそ常に褒めるといい!

 それは調子に乗りすぎか。でも本音です。

 そのためには、トモに頼ってばかりじゃなくてさ。

 シロくんが言わずにはいられなくなるくらい素敵女子にならなきゃだめなのかも。

 そんなことを考える私はもうすっかり、トモが教えてくれた御珠のことが頭からすっかり吹き飛んでしまっていた。




 つづく。

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