二章4
「諸君! 悪とは何だ!? 正義とは何だ!?」
『『『強くある事です!!!』』』
「その通りだ! そして我々は強さを得る為、弱さを捨てた! 社会で生きる為の弱さを!!」
『『『その通りです!!!』』』
「では、諸君に聞こう! 我々が捨てた弱さ! 世間の大人にはもう頼らない、関わらないと決めた強さとは何だ!?
──全員で言ってみるがいい!!」
『『『幼女ツルツルペッタンコペロペーロ!!!』』』
「幼女こそ正義だ!!!」
『『『幼女ツルツルペッタンコペロペーロ!!!』』』
「12歳以上は悪だ!弱さだ!!」
『『『幼女ツルツルペッタンコペロペーロ!!!』』』
「よろしい!! そして、もう一度言おう!! 我々は弱さを捨てた! 強さを、幼女を我々『ロリっ子最高同盟』は愛する事を決めたのだ!!」
ワー!! ワー!!
「…………」(白い目で遠くを見つめる俺)
「…………」(脳の許容量を越えたのか、頭から煙を噴き出す小波)
逃げて来た先に俺らを待ち構えていたのは、同級生のクラスメートが一つのクラスに集まり、何かの演説を行なっているという、変態ワールドだった。
つか、異世界だった。
俺には彼らの言っている事が何一つ理解は出来ないが、「正義」とは「悪」とか言っている事を考えれば、きっと人の道徳について語っているんだろう。
そうに違いない。……そうだといいなぁ。
「何なんでしょう、アレは……」
「聞くな、小波。いや、寧ろ見るな。
アレは『ママー、あれ何ー? しっ、見ちゃいけません!』みたいなやりとりを行なうくらいのレベルだから」
「みょ、妙に現実的リアルな具体例を出しますね……」
「というか、本当にアイツらはどうしたんだ? 元々狂っていた頭が360°くらい回って更におかしくなったのか?」
「それはもう人間じゃないと思うんですけど……あっ、こっちに気付いたみたいですよ」
「話が通じるか甚だ不安を感じるが、依頼だしな……」
小波にあんな危険生物と会話させるわけにはいかないので、少し離れた場所で待機してもらうと、小波の言う通り、こちらに気づいた複数人のクラスメートに自ら近づいていった。
「お前ら、これは何の騒ぎだ?」
「桐原か! お前もこの集会に参加しに来たのか?」
「待っていたぞ桐原! さぁ、一緒に一生幼女を愛でる事を誓おうじゃないか!」
「俺は、お前らが何を言っているのか理解出来ない」
初っ端から正気を疑う発言。
事件の事を聞き出すどころか、まともな会話すら出来なさそうだ。
「お前らがどうしようもない変態共だという事は始めから分かっていた。だが、急にその、幼女とか言い出したのはどういう了見だ?」
全員が揃いも揃って新しい性癖に目覚めてしまったのなら話は分かるんだが、それは多分、ありえないだろうしな。
何か理由があるんだろう……と思いたい。
「そんなの分かってるくせに人が悪いな桐原は!」
「いや、本気で分からないんだが……」
「皆ー! 我等の司教を胴上げするぞー!」
『『『オーッ!!』』』
「はぁ? お前、本当に何を言って……って、オイ!」
ワッショイ!! ワッショイ!!
その場のノリに合わせているのか、全員が全員、俺を取り囲み、胴上げを行なっている。
そうして何も分からないまま、なすがままになっていると、
「き、桐原君がまさかロリコン教の司教だったなんて……」
と、小波の悲観するような声が聞こえてきた。
「い、いや、違うぞ小波!? 俺は決してロリコンなんかじゃなく、コイツらが言っている事も全てでたらめで、」
「何を言っているんですか桐原……いえ、司教!」
「そうですよ! 司教の『まったく……小学生は最高だぜ!』の台詞からこの『ロリ最高同盟』は始まったんじゃないですか!」
「そんな事、一言も言った覚えはないからな!? お前ら、何をトチ狂って──おい、小波!? 頼むから俺から距離を取らないでくれ!」
駄目だ……。
既に『桐原君がロリコン……桐原君がロリコン……』とか、呟いて話を聞いてない。
一年間が作り上げた俺の小波へのイメージを返して欲しい。
畜生、一体俺が何をしたっていうんだよ……。
『全てはお前への刑罰だ、桐原ぁ……!』
「はっ!?」
今、確かにどこからか声が聞こえた。
嫉妬と憎しみがこもったそんな低い声が。
気のせい……?
いや、絶対に違う。
そうしてよくよく耳をすませてみると、
『非リア充軍団に所属しているお前が、枝々咲さんから求愛されてるとはな……残念だ』
『しかも、小波ちゃんにまで手を出すという、お前の蛮行……最早、死刑あるのみだな』
『ひゃはははっ、コロス、コロスよ? 殺っちゃうよ?』
「ま、まさか、お前ら……」
間違いない!
コイツらは同志達、非リア充軍団のメンバーだ!
どこから聞いたか知らないが、今まで隠していた枝々咲の事はおろか、今まで、小波と一緒に校舎を歩き回っていた事までバレている。
コイツらはその件で俺をここでずっと待ち構えていたに違いない。
勿論、何をするかといえば、裏切り者(俺)への制裁という名の処刑だろう。
非リア充軍団では、リア充化=裏切り=処刑なのである。
「それ、司教を人気のない場所までお送りしろー!」
「司教はどんな武器……もとい幼女をご所望で?」
「今日はじっくり幼女について語り合いましょうね!」
表向きは笑顔で、それでも言葉の鱗片から殺意がこもっているのが感じられる非リア充共の台詞。
コイツらが言っている『ロリ最高同盟』とやらも、俺にロリコンというレッテルを貼らせる策略の一つだろう。
俺の学校での評価を散々下げた挙句、このまま人気のないところへと運び、刑を執行。
なんてゲスなやり口なんだ。
こんな事したら自分達だってただでは済まないだろうに、そこまでして俺を陥れたいのかと、呆れを通り越して、賞賛すら覚える。
「だからって、大人しくする理由にはならないが、なっ!」
俺は胴上げ状態から、真下にいるクラスメートの一人の顔を思い切り足で踏んづける。
『『『何!?』』』
そのまま、その顔を踏み台代わりに横へと跳躍。
よろけながらも見事、群生から脱出出来た。
「司教ー! 逃げないで下さいよー!」
それでも尚、しつこく俺を捕まえようと駆け寄って来るクラスメート達。
そんなクラスメート達に、素早く体制を整えた俺は懐から取り出した銃を突きつけ、容赦無く引き金を引いた。
パァンッ!!
パァンッ!!
「うげっ!?」
「がっ……!」
立ち上る硝煙と共に、額の中心、へッドショットを決められたクラスメート数人が地面にひれ伏す。
・使用中の発明品の説明
発明品名【中二病患者のための魔法銃マジックガン】
自分の魔力(夢力)を弾代わりに使用出来る不思議な銃。
一回やってみたかった、との事で作られた中二病患者の発明品。
デザインだけは無駄にカッコイイが、威力はそこそこしかない。
(消費夢力は一発につき、0.1)
※人の平均夢力は1000前後。
「や、野郎! モデル銃ガンなんてものを隠し持ってやがった!」
「クソったれが! 汚ねぇ野郎だ!」
仲間がやられた事により、向こうに若干の動揺が見受けられる。
既に化けの皮が剥がれ始めているのか、隠し持っていたんだろうと、推測出来る武器を手に持ち、人目を気にせず襲いかかってくるクラスメート。
……人数も多いし、ここは逃げるしかないようだ。
更に俺は銃で数人に撃ちこんだ後、またもや小波の手をとり、逃走を開始する。
『待て! 逃げんなテメェ!』
『半殺しで済ませてやるからこっちにこいや!』
「待てと言われて待つ馬鹿がいるか! ロリコン共は幼稚園にでも行って通報されてくるんだな!」
『なっ……! その手があったか!』
『鈴木!?』
「待て! 俺はそういう意味で言ったわけじゃないからな!?」
『ふっ……待てと言われて待つ馬鹿がいるか?』
「それ以上の馬鹿ならここにいるけどな!」
『幼女ツルツルペッタンコペロペーロ!! 幼女ツルツルペッタンコペロぺ(パァンッ!)──くぼっ!』
『鈴木ーーッ!?』
『し、死ぬ前に幼女の胸を舐めたかった……(ガクッ)』
『お前の遺言はそれでいいのか!?』
『つか、コイツって本気ガチでロリコンだったのか……?』
混沌過ぎる空間を通り抜け、俺は一回だけでもいいから、全力で叫びたかった。
学校ここには、マトモな人間がいないのか、と。