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こどもに魔王を倒せなんて酷すぎる〜隠された勇者の伝説〜  作者: 天界音楽
第四章 『愉快な道連れの最期は決まっている』
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回想~ニール その2~

 俺が大聖堂に戻ったのは、出発してから七日後のことだった。出発してからというもの、色々ありすぎて、何から説明したものかなぁと思う。まず目が覚めてわかったことがひとつ。氷の化け物にやられて動けなくなっていた俺たちを治療してくれたのは禿頭(とくとう)を毛皮の帽子に隠したオリク様だったということだ。


 いやぁ、びっくりした。もう堂主じゃないとは言え、なにしろ国の重鎮だぞ。そうそう囲いの外に出られるもんじゃないだろうに。ジョーの話を聞いてすぐに、国宝の“炎の心臓”を持ち出して単身吹雪を越えて来たんだと。正気じゃねぇな!


 もちろんこれには聖堂騎士たちも驚いたようだ。しかも、オリク様は大聖堂には戻らず、そのままここに残るといった。全員が反対する中、フィーだけがオリク様の意見に賛成した。なんでも、この場所は陰の気が濃すぎるんだとかなんとか。とにかく、ジョーが宝珠を持って行っちまったからここに宝珠を置かないと、またすぐにでもあのデカブツが生まれてくるらしい。それだけは勘弁してほしかった。


 元々俺たちが長居できるほど食料に余裕がなかったこともあり、行きと同じくヤックゥの牽く車に乗って戻ってきた。。巨像との戦いで何人かが欠け、シトーもジョーを追って先に戻ったためにいなかった。大聖堂を出発したときより少ない人数での帰還だった。


 さて、腹が立つのは俺たちのいない間に起こった出来事と、聖堂に仕える導師たちの対応に、だ。


 まず聞かされたのは、ジョーとシトーが事件に巻き込まれて二人とも意識がないってことだった。


「シトーは重症だ。術士たちの話じゃ、手の施しようがないらしい」

「そんな……。魔導師たちはどうしたの? 彼らの診療の方が信頼が置けるわ。術士たちにできるのはただ治すだけですもの」

「それが、魔導師たちでさえ手が出ないんだと。……ったく、こんなことで」


 レムは苛立ちをなるだけ抑えようとしているようだった。机を蹴飛ばしたり椅子を折ったりしない。そういうことろはソーンの兄貴によく似ている。レムがなぜかジョーについて言わないから、俺は自分から訊ねてみた。レムのオッサンはさらに口を曲げて、言いたくないように見えた。


「まさか……」


 フィーが息を飲む。俺たちはレムの言葉を待った。


「オタクらのジョー少年は無事だ。……ただちょっと、目が覚める度に暴れるもんだから、ずっと眠らせてるらしい」

「はぁっ!? ……ふっざけんな!! てめぇ、ジョーを何だと思って……!」

「落ち着け。わたしだってこんなこと、許されることじゃないとは思うよ。だがね、泣き叫んで暴れて、導師に怪我をさせたんだってさ。押さえつけたら自分の体の骨が折れそうなくらい抵抗するんだから、眠らせる以外に方法がないと言われたら、門外漢のわたしにできることなんてないね」

「だからって……」


 あんまりだろ、こんなの!

 何があったかわからねぇけど、知らない場所でひとりで目が覚めたら、そりゃ不安にもなるんじゃねえのか。それを何とかしてやるのが術士なんじゃねぇのかよ……。


 言わずに飲み込んだ言葉が痛い。どうするべきかとフィーを見たが、すげぇ魔術師だと思っていたフィーも、無言で眉を寄せて考えこんでいた。


「だいたい、どちらも意識がないんじゃ、何が起こったのかも聞けやしない。ジョー少年は宝珠を持っていなかった」

「えっ」

「彼がどこかに隠したのか……それとも金欲しさに売り払ったのか」

「てめぇ!!」


 レムのおっさんの顔に一発くれてやろうとした俺を、サムが羽交い絞めにしやがった。元々の筋力が違いすぎてビクともしねぇ。俺は自由になっている口で思いつく限りの悪口でレムの野郎を罵った。


「おお、怖い怖い。とにかく、無理やりにでも叩き起こして事情を聞かにゃならんから、こうして魔導師殿には知らせに来たわけだよ。場合によってはジョー少年には手荒な尋問をすることにもなる」

「この……ゲス野郎!」

「…………。こっちも大聖堂の面子がかかってるからね。少年が盗みを働いたんだとしたら、吊るすことになる。それは覚悟してほしいね」

「くそ……!」


 サムの手に力がこもり、俺の肩がミシミシと嫌な音を立てた。


「待ってください。まず、私たちに話させてくれませんか?」

「魔導師殿、それはできない相談だ。むしろ、何か知っていることがあるなら、今教えてほしいですなぁ」

「何かって、なんだよ!!」

「……例えば、彼がデルタナでどんな人物と親しかったか。どこの故買屋を使っていたか」

「だから、そんなんじゃねえっつってんだろ!! ジョーは盗みなんてしねえよ!!」

「もう国外に出ている可能性もあるんでね。今、少年とよく一緒にいたならず者を探しているところです。彼らにも話を聞かないといけないんでね」

「…………」


(まさか、ポッソまで……!?)


 怒りの前に胸くそが悪くなった。コイツの中ではすでに、ジョーが金のために宝珠を盗み出したと決めているんだ。ポッソを通して国外に持ち出し、デルタナで売り払うつもりだったって筋書きだ。


 冗談じゃねぇ!!


 ポッソが捕まったら、多分、違うと言ってもポッソのせいにされて殺される。処刑もなしに「事故死」ってやつだ。イレーヌはどうなる? まさか、イレーヌも一緒にか?


(考えろ……考えろ! このままじゃ、ジョーたちが死んじまう!!)


 レムのオッサンは、フィーに何か言ってから部屋を出ていった。フィーのすすり泣きが聞こえたが、俺は構わず外に出た。とにかく、ポッソを探して逃がさなきゃならなかった。巻き添えでアイツらを殺すわけにはいかなかった。ジョーの救出は、後で考える。まずはできることから、だ。


 尾行がついているのは予測していた。だから、とにかく走り回って、隠れて、その尾行者をまいた。そして、二人がいそうな場所をしらみ潰しに探し回った。


「よぉ、ニールじゃねぇか。帰ってたのか!」

「ポッソ!」

「おかえりなさ~い!」


 大手門の外、群衆の間に目を凝らしていると、向こうから話しかけてきた。ポッソとイレーヌが、昼の飯のためか屋台に並んでいる。俺は客として通されているから大手門は抜けられない。目立たないように手振りでこっちに来るよう指示すると、ポッソの馬鹿は昼飯を買ってからやって来た。


「なに飯なんか買ってんだよ!?」

「だって、腹へるだろ。ニールの分もちゃんとあるぞ」

「あ~、もう! とにかく、どっか隠れられるとこに案内してくれ!」

「へいへい」

「ねぇ、ジョーは? ジョーは?」

「後にしてくれ!」


 街人に紛れてゆっくり歩きながら、俺は聖堂騎士を警戒していた。ポッソはベラベラと喋っているが、これはいつものことなので不自然さはない。それでも、俺の事情を訊ねてこないところは、よく訓練されているなぁと思う。もうちょっと腕が立てば、充分に探索者が勤まる。


「でな、おれはジョーに頼んだのよ。イレーヌを探してくれ~、って。おれは大手門の方へ、ジョーは……」

「は? ちょっと待ったちょっと待った、ジョーが? イレーヌを?」

「ああ、そうさ。ちゃんと詳しく聞かせてやるよ!」


 ポッソから聞いた話をまとめると、ジョーがここに帰ってきたその日に、イレーヌはある事件に巻き込まれていた。それは大聖堂の裏で会った、あの優しそうな婆さんが引き起こしたもので、恐ろしいことにイレーヌは食われる寸前だったそうだ。


 あの婆さんは、長い間、隠れて人間を食べていた。地下室には何人分あるか分からないくらいの骨が転がっていたらしい。そしていつの間にかこの聖火国に戻ってきていた勇者アディが、イレーヌの悲鳴を聞きつけ間一髪、助け出してくれた。らしい。


「それでね、お髭のおじちゃんたちと逃げたの!」


 男たちの人相は、ついこの間、市場でポッソに絡んできたクソ貴族のガキと同じだった。……まさか本物の勇者だったとはな! 


 勇者アディは殺人鬼のジャンヴィエーヴ・カダルを倒した。襲いかかってきたから殺すしかなかったとか何とか。


「本当に、イレーヌが無事で良かったよぉ! ジョーにお礼をしようにも、あれから一度も見ねえし。どうしようかと思ってさぁ」

「……おかしい」

「何が?」

「悪い、ちょっと確かめたいことがある。あ、あのさ、俺がいいって言うまでちょっくら身を隠しといてくれねえか? ジョーが変なことに巻き込まれて、お前らも聖堂騎士に見つかったら連れて行かれるかもしれないんだ!」

「聖堂騎士に……? 別に、どうかしたのか?」

「……、聖堂騎士だぞ?」

「それが?」


 ポッソはそれがどういうことを意味するのか、まるでわかってないようだった。


「とにかく、聖堂騎士には見つからないようにしてくれ。……これ、これくらいありゃ、しばらく暮らせるだろ?」

「あ? おいこりゃ大金じゃねぇか! おい、ニール、おい!!」


 ポッソの声を後ろに、俺は走り出していた。

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