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こどもに魔王を倒せなんて酷すぎる〜隠された勇者の伝説〜  作者: 天界音楽
第四章 『愉快な道連れの最期は決まっている』
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回想~ニール その3~

 俺がレムから聞かされた話と、ポッソから聞いた話じゃやはりどこか噛み合わない。どうしてイレーヌを探しに行ったジョーが、地下で縛られて発見された? それにシトーは聖堂騎士だぞ、婆さんにやられたって? そもそも、イレーヌが脱出してるのにジョーが捕まったままだったのがおかしいだろ。


 勇者アディ、アイツが怪しい!


 あの屋敷からイレーヌを連れ出した男たちは、アディと一緒にいた奴らの人相と一致する。つまりアディは現場に残ってたわけだ。何をやってたかは分かんねぇが、どうせロクなことじゃない。ああ、クソ。いいヤツに見えたのになぁ!!


 大聖堂に戻ったはいいが、入るのには苦労した。レムに会うにはもっと苦労した。その待ち時間にどうにかサムを捕まえて、俺の考えを聞いてもらう。サムはアディやその取り巻きに会ったことがないし、こどもの言うことなんで半信半疑だった。けど、ポッソのことはちゃんと覚えていた。レムの言う「ジョーとポッソと共謀して宝珠を売り払おうとしている」って仮説だけは、聖堂騎士相手にもどうにか否定してもらえそうだった。そもそも、フィーもサムもそんな馬鹿話、信じちゃいないだろうけどな。


 そのレムは、フィーと一緒に戻ってきた。手でささっと人払いすると、レムは開口一番、「シトーの意識が戻った」と言った。ホント、無駄のないオッサンだ。


「シトーに手傷を負わせたのは、黒髪で眼帯の男だったそうだ」

「アディだ!」

「信じたくはないが、その線が出てきたのは確かだねぇ」


 俺とサムが拳を打ち合わせていると、そこにレムが口を挟む。


「少年の無罪が決まったわけじゃないからね。身に着けていた物や宿の部屋も調べたけど、宝珠は見つからなかった。ああ、君の荷物もジョーのと一緒にしてあるよ」

「だから、ジョーじゃねえって言ったろ? 宝珠はさ、アディが盗ったんじゃねぇの?」

「おいおい、何の権限も持たない子どもが、国が認めた勇者殿に対して随分な口をきく。人払いしてて良かったねぇ、殺されても文句言えないんだよ?」

「……私の客人を傷つけるというなら」

「おっと。怖い怖い。すみませんね、魔導師殿。そういえば貴女も国賓だった」

「…………」


 サムの殺気とレムの殺気が交じり合い、一触即発の嫌な空気が漂った。よくあることだ。探索者の間だって、デキル男の意見が割れるといつもこうなる。これに対してフィーは無表情のまま、くっと唇を噛み締めていた。……フィーのことはこれまで、よく笑う、オッパイが大きくてふわふわした姉ちゃんだとしか考えていなかった。それがこの国に着いてからというもの、まったく印象が変わってしまった。魔術を使うときの方が素なんだろうか。それってちょっと怖いな。


「ジョーに会わせてください」

「……いいですとも。貴女がそれを望むなら、ね」


 このオッサンの言い方はいちいち挑発的だ。サムとフィーが相手だったことに感謝しろよ、俺の先生やゲッカがこの場にいたら大乱闘間違いなしだからな。ジョーも喧嘩っ早いところがあるから、ここにいたらきっとチクッと言うか手が出てるんじゃないだろうか。そんなことを考えて、俺は閉じ込められているジョーを早く助けてやりたいと、強く思った。






 レムの案内で病人がいる棟まで行った。大聖堂ってのは聖堂を始めとして色んな施設がくっついていて、それをひっくるめて“大聖堂”なわけだが、俺には領主館との違いがよく分からない。行ったことないし。そんなわけで随分歩かされた。上ったり下ったり回り道したり。通路を跳び移っちゃダメらしい。何とも面倒な決まりだった。


 ジョーのいる棟は病人、怪我人のいる棟でもさらに特別な区画らしい。俺には特別って言葉は嫌な意味にしか聞こえない。扱いを別にされるっていうのは怖いことだ。探索者が依頼人からすごく丁寧な扱いを受けたら、それは「ヤバイ」ってこと、ハメられて死ぬかもしれないってことだ。


「事件の際にここに収監された、ジョーという少年に会いに来たんだがね。もう起きている頃かな?」

「少年……? 生憎ですが、お間違えじゃありませんか? 事件の被害者は女の子ですよ」

「はい?」


 受付の女は木札を出して、手元の黒板と見比べた。レムが(いぶか)しげにこっちを見る。


 いやいや、ないから。ジョーが女だなんてありえない!

 とりあえず首を横に振っておいた。


「女の子ですね」

「その子、名前はどうなってるの?」

「書いてません」

「……困ったな。ちょっと確かめてもらえる?」

「はい。奥へどうぞ」

「ちょっと詳しく聞いてくるから、勝手にいなくならないように。部屋は突き当たりを右、その札差し込まないと開かないから。絶対に失くさないでね」


 そう言うと、こっちの返事も聞かずに女と一緒に行ってしまった。


(なんだ、あのオッサンもいいとこあるじゃん)


 俺は置きっぱなしにされていた木札を取った。片側が複雑な形になっているそれには花の意匠が彫ってある。周りを見ると部屋にはそれぞれ違う模様がついていた。ということは、この札と同じ模様の部屋がジョーのいる場所だ。


 サムもフィーも、無言で横並びになって俺の姿が目立たないよう通路を塞いでくれた。俺は手振りで挨拶した。レムの言うとおりに通路を進むと、目的の場所があった。戸の上のほうには格子が嵌まっていて、中からすすり泣きと細い声が聞こえてきた。


「嫌だよ……僕にはそんなこと、できない……。やめて……D、お願い……」


 最初に思ったのは、誰かが中にいるのかってことだった。ジョーは今まで俺が聞いたこともないような声で、泣きながらディーという奴に懇願していた。俺は格子から部屋を覗きこんだ。


 中には質素な貫頭衣姿で寝台に寝かされたジョーがいた。ひとりだった。胸の上にはいつも大切にしていた本があった。バサッと開かれた頁が上を向いている。


「ジョー……」

「僕のことは、好きにしていいから……、だから、お願い……。誰かを殺すのは嫌だ……! そんなこと言わないでよ! Dなんか嫌いだ! みんなみんな、大嫌いだ!」

「……?」


 ジョーはうわごとのようによく分からないことを叫びながら、激しく首を左右に振った。暴れるってこういうことだったんだろう。寝たままで手をめちゃくちゃにばたつかせ、足で寝台を叩いている。


 そのくせ、あの本は落ちもせずジョーの胸の上にあった。肚から嫌な感じがせり上がってくる。俺は急いで木札を受け口に入れ、錠を外した。横にずらす戸だったせいでちょっと手間取ったが、俺は部屋に飛び込んだ。


「ジョー!」

「もう、生きていたくない……。契約する……僕を消して。D……」

「くそっ、この野郎!!」


 ……俺の選択は間違ってない。今でもそう思ってる。

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