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バレオロゴスの罠 14

 

 ◆


 コンスタンティノポリスの空は晴れ渡っていた。

 一筋の雲も無く、ただただ青い空が巨大な天蓋として、私達の頭上を覆っている。

 太陽の光の下で見る大公の宮殿は、眩いばかりに黄金の光を放っていた。

 それもこれも街の外壁を修繕せず、スラムに暮す住民を奴隷として売った金で塗りつけた金箔であろう。いっそベリサリウスの応接間に塗られていた赤い壁の方が、よほど健全だと思える。


 宮殿の正門はベリサリウスが二言、三言、門衛と会話を交わし、通行の許可をもらった。

 もとより、門扉は開かれている。むしろ帝国の巡検士と騎士団の副団長が一緒にいて門前払いをされる方が、よほど難しいというものだ。


 私達はすぐ、謁見の間に近い居室へ案内された。いわゆる控えの間で、大公に謁見を願い出ている人々が、椅子に座り並んでいる。

 本来であれば、列の最後尾に付かねばならないのだろう。しかし私は帝国の巡検士だから、そのまま堂々と最前列へ進んで行く。


「お、お待ち下さい」


「ん? 大公が私を最優先するのは、当然ではないか?」


 しかし妙なことに、私の歩みを一人の騎士が遮った。


「ほ、本来ならばそうではありますが、本日は侯爵位にあられる方がすでに二名お待ちでして……何卒ご配慮を給わりたく存じます」


「ああ、そうか。まあ、私も急に来たしな。良かろう」


 どうやら、最前列で待っている者の身分が高かったらしい。その代わり私達は個室で待つように言われ、また別の部屋へと案内された。


「此方で暫しお待ちを。また、ベリサリウスさま以下、護衛の皆様はシュラさまの謁見中も、此方でお待ち頂きます。武器の類も謁見室には持ち込めませんので、よろしくお願い致します」


 バレオロゴスの騎士は丁寧に礼をして、部屋を後にした。

 

 ふむ。武器の類は全て、ここに置いて行かなければならない。護衛の人員も同様か。

 ならば偽大公と会うのは、私と陛下、そしてシーリーンだけ。

 とはいえ約束も無くいきなり現われた私に、すぐ会おうというのだ、文句は言えないだろう。


「ちょっと、手順の変更が必要だな」


 陛下が声を発せられた。何だかんだ言っても、ここまでは邸で立てた計画の通りに進んでいる。

 だが問題は、ここからなのだ。

 謁見に臨めるのが三人となれば、予定が狂ってしまう。本来ならベリサリウスとクロエを伴い、偽大公の正体を暴くつもりであったのに。


「そうですね……――流石にフランチェスコも怪しんだのでしょう。間者が戻らないのに巡検士が来たとなれば、危険を察知していてもおかしくありません」


 シーリーンが言った。ベリサリウス達の扱いを含め、今回の筋書きを考えたのは彼女だ。

 なんというか、今のシーリーンは目が輝いている。かつてナセルの懐刀だった経験を、存分に生かせるからだろうか?

 

「じゃあ、どうする?」


「陛下の代わりとして、クロエさまに従者として謁見室へ入って頂きましょう」


 陛下の問いに、シーリーンは澱みなく答える。


「武器もなく、か? 無謀だろう。万が一のとき、私とお前でクロエどのを守りきれるか?」


 正直、自分一人であれば、どのような窮地であれ切り抜ける自身もあるが、誰かを守りながら、というのは辛い。

 ――が、そんな私を気にするでもなくシーリーンは笑みを浮かべ、部屋の隅に行って壁をトントンと拳で叩いている。

 ぶっ殺すぞ、この女ぁ……!


「この部屋は、謁見室の隣。壁を一枚――隔てているだけですね?」


 シーリーンは私の問いに答えず、ベリサリウスに質問をした。


「ああ、そうだ」


 ベリサリウスは不精に伸びた髭を左手で触りながら、シーリーンに答えている。質問の意図が分からないからなのか、自分も壁際に行き、トントンと叩き始めた。


「では――シュラさまが万一だと思われたなら、思いっきり叫んでください」


「どうして私が……」


「陛下を呼ぶためです」


 ようやく私にも得心がいった。確かに壁一枚など、陛下にとっては障害にならない。


「陛下も、それで宜しいですね?」


 今度は陛下を見つめ、シーリーンは言った。

 陛下は頷き、「問題ない」と言っておられる。


「では、万が一の時はシュラさまが『きゃー、陛下ー! 助けてー!』と、叫びます。そうしたら陛下には、壁を破って突入していただく――宜しいですね?」


「ん? ああ、いいけど……シュラがそんなことを言うかな?」


「言ってもらった方が、良いと思います。シュラさまは、あれで綺麗な声をしていますでしょ? 可愛らしいと思いますし」


「そうだな。『うおー!』とか言われるより、その方がいいか。俺のやる気も出そうだ」


 あれ? なんだかシーリーンが、勝手に陛下と話を進めている。

 なんで私が、そんな風に叫ばねばならんのだ。ふざけやがって。

 私としては、もっとこう――「陛下! お出まし下され!」とか「陛下召喚!」とか、そんな感じでいきたいのだが……。


「ちょっと待て。なんで私がそんな無様な叫び声を上げねばならんのだ?」


 私は不愉快だったので、シーリーンを睨みつけてやった。


「あら? 符号のようなものです。言葉を決めておかないと、陛下が迷ってしまわれるでしょう?」


「む、ぐ……それはそうだが、何もそんな言葉でなくとも」


「じゃあ、『陛下ー! 好きですー!』 の方がいいですか?」


「そ、それはもっとダメだ! ど、どうして本音など、ここで言わねばならん……」


 最後の方はシーリーンにだけ、聞こえる様に言った。

 すると女狐はニヤリと笑って、私の耳元で囁く。


「あらあら……だったらやっぱり『きゃー、陛下ー! 助けてー!』しかないじゃない。そうしたら、あとで陛下にお礼も出来るでしょ? そのとき、身体を差し出せばいいのよ……ふふ」


 ほう……なるほど。思わず口元が、ニマニマしてしまった。誰にも見られていないだろうな?

 陛下に助けてもらえば、そりゃあ私には、身体くらいしか差し出せないからな。お礼なら、一夜を共にしても仕方がない。うん、仕方が無いぞぅ!


「む、むう? なるほど……名案だな……シーリーン」


「そうでしょう? (ぷっ……ホント、単純)」


 シーリーンが口元を押さえて、顔を私から背けた。なんだ、コイツ。


「ん? 何か言ったか?」


「――いえ、なにも」


 こうして、以下のことが決まった。


 まず、フランチェスコに聖教国との関係を問いただす。その間もクロエは素顔を晒しているから、正体に気付く者がいるかもしれない――揺さぶりの時間だ。

 この時、フランチェスコが聖教国との関係を認めなければ、元間者とムニエルを呼んで証言させる。彼等を呼ぶ役目は、シーリーンだ。

 証人を呼んでもなお証拠を示せとぬかしたら、いよいよクロエの正体を話す。

 ここでレオ五世の正体が女である事を明かせば――ええと、何と言ったかな? ロマヌス財務長官とやらも真実を知っているから、味方になってくれる可能性が高いらしい。

 彼は大公国の良識と言われるほどの人物で、誰からも一目置かれているそうだ。

 ここまでくれば、あとは篭絡も容易い。

 フランチェスコの執務室やヨハネス、ドゥーカスの執務室を調べれば、必ずや証拠を見つけ出すことも出来るだろう。

 

 だが、ここに至るまでに状況が悪化し、武力行使が必要な場合、私が叫ぶ。

 私の声が聞こえたら陛下は壁を破り、ベリサリウス率いる元間者達と共に謁見室に突入する。

 その際に、私達の武器も運んでもらう手筈だ。

 それでもフランチェスコ達が引かない場合、パヤーニーに連絡して宮殿全体を制圧する。


 ふふふ――完璧だ。

 これで確実に、バレオロゴスの問題は解決するだろう。

 その上で私はお礼と称し、陛下と一夜を共にする。もう、言う事無しだ。

 この作戦が成功したら、シーリーンめは私の腹心にしてやってもよいぞ。うん、そうしよう。

 む? となればこの作戦、絶対に武力行使が必要だな、これは! 


 っと――ここで安心してはいけない。武力行使をするからには、警戒すべき三人の位置を確認しておこう。万が一敗北などしたら、洒落にもならん。

 今度こそ陛下の御寵愛を頂戴する為にも、僅かの漏れさえあってはならんのだ!


「ベリサリウス。謁見室では偽大公が椅子に座り、向かって右側にフランチェスコ、その背後にドゥーカス。反対側にヨハネスが控えていて、皆、武器の装備を許されている――それで間違いないな?」


「はい。特にドゥーカスは剣術もさることながら、鉄鎖術にも精通しています。ですから万が一の際は、間合いにお気を付け下さい」


「ああ、分かってる。その台詞はさっきも聞いたぞ、ベリサリウス。――だが、気を付けよう」


 巨漢のベリサリウスは、身体に似合わず心配性なのであろう。

 しかし、その愚直さは悪くない。

 私も絶対に、しくじれないからな。慎重にいかねばならぬ。


「そんなことを聞いて――シュラさまはいきなり暴れるつもりですか? 何をなさらねばいけないか、覚えていますか?」


 む? いきなり失礼な質問をシーリーンがしてきた。

 愚か者! 暴れなければ私の野望は達せぬのだ! その点は貴様も分かっていようにっ!


「お、覚えている! 私だって武器もなく、いきなり暴れるつもりなど無いぞ!

 まずは証拠を示し、奴隷売買の実体と聖教国との繋がりを明らかにする。それから偽大公の正体を暴くのだ。その為にクロエどのが、陛下の代わりに行くのだろう」


「ええ。分かっているみたいで、良かった。あとは――」


 シーリーンが、私からクロエに視線を移した。この女の意図は明白だ。

 私は頷き、シーリーンが言わんとしたことをクロエに伝える。


「あとはクロエどの……――女であることを、本当に語るのか?」


 私は最終確認として、クロエに問う。

 クロエは今の大公が偽物であることを証明する為、自身が女であることを告げるという。

 私としては、偽大公をぶん殴れば魔法が解けて、元の姿を晒すと思うのだが……今ここで、それを言っちゃあ、おしまいだ。私が暴れたがっていると、バレてしまう。


「語る!」


 クロエは真っ直ぐ私を見据えながら、答えた。既に重たい鎧を脱いで、黒い衣服を身に纏っている。

 ……ぐっ、なんだと……陛下とお揃いとは……!


「けれど、大公位を失うことにもなりかねませんよ?」


 こうなると、クロエの本気度が心配だ。まさか、本気でこやつ……。


「だから言ったであろう? 大公がいない期間は、ベリサリウスを摂政として国を任せる。そして我輩がシャムシールさまとの子を授かり次第、その子を大公とするのだ。

 この案に反対出来る者など、我がバレオロゴスにはおらぬ。これ程強固な絆を帝国と結べるのだ――問題ない」


 ぐはっ! この大公ばかは本気だ! こいつにはバレオロゴスで、大人しくしておいて貰おうと思ったのに!

 頼みの綱は陛下だ。陛下とて、こんな小娘に付きまとわれては迷惑であろう。


「陛下は、それで宜しいのですか?」


 私は、オロオロとしている陛下に向き直った。


「あ、えっと……それは、だな……」


 陛下の目が泳いでいる。多分、どう言ったらクロエを傷つけず、大公に戻せるか? そんなことを考えておられるのだろう。

 シドロモドロに陛下が何かを言いかけたところで、シーリーンが口を開いた。

 

「陛下は、ネフェルカーラさまが恐いのでしょう? でしたら、こうしては如何です?」


「う、うん? どうするんだ?」


「要するにネフェルカーラさまは、嫉妬をなさっておいでなのです。では何故嫉妬するのか? それは陛下の女性に対する愛情が、本気だと思われる為。

 恐れながら陛下は今回、シャジャルさま、ジャンヌさま、サラスヴァティさまの全員を妻になさるおつもりでしょう?」


「だ、だって、そうしないとダメだろう? シャジャルは妊娠しちゃったし、ジャンヌはしつこいし……サラスヴァティはもう、街中、勝手に言いふらしてるし……!」


 陛下が頭を抱えておられる。まあ、困っておいでなのだろう。といっても身から出た錆だ。私であれば、妻になりたいとか――そんな我が侭など言わぬものを。


「ええ、ですから――……クロエさまは、愛人の一人と開き直るのです。つまり、結婚などしないと、遊びだと明言なさるのです」


「……え? でもさ、それだとおかしな事にならないか? バレオロゴスの元大公が愛人とか!? あからさまに怪しいだろう?」


 ん? 陛下の表情が変わった。希望を見出しておられる!

 おのれ、シーリーン! 何故クロエの味方などしておるかっ!


「大丈夫です。クロエさまはどうせ、女であると露見すれば大公ではいられません。そんな憐れな女を、陛下は拾うだけです」


「理屈はわかる。でもな、クロエだけ連れて帰ったら、結局同じことじゃないか? 妻が何人もいて、逆に愛人は一人なんて――むしろ怪しくなるだろ?」


「ですから、もう一人、愛人を囲われるのです」


 シーリーンが口の端を吊り上げ、私を見た。

 おのれっ! 陛下にもう一人、愛人を囲えだとっ!? あからさまに自分を売り込みおって! 貴様如きが陛下の愛人など、百万年早いわっ!


「いえ、陛下! 囲われる愛人は、三人が宜しいかとっ! ちょうどここには、女が三人おりますゆえっ!」


 私は胸を張って、自らの胸を強調した。陛下にグイグイ押し付けてみる。

 小さくたって、弾力はある! シーリーンに負けるものかっ!


「えっ? えっ? シュラ、いきなり何を!」


「い、痛いっ! 何をする、シーリーンッ!」


 あれ? シーリーンがいきなり私の側に来た。いてて……耳を引っ張るな、この馬鹿っ!


「……ちょっと、シュラ……貴女、何を暴走してるの? どうして三人なんて言うのよ。貴女とクロエの二人のつもりだったのに……私まで巻き込まないで頂戴」


 シーリーンのヒソヒソとした声が、私の耳朶を打つ。


「へ?」


 自分の目が、丸くなったのを自覚する。


「そ、そうか、三人か……! クロエとシーリーンと……そしてシュラ!」


 陛下の目が、とても輝いておられる。

 なんだこれ? まさかシーリーンを愛人にするのが嬉しいとか……ううー、イライラしてきた。


「離せ、シーリーン!」


 私はシーリーンの手を振り解き、体重を乗せた拳を陛下の顔面へ放った。

 

「ぐわっ! シュラ! 痛いよっ!」


 はっ……また陛下を殴ってしまった。

 目の前で鼻を押さえ、悲しげな目で陛下が私を見ておられる。


「やっぱりシュラは、俺のことが嫌いなんだな……分かっている……ていうか、分かっていた。冗談でも俺の愛人になるって言って、辛かったんだな。

 あれだろ、これは……そういうことにしておけ……ってことなんだろう……?」

 

 ◆◆


 はぁー……いっつもこれだ。もう、溜息しか出ない。

 結局、クロエを愛人にするという件は、私とシーリーンも愛人にするということで、一纏めにしてネフェルカーラさま以下、お妃さま方に説明することとなった。

 要するに、陛下が「女好き」という汚名を被ることで問題を解決することになったのだが、どうやら私は陛下に誤解されてしまったらしい。


「か、形だけだから。シュラやシーリーンには、手とか出さないから安心してくれていい」


 陛下が鼻を押さえながら、私から遠ざかってゆく。

 はぁ……。


 そんな陛下に傅き、シーリーンが魔法で陛下の鼻を治療している。


「別に恋人もいないし……そもそも敗軍の将だったわけだし、こんな私で良ければ、愛人でも構わないですよ」


 おおいっ、シーリーン! 裏切り者っ! お前も結局、愛人になりたかったんじゃないかっ! 

 あっ! 今、私を見てニヤッと笑ったな! このっ!


「いや、そんなことをしたら、ハールーンに何を言われるか分からないよ。それに――力尽くで女性を手に入れる趣味は無いし」


「あら? だったら私が陛下のことを好きだと言ったら――……考えて下さるの?」


「えっ……?」


 おい、シーリーン。貴様、何を言い始めている。陛下の頬が赤くなっているぞ。


「うおっほぉぉん!」


「何よ、シュラ……さま」


「ごほん! ごほん! ん? 何だか喉の調子が悪くてな」


「だったら、ちょっと離れて下さい。風邪だったら、陛下に伝染うつさないように。……って、どうして陛下の腕を掴んでいるんですか」


 む? バレたか。

 陛下が、オドオドとした目で私を見ておられる。

 大丈夫、もう殴らない。

 というか殴ったとして、陛下が傷つく方がおかしいのだ。

 ん? 私が殴って陛下が傷つく? どういうことだ? 

 

「あの、陛下? 防御結界は、どうなさったのです?」


 そうだ、考えてもみろ。陛下が私の攻撃如きで傷つく方が、おかしいのだ。


「ああ、シュラ……どうやらコンスタンティノポリスは、高位の防御結界を打ち消す結界が張られているようだよ。それも――特定の――というか言ってしまえば、俺限定仕様みたいな」


「なっ……でしたら一度、撤退を……」


 私は思わず、首を左右に振っていた。陛下にこそ、万が一などあってはならないのだ。


「大丈夫。たぶんこの結界は、まだ完成していないよ。俺は常時五重の結界で身体を覆ってるけど、打ち消されてるのは四枚目までだから、あと一枚残ってるし」


「い、一枚では……危険です。現に私の攻撃だって……」


「いや、それはシュラの攻撃だからだよ。

 でも……まあ、全く不安が無いと言えば嘘になるな。こんな時、あの鎧があれば、とは思う」


 陛下はポリポリと頭を掻きながら、苦笑しておられた。


 何と言う事だ。自分の迂闊さに反吐が出る。

 私は早速、宮殿内にいるであろう闇隊ザラームの気配を探す。一……二、二人か。

 私はさっと姿を消し、その内の一人に接触。サークレットを借りると、念話で事情をカイユームへ伝えた。

 あとはヤツがネフェルカーラさまに連絡をして、どの程度であの方が来られるか……だが。

 私はこれらのことを終えると、すぐに陛下の下へ戻った。


「ご安心下さい、陛下。遠からず、ネフェルカーラさまが参られましょう。神鎧もきっと、ご持参して下さるはずです」


「ええっ……!」


 おや? どうした事だろうか。陛下の顔が真っ青になった。


「何てことを……! アイツが来たら、俺は愛人のことを何て言えばいいんだ! いきなりハードルが高すぎるよっ! ホントなら最初はシェヘラザードに相談してからって思っていたのにっ!

 ていうか、結界が張れない場所でアイツの攻撃を喰らったら、俺、死んじゃうだろっ! むしろそれが最悪の事態だよっ!」


 え? 心配事は、むしろそっちですか……。

 いや、ちょっと待て。ネフェルカーラさまが来られたら、私の“お礼で閨を共に”作戦も台無しだ! 


 陛下が、頭を抱え込んでおられる。

 私も共に、頭を抱え込む。

 何とかして、ネフェルカーラさまの足止めをしなければ! 

 大体、神鎧などなくとも、陛下がフランチェスコ如きに後れをとる訳がないのだ。迂闊だった! 私の馬鹿っ!


 しかし無常にも、白地に金の装飾が施された扉が開き、無粋な兵士が私を呼んだ。


「巡検士どの。大公閣下の準備が整いました。謁見の間へ参られませ」


 ああもう! 今はそれどころでは無いというのにっ!

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