ファーティマ渓谷の攻防
◆
シェヘラザードは基本的に、全軍でヘラートに攻め込んでくるであろうナセルを想定していた。
ナセルに全軍を持って侵攻された場合、天然の要害であるファーティマ渓谷に軍を展開し、時間を稼ぐ。その隙をついて、手薄になったオロンテスやリヤドに別働隊を送り、ナセル軍の後方を攪乱。その間に、現在シャムシールが率いるクレイト方面軍を待つ。そして数が揃った時点で、ナセル本軍を叩く、という作戦だったのだ。
しかしながら、ナセルは全軍を伴ってはいなかった。それどころか、各都市に軍を五万ずつ残し、防備を固めての出陣である。
シェヘラザードの戦略は、根本から崩れた。
ということは、この戦場で戦術上の勝利を得なければ、戦略的にも勝利し得ない、という事態になったのである。
あるいは、戦線を膠着させてシャムシールを待つ、という手もあるが、それでは大将軍とは何なのか? という話が廷臣達から持ち上がるだろう。
故に、その選択肢も消え去った。
「読まれたかしら?」
切り立った断崖の上に立ち、ナセルの思考をなぞるシェヘラザード。
崖の底から吹き上げる風が、白馬に跨る彼女の黒髪を揺らす。
今日、彼女は鎧を身に纏っていない。
今回ばかりは、後方で陣取る最高司令官を気取るつもりは無い。だから、白地に金の刺繍が施された絹服に、革の鎧を着込んだだけの軽装。それに、腰に帯びた剣は、細身の直剣であり、刺突に特化した武器である。
シェヘラザード個人の戦闘能力は、その実、アエリノールにも匹敵する。だが、大将軍に任じられて以来、その力を他者の目に触れさせる事はなかった。
「――読まれたところで、地の利は私にあるわ。むしろ、数の上では互角になったのだから、これで勝てなくてどうするというの……」
ファーティマ渓谷とは、オロンテスからヘラートへ至る街道の中間地点、マダバ河を挟んで二つの切り立った断崖がある地点を指していう。長さがおよそ四ファルサフ(約二十キロ)に達する大渓谷だ。
ここを通る街道が、オロンテスからヘラートへ抜けようと思えば、最短であり、唯一の道だった。
ナセルが他の道を選ぶならば、それは険しく道とは呼べない場所を通る必要がある。或いは、北や南に大きく迂回した場合、あらゆる砦や城を攻略して進むしかない。
だがそれは、現状において現実的ではなかった。
崖の一方に自らが率いる五万、もう一方の崖にアフラが率いる五万、その後方に後詰として五万の軍を、シェヘラザードは配置した。
崖下では、マダバ河の急流が”ごうごう”と水煙を上げている。
「河を下ればヘラート。でも、まさかナセルが、この急流を下れる船を持っているはずもないわね。とすれば、やはり何か策があるのかしら?」
可能性としては、ナセルの方が別働隊を出して、ヘラートを包囲せんとしている場合もある。だが、ヘラートにある飛竜隊の報告では、その様な軍影も無いという。
どちらにしても、この地をナセルの墓にしてやろう、そう考えてシェヘラザードは軍を崖上の森に隠した。
そんな事でナセルが油断するとは思えないが、目に見えて軍勢がいるよりは、多少の弛みも出るであろう。
「――この森、少し魔力を感じるわね――私の思い過ごし?」
シェヘラザードは、森に違和感を感じた。
だがそれよりも、ナセルとの対戦を控え、身体に妙な疼きを覚えたので、頭を振る。それで、違和感も疼きも、身体の外に追いやるシェヘラザード。
僅かにシェヘラザードの芯が疼くのは、二十年ほど前、ほんのひと時だけとは言え、ナセルと恋に落ちた経験があるからだろう。
あの時シェヘラザードとナセルは、シバール第一皇女の大将軍と、リヤド王の庶子で、任官したての守護騎士千人長だった。その身分差に阻まれた恋は、ついに成就する事がなかったのである。
◆◆
「一見すると、敵は居ない様だな。どう見る、シーリーン?」
眼前に広がる断崖を見上げ、辟易した風のナセルが肩越しにシーリーンを見た。
崖は、河を挟んで左右に聳え立っている。ここを通るという事は、挟撃してくれ、と言う様なものだろう。自然、ナセルの口元は微笑を湛えていた。
答えるシーリーンは、長く伸びた朱色の髪を前に流し、胸元で纏めている。珍しく背に盾を背負っている為、髪が邪魔だったのだ。
そして無論、ナセルの言わんとしている事が分かるシーリーン。その言動に、淀みなどあろう筈が無かった。
「伏兵がおりましょう」
「では、当初の予定通りに動けば良いか?」
「多少の犠牲は、致し方ありますまい」
断崖から吹く風は強く、ナセルとシーリーンの髪を靡かせる。
二人の乗る二頭の馬が風を嫌がり、”ぶるる”と一度、嘶いた。
「では、レオポルドをここへ」
「はっ。作戦内容を伝えるので?」
「当然だ。もとより奴は裏切り者。ここで武功を示さねば、捨て駒として死んでもらうまでよ」
「承知いたしました」
暫くすると、ナセルの前には銀色の鎧を纏う、均整の取れた男が現われた。
彼は、元銀羊騎士団団長のレオポルドである。
過日、彼は味方を裏切り、自らの立場をナセル麾下に得た。だが、当然ながら、裏切り者だった元騎士団長に対する風当たりは強い。故に、レオポルドは功績を欲していた。
「まかりこしましてございます。陛下」
白馬から下りると、片膝をついたレオポルド。目元に赤茶色の髪が掛かる。その表情は、どこかやつれている様だ。
「見て分かるとおり、ここを越えねばヘラートに達する事は出来ぬ。が、既に敵の背後に出る算段は出来ておる」
「は……さようで」
ならば、俺を呼ぶ必要などなかろう。と、レオポルドの内心に不快感が満ちる。
確かに、ナセルは銀羊騎士団をそのまま自身の奴隷騎士として組み込んだ。レオポルドは、将軍位と領地も得た。その点、レオポルドはナセルに感謝もしている。
だが、ナセルは決して重要な会議に、レオポルドを出席させる事はなかったのだ。
これは、かつてオロンテスにおける二大騎士団の一つを率いていたレオポルドにとって、屈辱であった。
もしも一騎打ちならば、ナセルが信頼しているであろうザールにも、レオポルドは引けを取らないつもりである。
にも拘らず、ナセルは自分を軽んじている、そう、レオポルドは考えていた。
「では、私の役目とは一体何でございましょう?」
渓谷から吹き抜ける風は、河の水分を含んでいる。だから、レオポルドの乾いた頬を撫でる風は、いっそ心地よかった。
うっすらと開いたナセルの口が、酷薄そうな微笑を湛える。
――想像すれば、ナセルがこれから言う事など分かるレオポルド。突破の算段がついているのに、俺はその事を知らない。
――ならば。
敵の背後に出る為、俺にあの断崖の下を通るフリをしろ、という事だろう。
そう、レオポルドは考えた。そしてそれは、まさしく正解である。
(つまり、俺は陽動。使い捨てにするつもりか)
ならば、風が幾ら心地よくとも、身体を包むのは悪寒でしかあり得ない。
――いや、或いは違う役目かも知れぬ。そう、だからこそ、一縷の望みを繋ぐ為に質問をしたのだ。
しかし、儚くもレオポルドの期待は砕かれた。
「分からぬか? 分からぬならば、説明するが?」
馬上から見下ろすナセルの眼光は、何処までも冷たい。
常緑樹を思わせる深い緑色の瞳は、時に慈愛を示す事もあるが、戦時下ともなれば、永久凍土を思わせる程に冷えた輝きを見せるのが、ナセルの眼光だった。
レオポルドとて多少短絡的でも元は騎士団長であり、今はリヤドの将軍である。その胆力は並ではない。が、その彼をして、今は俯き続ける他、術を持たないのだから、ナセルとはまったく恐ろしい男である。
「レオポルド、貴様はマダバ河に沿って東進せよ。無論、断崖の上には多数の待ち伏せが居よう。故に、なるべく手前にひきつけ、戦うのだ。期間は、十日で良い。
なに、数日もすれば一つ事件が起こる。そうすれば敵の攻撃も弱まろう。耐えてみせよ」
さらりとナセルは言った。
隣ではシーリーンが、感情の篭らない瞳をレオポルドに向けている。
「我等に、死ねとおっしゃるか?」
なるほど、裏切り者はここで死ね、という事か。
そう理解したレオポルドは、不意に顔を上げた。
どうせ死ねと言われたのなら、ここで剣を抜き、ナセルに挑むのも一興、そう思ったのだ。
「うむ。貴様、現状で満足なのか? 裏切り者と謗られ、後ろ指を差されたままで。
だが、此度の作戦は身を挺して味方を活かすもの。これを命を賭してやり遂げれば、或いは、周囲の見る目も変わるやもしれんぞ」
ナセルの眼光が、一転して柔らかいものに変わっていた。
レオポルドは項垂れ、下唇を噛んだ。
ならば、何の為にオロンテスを裏切ったのか。
死中に活路を求めねばならないならば、かつて、オロンテスに居た時でも出来ただろう。それならば、或いは戦死したとしても、名誉があったのではないか?
しかし、レオポルドはオットーを思い出していた。
彼は敗れた後、黒甲将軍の捕虜となり、今は百人長だと聞く。
それに比べれば、自身の選択が間違っているとは思えない。
よろしい、我が命運を、この一戦にかけよう。
再び顔を上げた時、レオポルドは決意を込めて、頷いていた。
「はっ。我が身命をとして十日間、戦い抜きましょう。或いは、突破してご覧に入れまする!」
◆◆◆
戦局は、開戦当初より七日の間、完全にシェヘラザードが優勢であった。
無謀にも突撃を繰り返す元オロンテスの騎士達を、シェヘラザードとアフラ指揮の下、撃退するだけなのだ。
藁を落とし、火矢を放ち、岩を落とす。
それだけで、敵兵は百、二百と数を減らすのだから、シェヘラザードにとっては楽な戦いだった。
だが、七日目の夜、聖都から使者が来た。
年が改まり、二日後の事である。
律儀なウルージ辺りが、新年の祝賀でも述べる為に使者を遣わしたのだろう。
使者の用向きをその程度に思ったシェヘラザードは、しかし、次の瞬間、目の前が真っ暗になる。
この頃、ナセル軍が崖下からしか攻めて来ないと考えて、シェヘラザードは最前線近くに天幕を張っていた。
最前線は、以前兵を伏せていた森から離れ、崖上にある荒涼とした岩肌の荒地だ。
だが無論、万が一の場合もある。シェヘラザードは後衛との間に少数ながら部隊を配置して、連絡を密にはしていた。
もっとも、これならば自身が後方から督戦すべきか? とは思っていたし、部下達からも、その様に言われていた。
しかし、ナセルが相手ともなれば、前線がアフラだけでは荷が勝ちすぎる、とシェヘラザードは考えていたのである。
だから必然、最前線で聖都からの使者を迎えたシェヘラザード。そして、最前線でありながら、総司令部でもある天幕に、激震が走る。
使者曰く――
「聖帝フェルドゥーン陛下が、ウルージによって暗殺されました」
「ば、馬鹿なっ!」
シェヘラザードの天幕は、香を焚き、篝火も盛大に焚かれている。
にも拘らず、シェヘラザードの視界は暗転し、何の香りも感じなくなった。
彼女は、よろめきながら立ち上がると、使者に事の真相を確認する。
「た、確かか?」
愚問だった。
聖都からの使者は、シェヘラザード直属の守護騎士。子飼いである。ならば、ここでつまらぬ嘘を吐く理由がない。
「はっ、残念ながら」
「では、ウルージはどうしたか?」
「行方を眩ませてございます」
「なぜ、捕らえられぬかっ!」
シェヘラザードにしては珍しく、怒気を発して、手に持っていた金の杯を投げ捨てる。
杯は勢いよく飛んで、篝火の土台まで転がり、薔薇水を敷き布に沁み込ませた。
「はっ。申し訳ござりませぬっ! 只今、捜索中にござりますればっ!」
「もう良い! 下がれ!」
「はっ、はっ! さ、されど、かような事態になりました上は、大将軍閣下にお戻りいただかねば、ヘラートの収集が付きませぬっ!」
「現状を見よ! 目下、我等はナセルと交戦中である! 指示は追って伝えるゆえ、ヘラートへは、動揺せぬように、とだけ申せ」
「皇子達は何をしているのか」、とはシェヘラザードは言わなかった。
言った所で、人間と半妖精の間に出来た子達は皆、短命である。
故にシェヘラザードよりも皆、年若く、人の身の儚さを嘆くことしかしない者達だった。
父とシェヘラザードだけが、一族の中で長命を保っているのだ。故に他の者は皆、自身の寿命を嘆き、ひと時の享楽に身を委ねて、政治を省みる事の無い者ばかりだったのである。
「はっ!」
「そもそも、父上など……もとよりあって無きが如し者であっただろうが! うろたえるな!」
シェヘラザードの言葉に、安堵の表情を見せた使者は、礼を施すと、踵を返して天幕を後にした。
「はぁ……はぁ」
だが、シェヘラザードは右手を胸に押し当てて、荒い息遣いをした。
近侍の者が慌てて側に寄ったが、それを軽く左手を上げて制すと、シェヘラザードはゆっくりと歩き、寝台へ向かう。
「皆、下がれ」
辛うじて一言言うと、シェヘラザードは一人になって、寝台の上に蹲る。
「ち、父上……!」
この時、シェヘラザードの脳裏には、銀髪の小鬼の顔が過ぎった。
彼女が父を失った時、自分は本当に彼女の気持を理解していただろうか?
自分が、酷く冷たい女なのではないかと思い、頬を伝う涙さえ疑うシェヘラザード。
部下を叱咤しつつもこの状況に、最もうろたえたのは彼女であった。
◆◆◆◆
それから数日、ナセルに命じられたレオポルドの攻撃は普段とまったく変わり無かった。
迎撃するシェヘラザードの精彩が著しく欠けたモノになった事を察したナセルは、やんわりと口元を歪めて、シーリーンに言った。
「頃合、かな?」
「はっ。計画通りにございます」
「計画といえば、レオポルドはまだ、生きておるな」
「存外、やります。良い将となるやもしれません」
「では、ウルージは何とするか?」
「陛下のご随意に……」
「では、財宝でも与えるか?」
「――お戯れを。では、私はこれにて」
ナセルの下から馬首を翻したシーリーンは、自身が率いる部隊と合流した。
万人将たるシーリーンは、同時に魔法兵団長でもある。故に、魔法兵を自在に動かし、戦局を左右しうるだけの兵力を持っていた。
加えて、これから作戦を共にするのはザール。彼は、ナセル軍最強の猛将である。
シーリーンが号令を下すと、魔法兵団が一斉に呪文を唱える。
すると、凡そ二万の軍勢の足元に、巨大な青色の魔方陣が浮かび上がった。
それと同時に、崖上でも青白い光が立ち上っている。
至上最大の転移魔法だろう。
これも、シーリーンが数ヶ月をかけて準備していた魔法だった。
闇隊の目を欺き魔力を練り上げて、転移石を大量に、断崖の上に設置していたのだ。そして、最も効果を発揮できる瞬間に使う。
フェリドゥーン暗殺から繋がる一連の流れ。これは、ナセルが描き、シーリーンがなぞったものである。
「シェヘラザード、勝たせてもらう」
シーリーンは転移が完了し、部隊と共に崖上に出ると、静かに笑った。そして、曲刀を抜き放ち、言う。
「突撃!」
兵力差は、二万対十万。だが、背後を衝かれたシェヘラザード軍は、シーリーンとザールに寸断され、その損害は計り知れないものとなる。
◆◆◆◆◆
ハールーンは、シェヘラザード軍の後方を襲うシーリーンとザールの軍を見た。
彼がファーティマ渓谷に到着して暫くすると、シェヘラザード軍に対するナセル軍の反撃がはじまったのだから、運が良いやら悪いやら、である。
行軍中に年も改まり、ハールーンとしては、「マディーナで祭に参加したかったのにぃ」と、妙な後悔をしていたが、それこそ後の祭。
大体ハールーンにしてみれば、シャムシールが居ない祭など、意味が無いのだ。
ハールーンは、シャムシールが大好きなのである。
その件に関してハールーン自身、最近では「もしかしてボクって変態ぃ?」と思い悩む事も、稀にある。
結論としては、ハールーンは変態だ。所謂、どちらでもいけちゃう人だった。
「ナセル軍の動きがおかしいねぇ」
「うむ。妙に疲弊した部隊が前衛だな」
「どう思う、ウィンドストームゥ?」
「俺に聞くな。人の軍がどう動くかなど、そもそも興味が無い」
「そうだねぇ。聞いてゴメンよぉ」
ハールーンは、引き連れてきた二百騎を近隣の洞窟や森に隠し、ウィンドストームと共に、上空から戦場を俯瞰していた。
別に竜の個体が飛んでいる事は、それ程珍しくない。まして、ウィンドストームは風竜なのだから、見方によっては単なる翼竜にも見える。
だからハールーンは、それ程警戒する事もなく竜を駆り、高空を飛翔していたのだ。
それに何があっても、竜を持たないナセル軍には、ウィンドストームの速度に追いつける者は居ないだろう。
とはいえ、余り戦場に近づき過ぎるのも得策ではない。
そう考えて、ハールーンは適度な距離を保ちながら、暫く下方を眺めていた。
その時、不意に鬨の声が、崖上から上がった。
今まで、崖上のシェヘラザード軍が崖下のナセル軍を攻撃し続けていたのだが、一挙に様変わりした様だ。
「なにぃ?」
多分、一大事である。
しかしハールーンの声は、相変わらず間延びして緊迫感を感じさせない。
「崖上の軍の後方に、転移魔法が展開された様だな」
竜の視力は、とてつもなく良い。
通常の人間と比べれば、十倍から二十倍だろうか? だからといって、近くが見えない訳でもない。その上、夜目も利く。
「シェヘラザードさまは、無事かなぁ? ウィンドストーム、ちょっと見てくれないぃ?」
「その、シェヘラザードという人物の、特徴がわからんが?」
「うーん。多分、あの中に居る黒髪の女の人の中で、一番の美人かなぁ」
「ふむ? アエリノールさまと比べて、どうか?」
「うーん、同じ位かなぁ。どっちかっていうとぉ、ネフェルカーラの方が近いよぉ」
ハールーンが無茶を言う。ネフェルカーラとシェヘラザードが似ているのは、髪色だけだ。
しかしウィンドストームは、元アエリノールの竜である。従って、この程度ではめげない。
だから事も無げに対象を見つけ、報告した。
「うむ、その様な女ならば、左側の崖にいる。まだ無事だな。だが、複数の敵に囲まれている、腕は良い様だが危ないかもしれん。囲んでいる者の中にも、随分と腕の立つ女がいる」
「うーん、危ないのかぁ。助けないとダメかなぁ? ああ、今日は働きたくないなぁ。眠たいしぃ。もしかしたら、姉さんにも会っちゃうかもしれないしなぁ……嫌だなぁ」
色々と否定的な要素を並べたハールーン。
だが、これはハールーンなりの照れ隠し。現に彼の表情は引き締まり、既に槍を小脇に抱え込んでいる。
そして竜をファーティマ渓谷に向けると、音速で空を翔けぬけて、ただ一人、参戦したハールーンだった。




