Dの書
今回はDちゃんによる、ちょっと変態的な独白回です。公序良俗に反するため、閲覧には注意されてください。読み飛ばしてもあまり本編には影響はないはずです。
暗い暗いそこには、どこからか水が流れてきて溜まっていく。どんどん、どんどん。うん、イイ感じ。リリアンヌは順調に黒術を使って、この黒い水に浸かっていっている。もっともっと使って魂を傷つけて欲しいなっ!
まぁ、黒術を使いすぎて本当に魔物になっちゃったら困るけど。適度に傷ついてくれるのには、これがてっとり早いんだもん。がんばれ、リリアンヌ! っと、そろそろこっちに出てくるかな~?
黒い水溜まりにあぶくが浮かんできたかと思うと、水面を割って金の髪の処女……じゃない、少女リリアンヌちゃんが出てきた。ちょっと飲んじゃったのかむせて咳き込んでいるのが可愛い。
「D、どうして僕の邪魔ばかりするんだ!」
険しい目でぐるりと見回し、両手をぎゅっと握りしめてリリアンヌは怒鳴った。暗闇の中に白い裸体が浮かび上がっている。ただ闇だけだったそこに光が宿る。輝きを放つのはリリアンヌの金の髪だ。そこからこぼれた光を濡れた肌が弾いている。幼い子供の体。膨らみのない胸の先端は淡くピンクで、その下はすとんと寸胴だ。円やかなお腹にきゅっと搾まったおへそ、そして……
『ぷっくく……ツルツル! やだ、そんなに大股広げちゃ全部見えちゃいますよ?』
「D!!」
二年半前から成長していない体は未成熟な精神の表れ。リリアンヌはデルタナにいる間ずっとあの忌々しい大魔導の下でぬるま湯に浸かっていたんだもの、成長なんてするわけない! 無防備にも柔肌を晒して、食べてくださいって言ってるようなものですよ? まぁ、その心の鎧をひん剥いたのは私、ですけどねっ! きっひひひひひひひっ!
『だあってぇ。貴女こそニールに何を言うつもりでいたんですか。お妾さんになるしかなかった~、だなんて。自分から女の子だってバラすつもりだったんです?』
「あっ……」
『気づいてなかったんですか、お間抜けさんっ。密室に二人きりでいて、女だと分かったら面白半分でイタズラされちゃいますよ? ほら、あの、ロランみたいに……』
「違う! ニールはそんなことしない。ニールは仲間だ、侮辱は許さない……!」
『…………………………』
ニール、ニール、ニール、ニール! ニールは、ニールは~ってそればっかり!!
何度記憶を、感情を上書きしてもやっぱり最後はそいつに行き着いちゃうんだ。がっかり。いいや、うんざりだよ。どこがいいんだあんな雄ガキ。ただのサルじゃん。サル、サル、サル! ああ、いっそ本当にレイプされちゃえばいいのに。信じてた身近な人間が豹変する恐怖に、押さえつけられる痛みに絶望すればいい。心が乱れて術も導けず、怯えて、泣き叫んで! めちゃくちゃに犯されちゃえばいい!
そうしたら!
……そうしたら私が優し~く慰めてあげるのに。
涙の中で私の名前を呼んでよ、リリアンヌ。汚された貴女が、ズタズタにされた貴女が、傷つけば傷つくほど良いの! ああ、私に体があれば。未知の感覚に震える貴女を抱いて、違和感が快感に変わるまでなぶってあげるのに。「やめて」「こわい」と泣く貴女の肌を余すところなく舐めて、啜り泣きを嬌声に変えさせたい。舐めて、つねって、噛んで、快楽を刻み込んであげたい!
恥辱に涙しながらも求めずにはいられないように、貴女を作り替えてしまいたい。そうやって肉欲に溺れさせて、堕落させて、汚れきった貴女をお友達に見せたらどんな反応をしてくれるでしょうね?
心ごと壊れちゃえばいいんだよ、リリアンヌ。そうしたら、貴女の魂を覆う硬い外殻にヒビが入って、中身が滲み出てくるの! その甘い雫を、ああ、この舌で受けとめたい……。舐めて啜って、貴女を全部ぜ~んぶ味わいたいの! 魂を食べたら、貴女の体は私が使ってあげるから。大切に大切に、ね……。
初めて見た時からわかってた。『貴女は私のものだ』って。リリアンヌ……リリアンヌ! 可愛い、私のリリアンヌ! うふふふふ、あははははっ!
「……なに、笑ってるの? 僕は、大事な話をしようとしているんだよ、D!」
『あれぇ、笑っちゃってましたぁ? ごっめんなさい! ……で、どうしたいんですって?』
リリアンヌはたじろいだ。私のことを怖いと思ってるんだね。わかる。わかるよ? それで? 諦めちゃうの?
「……僕、ニールたちと別れたくない」
『ふぅん?』
「もう、一人は嫌だよ! 僕にだって仲間が欲しい! Dのことは好きだけど、だからって僕の全てを思い通りにしようなんておかしいよ……! 僕たち、友達だと思ってた。友達なら、僕に仲間ができること、喜んでほしいよ。僕の話もちゃんと聞いてよ。僕のこと応援してよ!!」
『……………』
そんなことできるわけない。
だって、私に、私だけに依存してくれなきゃ困りますもん。今はまだ、リリアンヌ以外の人間を操ることができないから……。親しい人間を遠ざけて遠ざけて、リリアンヌの孤独に付け込む以外、私にできることはない。あの大魔導のことを忘れさせるなんてもちろんできないけど、その他の人間の記憶なら好意を寄せたことも寄せられたことも、なかったことにできる!
「ねぇ、D……きみ、僕に何かしたでしょう」
『!』
「気付いてるよ、それくらい。でも、それについては何も言わないよ。だから、しばらくそっとしておいてほしい。やっと魔王の手がかりの近くまできたんだ、もう少しなんだよ。皆となら、魔王だって何とかできる気がするんだ……」
『無理でしょ!』
「え……?」
『だって貴女、自分以外を守れないじゃないですか! 言ったでしょう、足手まといだって。あんな弱い生き物と一緒にどうやって魔王を攻略するつもりなんです? ああ、死んだら術で動かせばいいですもんね!』
「やめて。そんなことしない……僕たちは大丈夫だよ……」
『ふふ。震えてますよ?』
「…………」
さっきまでの勢いはどこへやら、リリアンヌは俯いて唇をかんだ。あらあら、しおらしくなっちゃって!
『協力してあげてもいいんですよ? 前にも言ったでしょう、貴女と私なら、魔王だって倒せるって。ね? だから、私と契約しましょうよ』
「それ、は……」
『ずっと言ってるでしょう? 契約してくれれば、力を貸すって……』
「……契約がどんなものなのか、まだ、聞いてない……」
『そうでしたっけ! うふふ、簡単な話ですよ……私が貴女の物になる代わりに、貴女も私の物になるんです。ね、何も難しいことなんてないでしょう?』
「そん、な……」
『だって私、本でしょう? 私は自由に動くことすらできないんですよ。だから、ちょっとくらいその体を貸してくれてもいいでしょう? ちょっとだけですよ、感覚を共有したり、手足を自由にしたいだけです。 ねぇ、リリアンヌ?』
怖い。信用できない。そんな感情が流れ込んでくる。ええ、ええ、そうでしょうとも。信用なんてできないでしょうねえ! だって貴女の体を乗っ取ったら、私は貴女を孤立させるために動くもの!
『私が力を貸してあげます。そうしたら、魔王なんてすぐに倒せますよ……。他の誰にも犠牲を出さずに。それって、すごいことだと思いませんか? ね、リリアンヌ、私になら、体を預けても平気でしょう?』
「それは……!」
(嫌だ! ……怖い。怖いよ)
リリアンヌの恐怖が伝わってきて、私は身悶えするほど心地好かった。そう、貴女のその泣きそうな表情が好き! 叫び出したいのをギリギリでこらえているその揺らぎが大好き! まるで掌に閉じ込めた小鳥みたい……ぐしゃっと潰してしまいたい!!
『ね、契約しよ? 貴女の体を少し使わせてくれるだけでいいから。ねぇ、私の力が欲しいよね? ね?』
「…………」
『魔王を倒したいんでしょう?』
「……倒したい」
『なら、簡単なことじゃない! ふふ、魔王を倒した後でも構わないですよ?』
「……?」
リリアンヌがのろのろと頭を上げた。そのぼんやりとした黒い瞳には何の感情もない。
『私との契約は、魔王を倒した後でもいいですよ』
「……本当に?」
『もちろん! まぁ、その分、手助けは限定的なものになりますけどね』
「……良いよ。魔王を倒した後なら。この体、好きに使えば良い」
『リリアンヌ……! なら、約束ね。私はもう貴女の邪魔はしません。魔王を倒すまでは、口出ししない、ね? 私の助けがほしくなったら、私をいつでも頼って? ね、リリアンヌ』
「うん、約束だよ。……ディーヴル」
『ええ、リリアンヌ!』
リリアンヌは、それはそれは可愛らしい微笑みを見せてくれた。そう、リリアンヌには破滅を望む部分がある。鋭いナイフを見たら指先を滑らせて血の珠を見たくなるような、崖の下を覗き込んで陶然とするような。痛みでしか自分と世界との距離を推し量れない人間なのだ。そう、リリアンヌ、貴女と私は似てる。嫌がりながらも心の奥深いところでは支配による隷属を望んでる。痛めつけてほしい、踏みにじってほしい、そうでしょう!?
貴女は今、自分で自分の仲間を危険にさらしたことに気付いている? いいよ、あの中の誰かを失って泣けばいい。そのとき貴女は何を感じるかしら? きっと痛みと共に悦びを感じるはずだよ。ふふふ、楽しみだな~。うふふふふ、きひひひひ。きっひひひひひひひ!!




