ゲッカ ★
以前、活動報告に載せていた新キャラの設定をここにも書いておきます。今更ですが。
◆フィー(オフィーリア・アルファラ)
おっぱいねーちゃん。20歳。独身。
黒術の使い手で、髪の毛が紫というファンタジー仕様。チョロイ。
◆ゲッカ(月華)
胸の膨らみは大胸筋。2X歳。独身。
丸くてプリッとしたお尻がチャームポイントのオレ様系おねーさん。わりかしチョロイ。
◆サム(サミュエル・トール)
そこそこの剣士。フィーの犬。
◆ガイエン(孩焔)
療術士だがガタイが良い。いつもゲッカにボコられている。
◆ジャハル
ニールの師匠。とおっても嫌な奴。
ジョーに嫌われている。
サムの腕に抱かれて、フィーは弱々しく謝った。その額には汗の珠が浮き、肌は血の気を失って白い。
「ごめんなさい……私、出来るだけ頑張ったんだけど……。結局、氷が……、ごめ……なさ…………」
「もういいから、大丈夫だから。おれに任せろ、フィー」
「……サム、ありがとう」
彼の胸に頭を預け、安心したのかフィーは気を失ってしまった。慌てるサムを制し、ガイエンが脈と呼吸を診た。
「大丈夫だ。一時的に気力を使いすぎたんだな。しばらく寝てれば治る」
「は~、よかったぁ~」
心配も安堵も目に見えて大きかったサムが、大切なものに頬擦りするかのようにフィーに顔を寄せる。僕は礼儀として目を逸らした。
「やめろ、ド変態が! 寄越せ、オレ様が抱く!」
「うっ。ちょ、スパイク……!」
「るせー、とっとと下ろせ。フィーに触んな」
耳栓を外し、大盾を脇に置いたゲッカが大股でやってきて、鋭い棘を履いた足でサムの鎧われた太ももを蹴る。激しい剣幕のせいか、サムは渋々といった表情で腕の中のフィーを差し出した。ゲッカは自分と同じくらいの体躯である彼女を軽々と抱えて、男二人を睨めつける。
「こぉの腰抜け共、またジャハルにトドメ刺されてるじゃねぇか。んで登らねんだよ」
「いやいやいやいや」
「無理無理無理無理」
「エストック足場にするっつってたろが?」
「思ったより硬くてさ……、腹にしか刺さらなかったんだ」
「ったく……それでも戦士か。あ、ガイエン、後で体貸せ。思いっきりしごいてやる」
「……ぅぐ」
そう言って笑ったゲッカは、まるで悪者だった。ニヤリと曲げられた口許、剥き出しの歯が獣みたいだ。目を付けられてガイエンも可哀想に……。
「そら、使えそうな部位の剥ぎ取りと、片付けと、さっさと行ってこい!!」
「はい!」
「ああ……」
駆け足で“凍てつく守護者”のほうへ向かうサムと、とぼとぼと歩いていくガイエン。僕も向こうを手伝おう。こんな大きな魔物、倒したあとはどうするのか興味もあるし。
「ジョー、ちょっと来い」
「……え」
ちょっとした大きさの岩に背に、フィーを自分の肩に預けさせて座るゲッカに呼び止められた。何だろう、説教されるようなことしたかな、僕……。
「お前、オレ様に隠し事、あんだろ」
「えっ。…………ない、です」
「あぁん?」
「ひっ……」
今は下ろされている前髪の隙間から覗く鋭い眼光に、思わず身がすくむ。隠し事なんて、ありすぎて逆にどれのことを言われているのか分からない。震える僕をじっと見据えながらゲッカは薄い唇を開いた。
「お前、【雷撃】使いだと聞いてたが、【障壁】使ってたな?」
「!」
「つまり両属性持ちじゃねぇか。癒しの術は習わなかったか? 習ってねぇなら今から覚えろ。……出し惜しみすっと死ぬぞ」
「えっと……」
「お前じゃなく、仲間がな」
「………………」
「オレ様は嘘つく奴が嫌いだ。そういう奴は目が腐ってる。ブン殴って生まれてきたこと後悔させてやりてぇよなぁ……」
(やめてください! 後悔する前に死んでしまう……!)
僕はゲッカの拳が突き刺さるところを想像して震えた。“凍てつく守護者”よりもゲッカが怖い!
「でもな、理由があって嘘ついてる奴も分かる。ニンゲン色々いてよ、しょうがなく嘘ついて生きてかなきゃいけねぇ奴もいるし、嘘つきすぎて自分じゃ何がホントか分かんなくなってる奴もいんだろ? そういう奴はさ、一発殴ったらたいてい、許してやろっかなって気になる」
「…………うん」
それでもやっぱり一発殴るんだね、と僕は思ったが黙っておくことにした。ゲッカが続ける。
「お前さ、聖火国に行くつもりなんだって?」
「……うん、そうだけど、それ、どうして」
「ソーンに聞いた」
「……そう」
ソーンさんでは怒れない。僕はゲッカの隣に腰を下ろした。きっとこの話は長くなる。
「フィーも聖火を目指してる。家庭教師だか何だか、ジジイの妄言を真に受けちまってな。このままじゃ氷が広がって、東の火山まで埋まるってな。バカな話を信じてんだ」
「……バカな話じゃない。全部本当のことだ。季節が狂って、国を追われてるひとたちがいる……これは全部、魔王のせいなんだ」
「………………お前も作り話かぁ?」
「事実だ!」
猛禽のように鋭い目が僕を射抜く。これだけは譲れないと、負けじと睨み返す。無言の応酬の果てに、ゲッカは長く溜め息を吐き出して視線を逸らした。
「頑固だ。お前も、こいつも。だったら一緒に行ってやれ、オレ様はもうここに用はないし、聖火に行くつもりはねぇ」
「……え? 別れる、つもり、なの?」
「元々、ずっと一緒に行動してたワケじゃねーよ、王都で追いたてられてたのをオレ様が拾ったんだ。十ン年ぶりに会ってビックリしたぜ」
「知り合いだったの?」
「親がな。オレ様は、会ったニンゲンの匂いを絶対に忘れねぇ。だからすぐにこいつだと分かった。……フィーのは特に、忘れられねえ」
その声音に痛みが混じっている気がして驚いた。
「とにかく、オレ様は故郷に帰る。だからお前がフィーについて行け、フィーを守れ」
「どうして、僕に……?」
「お前はニールが好きなんだろ? だったらフィーには手ぇ出さねぇだろ」
「っ!?」
「サムは許可なく手ぇ出したりしねぇだろうが、ニールのバカがちと不安なんだよ。よく見てやってくれよな」
「なっ、ちょっと!? どういう理屈? というか、ニールが聖火に行くわけないよ、ジャハルと旅するって、ずっと待ってたんだ」
「あん? ジャハルはオレ様とガイエンと三人でアルファラを経由して東に渡るぞ? お前を仕込んだらすぐにでも立つ」
「……はぁっ!?」
何を言い出すんだ……。だって、だって、約束したんだろうに。
今は留守番だが次は一緒に旅をしようと、そう言ってニールをデルタナに預けたんじゃなかったのか!
(何て、いい加減な男なんだ……!)
ふつふつと沸き起こる怒りを、拳をぎゅっと握り締めることで堪えた。
「……ニールは納得しているの?」
「知らん。本人に聞け」
ゲッカは冷たく突き放すように言った。
僕は唇を噛む。
さっき、ゲッカの中に痛みがあると感じたと思ったのは気のせいだったんだろうか。どうしてこのひとは、こんなに冷たいんだろう。こんな風にフィーの肩を抱きながら、フィーの涙を踏みにじる……! それにジャハルもジャハルだ、ゲッカに付き添うよりもニールの側にいてやるべきだ!
「何だ、言いたいことがあるなら言えよ」
「……ゲッカはフィーのこと、好きじゃないの?」
「………………。オレ様にはやるべきことがある、それだけだ。こいつにも、役割がある。それなのに下らねぇ理由で親の顔に泥を塗ったこいつに腹が立つ」
「そんなっ」
「誰にでも役割がある。最初からそうと知れてる奴もいりゃあ、最期まで見えねぇ奴もいる。見えてなかろうが何だろうが、役割を果たせてりゃどうだっていい。きちっと生きてりゃ多かれ少なかれ誰かの役に立つ。それならそれが役割だっつうんだ。
オレ様は、まずは見えてる役割から果たすだけだ。今のフィーは逃げてるようにしか見えねんだよ。何かしなけりゃいけねぇって気持ちだけで動いたって、本当にそれはお前の手に負えるモンなのかっつう話しだよ。本気で解決するつもりがあんなら、他の誰かに任せんのも手だろーが。何が必要か、見極めもできねぇで突っ込むのはバカだぜ」
「………………」
耳に痛い言葉だった。
まるで僕自身のことを指しているみたいで、真正面からゲッカの目を見ることができなかった。
「オレ様はもう行く。ニールの奴、指導してやんなきゃなんねーからな。ちょっとこいつ見とけ」
「………………」
フィーを岩にもたせ掛けて、ゲッカは立ち上がった。髪を掻き上げながら去っていく背中を眺めることしか出来なかった。今の、僕には。見下ろしたフィーの白い頬に、涙がひと筋、流れていた。
お読みくださりありがとうございます。
★以下、小話★
ジョー「そういえば、フィーとサムって恋人どうしなんじゃないの?」
月華「いいや? んなワケねーわ。そうだったら殺す」
ジョー「殺すのっ?」
月華「あいつはただの犬だろ。フィーはやらん」
ジョー「えー…」
ジョー(でも、キスしようとしてなかった? むしろフィーはサムを椅子とか踏み台にしてたけど、それはどうなの?)
疑問のまま終わる。むしろ終われ。




