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その刀を下ろして、帯刀男子さま!  作者: 月見七春
第九章 戻ってきた日常

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第百五話

 




 禍津日神。まがつひのかみ。

 本当に私がそういう存在なのかどうかはしらない。

 そうなのかもしれないし、そうじゃないのかもしれない。

 御霊の中で漂って目覚めた意識は、吸い寄せられるように引き抜かれた。


「私が救うべきもののあり方を教えてくれ」


 そんな願いを口にした男の人。

 緋迎シュウによって。昔から彼の刀として寄り添い、シュウヤ周囲の願いをシュウに伝えてた。

 でもそれがシュウにとってはつらいものだったみたい。

 邪と名付けた願望ばかりを私はすくい上げてしまうようです。

 私はただ……みんなの願いが聞こえるから、それを伝えたり形にするだけ。

 たとえばの話、それは夢を見ている人にも使える力。


「ふふ……ふぇへ……えへへへへ」


 緩んだ笑い声をあげて眠る青澄春灯の場合はね。


「だめだよう……そんなに唐揚げもってこられてもたべきれないよう……」


 とか言ってるけど。そっと夢を切り替える。


「んぅ……」


 鼻を鳴らして寝返りを打って、隣で眠っているシュウの弟カナタの腕に顔を擦り付ける。


「……あぇ?」


 彼女の夢にカナタが出てきた。お皿に積み上げられた大量の唐揚げをそっと脇に避けて、春灯の頭を撫でる。「試験よくがんばったな、えらいぞ」って。

 それだけで春灯の顔がだらしなく緩む。


「ふ、ふふ……ふふふ」


 そんな春灯の寝言にうなされるカナタの夢は別。

 カナタのお父さんがやってる喫茶店で、春灯に笑いながらダメだしされるの。

 カナタは重たいね、女心をわかってないよね、コナちゃん先輩の思いにも気づかないし、ほんとだめだめですよねって笑いながら。

 春灯に比べるとだいぶネガティブ。現実の春灯はそんなこと言わないのにね。

 だからカナタの夢も切り替える。カナタが見たいって思ってる夢に。それはね。


「ふぁ……」

「んんー……」


 眠っているカナタが春灯の尻尾をきゅっと掴む。

 カナタの夢では春灯が「なんて嘘。ごめん、カナタに尻尾を愛でて欲しかったの。はずかしくて言えなくて」って言ってる。いくら夢を見ているからって無理ありすぎる展開なのに、頭の良いカナタですら眠っているからたやすく流されてる。

 渡された櫛で春灯の尻尾をとき始めるの。


「ふ……」

「んんぅ? ……んん?」


 春灯が混乱してる。

 現実では尻尾をなでなでされてるのに、夢の中では頭をなでられてるんだもん。

 難しいなあ。シュウのそばにいた時はシュウしかいないからもっとうまくやれたのに。

 どうするべきか悩んでいたら、春灯がカナタの手を取って、自分の頭に置いた。カナタも気づかずになで続ける。それでよし、という顔で幸せそうに笑って頷くと、春灯が本気で眠り始めた。

 カナタもカナタで春灯の頭を撫でるのは好きみたい。

 撫でている内に本格的に眠っちゃった。

 んー。


『これ、あまり人の主で遊ぶでない』

『まったくだ……感心しないよ』


 春灯曰くタマちゃんと、大典太光世……ミツヨが怒ってくる。ちなみに十兵衞は寝てた。


『でも。見たい夢みた方が気持ちよく眠れる』

『……ならどうせ恋人同士なのじゃし、えっちな夢でもいいのではないか?』

『それを言えるお前は本当に徳の高い狐なのか』

『ええい、うるさいわ! 気になるじゃろ! で、どうなんじゃ!』


 タマちゃんの声に私はため息を吐いた。


『シュウに渡される前に枷を嵌められた。十八才未満には無理』

『くうううっ! げに憎らしきは年齢制限よ!』


 まあいくらでも抜け道はあるけど。


『なんじゃと?』


 キスさせる夢を毎晩見させれば、自然とみるかも。それについては私、ノータッチ。


『ほっほう』


 それはよいことを聞いたぞ、というタマちゃんにミツヨが呆れる。


『企て事などやめんか。主に対して迷惑をかけるな』

『おぼこぶりおって! 思春期なぞ触れ合ってなんぼのもんじゃろ!』

『人によるだろう。それにふれあいなら既にこれ、この通り。一緒に寝ているではないか』

『じゃがこやつらはお初からここまで二人で経験しておるのじゃし、甘い夜がもっとあってもいいのではないか? もちろん、この甘さも大事じゃよ? けど、けど!』

『あのなあ』


 文句を言いたそうなミツヨに構わずタマちゃんが叫ぶ。


『ちょっとどきっとする胸キュンも山ほど味わいたい! 妾はそれが足りないと思います!』

『……主の性格を踏まえるに、二人のペースでは難しいと思うが』

『あ、今ちょっと間があったぞ! そなたも妾と同意見なのじゃろ!』

『面倒くさい狐だよ、お前は。それより禍津日神、二人が何を望んでいるのか……わかるのか?』


 まあ。聞こえてくるよ。心の声。

 人の心の働きとか……そうだな。

 何をいい、何を悪いと思っているのか、とか。

 そういうものが全部わかるよ。私はそういう存在だもの。


『主の中で、主の御心に触れる私たちとは違う聞こえ方をしているのかもしれないな』

『まあ人は自分の心を偽れる生き物じゃからのう……ちなみにハルはどんな風に聞こえるんじゃ?』


 カナタといっぱいいちゃいちゃしたい。

 カナタにその気持ちを伝えたいけど、どうしたらいいかわからない、みたいな。

 初彼だからやり方わからなくてのほほんと過ごしてて、それはよくないなあって思ってる。自分からどういうアクションを取ればいいかもわかってないっぽい。

 割とカナタ待ちみたいなところを悪いかもって悩んでるよ。自分では自覚してないだろうけど。


『……ほ、ほう。わ、妾にもわかっておったぞ? 当然じゃろ!』

『声が震えているぞ、駄狐さま』

『うるわいわ! じゃあカナタはどうなんじゃ!』


 カナタはね。

 春灯より一つ年上だからリードしなきゃいけないけど、初彼女だからやり方わからなくて割と毎日てんぱってるよ。

 自分のタガが外れたらどこまでもだらしなくなっちゃいそうだと思って、気を引き締めてるけど。

 それゆえに春灯とどう付き合えばいいのか戸惑うことも多いみたい。

 さじ加減がわからなくて。

 だから実は甘ったるいことに踏み切れないでいるよ。シュウよりもそのへん不器用かも。


『ふむ……禍津日神は二人のことがよくわかるのだな』


 だって聞こえるの。

 二人でいると、二人の心が叫びたがっているよ。

 もっとうまくやれたらいいのになって。

 隔離世なら簡単にみんなの言う邪にだってできる自信があるよ。よそでそういうことしちゃだめってシュウに怒られると思うからしないけど。


『ふむう……』

『ん……』


 あれ? 二人ともどうしたの?


『いや、実際にどんな具合か今後は注意深く見てみようかな、とな』

『殊勝な狐とかぶるとはね……恥ずかしながら同意見だ』


 ふうん……。


『主の恋愛サポート計画じゃな』

『ああ』


 二人ともやる気になってるけど、私そろそろ眠たくなったから寝るね。

 学校に連れてってもらうの楽しいし。


『おう、寝てろ寝てろ。それよりミツヨ、妾の冴え渡る計画第一弾があるのじゃが――』

『聞かせろ』


 なんか賑わっているから二人はそっとしておくとして。

 十兵衞の御霊のそばに寄って、私は眠りについた。

 居心地がいいのだ。十兵衞のそばは、なぜか。

 意識がまどろむ直前、ふと思った。

 私の見たい夢はなんだろう。

 するとすぐに答えが出た。

 シュウが笑顔で私を抱き締めてくれる――……そんな夢でしかあり得なかったのだ。

 とても良い気持ちで眠りにつけた。

 でも……できればすぐに、本当に抱き締めてもらいたいなあと思う。

 夢であなたに会うたびに思うよ。シュウも……同じ気持ちだったら嬉しいな。




 つづく。

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