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ユメロマ  作者: 白菜
傘盗難事件編
5/32

一章2

 それから10分後──。



「こんにちは、小輿ちゃん──きゃあああっ!? き、桐原君!?」


 部室のドアからノックと共に慌てて出てきたのは俺と同じく主に被害者担当の小波こなみ 穂菜ほな


 どうやら、遅れて部室に来たようだが、この状況を見てさらに大慌てしている。

 当たり前だ。部室で部員が天井に逆さ吊りにされていて尚且つ、顔面の面積が通常の倍ほどになっていれば誰だって驚く。

 驚かない奴は人間を滅ぼしやって来た血も涙もない悪魔か、国代のように性格は誰よりも悪く、汚い奴に違いない。


「あら? 穂菜ちゃん? 来たのね」


 当の張本人は何事もなかったように小波に対応している。

 ……鬼である。


「な、ななな、何をやっているんですか!? 小輿ちゃん!」


「公開処け──公開処刑よ」


「言い直すわけでもなく言い切った!?」


 この通り、見てて分かると思うが、小波は国代とは違い、かなりマトモな性格をしていて、大変可愛らしい容姿と類まれなドジ属性から、学校のアイドルとして扱われている存在だ。

部活では数少ない(つか、基本的に小波だけ)味方で、存在面で言ったら、堅物ですぐに暴力に手を出すまな板女の国代とは大違い、天と地の差がある。

 今日も至極普通な行動が俺の清涼剤になっているなぁ……。

 小波さん、マジ天使。


「と、とにかく早く桐原君を解放してあげてください! 可哀想ですっ!」


「そうだそうだ! この体制、頭に血が上ってヤバいんだよ! だから早く解放しろ──いえ、してください! 本気で死ぬってこれ!」


 俺を庇うように前に立つ小波に便乗するように囃し立てる。


 もう本当にヤバい! 頭に、血が……!


「うーん、不細工の桐原も顔を真っ赤にして、白目をむかせれば少しはマシな顔つきになると思ったんだけど」


「それはもう事後だぁっ!」


 コイツの目に俺がどう映っているんだ!?

 平和であるはずの学校の部室を殺人現場に変えようとするな!

 ああ! こんな自分の命の危機が迫っている場面だというのに、ツッコミを優先してしまう俺のツッコミ魂が憎い!


「……ま、穂菜ちゃんがそう言うなら仕方ないわね。だけど、これに懲りたらもうこんな事はしないでよ」



 不満そうにしながらも、国代は持っていたナイフで俺を吊るしていた縄をぶった切った。


「うげっ」


 重力に従い、床に叩きつけられる。

 妙な声が漏れ、打ち付けた背中をさするように痛がる俺に小波が心配そうに駆け寄って来た。

 やっぱ、小波は優しい。


「大丈夫ですか、桐原君?」


「あ、ああ、何とかな」


 一瞬、幻想的とも言える綺麗なお花畑が脳裏に浮かんだんだが、大丈夫だよな?

 念の為、後で脳にダメージがいってないか検査してもらおうか。


「ふん、パンツを覗こうとする桐原が悪いのよ」


「あ? まな板女が何を──ストーップ。一度しまいかけたナイフをこっちに突き付けるなー。この通り反省してますからー。ごめんなさいー」


 瞳の色を消しながら、ナイフを突き付ける国代に両手を上げる。

 空手でインターハイまで行った事がある国代に単純な戦闘力で敵うわけがない。

 にしても、相変わらず『まな板』は禁句か。

 いい加減、織里香と同じに事実を認めてもいいと思うんだがな。


「き、桐原君……そんな事しようとしてたんですか……?」


 気がついたら小波が目を潤ませながらこちらを見ていた。


「ち、違っ……! おい、国代!

 俺にあらぬ疑いがかけられてるぞ! 弁護してくれ!」


「弁護も何も……事実なんだから否定出来ないじゃない。

 ……鏡を使ってパンツを覗こうとするという古く浅ましい手段を用いた変態」


「せめて、それだけは言わないで欲しかった!」


 弁護どころか追い討ちをかけられた。

 ううっ……聞くたびに自分の浅ましさが思い知らされる。

 何か他にやり方があっただろうに俺……。


「桐原君っ! お、女の子のパンツを覗くなんていけない事なんですよ!?」


「ごめんなさい! 反省しておりますっ!」


 国代には兎も角、小波には頭が上がらないので、土下座を決める俺。


 安い?

 何を言っているんだ。土下座とは頭を地面に付けさせすれば何でも許してもらえる魔法のような動作なんだぞ?

 多用しないでどうするつもりなんだ。


「まったく……小輿ちゃんにはそういう事を平気でするのになんでわたしには……」


「? 何か言ったか、小波?」


「何でもありませんっ!!」


「そ、そうか」


 やっぱり今回の事は小波も相当怒っているらしい。

 どうやって機嫌を取ろうか……?


 ぷんぷんと頬を膨らませる小波の前でそんな事を考えていると、ふとした事に気がついた。


「思ったんだが、他の三人はともかく、小波が俺より遅く来るってのは珍しいな。何かあったか?」


 一番に部室に来て、お茶を用意するのが日課になっている小波だ。

 となると、何か外せない用でもあったのかもしれない。


「……そういえばそうね。日直だったりでもしたの、穂菜ちゃん?」


「そ、それは、えっと……」


 俺と国代が尋ねると、何だか言いにくそうに体をもじもじさせる小波。


 どうしたんだろうか。



「ククク……同志達よ、待たせたな」



 俺達が集まるその場に響く、不気味とも言える声。


 その声をいち早く察知したのは国代。

 目線が部室の外に向けられ、続くように俺も その方向へと目を向ける。

 すると、そこには──



「クハハハ! 我が名は黒鳴くろなり 春希はるき! 世界の全てを掌握する天才発明家だ!」



 窓の枠に仁王立ちをし、高々と高笑いをする白衣を着た、いかにも小物っぽい人物。

 この部の部長、黒鳴先輩が掃除機のような何やら怪しい機械を持って、まるで悪役のように颯爽とこの場に現れたのだった。

 うわっ、残念臭が半端じゃない。


 決まったと、ばかりにメガネを光らせる黒鳴先輩を俺と国代は冷めた目で見ていた。

 ちなみに小波は恥ずかしそうに俯いていた。


 気が済んだのか、窓の枠から飛び降り、持ってきた機械を見せつけるように俺達の目の前に置き、改めて俺らの方に目を向け、


「ほぅ、もうこれだけ集まっていたのか。

 ククク、これも我の人望のおかげぐぁあああっ!!」


 そして国代から制裁という名のアイアンクローを喰らった。


 まぁ、当然と言えば当然だろう。


 黒鳴先輩が現れた窓からは恐らく、四階から垂れているであろうロープが見える。

 つまり、黒鳴先輩は四階からそのロープを伝ってここまでやって来たというわけだ。

 そんなどこぞの中二病眼帯女子高校生のような行動に俺はツッコミをするべきかと考えたが、どうせいつものように国代が制裁をくわえてくれるだろうとスルーしたら、予想通り、整形外科の病院でもないのに顔の整形手術を見る事になった。

 先輩の顔の形が変わる、変わる。

 これが現実でなく、アニメやゲームなら愉快だと言えたかもしれなかったが、実際に見るとグロテスクなだけだった。



「な、何をする小輿よ! 我が何をしたと頭蓋骨が軋むぅううううっ!!」


「バカ春! アンタ、どんな所から現れているのよ!」


「い、いや、ナイスな登場だっただろう?」


「どこがよ! とりあえず、ここから飛び降りなさい!」


「バイオレンースッ!?

 罰にしても他になかったのか小輿よ!? というより、我は何も理由もなくあんな所から来たりしない! だから、我に飛び降りという名の処刑を促さないでくれ!」


「当たり前よ! 理由もなく四階からロープで伝って来たなら日本語は必要ないもの!」


「実はいつもとは違う登場を仕方を試してみたく──まて! 何故我が言い終わる前に我を窓から投げ捨てるような体制をとっているのだ!?

 日本語は必要ではなかったのか!?

 よ、よせっ、やめろっ! た、助けてくれ桐原! 小波よ!」



 あわや、黒鳴先輩の悲鳴が学校中に響き渡るかという瀬戸際の中、俺と小波は──



「実は先程、黒鳴先輩の実験に付き合っていまして、それで遅れてしまったんです」


「ああ、なるほど。それは災難だったな」


「はい……色々大変でした」



 他人事のように放置を決め、呑気に会話を続けていた。


 いや、実際他人事だしなー。



「で、どんな実験に付き合ってたんだ? まさか『マズイ! この高さはマズイ!』新薬の実験体にされたとかじゃないよな?」


「いえ、新薬の方は一旦保留して『我が! 我がまるでゴミのように投げ捨てられる!』いるそうなのでその実験はなかったですけど……」


「んじゃ、また発明品か? ったく、ロクなもの作らないからな『わ、分かった! 我が悪かったから、許せ──うぉおおっ!? しゃ、謝罪すら聞き入れないのか!?』あの先輩は」


 黒鳴先輩が妙な薬や発明品を作るのはいつもの事なのだが、こんな風に人に迷惑をかけるのならやめてほしい所だ。

 国代に言われても、何されても止めないというのだから本当に呆れた人だ。


「発明品というと、そこに置いてある奇妙な掃除機みたいな奴か?」


 俺が指を指した方向にはドクロのイラストが描かれた趣味の悪い掃除機がそこにあった。

 どうせまた、ロクでもない発明品なんだろうが、どんな物かは一応気になる。


「黒鳴先輩、一体これって何の発明品なんで」


「まて桐原! 貴様は我が窓から突き落とされようされている事よりもそこにある発明品の事を聞く方が大事なのか!?」


「少なくても、先輩の為に時間を割く有意義は見当たりませんけど」


「即答したな!? 我の命に割く時間は無いと即答したな!?」


「とにかく、とっと死──飛び降りて下さい」


「同じだ! 言い方が変わっただけで我に死ねと言ったな! 貴様! 後で覚えていごめんなさい何でもするから助けてくれぇええっ!!」


 生きるために必死の思いで抵抗する黒鳴先輩とそんな先輩を前へ、前へと先輩の背中をキラキラとした笑顔(表面上だけは)に押す国代。

 こうした二人の姿はまるで恋人同士でじゃれあっているようだ。

 ……実際は命のやりとりが行われているわけだが。

 あの二人は従兄妹同士だからか、年の差に関係なく、互いに容赦がないみたいだ。

 いや、ほぼ国代が先輩に制裁を加えるのが主なんだが。


 しかし、困った。

 先輩があんな状況だと、この発明品について聞く事が出来ない。

 また、機会を改める事にしよう。


 そうして俺は小波とのたわいもない雑談にふけっていると、



『……』


「……おおぅ。いたのか、箱ノ中」



 不意に部員の一人である箱ノ中が姿を現わすのだった。


「相変わらず気配がないなお前……調子はどうだ?」


『普通』


「まぁ、それはそうだよな……」


 固過ぎず、柔らか過ぎない肉体。

 肌の色はこんがりと焼けているのか茶色に近い色をしている。

 身長は小さい。幼稚園児並に小さい。


 ……と、箱ノ中の外見について心の中で語ってみたが、何より一番の特徴を俺は語っていない……語らなければならない事がある。

 それは箱ノ中が──まんまダンボール・・・・・である事だ。


「あ、ハコちゃん。今日買ってきたクッキーを食べます?」


『もらう』


「じゃあ、どうぞー」


 小波からもらったクッキーを食べ、美味しかったのか、自身の体 (ダンボール)を揺らし、喜びを表現する箱ノ中。

 もう一度言うが、箱ノ中はダンボールだ。

 中に人が入っているのか、それともダンボール自体が何かによって動いているのか分からないが、(今のところは中に人が入ってる説が濃厚)見た目は完全にダンボールだ。

 いや、ダンボールだから当たり前なんだが。

 何しろ、まず、箱ノ中が喋ったところを誰も見た事がない。

 しかも、箱ノ中がする事といったら、今のダンボールの上に文字付きのプラカードを立てる事と、ガタンゴトンと揺れる事くらいで、そもそも本当に生きている生物なのかも怪しい程だ。

 その時点で、危ない人物(?)なのだが、そこにこの部活でマスコットキャラクター的な扱いをうけているのだから、何というか、その……正直、色々とついていけない。

 ツッコミ所が多過ぎるのも一つの要因だが。


「ハコちゃん、いいこ、いいこ〜」


「…………」


 お菓子を食べ終わった箱ノ中が小波によって犬のように体を撫でられていた。

 小波は箱ノ中をペットのような扱いをしていて、相当可愛がっている。

 こんなダンボールのどこが可愛いのか、小波の正気を疑うところだが、可愛い小波に可愛がられているという事実を抜きにしても、俺は箱ノ中の事が気に入らなかった。

 何故って? それは、


「ハコちゃん、かわいいです〜♥︎(フニュフニュ)」


 こういう事があるからだ……っ!


 だって、見ろよアレ!

 小波がダンボールに顔を埋めたりしているものだから、小波のマシュマロ(推定Eとみた)が変形する程押し付けられているんだぞ!?

 羨ましいだろ!? 代わって欲しいと思うだろ!? そして、自分の手であのマシュマロを心ゆくまで変形させたいと思うだろ!?

 あの天国にも似た光景を地獄にて、毎日のように見せられる俺の気持ち!

 その事をお前は考えた事があるのか箱ノ中ァアアッ!!

 ……ダンボールに生まれ変わりたいと俺が首に縄を巻き付けて何度思った事か……!


 ちなみに『先輩はダンボールに転生出来る発明品とか作れません?』と黒鳴先輩に聞いた所、『桐原はいきなり何を言っているのだ?』と正気を疑われてしまった。

 解せぬ。


 そんなわけで真実はいつも残酷で、無情な現実を俺らの前に突きつけるのだ。



「……こんな風に幼馴染みが鎖と首輪を構えているのも現実の一つ、というわけか」



 いつの間にか、俺の目の前に鎖と首輪を両手に持った織里香が微笑を浮かべながら立っているのだった。


「ごきげんよう、更河さま」


「よう、織里香。それでその妙に高そうな鎖と首輪は何だ?」


「……聞きたいですか?」


「ウン、キキタイナー」


 嘘です。

 全く聞きたくありませんでした。

 つまりの所、現実逃避だよ。


「これはですね……」


「ああ」


 どうせまた、調教用の道具とでも答えるのだろう。

 まったく、本当に織里香には困ったもの──


「──更河さまがわたくしの事が好きで堪らなくなる道具ですわ」


「待て、それは色々な意味で危ない」


 発言自体もアウトだが、その標的が俺というのが完全にレッドゾーンだろう。


「おっと。わたくしとした事が口を滑らせ──道具の説明を間違えてしまいましたわ。ふふふっ……」


「今、絶対に口を滑らせたって言いかけたよな!?

 もはやそれって洗脳だよな! そうだよな!?」


「あら、洗脳なんて人聞きの悪い事を──おっと」


 織里香の手元から何かが転がり落ちる。



(怪しげな色をした謎の液体)



「失礼を……あら? どうしてそんなに距離を置かれるのですの?」


「身の危険を感じたからだよ!」


 あの液体の色は人間が見てはいけない分類の物だった。

 アレを飲んだら多分、一生正気には戻れないような気がしてならない。


「さぁ、更河さま……? まずはこちらを……」


「じょ、冗談じゃない! せ、洗脳なんてされてたまるかあぁぁぁぁっ!!」


「あら、追いかけっこですか? 確か、小学生以来ですね」


「は、早っ!? ちょっ、誰か! 誰か助けてえぇぇぇぇっ!?」


「うふふ。逃がしませんよ、絶対に☆」


 クスクスと笑い声を漏らしながら追いかけてくる織里香は本物の鬼なんて目じゃないくらいに怖かった。


次回で部活についての説明が入ります。

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