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二帝の死

 ◆


 俺に抱きついたままのアエリノールの髪からは、相変わらず甘い香りが漂ってくる。

 頭に苺でも生ってるんじゃないか? と不審に思うが、金髪の奥に果物は無かった。

 まあ、頭の中がお花畑だから、毛穴から甘い香りを放っているんだと思っておこう、うん、納得した。


 とりあえず、鎧のせいでアエリノールの柔らかい肉体を堪能出来ない事を呪いつつ、彼女の両肩を掴んで身体を離す。

 あまり長時間抱き合っていると、きっとドゥバーンが来る。そんな気がした。

 

「とにかく座って。お茶、飲む?」


 相変わらず眩しい笑顔を俺に向けてくるアエリノールは、天幕の奥から円座を出すと、自身が座っていた円座の側に置く。


「いや、茶はいらない」


 とりあえず俺は、茶を断った。

 アエリノールは戦闘以外の事が本当に苦手だ。

 例えばチャイを淹れるにしても、どうしてこんなに不味くなるんだ? という位、妙な味になる。

 この地域でチャイといえば、ざっくり言うとミルクティーだ。ミルクティーを不味く出来る人なんて、そうそうざらには居ないだろう。

 ちなみに単なる紅茶でも、アエリノールが淹れてしまえばとても不味くなる。もはやミラクルだ。

 ネフェルカーラが言うには、アエリノールは隠し味として、何にでも「どんぐり」を入れてしまうという事だが、それが原因なのだろうか。

 恐るべし、どんぐりマジック。


「それよりさ、いつの間にこんなものを作っていたんだ?」


 アエリノールの斜め横に腰を下ろした俺は、透明の玉を突付いてみる。

 手触りは滑らかで、ほんのりと暖かい。

 表面にうっすらと黒冑が映って、ふと気が付いた俺。

 まだ、冑をとってないや。


 とりあえず冑を脱いで横に置いていると、アエリノールが答えた。


「行軍中に拾った石を磨いて、魔力を込めたんだよ」


 絶句するしかない。

 普通の石がこうなった、だと?

 岩石を中身透っけ透けにするとか、一体どうやったんだよ。

 もちろん、その理由をアエリノールに聞く愚を、俺は犯さない。聞くだけ無駄だろう。どうせ本人も解っていないのだろうから。


「ふうん」


 だから俺は、頷くだけに留めておいた。


「……ねえ、シャムシール。わたし、ずっと聞こうと思っていたんだけど、ドゥバーンが第三夫人って何!?」


 不意に、アエリノールが俺に身を寄せてきた。ぐっと身体を前に出して、両手で身体を支えている。

 ゆったりした上着から、アエリノールのそんなに大きくない胸が零れそうになっている。

 ていうか、殆ど見えていた。

 けれど、その表情は険しい。細い眉が吊りあがり、口元がへの字に曲がっている。

 

 もっとも、あまり怖くは無い。雰囲気としては、”ぷんすか”とでも言った所か。むしろちょっと可愛い。

 可愛いと言っても、アエリノールは千七百歳のお婆ちゃん。ネフェルカーラの次に長命だ。

 そう考えて、俺は自分を戒める。


「あぁ。前にちょっとネフェルカーラとドゥバーンが、言い争いになった事があってさ」


 俺は、ネフェルカーラとドゥバーンが俺の寝台で寝ていた、という所を端折ってアエリノールに説明した。

 何だか、端折った方が良い気がしたのだ。


「ふうん。ネフェルカーラが第一夫人で、わたしが第二夫人で、ドゥバーンが第三夫人ってことなのかな? いいね! ドゥバーン、ちゃんと分かってるね!」


 アエリノールの笑顔が、はじけた。

 はじける笑顔は、世界で誰よりも美しい。

 もしもアエリノールに匹敵する美貌があるならば、黒髪緑眼の魔術師だけだろう。だが、ネフェルカーラの笑顔はぎこちない。故に笑顔だけなら、アエリノールが世界最強。


 でも、な。


 アエリノールさん? どうしてその話で、そんな解釈に至っちゃったのかな?

 ドゥバーンが第二夫人を空けておいた理由は、何かもっとドス黒いモノの様な気がするよ?


 あ。


 そう考えると、一番被害に合うのが俺じゃないか。


「わたし、シャムシールのお嫁さんになれるんだね!」


 再び抱きついてくるアエリノール。

 拒否権が無い俺。

 俺の頭脳は、満場一致でこの場からの撤退を進言している。

 危ない。このままではアエリノールにまで妙な約束をさせられてしまう。


「は、はは。ア、アエリノール。か、回復したなら、本営に顔を出すように。ともかく、安心した。ま、まずはセムナーンを落としてから、な?」


「うん! セムナーンを落としたら、わたしはシャムシールのお嫁さんだね!」


 撤退に失敗した。

 しかし冷静に考えれば、ネフェルカーラとアエリノールとドゥバーンが嫁になるというのは、凄く良い事なのでは?


 その時、アエリノールの表情が不意に引き締まった。そして、手元においてあった剣の柄を握り、白刃を鞘走らせる。


「くくく、さすがアエリノール殿だ。俺の気配に気付くか」


 不意に俺の背後から現れたジャービルが、アエリノールを賞賛する。

 俺の影から生える様に現れたジャービル。むしろその技は、一体どうやるのだろうか? 


「シャムシールっ!」


 天幕の入り口が勢いよく開き、既に抜刀しているオットーも飛び込んできた。


「ほう? オットー、貴様も気付くか。

 我が君よ、御身を守る盾が皆、優秀で何より」


「ジャービル、遊びに来たんじゃないだろ。何なんだ?」


 実は気配に気付かなかったのが俺一人という、驚愕の事実。

 しかし、それを言ったらお終いだ。

 ということで、さも気付いていたフリをして話を進める俺。

 ついでに言えば、アエリノールの追求もうやむやに出来たので、良かった。


「はっ。皇帝が二人、死にました」


「皇帝が二人? どういう事だ?」


「一人は聖帝カリフフェリドゥーン。いま一人はクレイト皇帝ベルゲ」


 ジャービルの言葉に、息を飲む俺。

 首を傾げるアエリノール。

 そしてオットーはジャービルを窘めた。


「ベルゲ・ハンはともかく、自国の君主を呼び捨てにするのはどうなのだ? ジャービル殿」


 相変わらず抜き身の双剣を携えたまま、オットーが肩をすくめる。


「ふん。俺の主君はシャムシールさま唯お一人。他は皇帝であろうと聖帝カリフであろうと知ったことか」


「ふむ、それもそうか。余計な事を申した」


 悪そうな笑みを浮かべるジャービルとオットー。

 こいつ等、何だかチャーンス! って顔してる。良くない、良くないよ。

 そんな二人に主君と崇め奉られる俺は、つまるところ悪の親玉だろうか。

 しかし、二人がこれ以上聖帝(カリフ)の死について論ずる事は無かったので、俺はホッとした。


「それから、左翼にジャムカが出てきました」


「やはり、右翼の敵は陽動だったか」


 俺は冑を持って立ち上がった。

 ジャムカが出てきたというのなら、通常の奴隷騎士マルムークが束になってかかっても敵わない。竜騎士には竜騎士が当たるのが一番なのだ。


「あ、シャムシール。わたしが出ようか?」


「いや、アエリノール、今日は休んでいるといい」


「でも、もう治ったよ?」


 俺は、縋るアエリノールの頭を撫でてやると、言った。


「治ったばかりだからこそ、アエリノールが心配なんだよ」


「へへ。えへへ」


 相変わらず身を捩って照れるアエリノールだ。

 しかし、本当の事を言えば、アエリノールをジャムカにぶつけると、ジャムカを殺しかねない。だから、俺が真に心配しているのはジャムカの身であり、アエリノールではない。

 ジャムカは敵だが、殺すには惜しい。

 何より、将来クレイト帝国と同盟を結んだりするならば、その架け橋になってくれるかも知れない存在だ。

 ……という理由は、俺が後からとって付けただけである。


 俺は踵を返すと、アエリノールの天幕を後にした。

 俺に付き従うのはオットーとジャービル。なんとも男臭い。しかし、これが戦場。むしろこれで当然なのだ。


 ◆◆

 

 再び本営に戻ると、ドゥバーンが跪いていた。


「シャムシールさま。既にダスターン将軍がジャムカの迎撃に出ているでござる」


 なんでなの!

 戦いたい時に戦えなくて、戦いたくない時に戦いに出される。

 地位が上がって、妙に自由度が減った俺は今、とっても不満だ。

 本営の椅子に腰を下ろすと、ドゥバーンを見下ろして俺は問う。


「ダスターンがジャムカに当たるなど、不利だろう?」


「不利とは存じますが、それでもダスターン将軍はシバール最強とまで言われた騎士にござる。

 ジャムカには一度敗れているとは言え、二度はありますまい。何より――今回の攻撃そのものが陽動にござれば、シャムシールさまはこの場に留まられるがよろしいかと」


 確かに戦場を見渡せば、右翼は既に此方が有利。

 左翼を見ても、ジャムカに一方的に蹂躙されている訳ではない。

 一人、ダスターンが真紅の竜と渡り合っている。

 どうやら、堅実に戦えばダスターンは本当に強かったようだ。

 それにしても、クレイト軍の数が少ない。右翼、左翼合わせても一万にも満たない数だ。これでは、何の為に城壁外に出ているのか分からない。


 ――あっ!


「クレイトの皇帝が死んだということは、カザンは本国に帰るのか!?」


 咄嗟に俺は、思いついた事を口にしていた。

 クレイトの帝位は強いものが継ぐ。ならば、カザンは帝位を継承する為に、国に帰ろうとするのではないか?

 その為の陽動か。

 ドゥバーンの言葉の意味は、そういう事なのだろう。


「はい。恐らくそうなるかと。

 闇隊ザラームの報告では、皇帝ベルゲは一月も前に既に死んでいたようでござる。

 ですが、それを第二皇子であるブルグドゥが隠し、クレイトの帝都アルマリクにおいて戦力の拡充を図っていた様子」


「うむ。ブルグドゥが父帝の死を隠蔽した理由は、東方遠征に出ていた叔父クイルダルと、西方遠征に赴いているもう一人の叔父、カザンを警戒しての事でしょう」


 ドゥバーンの説明を、ジャービルが補足する。僅かばかり居心地が悪そうなのは、闇隊ザラームが真実の情報を掴めていなかった事に対する後ろめたさだろう。

 俺に小さく頭を下げると、自身の席に戻ったジャービルだ。


「とすると、三つの軍がクレイトの帝都でぶつかる、ということか?」


「いきなりそうはなりますまい。まずはクリルタイと呼ばれる皇室会議において、皇帝を選出しようとするはずにござる」


「クリルタイ?」


「ク、クリルタイに出るのか? シャムシール! どんどん大きな男になって! おれは嬉しいぞ!」


 俺は首を傾げる。

 ネフェルカーラが妙な返事をしてきたが、華麗にスルーする俺。

 アエリノールの天幕から出るときに、冑を被ったのは失敗だった。呼ばなくてもネフェルカーラが反応するなんて、もはやこの冑は盗聴器と一緒じゃないか。

 そう思ったので、そっと足元に冑を置いた。

 

「クリルタイとは、クレイト帝国における皇室会議にござる。

 先の皇帝の兄弟、それから息子、娘、甥、姪までが参加できる、選帝会議でござる。

 これですんなりと皇帝が選ばれれば、争いとなる事はござりませぬ」


 なるほど。ドゥバーンの説明は簡潔で解りやすい。

 って、ネフェルカーラはクリルタイの事を知っていたのか。

 だったら、俺が参加出来る訳ないじゃないか。まったく。何が嬉しい、だよ。

 でも――そうすると、今、ここでジャムカが戦っているのは何でだ? 早く戻らないといけないんじゃないか?


「じゃあ、クレイト軍は全部撤退してくれるのか?」


「状況を見るに、そうはなりますまい。

 恐らく、ジャムカを囮として、カザンが今頃撤退しているのでござりましょう」


 ドゥバーンの視線が、少し物悲しそうなものになる。

 ジャムカは、カザンの為の「人柱」といった所だろう。

 考えて見れば、そうだ。

 カザンにとって、ジャムカを連れ帰る理由は何一つ無い。

 クリルタイと呼ばれる選帝会議にジャムカを参加させても、恐らくは自身か兄を皇帝に推すだろう。

 いや、ジャムカの性格から考えれば、十中八九、自分が皇帝になりたがる。だったらカザンにしてみれば、ジャムカをセムナーンの主将にでも任じて領地を与えれば、その方が安く付く。


 だが、ジャムカにとってそれは、命がけだろう。

 むしろ、状況的には兵の大半をカザンは率いて帰ってゆくはず。

 だとすれば、残ったジャムカは俺と絶望的な戦いをしなければいけない、ということか。


「ジャムカに、降伏勧告をしてみるか?」


「今は、まだ無理でござる」


 唇を引き結んだドゥバーンは、戦場に目を向けた。


「せめて、カザンが撤退しきるまでは……」


 なるほど。

 ジャムカの元に、カザン配下の者が見張りに付いている可能性も高い。

 それに、今ジャムカを破っても、セムナーンにカザンが引き返してくる可能性もある。だったら、適度に戦って、カザンの撤退を待った方が、此方の損害も少ないだろう。


「そうだな。それに、あのジャムカが降伏するとも考えがたい、か」


「はっ。容易に降伏に応じるとは、考えがたいでござる」


 俺の言葉に小さく頷いたドゥバーンは、どこか俺に縋るような面持ちだった。


「それはそうと、フェリドゥーン陛下が亡くなったそうだが、これは?」


「それは俺が説明しましょう。

 犯人はウルージ。フェリドゥーンの寝室に直属の兵と共に忍び込み、殺したという事です。

 もう一つ、これは確かな情報ではないが、シェヘラザードがナセルにファーティマ渓谷で敗れたという話も入っております。

 まったくシーリーンめにしてやられたせいで、どうにも情報がヘラートからしか入らぬから……

 我が君よ。確定情報が得られず、まったくもって申し訳ありませぬ」


 太い腕を組んで、吐き捨てる様に言ったジャービル。

 また部下達を粛清するつもりだろうか? 

 闇隊ザラームは、本当に良くやっていると思うよ。なので俺は、言葉でささやかなフォローをしておく。


「いや、ご苦労。そこまで分かれば十分。闇隊ザラームは優秀だ。

 それにしても、そうか、あのウルージが……」


 シェヘラザードが敗れたとなれば、ナセルにヘラートを占拠されてしまう事も考えられる。

 危なかった。

 西の敵が突出したタイミングで東の敵が去ってくれるのだから、俺は運が良いかもしれない。

 最悪、ナセルに攻められたら、俺がセムナーンに篭城しても良い。その場合サーベを前線基地にもできるし、結構イケるかも。

 まあ、その前にセムナーンを奪還しないといけない訳だが。

 それにしても、ウルージがそんな大それた事をするとは思わなかったな。

 それに、シェヘラザードさまも大変だ。死なないで欲しいと思う。死んだら小鬼が悲しむからな。


「失礼致します」


 俺が物思いに耽っていると、のんびりと歩いてやってきたカイユームが俺の足元に跪いた。

 代わりにドゥバーンが立ち上がり、俺の横に立つ。

 手を後ろに組んで、冷徹にカイユームを見下ろすドゥバーン。数日行動を共にしたのに、友情とかそういうのは芽生えてないのか? あくまでも自分が格上である事を、ドゥバーンは強調しているようだ。

 

「たった今、メンヒ村に潜伏しておりますアハドより情報が入りました」


 カイユームは歩く情報管制センターだ。

 ジャービルをはじめ、闇隊ザラームに所属している者は全員が黒く細いサークレットを着用している。

 そしてそのサークレットを介して会話が可能なのは、唯一カイユームのみなのだ。

 だから普段カイユームは、各闇隊ザラームから得た情報をジャービルに流し、その情報をジャービルが俺に報告する、という流れなのだ。

 しかし、今は俺もジャービルも本営にいる。ついでにカイユームも側に居たのだから、きちんと報告に来たのだろう。

 でも、何故か顔が引き攣っているカイユーム。

 一体、何が怖いのだろう?


「どんな情報だ?」


 俺は、跪き微妙に震えるカイユームに、微笑んで見せた。


「はっ。先日、神聖フローレンス帝国皇帝が、三十万の大軍を率い、聖都フローレンスを進発した由にございます」


 俺の額に汗が浮かんだ。

 来るべき時が、来てしまった。

 周りが全部敵だらけ。本当は、ここに至る前にクレイトだけでも片付けておくつもりだったのに。やっぱりそんな事は、虫が良すぎて無理だった。

 準備していた策は、大丈夫だろうか?

 最悪の場合、俺はファルナーズも皆も、守りきれるだろうか?


「わかった。それだけか?」


「いいえ。それと、アハドを通してジーン・バーレットより、黒甲将軍カラ・アミール閣下へ伝言がございます」


「なんだ?」


「全ての責を取ると仰ったからには、事が成就した暁には、我が軍団を受け入れて頂きたい。また、如何なる差別も無きように願う、とのことです」


 全ての責任を取る? そんなこと言ったっけ? とは言えない俺だ。

 ここ数ヶ月の間、フローレンス帝国が攻めてきた場合に備えて、ジーン・バーレットに反乱軍を組織させていた俺。

 この策はドゥバーンが考え、アハドが実行している。

 もちろん、この反乱軍の中心人物にジーン・バーレットを選んだのは偶然ではない。もしも彼女が首を縦に振らなければ、たった半年たらずで数万の軍をメンヒ村に組織する事など出来なかっただろう。

 それに、アハドが盗賊の首領だった経験も生きている。

 それが功を奏して、今、ジーン・バーレットの軍団は、騎士とゴロツキの混成といった体を為しているそうだ。


「もちろんだ。俺は言った事は守る。もとより俺は、己が義務を果たしたあらゆる者を差別しない」


 まあ、約束を守る段階で俺が生きていたらね。なんて切ないことを思わず思ってしまった俺。

 流石に周りがこうも敵ばかりだと、悲観的になる。

 正直、誰かに助けてほしいよ、まったく。


 ダメだ、よい事も考えよう。

 俺は、かつてジーンがアエリノールを殴った時の事を思い出していた。

 そうだよな。よく考えてみたら、アエリノールと互角に強い人が俺に味方してくれるんだよな。

 いやいや、頼もしいじゃないか、うん。


 俺の言葉に頷くと、踵を返して本営を去るカイユーム。

 もうちょっとゆっくりしていけば良いのに。


 そうこうしていると、いつの間にかダスターンはジャムカを何とか退け、シャジャルとセシリアも戦果を上げていた。

 ともかく、今日も敗北を喫していないのは良い事だ。

 考えてみれば、小競り合いも含め、俺は、俺が指揮官として戦った戦場で一度も負けていない。

 そう思うと、自信がちょっとだけ湧く。

 俺は戻ったダスターンを笑顔で迎え、セシリアとシャジャルに褒美を与える事にした。

 これは今日、何もしなかった俺の、せめてもの罪滅ぼしである。

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