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その刀を下ろして、帯刀男子さま!  作者: 月見七春
第一章 入学! 士道誠心学院高等部!

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第十話

 



 トモのお部屋で私はあっけに取られていた。


「どうしたの?」

「いや、あの」


 何が凄いって、模造刀らしいものがびっしりと壁に飾られていた。

 全部同じ鞘、柄だけど……同じモノなのかな。

 箪笥の上には竹刀や剣道の防具が置いてある。

 とても女の子の部屋には見えない要素が部屋の八割を占拠していて、隅に追いやられた申し訳程度の馬のぬいぐるみが哀愁を誘うよ……。

 十畳の部屋の中心にコタツ(四月なのに! 寮なのに!)があるから、先に腰掛けたトモに続いて腰を下ろす。


「す、すごい部屋ですね。刀がいっぱい」

「ああ……これ? 全部本物だよ」

「うそ!?」

「うそ」


 あはは、ひっかかってやんの! と言われてしまいました。ぐぬぬ!


「こ、これだけあれば本物でもおかしくないかなあと思ったの!」

「ないない。むしろこれだけの本物を持ってる女子高生がいたらやばいよ」

「確かに……」


 軽く笑って否定されてしまいました。

 何か言ってやろうとネタを探しに周囲を見渡して……言葉が出てこなくなっちゃった。

 仲間トモカ。トモって呼び続けていたらそのうち忘れちゃいそうだな、本名。気をつけなきゃ……。

 とにかく、トモは黒くて艶のある綺麗な髪をお下げにしている。

 可愛いとか綺麗とか、そういうんじゃない。

 トモは凜々しい。それこそ見とれてしまうくらい。

 そんなトモが、壁に飾ってある刀を眺めたまま黙っちゃった。

 視線は鋭く、けれど顔に浮かぶ感情は――……なんだろう?


「全部同じものなの。作った人は別、でも……同じ刀。あたしはそれが欲しくて、ここに進学するのをずっと待っていたんだ」

「……なんて、刀なの?」


 私が尋ねると、トモは瞼を伏せて深く息を吸いこんだ。


「雷切丸」


 特別な名前を呼ぶ、短い言葉なのに複雑な感情が入り交じった心を揺さぶる声だった。

 気軽に言っていたなら聞けた「なんで」が喉から出ないの。


「雷を斬れたら、その時あたしは特別になれる。家のしきたりや、昭和のノリで言われる女だからなんて言葉を断ち切れる……なんて考えてるわけ」


 歯を見せて笑うトモはもう、さばさばとしていて会ったときと同じ近づきやすさみたいな雰囲気に戻っていた。


「かっこいいね……いいな、そっか。刀があれば、なれる自分かあ」


 思い浮かべてみる。

 一年生代表に選ばれたあの四人はどうかな。

 村正の沢城ギンくんなんかは特別かも。

 斬りたくて斬りたくてしょうがない一人の少年と、村正。

 刀と侍の繋がり……。

 刀については説明を受けたけど、どんな刀かは選べないって言われていた。


「……欲しい、刀かあ」


 もし巡り会えたなら、それは運命だ。

 トモは求めていて、シロくんも望み……クラスの男の子達も欲しているのだろう。

 私だけが宙ぶらりん。


「ハル。なにも知らないなら……そうだな。刀の本かしたげよっか。さらさらっと読めるヤツ」

「いいの!?」

「刀の御霊だけじゃない。他にも妖怪とか神さまとか、いろいろいるからさ。学院で手に入る刀の参考にはあまりならないかもしれないけど。それでもよければ」

「ぜひともよろしくお願いします!」

「ん、わかった」


 トモの申し出は渡りに船! 断るなんてもったいない!

 せっかくこの学院ならではの青春があるのなら、この青澄春灯(あおすみはるひ)! 逃しません!

 本を借りて、私はトモにおやすみの挨拶をして部屋を出るのだった。


 ◆


 自室の扉を開けてみる。

 新品の部屋を見て――……


「う」


 一瞬で憂鬱になりました。

 ダンボールだらけです。

 洋服とか好きな本や雑貨類(部屋の装飾品含む)が詰まった箱に混じって、全身鏡や布団類が見えるよ。

 だからってへこたれていてもどうしようもない。


「しょうがない……やりますか!」


 それから一時間と少し、荷物を出してはしまって、出しては飾ってを繰り返した。

 実家を出るときにお母さんから教わったベッドメイクも済ませてひと息ついた時には完成だ!

 紫や黒を基調とした布で飾られた壁には剣や傘、牡鹿のオスカルの頭とか十字架が飾られている。

 壁際の机の上には水晶玉やタロットカードやあれやこれや。

 お母さんから「こじらせた性格を卒業したいなら、いい加減捨てなさいよ」って言われたんだけど、ないと落ち着かないんだよね。

 ゆっくりです。ゆっくり行くつもりなんです。

 でもここまできたら治らない気もちょっとしています。

 複雑なんです。

 そっとしておいてくだちい。


「さて」


 トモから借りた本を開く。

 いっそブラウザゲームでもやった方が愛着込みでいい気もするけど。ゲームデザインやったの物凄い人だし。ファンだし。

 でもでも、一度手を出したら落ちそうな気がするんです。

 沼に……はまる気がするんです。なので本からでお願いします。


「よ、ようし。よむぞう」


 すう、と息を吸いこんで紙面に目を落とした。


 ◆


「はっ!?」


 目を開けたら時計の針が一時間進んでいました。

 あれ? 紙に目を落としてから記憶がないんだけど。

 あれ? 見ただけで意識を失うレベルで活字がだめ?

 やだ、こまる。

 改めて深呼吸。

 落ち着いて、本棚を見て。

 私が綴った黒の聖書、全四十八章を眺めるの。

 暗黒の学生時代を当時の病全開で記した闇しかない日記です。


「くっ。右目が!」


 疼く! 痛い! 痛すぎる! どれだけ書いてるんだ、私!


「……ふう。戒めとして持ってきたのは正解だった」


 深呼吸して改めて考えてみる。たくさん書いたんだから今更活字に怖じ気づく必要はない。

 そう思いながら適当にページをめくり目を落とす。


「……わ」


 トモの貸してくれた本の解説文はとても短い。

 それこそネットで読むのと大差なさそうだ。

 むしろ目を惹くのは一緒に載ってる写真なの。すっごく綺麗。

 どれも素敵で、みんないい。

 だからこそ……どれかなんて選べない。

 むしろ美しい道具で、刀鍛治と所有した人間と――……斬られた人の魂が宿っていそうで。

 その生々しさを受け止める力が私には……正直ない。

 どうせなら、もっと、その……


「邪を退け、災害をはね除けちゃうくらい……どんな劣勢に飲まれても、心が折れずにいられる最強の強さ」


 とか――……中学時代、私が好きだった天使のような女の子を思い浮かべて微笑む。


「すごく綺麗な……美しさに繋がる力みたいなのないかなあ」


 強く美しく。その二つがいい。


「どうせなら、かつて妄想したクレイジーエンジェぅな私に近づけるようなの……なんちゃって」


 笑っちゃった。また病がぶり返してない?

 ツバキちゃんに刺激されて古傷が疼いたのかも……ツバキちゃん、四十八冊って言ってたっけ。なんだかほんとうに不思議な縁だ。あの頃の私に憧れてくれる子がいたなんて。追い掛けて会いに来てくれた子がいたなんて。

 嬉しい限りだ。

 でもあんまりふわふわした気持ちでいたら、実在の刀に憧れる人たちにも失礼かな?

 ううん……だめだ。迷走している気がするし、時計を見たらいい時間だし。


「寝よ……」


 さっさとパジャマに着替えて、準備を整えて電気を消してベッドに寝転がる。

 天井を見上げて「知らない天井だ」と言うごっこをさんざん堪能した時だった。

 暗さに慣れた目で見えたのは、天井……私の頭の上あたりがぱかっと開いて、小さな珠が出てた。

 まるで照明をたらすかのように、珠。

 なして? え? なして?

 ぱちぱちと瞬きしつつ見つめていたら、ちか、ちかと光が瞬いた。

 それだけじゃない。


『……じ』

『かいほ……せよ』


 喋った!?

 思わず黙って待つけど、それっきり珠は喋らなくなってしまった。

 光も消えて、ういいいんと音を鳴らして珠が天井に引っ込んだ。

 ぱたん、と閉じる天井の穴。あとはもう、何もないただの天井だ。

 しんとした室内で私は眠気にやられ気味の頭で考える。


 Q.今のはなんでしょう?

 A.春灯、あなた疲れているのよ……。


 寝よう。

 そして明日調べよう……。




 つづく。

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