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セムナーン攻略戦 2

 ◆ 

 

 セムナーンにおいて、ジャムカが父の死を聞かされた日、叔父であるカザンはジャムカの未来を切り捨てた。

 もとよりクレイト帝国において皇室とは、所詮互いに血で血を洗う関係でしかない。眼前の敵よりも、いっそ身内の方が恐ろしいのである。


「ジャムカ、余は本国へ急ぎ戻らねばならん。それにあたり、貴様には敵の陽動をしてもらいたい」


「……はっ」


「……が、これはお前にとっても悪い話ではない。以後、西方遠征軍の指揮は貴様に任せるのだ。ゆえに、これより以西、切り取り次第、全て貴様の国とする事を許す。励めよ」


 カザンの温情溢れるかに思える言葉とは裏腹に、ジャムカに残された兵力は少なかった。

 彼女直属の二万が、その手に残された兵力である。

 これでセムナーンを守るなど、絶望的ともいえる数字だった。しかしジャムカは全てを捨てて絶望したりはしなかった。


 カザンの言葉に頷いたジャムカはその日、早足に叔父の公邸を出ると、自身の公邸に戻り思案した。


 ――少なくとも、オレは自由になるのだ。ならば、やりようは幾らでもある。或いは、シャムシールならば盟を結ぶ道も――


 ジャムカは羽織った外套の裾を持ち上げて、口元を綻ばせた。

 外套は、以前シャムシールに貰ったもので、漆黒の表地に真紅の裏地という黒甲将軍カラ・アミールの代名詞にもなりうる装束だ。

 捕虜にされたことは不本意だが、あの妙に温和な敵の指揮官に、ジャムカはもう一度会いたいと思っていた。


 シャムシールの強さは、カザンとの戦いを見て知っている。

 もしもあの男が味方になれば、さぞや心強いだろう。

 いっそ、あの男が味方になってくれるのなら、この身体を差し出しても構わない。


 そこまで考えてから、ふとジャムカは窓の外を見る。


「父が死んだというのに浮かれているのか、オレは」


 セムナーンの上空は、冬の青空が広がっていた。

 本国にある草原と、それ程変わらない澄んだ空気がここにはある。

 さらに西に行けば、巨大な砂漠が広がっているというが、まだ、ジャムカは砂漠を見た事がない。


「あの男ならば、オレを砂漠とやらに連れていってくれるだろうか? いや、負ける前提で、しかも生き残る事を考えるなど、オレもどうかしている。まずは、勝利を目指すとしよう」


 そっと窓の外を見つめ、敵の指揮官に思いを馳せるジャムカ。

 彼女はその後、カザンを撤退させる陽動戦を見事に遂行してみせた。

 そしてさらに数日後、シャムシールによる全面攻勢に直面したのである。

 

 ◆◆


 俺がセムナーンに対する総攻撃を命じて、一時間ほどが過ぎた。

 右翼ではアエリノールが暴れ周り、城壁を今にも突き崩しそうだ。

 左翼のダスターンは慎重に戦い兵の損耗を避けているせいか、まだ目立った戦果は上げていない。

 俺の眼下にある中軍は、遠距離からの魔法攻撃に徹して、未だ城壁には取り付いていない状況。


 つまり現状は閉じられた貝の様なセムナーンを、左翼と中軍は突付いているに過ぎない。

 アエリノールだけが桁外れの火力で、強引に貝殻を割ろうとしている感じだ。


 しかし、ジャムカの篭城戦術は中々見事だ。

 七倍近い敵を前にして、見事に軍を統率しているし、常に的確な防御をしているように見える。

 勝ち戦で兵を失いたくない此方の意図を、正確に見抜いているのだろう。

 それに呪術師を優先的に右翼に配置しているあたり、アエリノール対策を講じている点もよくわかる。

 おそらく、ダスターンが攻勢をかけはじめたなら、側面から騎兵でも出して混乱させるつもりなのだろう。

 いっそ教科書通りとも思えるジャムカの戦術は見事で、もしもこれがハマれば、俺はきっとセムナーンを落とす事など出来ないだろう。

 だが残念ながら、ジャムカの兵力は壊滅的に足りない。


 ダスターンには六万の兵を与えているのだ。

 ジャムカがいくらクレイト騎兵を繰り出して混乱させても、焼け石に水ってやつだ。此方が致命傷を受ける事は無い。


 俺は整然とセムナーンを囲む自軍を見下ろして、頃合を見定める。


 右翼方面からは、勢いよく土煙や砂煙が立ち上り、壁がはじける音が幾度も聞こえている。

 左翼方面では、大弓や投石器から火矢や岩石が絶え間なく放たれていた。

 眼下を見れば、ドゥバーンが部隊の前進を命じたらしく、盾を構えた重装歩兵が前面に出て、ゆっくりと歩みを進めていた。


「いくぞ、アーノルド」


 俺は静かに、けれどしっかりと漆黒の竜に声をかけた。

 見据える先は、正面にあるセムナーンの西門だ。

 アーノルドは翼を一度だけはためかせると、風を切って距離を縮める。

 ”びゅう”という音が冑の外から聞こえたが、それでもアーノルドにとっては抑えた速度だったのだろう。余裕がある。

 城壁の上空に辿り着くと、悠然と眼下を見下ろしたアーノルドは、一度、首を右から左に振りながら炎を吐きかけた。


「うわぁ!」


 城壁上にいた幾人かの兵が、炎に包まれる。

 俺としては、あまり見たくない光景だ。

 けれど、ここで俺の火力も示さなければ、そもそもジャムカが出てこないかもしれないから、やむなく頑張る。


雷撃ラアドゥン


 ネフェルカーラに「雷撃ラアドゥン」を教えてもらったシャジャルに、俺は「雷撃ラアドゥン」を教えてもらったのだ。

 何となくネフェルカーラに教えてもらうと、「身を持って覚えろ!」とか言われて散々な目に遭いそうだからである。

 そんな「雷撃ラアドゥン」を連発する俺。

 やはり、三回に一回くらいは静電気程度の”ぱちっ”とした威力。それを喰らった敵兵が唖然としている。

 それはラッキーだぞ、このやろう。

 そういうラッキーな敵は、黒竜を急降下させて槍で貫く俺。結果、敵にとってはどちらもアンラッキーだ。


 右翼からも、雷の落ちる音がしている。


 ”ドォン、ドドォン、ドドドドドドドドドォン”


 これは百パーセント、アエリノールの仕業だ。彼女は、俺が雷撃ラアドゥンを使った事に触発されたのかもしれない。

 だが、これは雷撃ラアドゥンなどという生易しいものではないだろう。

 アエリノールは雷撃ラアドゥンも使えるが、これは断じて雷撃ラアドゥンではない。

 雷撃ラアドゥンというのは元来、風の精霊達に頼んで起こしてもらう奇跡なのだ。ゆえに、連発するということは、余程の信頼関係を精霊達と結んでいなければならない。それこそ俺が魔法を連発した場合に、静電気程度の威力の雷撃ラアドゥンが発生する所以である。

 

 そう、俺は精霊にあまり信頼されていない――しょんぼりだ。


 もちろんアエリノールは、精霊と深い信頼関係もあるのだろう。だが今回の場合、精霊のざわめきを俺は感じなかった。

 となれば、これは精霊魔法エレメントとは別系統の魔法に違いない。ならば古代魔法エンシェントってやつだ。

 アエリノールは、古代魔法エンシェントも堪能なのである。

 おそらくアエリノールは、古代魔法エンシェント爆轟雷ライトニング・デトネーションを使ったのだろう。

 この魔法は、最大半径半ファルサフ(約二・五キロ)に渡って無作為に雷を発生させるという荒業だ。しかも、雷を発生させる範囲を狭めた場合でも、発生する雷の数に変わりは無い。

 つまり、その狭めた半径内で発生する雷が、より高密度になるということなのだから、とんでもない話である。

 それを今、アエリノールは半径百メートル程度に狭めて使ったようだ。

 だとすれば、その中にいた者は、一人も生きていないだろう。もはや敵兵には、ご愁傷様としか言いようがない。


 ちなみに俺が爆轟雷ライトニング・デトネーションを使うと、最大半径三十センチに、無数の静電気を発生させる事が出来る。

 ”ぱちぱち”して、とても痛いぞ。

 それでもアエリノールに教えてもらった翌日に、これをシャジャルに見せたら、


「さすが兄者、すごいです! 古代魔法エンシェントまで使えるなんて! 兄者はよほど大きな魔力をお持ちなのですね!」


 と、よくわからない感心のされかたをしてしまった。

 巨大な魔力で起こす静電気とは、いったいなんなのだろうか?

 でも確かに俺の周りで古代魔法エンシェントが使えるのは、ネフェルカーラとアエリノールだけだ。

 うむ。とすれば、俺も奴らの仲間。つまり化け物? 複雑な気分だ。 


 ともかく気を取り直して、俺は、俺に群がってくるクレイト兵を次々と倒してゆく。

 城壁上を守るクレイト兵は、長方形の盾を持ち、房付き冑を被っているが、皆、徒歩だ。徒歩のクレイト兵なんて、恐くも何ともない。

 右の敵を俺が槍で刺し、左の敵をアーノルドが炎で屠ると、辺りからクレイト兵の姿が消えた。

 呪術師たちはアエリノールにかかりきり、兵の多くはダスターンの方に振り向けられているのだろう。


 その時だった。

 俺の頭上に真紅のドラゴンが現われ、一本の槍が風を切って俺に迫る。

 いきなり頭上から槍を投げるなんて、ジャムカめ、俺を殺す気か! うん、殺す気だよな。


 ――ガンッ――


 頭上から迫った槍を、左手で振り払った俺。

 槍の穂先と俺の篭手が擦れた拍子に、火花が散った。

 こんなことは、絶対に傷つかない鎧を着ていなければ出来ない。ていうか、いっそ避けなくても良かったかもしれない。


 槍の後から迫ったのは、真紅のドラゴンドゥラ。そして当然、その背に跨るのはジャムカだった。

 ドゥラが高火力の炎を吐きながら、俺とアーノルドに迫る。

 アーノルドも首を持ち上げて炎で応戦するが、所詮は火竜の火力に敵わない闇竜。あっさりと負けて項垂れる。


「サ、ササ……氷壁サルジュ・シダールっ!」


 俺は槍を振り払った左手を上空に突き出して、呪文を唱えた。

 これは、サルジュシダールを組み合わせた魔法。水の精霊と土の精霊を同時に使役するのだから、ちょっとは高等技術なのである。

 どちらの魔法も、最近シャジャルに習って覚えた。何しろ火竜と戦うのだから、水系統の魔法は必須だと思ったのだ。

 シダールの方は、ネフェルカーラが恐くて……とは言えなかった。

 

 ともかく俺の言葉が終わると同時に、俺の頭上には透明の氷が現われて、ドゥラの炎を遮断する。

 よかった。魔法が失敗して、冷凍庫で作られる氷程度のモノしか出来なかったらどうしよう、と不安だったのだ。

 だが安心したのも束の間、すぐに炎で熱せられた氷は溶け出して、俺とアーノルドの身体に水を滴らせた。


 俺はアーノルドを左に旋回させつつ、上昇させる。

 そしてジャムカの左側面に回りこむと、アーノルドに重力操作をさせつつ、槍を叩き込んだ。


 しかしジャムカは既に後方に飛び去り、同じ場所に留まっていない。

 つまりジャムカは重力操作の影響を受けず、俺の槍も空を突くハメになった。


「シャムシール……出てくると思っていた」


「ジャムカも、来ると思っていたぞ」


 俺が再び槍を構えると、長剣を抜き放ったジャムカが声をかけてきた。

 ジャムカは薄茜色の鎧に、俺があげた外套を纏っている。冑は被らず、肩口で切りそろえられた髪が、風に揺れていた。


 ていうか、あげた外套をまだ着ていてくれるのが、ちょっと嬉しい。


「ジャムカ。そのマント、まだ持っていてくれたんだな」


「こ、ここ、これはオレがお前から奪った戦利品だ! そう簡単に手放すかっ!」


 口元を尖らせながら怒るジャムカの頬が、ほんのりと桃色になった。なんだか可愛い。


「ジャムカ、降伏してくれないか? もう、お前に勝ち目はないだろ?」


「ある。お前を倒せばオレの勝ちだ」


「ジャムカが俺を倒しても、アエリノールがいるぞ?」


「あの女は……お前が居なければ何も出来ないだろう」


 なるほど。ジャムカは、ただアエリノールに対して苦手意識を持っているだけではない、ということか。

 ドゥバーンにでもアエリノールの性格を聞いたか? いや、それ以前に、ジャムカはアエリノールの残念さに気付いていた。

 やっぱりジャムカは将として優秀だ。


 ジャムカが突進してきた。

 竜を縦に回転させつつ迫ってくる。上下動があるので、狙いが定めづらく魔法が撃てない。

 俺もアーノルドを前に出し、応戦する。


 俺の左肩目掛けて繰り出されたジャムカの斬撃を、槍の柄で弾く。

 そのまま槍先に弧を描かせて、ジャムカの右肩を狙って振り下ろす。

 ドラゴン達はやはり互いにもつれ合い、首筋にかみ付き合っていた。


 槍だと、近接戦闘は厳しいな……やっぱり。

 

 俺は数合、ジャムカの剣と槍で戦ったが、流石に分が悪い。仕方が無いので槍を捨て、曲刀を抜き放つ。

 しかし、この刀だと手加減が出来ない。

 斬ってしまえば、多分ジャムカの鎧ごとばっさりいってしまう。


「ジャムカ! この刀は危ないからな! 気をつけろ!」


「はっ? 何をいっている!?」


 うん、ジャムカの反応は正しい。

 汗の浮かんだ額に切りそろえられた髪を貼り付けて、弾む息を整えながら答えるジャムカ。

 だが、実力差は、どうやらあった。

 俺のほうが、僅かだけど強い。

 もちろん鎧補正が無ければもっと苦戦するだろうが、これで曲刀補正が入れば、俺の負けはまずない。


 俺は力任せに、ドゥラの腹を蹴飛ばした。

 体が大きいドラゴンだけに、俺の蹴りが通用するのか不安だったが、けっこう効いたようだ。

 アーノルドの首からドゥラの牙がはずれ、真紅のドラゴンは大きく咆哮した。


「グウオオオオオ!」


 そんなに痛かったか?

 そしてアーノルドを、仰け反って苦しむドゥラの背後に回りこませる。

 俺はアーノルドの背からドゥラの背に飛び移ると、力任せにジャムカを城壁の上に落とした。


 身体を猫の様に回転させて、城壁上に立つジャムカ。

 金属製の鎧を着ているように見えるが、案外軽いのだろうか?

 それとも、俺の鎧と同じように付与魔術エンチャントの効果だろうか?

 俺もジャムカの側に下りると、曲刀を構えて対峙した。


「どうして今、オレを殺さなかった? 落としたりせず、首を切れば済む事だっただろう?」


「それは、お前を……お前を俺のものにしたいからだ!」


「なっ、なっ、オ、オレまでも、お、お前はっ……後宮ハレムにっ!」


 どうやら俺は、すごく言い方を間違えたらしい。

 部下にしたいと思っていたのに、どうして後宮ハレムという解釈になったのだろう。困った。


「ふっ……それで合点がいった。オレに必要以上に降伏を勧告したり、武器に気をつけろと言ったり……。たしかに、後宮ハレムに入る女を傷付けたくはないはずだ……」


「い、いや、それは」


「――よかろう。もしもオレが負けたら、お前の後宮ハレムに入ってやる! 但し、お前が負けたら……お、お前がオレのモノになれっ!」


 何かが色々と間違っている。

 うっかり勝つと、俺はジャムカの夫になってしまう。

 ちがうんだ。部下になって欲しいだけなんだ。なのに、今更言い出せない雰囲気なんですけど。

 しかも俺が負けたら、その場合はジャムカのモノだって? それは奴隷に逆戻りってことですか? それもそれで避けたいぞ。


 ジャムカは片手で長剣を構えながら、少しはにかんでいる。

 はにかんでいるということは、奴隷という意味ではないのだろうか? 

 意味がわからない。

 意味がわからないまま、俺はとりあえず頷いた。


 俺達は互いに武器を構えながら、しばらくの間、見詰め合っていた。

 流れる空気が、どこかおかしい。

 悲愴なはずの空間に、どこか甘い風が吹いている。


 セムナーンの城壁上にはためくクレイトの国旗が、風の流れが変わった事を告げた。

 北風から南風へ……。

 春が近いとでもいうのだろうか。

 いやいやいや。何を考えている、俺。


 その瞬間、俺は意を決して石作りの城壁を蹴った。

 曲刀を振り上げつつ、刀を返す。いわゆる”みねうち”ってヤツに挑戦するのだ。

 そして距離を詰めると同時に、一気に曲刀を振り下ろした俺。

 ジャムカは、それをかわそうとしなかった。長剣を振り上げ、受ける構えを見せる。

 素早いジャムカにしては、珍しい反応だ。

 

 俺の曲刀は白い閃光となって、ジャムカの長剣を叩き折る。そして手首を返すと、刃の先端をジャムカの首筋に当てた。


「俺の勝ち、だな?」


「あ、ああ。お前の勝ちだ、シャムシール……さま」


 ”ふーっ”と、俺は大きく息を吐いた。

 ジャムカを殺さずに、降伏させることが出来たのだ。

 それにしても、最後、ジャムカの動きはどうしてか、ぎこちないものだった様に思う。


「あ、あんまりお前が見つめるから、て、照れてしまって、手に剣を握る力が入らなかったぞ……」


 ……あれ? ジャムカがデレている……だと?


 そして、俺にぴったりと寄り添ったジャムカ。


「こ、これから、お前の妻になるのだな、オレは。敗れてしまった以上、致し方ない。致し方ないのだが……そ、その、オレは第何夫人になるのだ? それから、さ、砂漠は見る事が出来るか?」


「い、いや、それはまだ先の話で……とりあえずジャムカ……全軍に降伏を宣言してくれないかな?」


 なんだか、ジャムカはあまり負けたことを悔しがっていない。そして、何故か砂漠を見たがっている。どうしたことだ。

 とにかく俺はこの戦闘を収束させる為に、ジャムカに頼み事をした。

 これを聞いてくれなければ、せっかく勝った意味がない。

 

「……わかった。夫の頼みであれば、聞くにやぶさかではない」


 こくりと小さく頷いたジャムカは、もはや武将というより一人の女。だが、周囲に目を向けると、すぐに毅然とした態度で宣言をしてくれた。


「聞け、諸君! 我、ジャムカ・ベルゲは、今日この時よりジャムカ・シャムシール・ベルゲとなった! これは、我が敗れたゆえではない。我が意志によって、シャムシールの伴侶となるものである! 

 ゆえに、我に従いし蒼き狼たちよ! 我と共にあらんと思うものは、共に黒甲王カラ・スルタンシャムシールに従うべし!」


 あれ、ジャムカの名前に、俺の名前が入ったよ? どうしたことだろうね?

 などと俺が途方にくれる暇も与えず、ジャムカの声明を聞いたクレイト軍では銅鑼が打ち鳴らされて、降伏の意思が全軍に伝わっていた。

 

黒甲王カラ・スルタンシャムシール万歳アクバル!」


常勝王ナスル・スルタンシャムシール万歳アクバル!」


「王妃ジャムカ万歳フラー!」


 暫くすると、両軍から歓声が上がった。

 シバール軍からは、俺がジャムカを打ち倒し勝利した事を讃えて。

 クレイト軍からは、ジャムカが俺の妻になる事を讃えて。


 いや、待ってくれ。

 俺はまだスルタンになっていないし、だからして、ジャムカを王妃にするとか、完全に無理だから。

 しかし俺に寄り添うジャムカの表情が妙に幸せそうだったので、今は何も言わない事にした。

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