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こどもに魔王を倒せなんて酷すぎる〜隠された勇者の伝説〜  作者: 天界音楽
第四章 『愉快な道連れの最期は決まっている』
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回想~ニール その4~

 ふと目が覚めると、誰かに覗き込まれている気配がした。真っ暗な闇の中だった。隣に寝かせていたジョーが起き上がって座っているのか覆いかぶさっているのか、何も見えないが息遣いだけは分かった。同じ部屋の中にはポッソとイレーヌも寝ている、俺は声を殺して話しかけた。


「ようやく起きたかよ。寒いだろ、こっち来いよ」

「ニール……」

「腹減ってる? とりあえず朝まで待てよな。飲み物……つってもなんも見えないけど」

「……フィーとサムは?」


 俺はその問いに答えることができなかった。それで察したんだろう、なんとなく空気が変わった。


「そっか、サムも助からなかったんだね……」

「ああ……」

「僕のせいだ……」

「違う」

「違わないよ……」

「違う、ロランのせいだろ」

「だからだよ。僕が逃げていたせいだ。僕がきちんと決着をつけるべきだったんだ、僕がちゃんと……!」

「落ち着け、二人が起きる」


 段々と上擦っていく声に、叫び出しそうな気配を感じた。俺が途中で言葉を遮ってやめさせると、ジョーは啜り泣くような溜め息を吐いた。手探りでその体を抱き寄せる。震えて逃れようとしたが構わず抱きしめた。しばらくそうしていると、ジョーの体の力が抜けて、俺に体重を預けてきた。そしてポツリポツリと話し始めた。


「僕が馬鹿だったんだよ。僕、あんなことになるなんて、全然思ってなかったんだ。ロランの正体を暴いたら、なんとかなるって考えてたんだ」

「…………」

「シトーのこともそう。体を治して、だから、死んでないんだから全部丸く収まるんじゃないかって思ってたんだ。甘いよね。ロランがイレーヌを助けてくれて、あのお婆さんを……それも誉められたことじゃないけど、そこまで悪いことだって思ってなかった」

「まあな。当然の報いだ」

「だからね……僕、どうしていいか、わからなかったんだ。ひとを傷つけるのは、やだよ。もう戦いたくない、誰にも死んでほしくない、そう思ってた……」

「今は?」

「……彼から宝珠を取り戻す。彼に対抗できるのは、同じ力を持つ僕だけだから」

「そうか。なら、一緒に行こうぜ」

「来てくれるの?」


 驚いている声に俺は一瞬固まった。どうしてやろうかと思ったが、無難にゲンコツで頭をぐりぐりするだけで許してやった。


「っ~~! ひどいよ、ニール……」

「ひどいのはどっちだ。俺を信用してないのかよ!」

「ううん、信じてる。ごめんなさい」

「ったく……」


 ジョーが笑ったような気がした。俺はこのとき、真っ暗で何も見えないことを惜しく思った。ジョーの髪の毛が揺れて首筋がくすぐったくなる。


「アイツをぶん殴って、魔王倒して、この国を救おうぜ、ジョー!」

「うん。……そうしたら、ニールは英雄だね。勇者様ってことになるのかな……? そうしたら、そうしたら……僕たち、もう、お別れなのかな……」

「なんでだよ!」

「だって……、ニールは有名になって女の子をいっぱい(はべ)らすのが夢だったんでしょ? 僕なんて……」

「ば、馬鹿! 魔王を倒したら、お前は俺と……」

「なに?」

「家族になりゃいいじゃんかよ。むしろなれよ、どこにも行くな。俺の側にいろ!」

「……ニールが僕の家族になってくれるの?」

「ああ」

「……嬉しい。じゃあ、今までどおり、弟ってことでいいの?」

「…………ダメ」

「えっ」


 ひとのせっかくの告白を、ジョーのヤツはまるでわかってないようだった。「嫁に来い」なんて、そんな直球じゃ言い辛いだろうが! 気づけ気づけと念じてみたが、まったく、てんでダメだった。


「そっか。じゃあ、妹だね。僕、もう、男の子のフリしなくっていいのか……」

「………………」

「お兄ちゃん、って呼んでもいい?」

「……好きに、しろ」

「ありがと……」


 今だけ、今だけは妹ってことにしといてやる、と俺は心の中で歯軋りしていた。ポッソとイレーヌがいる部屋で、これ以上こんな話題はしたくなかったからだ。


「そうだ、ニール、この腕輪を外して。これって長く着けておく物じゃないんだよ、僕じゃなきゃ今頃死んでるかも」

「えっ」


 慌てて細い手首を探し当て腕輪を外すと、喘ぐような色っぽい吐息が漏れてきて驚いた。ジョーがボソボソと呟くと、小さくほのかな明かりが生まれた。そのせいで適当に見繕って着せた服から出ているジョーの肩口や、胸元まで全部丸見えになってしまう。急いで目をそらしたが無駄だった。ジョーは荷物からカップを探し当てると術で水を満たして飲み始めた。白い喉を伝う雫が目に毒だ。


「ニールも飲む?」

「あ、ああ……、うん……」


 口許を拭いながらカップを差し出してくる仕草も声も、男姿のときと変わらないのに意識し始めるとどんどん変な方向に考えが飛んでいく。そうだ俺は、最初に会ったときからコイツを……。


「そろそろ、寝ようか」

「あっ? ああ、ああ、うん!」

「ねえ、くっついて寝てもいい?」

「ダメ!! 俺だってたっ……だぁぁぁあああ!!」

「どうしたの?」

「お前ぇ、実はわかってて言ってんじゃないのか!?」

「なにを?」

「そうやって遊んでるんだろっ」

「なにが?」

「くっそ、くっそぉぉ……」


 ふて寝するしかないと襤褸切れを被って横になると、背中にジョーの温かさを感じた。ぎゅっと手を回して抱きついてくるせいで、余計な感触まで伝わってくる。


「っ、おいっ!」

「ありがとう、ニール。大好き」

「ぐっ……」

「おやすみなさい」


 そのとき確かに俺は振り向いてジョーのヤツを押し倒してやろうとしていたんだ。だが、気がついたら意識がそこで途切れていて、朝になっていた。ジョーの野郎はご丁寧に俺の服を全部一式持っていきやがった……。荷物の中から消えていたのはあのナイフだけ。紅玉は俺の身に着けていた服の隠しにきちんと入っていた。


「アイツ……結局ひとりで行きやがって……!!」


 床を殴りつけると、ミシリと嫌な音がした。そのとき、紅玉が熱く俺の足を焼いた。


「あっち!」


 取り出してみると、今まで淡かった光が強くなっている。


「行けってか……? いいぜ、追いかけてやる!」


 俺は紅玉を隠しに戻すと、長靴(ブーツ)を履いて急いで紐を編み上げた。格好になんか構っていられなかった、それにそのときは紅玉のせいか、暑いくらいだったのだ。レムのボロボロになった上衣を羽織り、あばら家を飛び出した俺は、一目散に聖火国の奥地への門を目指した。足下で、霜柱がパキパキと割れて音を立てていた。


 門の前には、ヤックゥの牽く車の群れがあった。まさかと思ったが、やっぱりだ。広場での会話は俺たちを諦めさせるための作り話……生き残った聖堂騎士たちは、持てるすべてを持って賢人オリクの下へと集結しようとしていた。


「レム! シトー!」

「……少年、そんな格好で何してるんだ」


 以前も見た、完全防寒の鎧姿、犬の顔のような覆面がレムの声でしゃべった。


「ジョーがいねぇ。ひとりでロランを追いかけたんだ! アイツもこっちに来たんだろ?」

「……まぁね」

「俺も連れて行ってくれ!」

「……来てどうする」

「ジョーをひとりで戦わせたりはしねぇ。アイツは怖いんだ、ひとを傷つけるのが怖いってのに、ロランとマトモに戦えるはずがねえ!! 俺がやる……やってやる!」

「ったく、仕方ないなぁ……。その代わり、きっちり働いてもらうよ」

「わかった。恩に着るぜ、レム。何でも言ってくれ!」

「じゃあまず……ちゃんとマトモな格好をしような」


 こうして俺は、ジョーを追って凍土を強行軍で駆け抜ける聖堂騎士たちの仲間に加わったのだった。なぜか、ロランの奴もジョーも、凍土の奥へ奥へと向かっていった。それはきっと、宝珠の導きという奴なのだと俺は確信している。紅玉も金剛石も、向かう先は同じ……魔王の下だ。

★???★


ジョー「ごめんね、ニール。でも、こうするしかないんだ……。決着は僕ひとりで。さようなら……」

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