竜の卵
木も草も花も大きな『きょもり』には、卵が孵るお手伝いをする孵化師のロロが住んでいます。
赤い屋根と真っ白な壁のおうちにはたくさんの本があって、ロロはいつも卵を抱えながら本を読んでいます。
ロロの赤いカバンには色々な卵が入っていて、お空の卵、森の卵、川の卵、他にもたくさんの卵が自分が生まれる日を今か今かと待っています。
今もロロの膝には緑色の卵。
ペラリペラリと大きな本のページを捲り、卵を撫でます。
「あーこれは森さんの卵さんですねー」
撫でられた卵は返事をするようにユラユラ。
「命がいっぱいの森になりましょうねー」
卵はロロが抱えられるくらい小さいけれど、その中には卵よりもずっとずっと大きなものが詰まっています。
赤いカバンは卵達のゆりかご。
ロロの腕の中で卵達は育っていくのです。
必要としている所でロロは卵をかえします。
そうして空も海も生まれていくのです。
たくさんの本に囲まれ、いつも卵達と一緒ですが、ロロはひとりぼっちでした。
妖精さんも動物達も遊びに来てくれますが、ほとんど一人です。
仲良く帰っていく妖精達や動物の親子を見送りながら、ロロはいつも寂しいと思っていました。
遠くの島まで行きたいという鳥さんのために風の卵をかえした帰り道。
大きな木の下に大きな赤い卵が。
もしかして落としてしまったのかとカバンを覗き込みましたが、なくなった卵はありません。
赤い卵はロロが縦に二人、三人と並んだよりもずっとずっと大きい。
「なんの卵さんですかー?」
撫でながら尋ねるとふるりと卵が震えて、ピシッとヒビが。
中から現れたのはカラを頭に乗せた赤い竜。
「わー竜さんでしたかー」
ロロを見つけた赤い竜はカラを破って出てきました。
「親さんはいないですかー?」
いないと赤い竜は首を振ります。
「いないですかー」
親竜は卵を残して遠くへ行ってしまったようです。
生まれたばかりの竜をこのままにして帰るだなんてできません。
「ロロのおうちに来るですかー?」
ロロのおうちはロロしか入れないけれど、そばには大きな大きな木があるのでお日様のピカピカや雨さんを避けることもできます。
「どうでしょー」
赤い竜は行くと頷きました。
「ではではーおうちに帰りましょー」
さっそく歩き出そうとしたロロの服を赤い竜がくわえて引き止めます。
「おかしいです進めませんー」
赤い竜を見ると名前が欲しいと言われました。
そりゃそうです。
いつまでも竜さんなんて呼べません。
一緒にいるんですから、名前は必要です。
うーんうーんとロロは考えます。
カバンを置いてゴロンゴロンしながら考えに考えます。
「ドランはどうでしょー?」
気に入ったのかペロンと顔を舐められました。
「今度こそ帰りましょー」
その日からロロは一人ではなくなりました。
材料集めをするロロとそれを手伝うドラン。
お願いをしに来る動物達もドランを見て最初は驚いていました。
竜は凶暴でこわいものだとみんな思っていたからです。
でも、ロロと一緒のドランはこわいものではありません。
あちこちに走り回るロロを目で追い、後ろを付いて歩く。
まるで大きな犬。
何もこわいことはありません。
ずっと一人だったロロに家族ができました。
今日から一人と一匹の卵屋さんです。