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こどもに魔王を倒せなんて酷すぎる〜隠された勇者の伝説〜  作者: 天界音楽
第三章 『希望と言う名の灯火を』
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嘘つきな僕の決意表明

 Dとの対話を終えて意識が浮上した僕は、抱きかかえられていることに気づいて焦った。しかも衣服は緩められ、ニールの手が僕の胸に……


「触るなっ!!」


 頭が真っ白になって、気づいたらニールの手を叩き落としていた。ああ、僕はまた同じことを……いつになったら物事を冷静に対処できるようになるんだ。恐る恐るニールを見上げると、いつもの笑顔に迎えられた。


「ごめん、ニール」

「いや、いいって。もう大丈夫か?」

「えっと……」

「お前、急に倒れたからビックリしたぜ」

「あ、うん。もう大丈夫……」


 僕は衣服の端を寄せて前を隠した。羊毛の下衣(ズボン)も緩められていたので、立ち上がるにも立ち上がれず、その場で座ったまま直す。


「ジョー、お前さ、この国には病気治しに来たのか?」

「は? 違うけど」

「だって、お前……ずっと具合悪いじゃん。兄貴はそっとしといてやれって言ってたからそうしてきたけど、全然良くなんねぇし。さっきも倒れたしさ」

「それは……。でも、平気だから。もう倒れたりなんかしないよ」

「…………」

「本当だよ、ありがとう、ニール」


 僕の言葉は上っ面を滑るばかりでニールの心には届いていないようだ。疑いに満ちた視線が刺さる。けれど、体のことについては嘘をついていない。これまでだって誤魔化せてきていたのに、ジャハルにはめられたときと、さっきのDのちょっかいのせいでニールに強い印象を与えてしまっているんだ、きっと。


 嘘は言っていない、そう伝えたい。僕は目を逸らさずにニールの視線を受け止めた。眇められた目が放つ鋭さに変化はなかったけれど、それ以上追求されることはなかった。不機嫌に引き結ばれた口許……成人してからのニールは体が大きくなったことも手伝ってか、ひどく大人びて見えるときがある。初めて会ったときから頭が回るひとだと思っていたけれど、今ではソーンさんやサムと対等に難しい話をしているし、何より聞いたことを絶対に忘れないんだ、彼は。陽気で馬鹿を演じているけれど、ジャハルと似ていて何を考えてるのかさっぱり読めない。近頃の僕は、黙りこんだときの彼が、少し怖い……。


 ニールは大きく一歩踏み出して僕に近づくと、座り込んだままだった僕の頭に手を伸ばしてきた。広げられた掌が視界いっぱいに迫る。


「っ!!」


 胸に沸き上がる、黒い、暴力的なまでの感情の名は、恐怖。反撃(・ ・)に転じようとする腕を理性で押さえつけた。ニールの温かい手が頬に触れる。


「まだ、冷えてんなぁ」


 ニールは僕の手を引いて立ち上がらせると、火の側の椅子に案内してくれた。ぎこちなくしか動かない足をどうにか進ませて、僕は勧められた通りに腰かけた。ああ、どうか気づかないでほしい。もう放っておいてくれ。


「ごめんな」

「え……?」

「怖がらせた。お前、大人の男が怖いんだろ?」

「…………」

「男に触られんのが、怖いんだろ?」


 さっと血の気が引いた。違うとは、言えなかった。最悪の可能性が頭をよぎる。


(まさか、まさか……バレ……)


「安心しろよ、俺は男に手ぇ出す趣味はねーから。さっきのお前の言ってたこと聞いてさ、ようやく合点がいったぜ。辛かったよな、ジョー」

「は……?」

「世の中にゃ、男の尻を追いかけ回す酔狂なヤツがいるから気をつけろって、センセイが言ってたんだ。だからお前、あんなに警戒してたんだな。よっぽど嫌な目にあったんだなぁ~」

「…………」

「これからお前の尻は俺が守ってやるから、だいじょぶだぜ!」

「っ……ジャハーール!!」

「うわっ。いきなりどうしたんだよ、ジョー」


 どうしてアイツはいつもいつも! ニールに余計なことしか教えてないんだ!


「そんなことは、どうでもいい……」

「よかないだろ、大事なことだぜ」

「どうでもいい!」


 思わず声を荒げてしまい、ニールに「落ち着けよ~」と言われてしまった。ニールに! 元はといえばニールが……いや、戦闘ばかりが強いあの小さい髭面のせいなのに!


(まるで僕がおかしいように言われるなんて屈辱だ! あと、D、うるさい!!)


 僕は、僕にしか聞こえない声で大笑いしている呪文書を叱りつけた。


『だって、だってぇ~! 「お前の尻は、俺が守る!」とか何とか言っちゃって!! 笑い死ぬって!』


(そんな方法じゃ、死なないくせに!)


 なおも笑い続けるDを無視することにして、僕はニールに向き直った。深く息を吸い込み、短く吐く。


「ニール、僕の話を聞いてほしい。大切な、お願いがあるんだ。きっと信じられないと思うに違いないけれど、どうか、口を挟まずに最後まで聞いてくれない?」


 もしも笑われたらどうしよう、という不安は必要なかった。ニールは無言で頷くと、顎を使って話の先を促した。


 魔王について、詳しいことは分かっていない。けれど、凍土の奥にいて、男にしか倒すことができない、そんな存在だ。凍土の拡大は魔王のせいだ。僕には力はあっても、男にはなれないから……。


 根拠は師匠の言葉だけ。そして、Dが僕の力を保証してくれる。たったそれだけのことを拠り所にして魔王に挑むのか、そう問われたら、困る。でも、僕より強いひとがいないんだから仕方がないじゃないか。


 皆が、僕よりも弱いから……。


「ジョー?」

「ごめん。それでね……」


 ニールに全てを打ち明けることはしなかった。魔王を倒すことができる者が、男だけだということについては嘘で繕うしかなかった。「僕だけではとどめを刺せないから」と、そう言葉を濁した。


「僕は、本当は強いんだよ。ただ、ちょっと自信がなくて……ついてきてくれたら、嬉しい。ニールたちのことは、僕が守るから」

「魔王、ねぇ……」

「…………」

「フィーもなんか、似たようなこと言ってたな」

「そう、そうなんだよ! フィーの目的と、僕の目的は同じだ。今日、相談するつもりだったんだ……」


 ニールが僕の目を覗きこんできて、僕は咄嗟にうつむいてしまった。嘘に嘘を重ねて、親身になってくれているニールを騙しているのが、恥ずかしかった……。


「よし、んじゃ、フィーたちを迎えに行こうぜ。あの二人もついてきてくれんのか、俺たちだけでやんのか、はっきりさせとこう」

「信じてくれるの!?」

「そりゃ、まあな。俺たち、兄弟だろ?」

「ニール……」

「お前が本当は強いんじゃないか、ってのは、実は気になってた。それに、あのジーサンがお前にそう言ったんなら、そうなんだろうぜ。どっか人間離れしたとこのあるジーサンだったもんな」

「師匠はね、世界にたった一人の魔法使いなんだよ。白術(はくじゅつ)も、黒術(こくじゅつ)も、アーツはみんな、子ども騙しのまやかしさ。魔法はね、もっともっとすごいんだ、って……」


 Dがね、言っていたんだよ。

 魔法にはね、代償が必要なんだって。魔法には、善いも悪いもない。使えば何かを犠牲にする。それは、すごく痛い犠牲になるかもしれないんだ。誰かを喪うかもしれない、一生悔やみ続けるかもしれない。だから、師匠は魔法を使わないんだと思う。


「ニール、ありがとう。信じてくれて……ありがとう」


 嘘つきでごめんなさい。嘘を重ねてしまって、きみを騙して……僕は卑怯者だ。信頼になんて値しない。きみからの友情を受け取るのに、ふさわしくない。


 できることなら今すぐ全てを話してきみの赦しを乞いたい。でも、怖いんだ……。本当の僕を知っても、嫌いにならないでいてくれる? 臆病な僕を許して、ニール……。


 視界の端で、Dが嘲笑った。

ニールは実は賢いのだ!


学はないけれど、頭は回る。

読み書きは得意ではないけれど、数字は得意。

洞察力? やつは死んだよ!(激ニブ主人公的なアレ)



ちなみに。ジョーの場合。


読み書きが得意で語彙が豊富。

数字は基本が出来ても応用が下手

視野狭窄的で地雷を踏み抜く天才!(ホラー映画の主人公的な)

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