幻:maboroshi 【短編ハードボイルド】
20数年前の刹那さを再現しました。
いまだ引き摺って生きる、一人の中年ライダーのお話しです。
PM10:30
陽が沈むと、まだ涼しい季節である
3度切り返し、ガレージからZZRを出した
以前のFZRなら1度で済んだ
乗り換えたこと強く感じる儀式のようなものだ
イグニッションを右に捻る
かすかな脈動が伝わってきた
フューエルインジケーターの点滅が消えた
あと150キロは走れそうだ
セルボタンに触れた
眠そうに長めのクランキングで愛馬が目覚めた
もうチョークは使わない
ヒートゲージが若干上がるまで、時間がかからない季節になった
わたしは、バイパスへ変針した
湿度が高いのだろう
病院の駐車場を照らす、水銀灯の灯りが滲んで見える
大きく右へバンクし、すぐに切り返す
マーカーを左にしてバイパスに合流した
PM10:40
緩やかにスロットルを開けた
のびやかな加速感が身を包む
3速、4速、5速、6速・・・
対向車が流星のように消えていく
150キロでスロットルを軽く戻した
わたしは暗闇の中に溶け込んでいった
「もう一週間終わるのね」
長い髪を左右に振り分けながら久美は歩き出した
タンデムの時は、ブーツにジーンズ
心地良いリズムで長い脚がアプローチを叩いていく
何度言っても、ヘルメットはハーフを譲らなかった
「風を感じるのがいいわ」
わたしたちはここで、一息つくのが習慣だった
いつもの場所
入るなりマスターに目でオーダーする
ブルマンとグランキームン
応接用であろう皮の椅子に座り、門限までここで過ごした
月曜の2人
そう呼ばれていたようだ
PM11:26
20年の時がたった
あの時とかわらず、カーテン越しに残酷にもマスターがグラスを
磨いていた
なにも変わらない
しかし。。。
GPZの幻は見えなかった
わたしはマーカーを出して帰路についた
最近、めっきり洒落た喫茶店を見ませんね。
この喫茶店、実は近所にあるのですが、どうもわたしの感性と合わない
から行ってません。
あくまで、フィクションですから、気に入ったように書いてますけど。(笑)
むかし、あったんですよね。
学校の近くにね。
窓越しに、わたしの愛馬であったFXやGPZが見えて、ファンキーな
仲間が集まる喫茶店がね。
そこは、いまパチンコ屋に変わってしまいました。
もう一軒、中古車会社の店長が、会社に黙って経営してた喫茶店も
ありました。
絶品のビーフカレーを出すお店でした。
サガリ牛肉を炭火で焼いて、その上にルウを流す。
ライスはあらがじめ、カレーで炒めているオトナのカレーでした♪
どこかに、ライダーが似合う喫茶店、ありませんかねぇ?