プロローグ3
改めて俺と唯斗以外はいなくなった部屋で俺はソファーに飛び込むように座った。
テーブルにお茶を用意してくれた唯斗が反対側のソファーに座わり、対面するような形で俺と唯斗が向き合う。
そして、まだ淹れたばかりで熱いお茶をすすりながら唯斗が話を切り出した。
「枝々咲さんって、いつもあんな感じなの?」
「ん、まぁな。
中学校までは親に会わせようとするくらいでまだいくらかマシだったんだがな」
高校に入ってからどこでそんな知識を得たのやら、事あるごとに俺の事を調教しようとする。
多分、原因は平井あのひとさんだろうが、全く厄介な奴になったもんだ。
これならまだ中学生ように無理矢理キスを迫ってくる方が良かった。
いや、全然良くはないが。
「一途で可愛いじゃないか。羨ましい限りだよ」
「ふざけるな。羨ましいなんて絶対に思ってないだろお前」
へらへらとそんな事を抜かす唯斗をギロリと睨みつける。
人事だからそんな言えるんだよ。
実際にやられる方は困るどころの話じゃないんだぞ?
「いやいや、あそこまで人を好きになってアタックを続ける女の子はそうそういないよ。
美人だし、金持ちだし、頭も良くて、どうして更河が未だに付き合ってないか不思議なくらいだよ」
「そこに『但し、人間性に激しく問題有り』と付け足せ。
それと、デートの時に睡眠薬を飲ませてくるような奴を頭がいいなんて絶対に言わないからな」
「あっ、デートはした事はあるんだ」
「ほとんど無理矢理一回だけな。……あの日ほど、俺は『デート』という言葉を憎んだ日はない」
テーブルに置かれたさっきよりは熱くなくなったお茶をすする。
すると、唐突に唯斗がこんな事を聞いてきた。
「ちなみにだけど、更河は枝々咲さんの事、どう思ってるの?」
口に含んであったお茶を軽く噴き出した。
どうやら気管に入ってしまったようでゲホゲホと咳き込んでしまう。
「うわっ、分かりやすい反応……」
「ど、どどど、どうってどういう意味だよ!?」
「更河は枝々咲さんの事を好きじゃないのか、って聞いてるんだよ」
ドキリ、と心臓が跳ね上がった。
自分でも顔が赤くなるのが分かった。
ああ、くそっ。
こういうのはやっぱり苦手だ。
唯斗にまさかこんな質問をされるとは全く思わなかった。
9歳の時からの付き合いになるからもう7年も一緒に過ごしてきたという事になる。
付き合って、と初めに告白されたのがいつだったか。
それすら覚えていない無神経ともいえる俺なのだが、織里香の告白は毎日のように続いており、俺はそれに今まで一度もまともな答えを返した事すらなかった。
卑怯だとは、分かっている。
でも俺は──
やれやれ、と言わんばかりに唯斗の奴が首を横に振った。
「更河は相変わらずヘタレだね。色恋絡みだと中学生レベルだ。……いや、もしかしたら小学生レベル?」
「うるせぇよ。俺は別にヘタレってわけじゃ……」
「告白をされているのに、返事はまだ返してないんでしょ? やっぱりヘタレじゃないか」
「知ってたのかよこの野郎!」
「ははっ、更河の情報なんて一通り調べ終わってるよ。
もちろん、他の部員の人達もだけど」
「……誰にも話すなよ」
話すとは思わないが、一応、警告をしておく。
「更河のヘタレさはもう皆分かってると思うけどね」
「……バラしたら、お前がシスコンだって学校中に噂を流してやる」
「僕としては逆に屋上で叫びたいくらいなんだけどね。女の子達に寄られるのは非常に困る」
「訂正しよう。バラす、バラさないの有無関わらず、後でお前は殺す」
「あっれー? 何かおかしくない?」
「いいや、何にもおかしくないぞ。
学校にいる全男子が俺の行動が正当なものだと証言するくらい何もおかしい事はない」
「モテない人達の嫉妬は見苦しいねぇ……」
「分かってるなら言うんじゃねぇよボケエェェェェェェェェェェェェェェェェェェェェェッッ!!」
一部を除く、男子を代表して叫んだ。
魂の叫びと言ってもいい。
本気、リア充滅べッ!!
「大体、更河は矛盾してるよ。僕に嫉妬してつっかかって来るくせして、自分は枝々咲さんに告白されてるなんて……本当にモテない奴からしたらそれって嫌みだよ?」
「俺は! 普通の女の子にモテたいんだよ!」
「うわっ、贅沢言うなぁ……その内ナイフで刺されるよ?」
「その台詞、そのままそっくりお前に返す!」
「はいはい……。で、部活の方はどんな調子?」
「……別に。相変わらずだ」
「……そっけないね。願いを叶えるなんてとんでもない事をやろうとしてるのに」
唯斗から向けられた視線に俺はそっぽを向いた。
「仕方ないだろ。本当にそうなんだから」
「『夢力』はどのくらい集まったの?」
「ボチボチだ」
「目的は果たせそう?」
「さぁな」
「枝々咲さんの事、好き?」
「す──うおおっ!? と、唐突に何を言うんだ!」
ナチュラルに地雷を仕掛けやがったよコイツ!
「ちぇっ、あと少しで引っかかったのに……」
「お前はなんだ。織里香の手の者か?
実は織里香に頼まれて、俺を織里香とくっ付けようとしているんだろ? そうなんだろ?」
「ソンナワケナイジャナイカ、アッハッハ」
「台詞が棒読みだあぁぁぁぁっ!!」
織里香の手が回ってないにしろ、どうやら唯斗は俺の敵のようだ。
「大体、お前に俺と織里香をくっ付けて何のメリットがあるって言うんだ!」
「人が嫌がる事って、ついしたくなるよね」
「殴っていいよな? 俺はお前を殴る権利があるはずだ、そうだろう?」
「冗談だよ、冗談」
「……お前の冗談は冗談に聞こえないんだよ」
「うん、知ってる」
「確信犯か、この野郎ッ!」
尚更、タチが悪かった。
本当に何なんだコイツは。
「ま、僕でなくても一途な枝々咲さんの恋路は叶えて上げたいと思うけどね。
……どこぞのチキン野郎のせいで、それが叶ってないんだから」
視線が、痛かった。
「……その事については全面的に俺が悪いと思ってる。
だが、頼むから横出しするのは止めてくれないか?」
「更河が返事を返すって言うんだったらいいけどね」
「……頼む」
深々と頭を下げた。
……逃げてばっかりだな、俺って。
唯斗の言う通り、チキンな自分が嫌になり、自己嫌悪した。
「……早く返事はしてあげなよ。
まったく、何をそんなに迷う事があるのか……」
ぶつくさ言いつつも、唯斗は引き下がってくれた。
その事に安堵する自分がいて、やっぱり自分は最低だと思った。
でも──いや、止めよう。
こんなのはただの言い訳だ。
「……さて、と」
俺は最後の一滴までお茶を飲み干すと、ソファーから立った。
「もう帰るの?」
「ああ、長居し過ぎた。これ以上いると国代に殺されかねん」
「……頑張ってね」
「そんな哀れんだ目で俺を見るな」
余計に悲しくなるだろうが。
それとお前に同情されるとムカつくんだよ。
「あ、そうだ。更河」
ドアを開き、既に帰ろうとしている俺を唯斗が思い出したように呼び止めた。
何だ? まだ何か用があるのか?
仕方なく振り返る俺に向かって唯斗が手を差し出してきた。
「約束の由依の写真。くれるんでしょ?」
さも当たり前のように写真を要求する唯斗。
だが俺は──
「…………」
「? どうしたの、更河?」
「……あの、ここで俺があの言葉は嘘だった、と言ったらどうするんでしょうか?」
「あははっ、そんなの決まってるじゃないか」
一片の曇りもない笑顔で唯斗は答えた。
「コロス」
唯斗が振りかざした痛そうな鈍器は一体どこで手に入れた物なんだろうか?
そんな疑問が生じると共に俺の意識は途絶えた。
現在の夢力【1488】
未だ願いは叶わず──
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次回もお楽しみに!